写真)LNG運搬船 (イメージ:本文とは関係ありません)
出典)AlbertPego/GettyImages
- まとめ
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- 「エネルギー白書2023」は「エネルギーセキュリティを巡る課題」を取り上げた。
- 消費者も購買行動を変化させており、節電行動は今年も続く。
- エネフロ読者には社会の変化を踏まえ、従来にはなかった新たなサービスの紹介と解説を今後もいち早くお届けしたい。
新型コロナ感染症の位置づけが5類に変更されたのが去年の5月。私たちの暮らしはようやく正常化したが、元に戻らないものもあった。
仕事の面でいえば、コロナ禍前はなかったオンライン会議が当たり前になった。リモートワークも一時期より減ったとは言え、一部の企業では出社とリモートを併用する、いわゆるハイブリッド型が継続している。
夜遅くまで飲み歩く習慣も減り、午後9時を過ぎると繁華街から人が消えてしまうというタクシー運転手のぼやきも当たり前になった。それだけ家にいる時間が長くなり、私たちは電気代などをこれまで以上に気にするようになった。ガソリン代も高止まりしており、エネルギーを取り巻く国際的な環境に否が応でも関心を持たざるをえない。ウクライナ紛争に続き、去年秋に勃発したイスラエルとパレスチナの紛争などがそれにあたる。
そして地球環境問題だ。去年の夏の猛暑はいろいろな要因が複合的に重なって起きたものだとは思うが、12月に入っても気温が20℃を超すに至っては、さすがに地球温暖化の影響を意識した人も多かったのではないか。
エネルギーフロントラインが創刊したのが2017年。今年はいよいよ8年目に突入する。エネルギーと取り巻く諸課題はどうなっていくのだろうか?
エネルギー白書2023
「エネルギー白書」は、エネルギー政策基本法に基づく年次報告で、2004年以降毎年作成され、今回で20回目となる。内容は3部からなり、第1部はその年のエネルギーを取り巻く動向を踏まえた分析で、第2部は国内外のエネルギーに関するデータ集、第3部はエネルギーに関して講じた施策集となっている。特に第1部は、その年の白書を特徴付けるものとなっている。
2023年6月に公表された「エネルギー白書2023」の第1部「エネルギーを巡る状況と主な対策」を見てみると、第1章は「福島の復興の進捗」で2020年から変わらない。しかし、第2章は2021年、22年と続いた「カーボンニュートラル実現に向けた課題と対応」から「エネルギーセキュリティを巡る課題と対応」に変わった。また第3章は、2022年の「エネルギーを巡る不確実性への対応」から「GXの実現に向けた課題と対応」になった。毎年の動向を踏まえた分析を行う第1部の内容が、その年の白書を特徴づけるものとなっていることから、「エネルギーセキュリティ」が今回着目されていることがわかる。そこで、今回はその「エネルギーセキュリティ」に着目した。
世界のLNG需要
エネルギーセキュリティは、エネルギー安全保障ともいい、私たちの社会活動に不可欠なエネルギーを安定的に確保・供給することをいう。
この問題が白書で取り上げられた背景には、2022年2月のロシアによるウクライナ侵略によるエネルギー危機があった。ロシアに対する西側諸国の経済制裁が長期化していることから、白書は「世界的なLNG争奪戦は短期間では終わらない」と予測している。
一方、ロシアからの天然ガスの供給が止まった欧州は、2度目の冬を迎えている。ロシアのウクライナ侵攻直後こそLNG価格は高騰したが、2023年に入ってからは侵攻前の水準に戻っている。
その理由のひとつは、世界最大級のLNG輸入国である中国の輸入量が減ったことだ。ゼロコロナ政策による需要の低迷に続く不動産不況や、自国でまかなえる安価な石炭への回帰、パイプラインを用いたロシアからの天然ガス輸入量の増加などが背景にあると考えられる。また、LNGの在庫も積み増しており、LNG価格が下がっても旺盛に買いには動かないだろうとの見方が優勢だ。
2つ目の理由は、欧州の需要減だろう。ロシアのウクライナ侵攻後省エネが進み、また暖冬の影響もあって天然ガスおよびLNGの需要は増えていない。天然ガスの在庫は例年に比べて高水準となっている。
まさしく、エネルギーセキュリティの観点から、各国がエネルギー戦略を転換させたといえる。
しかし、去年10月に勃発したパレスチナの武装組織ハマスによるイスラエルへの攻撃は大規模紛争に発展し、世界のエネルギー需給にとって新たな不安定要素が生まれた。
2024年のLNG需要は大幅に伸びるとは予測されていなかったが、パレスチナ紛争をはじめとした中東情勢の先行き次第で、LNG価格が短期的に変動するリスクはある。
日本のエネルギーの現状
こうしたなか、日本は化石燃料の調達先の多様化と、2050年カーボンニュートラル実現に向けた再生可能エネルギーへの転換を急いでいる。
原油の中東依存度が90%超の日本にとって、地政学的リスクを減らすためにも、その動きを加速させる必要がある。(参考:石油統計速報 令和5年10月分)
一方、日本のLNG調達先はかなり分散化されている。近年オーストラリア、マレーシアに加え、特にアメリカからの輸入が大きく伸びている。カタールやアラブ首長国連邦、オマーンなど中東諸国からの輸入は多くない。
しかし、火力発電に頼っている日本のエネルギー自給率は、12.6%(2022年速報値)と、先進国中最も低い。去年12月に開催されたCOP28(国連気候変動枠組条約第28回締約国会議)では、参加各国が初めて「化石燃料からの脱却(transition away)」で合意した。2050年までに世界全体でネットゼロ(温暖化ガスの排出量を実質ゼロ)にする目標の達成を目指す。こうしたなか、政府は、エネルギー基本計画に定められている2030年度電源構成に占める原子力比率20〜22%の確実な達成をめざしている。(参考:経済産業省「原子力政策に関する直近の動向と今後の取組」)2024年は原子力発電所の再稼働がさらに進むかどうかも焦点となる。
家計への影響
家計に目を転じると、円安や原材料費の高騰による食品などの値上げに加え、電気・都市ガス・ガソリンなどの価格上昇が続いており、負担は少なくない。国はこうした状況を受け、家庭・企業などを支援している。
標準的な世帯の場合で、電気は月2,800円程度、都市ガスは月900円程度、値引きが2023年1月使用分より実施された。(参考:経済産業省資源エネルギー庁)以降、値引き単価の縮小はあったが、現在も継続されている。また、ガソリンは補助により1リットル170円程度に抑えられている。
こうした環境の下、消費者も購買行動を変化させている。
例えば、日産自動車の軽自動車EV「サクラ」の売れ行きを見てみると、2022年6月に発売され、1年1か月で5万台の販売を記録した。
少しでもガソリン代を浮かしたいというユーザー心理の結果だと思われる。
2024年春にはホンダが軽商用車EVの発売を予定しており、軽EVの快走は今年も続くだろう。もっとも普通自動車クラスのEVはまだ輸入車以外の選択肢は少なく、本格的な普及にはまだ時間がかかるものと思われる。
また、節電意識も着実に定着してきている。2023年1月に結果が公開された、ニッセイ基礎研究所のインターネット調査によると、全体の9割以上が何らかの節電の取り組みをおこなうと回答した。具体的には、「電気の消し忘れ注意」や「重ね着」、「使わない家電のプラグを抜く」など、すぐできる節電行動をとるとの回答が多かった。
出典)ニッセイ基礎研究所
家電量販店でもこの冬は、足元や体などを直接温める暖房器具を紹介する「節電暖房コーナー」を設けているところもあり、消費者の節電意識は今年も一層高まるものと思われる。
エネルギーセキュリティを取り巻く環境が私たちの暮らしにどのような影響を与え、消費行動がどう変化しているかを見てきた。そうした社会の変化を踏まえ、従来にはなかった新たなサービスがエネルギー企業から生まれてきている。エネフロ読者のみなさまにはそれらの紹介と解説を今後もいち早くお届けしたい。
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