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提供)d3sign/GettyImages
- まとめ
-
- 「日本版ライドシェア」が4月から一部解禁される。
- タクシー・ハイヤー会社が運行を管理し、一般ドライバーの研修もおこなう。
- 6月の法改正に向け、今後政府と業界の協議が続く。
「日本版ライドシェア」一部解禁の背景
一般ドライバーが自家用車を使って有償で乗客を運ぶ「ライドシェア」のニュースを目にすることが増えている。それもそのはず、4月から限定解禁されるのだ。
この「日本版ライドシェア」は、タクシー会社が、車両不足が深刻な地域や時間帯に絞って運行管理するもの。政府は全面解禁の議論を続けており、6月までに結論を出す予定だ。
背景には、人口減少やコロナ禍で離職したドライバーが戻らないことなどから、タクシー会社のドライバーの絶対数が不足している現状がある。特に、車が重要な移動手段となっている過疎地域では、その状況が顕著となっている。
例えば神奈川県三浦市。日本有数のマグロ基地として知られる漁港、三崎港があるが、地元のタクシー会社は夜7時以降の営業を止めた。飲食店からは「客足が遠のいてしまう」と悲鳴が上がる。客に頼まれ仕方なしに店主が運転して家まで送り届けることすらあるという。
筆者が1月に訪れた北海道ニセコ。訪日外国人旅行客に人気のスキーリゾートだが、スキー場間を走る循環バスだけでは、スキー客のニーズを到底満たすことはできない。この冬、タクシー配車サービスのGOが導入され人気を呼んでいたが、台数はまったく足りていなかった。
また避暑地として有名な長野県軽井沢。駅から離れたコテージに滞在していたとき、夕食をとりに町に行こうと思い、地元のタクシー会社に電話をしたら、「車がない」とにべもなかった。
移動する手段がないということは、経済活動の機会損失にもつながる深刻な問題だ。こうしたさまざまな背景から、4月からライドシェアを一部地域で解禁することになったのだ。
ライドシェアとは
ライドシェアは従来のタクシーと何が違うのか、わかりにくい面もある。ライドシェアとはどのようなサービスなのか。
ライドシェアと聞くとまず頭に浮かぶのが、「相乗り」や「白タク」などのイメージだが、海外で普及しているライドシェアはそれらとは異なる。簡単にいうと「door-to-doorのオンデマンド型交通サービス」だ。つまり、いつでもどこでも、オンラインで呼べば自分専用のハイヤーが迎えに来てくれるイメージだ。
現在でもUber、GO、S.RIDE、DiDiなどのタクシー配車サービスがある。ここ数年で急速に普及した。
使ったことがある人ならわかるように、配車サービスのアプリに目的地を入力すれば、近くを走っているタクシーとマッチングしてくれ、指定場所に配車してくれる。ドライバーは目的地までの最短ルートが車内の端末に表示されているのでそれに従って運転するから、客はいちいちドライバーにルートを聞かれることも、道を指示する必要も無い。
支払方法だがたとえばGOの場合だと、「車内」と「GO Pay」の2通りがある。車内では現金のほか、各タクシー会社所定の方法(クレジットカード、チケットなど)が利用できる。一方「GO Pay」は、事前にクレジットカードやd払い・PayPayなど、対応している決済方法を登録し、GO Payを指定して配車を行うことで自動的に決済される。降車時に現金のやり取りがなくなるので便利だ。かつてドライバーが、おつりの千円札を十分持っていないために1万円札で料金を払えず、しかたなくコンビニで1万円を崩して払った経験がある人もいるだろうが、もはやそういう心配をしなくてもよくなった。(参考:GO「お支払い方法について」。支払方法は配車サービス会社によって異なるので要確認)。
領収書も後でウェブ上から入手できる。アプリ上でドライバーの評価もできるし、サービスに満足すればドライバーにチップを払うことも可能だ。こうしたシステムは、ドライバーにとって安全運転の励行や顧客に対するサービス向上へのインセンティブになる。
実際、ここ数年、都心で流しのタクシーを拾うことはまれになった。ドライバーに話を聞くと、「アプリでひっきりなしに配車リクエストがあり、途切れることがない。(運行の)効率が上がった」と話す。実際、乗車中に、次の客が近くにいることを知らせる音が車内に鳴ることも珍しくない。
夜、食事が終わり店の外に出て流しのタクシーを拾おうとしてもなかなか空車がつかまらない、というシチュエーションもなくなろうとしている。食事が終わるころ、アプリで配車を依頼しておけば、会計を済ませて店の外に出てすぐにタクシーに乗ることができるわけだ。ニセコでも使えたように、最近では地方都市でも使えるところが増えてきた。筆者も他県の都市で配車アプリを問題無く使用できている。
問題は、上に述べたようにタクシードライバーの絶対数が不足していることだ。
ライドシェアが認可されれば、一般ドライバーが参入し、郊外や過疎地でもマッチングの確率が上がり、利用者の移動の利便性は高まる。ライドシェアのドライバーにとっては、新たな収入源を得ることができる。
では4月からのライドシェアはどのようなものになるのか?
「日本版ライドシェア」の詳細
国土交通省は2月7日、「ライドシェア」の限定解禁に向けて、「自家用車活用事業(仮称)」と題した制度案を有識者会議に示した。道路運送法第78条第3号に基づいている。(参考:交通政策審議会:令和5年度第1回自動車部会 配布資料)3月中にも制度を固めて道路運送法に基づく通達を出し、制度を開始する。
制度案の内容の概要は以下のとおりだ。
(1)許可基準
・一般乗用旅客自動車運送事業(ハイヤー・タクシー事業)の許可を受けていること。
・タクシーが不足する地域、時期および時間帯並びにそれぞれの不足車両数を、国土交通省が配車アプリなどのデータに基づき指定していること。
・運行管理、車両の整備管理や研修・教育を実施する体制が整えられていること。
・安全上支障のないよう、勤務時間を把握すること。
・タクシー事業者が対人8,000万円以上および対物200万円以上の任意保険に加入していること。
(2)許可に付する条件
・タクシー事業者ごとに使用可能な車両数は、地方運輸局長等が通知する範囲内であること。
・自家用車活用事業であることを外部に表示すること。
・自家用車が配車されることについて、利用者の事前の承諾を得ていること。
・タクシー事業者はドライバーに対して事前の研修(大臣認定講習を含む)および教育を受けさせること。
・利用者とタクシー事業者間で運送契約が締結され、タクシー事業者が運送責任を負うこと。
・運賃は事前に確定し、支払い方法は原則キャッシュレスであること。
・運送引受時に発着地が確定し、発着地いずれかがタクシー事業者の営業区域内に存すること。
つまり、「日本版ライドシェア」の第1段階は、タクシー・ハイヤー業界が主体であり、他の業種の参入は認めていない。
タクシー会社の取り組み
こうしたなか、タクシー会社はすでに日本版ライドシェアの開始に向け、ドライバーの確保に動き出している。
日本交通株式会社は、東京23区などで「日本型ライドシェア」を担うプレエントリー受付を1月31日から開始した。
日本交通などが株主の配車アプリ会社であるGO株式会社も、ライドシェアドライバーの募集をおこなっている。「繁忙する時間帯だけムダなく稼げる」、「副業もWワークもOK」、「固定給+歩合給」、「普通自動車免許でOK」などをポイントとして挙げている。また、車は自家用車でも貸出しでもOK、私服もOK、などとしている。そのほか、研修制度の提供や、ドライブレコーダーを設置すること、万が一事故が発生した場合、営業所の運行管理スタッフがサポートすることなども挙げている。
タクシー配車アプリ大手のUber Japan株式会社は、タクシー会社によるライドシェアの導入支援を4月より開始し、希望する全国のタクシー会社と協議を始めることを1月25日に発表した。 2月13 日には、石川県加賀市が開始する「加賀市版ライドシェア」の導入を支援すると発表。規制緩和が発表された後、 Uberが初めて自治体とともに提供するライドシェアのケースとなる。加賀市では、3月16日の北陸新幹線延伸による「加賀温泉駅」開業で観光客増加が予想されている一方、深刻なドライバー不足で増車を見込めないことが背景にある。
同じく配車アプリのDiDiモビリティジャパン株式会社も、タクシー事業者のライドシェアに対応すべく、ドライバーアプリの大幅なアップデートを実施中だ。
国土交通省は、タクシー事業者の同意がなくても2カ月程度議論した後に首長の判断でライドシェア導入できるよう通達を出す方針で、今後各自治体で検討が進むものと思われる。
6月に向けての動きと課題
以上見てきたように、4月に部分解禁されるライドシェアは、タクシー・ハイヤー会社の管理の下でおこなわれる。実質、タクシー・ハイヤー会社のパートタイマーという位置づけだ。副業は認められるものの、対象エリアや時間帯が限られるため、空き時間をフルに活用して、「好きなときに好きなだけ」といった働き方は難しいかもしれない。
いずれにしても政府は、6月にはタクシー事業者以外の事業者がライドシェア事業をおこなうことを位置づける法制度を実現させる予定だ。しかし6月というと、4月からの部分解禁から2カ月後であり、それまでにタクシー・ハイヤー業界と何らかの合意を得るのはそう簡単ではなさそうだ。
どうしたら私たちの日常の移動が安心安全に、かつ楽で便利になるのか。その原点に立ち返り、関係者の間で建設的な議論が進むことを期待したい。
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