写真)「カーボンリサイクル実証研究拠点」空撮 広島県・大崎上島町 2023年11月
© NEDO
- まとめ
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- 広島県大崎上島にある「カーボンリサイクル実証研究拠点」を取材した。
- CO₂からギ酸を製造する実証実験がおこなわれている。
- ギ酸を燃料電池に使えば、分散型CO₂フリー電源になる。
脱炭素に世界各国が取り組んでいる。エネフロでもさまざまな取り組みを紹介しているが、日本にカーボンニュートラル・脱炭素社会の実現を志す複数の企業や大学などの活動拠点があると聞き、訪問してきた。
広島県大崎上島にある「カーボンリサイクル実証研究拠点」がそれだ。大島上島は瀬戸内海のほぼ真ん中に位置し、「安芸の小京都」と呼ばれる竹原市竹原港からフェリーで30分ほどで着く。
カーボンリサイクル実証研究拠点について
CO₂を資源として有効活用するカーボンリサイクル技術は、カーボンニュートラルを実現するためのキーテクノロジーだ。2019年に経済産業省から発表された「カーボンリサイクル3Cイニシアティブ」(参考:資源エネルギー庁 日本発の革新的なCO₂2削減対策を世界へ~「カーボンリサイクル産学官国際会議」)に基づき、カーボンニュートラル・脱炭素社会の実現を志す企業や大学などの活動拠点を整備することになった。これをふまえ、実証研究を重ねてきたNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)が同拠点を2022年9月に完成させた。
総敷地面積は14,300㎡と広く、実証研究エリア、基礎研究エリア、藻類研究エリアの3つからなる。CO₂は、隣接する中国電力株式会社大崎発電所の敷地を活用して中国電力とJパワーが共同で実証研究中の次世代石炭火力発電設備から分離・回収し、供給される。研究用に実際の排ガスから回収されたCO₂が直接供給できる施設としては日本初だ。
NEDOは、本実証研究拠点の整備を通じて、さまざまなカーボンリサイクル技術の開発を効率的かつ集中的に進め、技術の早期実用化を目指す。
カーボンリサイクルは、化学、コンクリート・セメント、機械、エンジニアリング、化石燃料、バイオなど、さまざまな事業分野で活用できる。日本の新しい産業に発展することが期待されている。
カーボンリサイクル技術については、これまでの記事でいくつか取り上げてきた。
・「CO₂を大気中から回収!?驚きの新技術」(2021.06.15)
・「ガスのカーボンニュートラル「メタネーション」とは」(2023.05.23)
・「バイオベンチャーのちとせグループ、世界最大規模の藻類生産設備をマレーシアに建設」(2023.07.11)
・「CCUS(CO₂回収・貯留・利用)事業、電力販売とのシナジー考える」(2023.11.07)
© エネフロ編集部
今回は、「ダイヤモンド電極を用いた石炭火力排ガス中のCO₂からの基幹物質製造」を取り上げる。学校法人慶應義塾大学、学校法人東京理科大学、 一般財団法人カーボンフロンティア機構の共同研究だ。
この研究は、耐久性・安定性に優れるダイヤモンド電極(参考:「静岡産グリーン水素、地産地消の取り組み」2023.08.15)を用いてCO₂を電解還元し、有用物質のひとつ「ギ酸(HCOOH)」を生成するものだ。
「ギ酸」とは?
「ギ酸」という化学物質にはなじみがないかも知れないが、最近ではアンモニアのような水素を別の状態や材料に変換して貯蔵・運搬する技術、いわゆる「水素キャリア」のひとつとして注目されている。(参考:「脱炭素のカギ握る「アンモニア」製造に大革命」2022.02.01」、「水素の常温輸送を実現へ」2023.04.18)
水素は高圧で圧縮して運ぶ方法が一般的だが、ギ酸はエネルギー密度が高いことや、常温で液体であり毒性や可燃性も低いため既存のインフラが使えること、さらには、100度以下の加温で高効率で高圧水素の発生が可能なことなど、多くのメリットがある。
出典)慶應義塾大学理工学部栄長泰明教授より
研究チームは、2018年にダイヤモンド電極を用いることで電解効率100%のギ酸の生成に成功、2022年からは「カーボンリサイクル・次世代火力発電等技術開発/CO2有効利用拠点における技術開発/研究拠点におけるCO2有効利用技術開発・実証事業」にて、研究室レベルの電解装置を大型化したシステムを構築して実証研究を行うプロジェクトを進めている。
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燃料電池としての可能性
慶應義塾大学理工学部の栄長泰明教授は、ギ酸の用途として「化学原料の市場は規模が小さい。水素キャリアとしての可能性も期待できるが、水素キャリアとしてはアンモニアなど他の化学物質もある。むしろ、直接燃料電池に使った方が、ギ酸ならではの大きな可能性があるのでは」と話す。
燃料電池は、H₂とO₂を化学反応させて直接「電気」を発電する装置。
発電用の燃料として、水素、アンモニア、アルコールなどがあるが、ギ酸の水溶液は、燃焼、爆発の可能性がないなど安全性が高く他の発電用燃料と比べても優れている。
栄長教授は、「私どものシステムは、CO₂から直接ギ酸が作ることができるのがメリットです。CO₂を排出している各事業所が、CO₂から生成したギ酸を直接燃料電池の燃料にすることを想定しています」と話す。つまり分散型CO₂フリー電源にするわけだ。
また栄長教授は、ギ酸が燃料電池車の燃料にもなりうるという。わざわざ水素を作らなくても、CO₂由来のギ酸を燃料電池車の燃料にすれば効率がいいという発想だ。当然、水素を高圧で充填するような特殊タンクも必要なくなる。
出典)慶應義塾大学理工学部栄長泰明教授より
ギ酸を燃料電池に使う考えはまだ一般的ではないが、今後この市場の可能性に賭けて参入するプレイヤーが増えてくるかもしれない。そうすれば、ギ酸の製造コストは下がる。いままで日の目を見なかったギ酸が思わぬ市場を切り開くかもしれない。
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