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テクノロジーが拓く未来の暮らし

Vol.50 水素の常温輸送を実現へ

写真)ENEOSが開発したMCH製造用の中型電解槽(豪・ブリスベン)

写真)ENEOSが開発したMCH製造用の中型電解槽(豪・ブリスベン)
出典)ENEOSプレスリリース

まとめ
  • 水素社会の実現に向けて日本は豪州とパイロット水素サプライチェーン実証事業を実施。
  • 同事業で水素は超低温に冷却・液化され、水素運搬船で日本まで運ばれた。
  • 一方、常温で運ぶ技術も開発され、水素のコストダウンに貢献する可能性も出てきた。

「水素」が新たなエネルギーとして期待されている。

その理由は、水素が水から電気分解で取り出すことができるだけでなく、石油や天然ガスなどの化石燃料、またメタノールやエタノール、下水汚泥、廃プラスチックなどさまざまな資源からつくることができることだ。また、水素が酸素と結びつくことで発電したり、燃焼させて熱エネルギーとして利用でき、しかもその際CO₂を排出しない。

再生可能エネルギーを使って水素を作れば、製造から使用までトータルでCO₂を排出しない、クリーンなエネルギーになる。(参考記事:「クリーン水素の基準をEUが強化 試される日本の水素戦略」:2022年7月5日掲載)

水素のコスト

政府は「水素基本戦略」(平成29年12月26日)で、水素社会の実現に向け、水素のコストをガソリンやLNGなど従来エネルギーと同じ程度のコストにすることを目標として掲げている。

具体的には、現在、1Nm3(ノルマルリューベ:気体の量をあらわす単位)あたり100円のコストを、2030年には30円に、将来的には20円にすることを目指している。また、供給量は、現状年間約200万トンのところ、2030年に300万トン、2050年に2,000万トンを目指す方針だ。(経済産業省資源エネルギー庁「水素を取り巻く国内外情勢と水素政策の現状について」2022年6月23日)

図)水素・燃料電池戦略ロードマップ
図)水素・燃料電池戦略ロードマップ

出典)資源エネルギー庁

水素の低コスト化を実現するためには、以下の3つの取り組みが必要だ。

①安価な原料を使って水素をつくる
②水素の大量製造や大量輸送を可能にするサプライチェーンを構築する
③燃料電池自動車(FCV)や発電、産業利用などで大量に水素を利用する

①と②は供給側の、③は需要側の取り組みだ。

大量の水素が消費されるようになると最大の課題となるのが、大量に水素を輸送するシステムの構築だ。

水素を輸送する方法はいくつかあるが、先行しているのは「液化水素」として運ぶ方法だ。水素は−253℃まで冷却すると液化して体積が約800分の1になり、同じ体積でより多くの水素を運ぶことができる。川崎重工株式会社などが実証実験中で、2020年半ばに大型液化水素運搬船を投入する計画だ。

これまでに、HySTRA(技術研究組合 CO₂フリー水素サプライチェーン推進機構:注1)は、2016年から取り組んでいたNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の助成事業「未利用褐炭由来水素大規模海上輸送サプライチェーン構築実証事業」において、世界初の褐炭から製造した水素を液化水素運搬船で日豪間を海上輸送・荷役する実証試験を2022年に完遂した。

写真)世界初の液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」は、2021年12月に日本を出港、2022年1月に豪州に到着、褐炭から製造した水素を積荷し、2022年2月25日に液化水素受入基地「ハイタッチ神戸」に帰還した。帰港後、液化水素運搬船から陸上の液化水素タンクに荷揚作業を行った。
写真)世界初の液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」は、2021年12月に日本を出港、2022年1月に豪州に到着、褐炭から製造した水素を積荷し、2022年2月25日に液化水素受入基地「ハイタッチ神戸」に帰還した。帰港後、液化水素運搬船から陸上の液化水素タンクに荷揚作業を行った。

出典)技術研究組合 CO₂フリー水素サプライチェーン推進機構(HySTRA)

一方、液化水素は超低温を保たないと気化してしまう。断熱性能を高め、気化による損失を防ぐ技術の確立が課題となっている。また、液体水素は、圧縮・冷却にエネルギーが必要な上、揚荷にも特殊な機器・設備が必要で費用がかかる。こうしたことから、常温で水素を運ぶ技術の確立が望まれている。

水素常温輸送

そうしたなか、今年1月、ENEOS株式会社が、水素を石油タンカーで常温輸送するCO2フリー水素サプライチェーン構築に向けた実証プラントを開所したと発表した。

使用されたのは、化学物質のトルエンに水素を付加させて作る液体のメチルシクロヘキサン(MCH)で、水素ガスと比べると体積当たり500倍以上の水素を含んでいることから、効率的に水素を運ぶことができる技術である。液化のための冷却が不要であり、既存の石油流通インフラを活用できる。

図)有機ハイドライド電解合成法(トルエン電解還元)について
図)有機ハイドライド電解合成法(トルエン電解還元)について

出典)ENEOSプレスリリース

低コスト型有機ハイドライド電解合成法(Direct MCH®)」と呼ばれるこの技術は、再生可能エネルギーなどの電気を用いて水とトルエンから、水素の貯蔵・運搬に適した有機ハイドライド(水素キャリア)の一種であるMCH(メチルシクロヘキサン)を一段階の反応で製造する手法。

従来は、水電解によって生成した水素をタンクに貯蔵してからトルエンと化学反応させMCHに変換して運搬する必要があったが、その工程を大幅に簡略化した。将来的には、MCH製造に関わる設備費を約50%低減することができるという。

図)有機ハイドライド電解合成法による水素サプライチェーンの簡素化イメージ
図)有機ハイドライド電解合成法による水素サプライチェーンの簡素化イメージ

出典)ENEOSプレスリリース

ENEOSはMCHを製造する実証プラントを豪州クイーンズランド州ブリスベンに建設し、実証実験をおこなう。また、実証期間中に燃料電池自動車(FCV)400〜600台分の水素(約2〜3トン)相当の MCHを製造して日本に輸送し、MCHから水素を取り出す予定だ。

他の国の水素戦略

日本が先行した水素戦略だが、各国が同様な戦略を策定し始めた。ドイツは2020年6月に、イギリスは2021年8月に水素戦略を発表した。アメリカもバイデン政権が「水素大国」を目指すとしている。

水素の大量輸送技術は日進月歩であり、どの技術が最も効率がよく低コストか、各国の企業がしのぎを削っている状況だ。日本の水素を大量に輸送する技術は将来世界各国の水素戦略にとって必要なものになる可能性がある。

ここまで、水素を取り巻く環境が大きく変化していることを紹介した。資源に乏しい日本は、カーボンニュートラルを目標に、あらゆる方策を模索し続けなくてはいけない。水素がその選択肢の1つであることは間違いないだろう。

  1. HySTRA(CO₂-free Hydrogen Energy Supply-chain Technology Research Association:技術研究組合 CO₂フリー水素サプライチェーン推進機構:
    褐炭を有効利用した水素製造、輸送・貯蔵、利用からなるCO₂フリー水素サプライチェーンの構築を行い、2030年頃の商用化を目指した、技術確立と実証に取り組む企業団体。

    岩谷産業株式会社、川崎重工業株式会社シェルジャパン株式会社、電源開発株式会社、丸紅株式会社、ENEOS株式会社、川崎汽船株式会社の7社からなる。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の未利用褐炭由来水素大規模海上輸送サプライチェーン構築実証事業[2015年度〜2022年度]の実施主体。
安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
・日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
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IoT、AI・・・あらゆるものがインターネットにつながっている社会の到来。そして人工知能が新たな産業革命を引き起こす。そしてその波はエネルギーの世界にも。劇的に変わる私たちの暮らしを様々な角度から分析する。
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