写真)飛島ふ頭コンテナターミナル
出典)名古屋港管理組合
- まとめ
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- 名古屋港のCO2削減を目的にしたCCUS事業で中部電力とbpが提携。
- インドネシアなど海外ガス田へのCO₂貯留などを目指す。
- 今年度末をめどに事業性調査を進める予定。
火力発電所や製鉄所などから大気中に放出されるCO₂。脱炭素を目指す日本にとって、その削減は至上命題だ。
そうしたなか、大気中のCO2を回収した後、パイプラインや船舶で輸送し、地下深くの貯留層に埋める技術が注目されている。それがCCS(Carbon Capture and Storage:CO₂回収貯留)と呼ばれる技術で、すでに世界各国が取り組んでいる。(参考記事:「 デンマークで進む、CO₂回収・貯留プロジェクト 」)
CCUSは、CCSに加えてCO₂を有効活用する技術のことである。有効活用法としては、CO₂を岩石と結合させることで鉱物化させ、コンクリートなどに有効活用することや、CO₂と水素からメタンを合成させるメタネーションをおこない、燃料として有効活用することなどさまざまな方法がある。
日本でも本格的にこのCCUSへの取り組みが始まろうとしている。場所は、愛知県の名古屋港。中部電力株式会社専務執行役員グローバル事業本部長の佐藤裕紀氏に話を聞いた。
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名古屋港CCUSプロジェクトの概要
グローバル事業本部が推進する「名古屋港CCUSプロジェクト」とはどのようなものなのか。
東京電力フュエル&パワーと中部電力との合弁会社であるJERAは、もともと両社の既存火力発電事業等を統合してできた、世界最大級の発電会社。化石燃料を使って発電することによってCO₂が排出される。それを少しでも減らすための方策のひとつが、CO₂を排出しない水素やアンモニアとの混焼だ。しかし、混焼を進めるためには技術的なハードルや経済性確保といった課題がある。
一大産業集積地帯である名古屋港に目を転じると、日々の生産活動、製造活動に伴い、莫大な量のCO₂が排出されている。火力発電所で水素やアンモニアとの混焼をしたとしても、水素専焼、アンモニア専焼はチャレンジであることは間違いない。また、鉄鋼業界においても、水素還元や電炉などがソリューションにはなるが、コスト削減が常に課題であることは電力業界と同じだ。従って、CCUSも含めた総合的なアプローチが必要と考える。
「どうしても取り切れないCO₂は残る。物理的に排出されたCO₂を集めてそれを何とかすることを考えないと、脱炭素は達成できないのではないか。そう考えたのです」。
排出されたCO₂をパイプラインで集めて液化し、タンクに貯める。この液化したCO₂をどうするか。
ひとつは、ガス会社がやろうとしているメタネーションだ。CO₂と水素から都市ガスをつくる。ただ、それだけでは不十分だと佐藤氏は考えた。
「ほとんどのCO₂は、海外に輸出をして空になったガス田あるいは油田に貯留することができれば(脱炭素は)いけるのではないか、と思いました」。
そして考え出されたのが、液化したCO₂を名古屋港から輸出し、インドネシアなど、海外の枯渇ガス・油田などに貯留するプロジェクトだ。
では、なぜ名古屋港なのか。
「愛知県は都道府県別で最もCO₂ を出しているのです。その中で、ものづくりの集積地、中部地域の海の玄関口である名古屋港は総取扱貨物量が日本一なので、そのネットワークも活かせます」。
名古屋という一大工業地帯ならではのCO₂排出量とネットワークに着目したわけだ。
「名古屋の総合エネルギー企業として、お客さまのエネルギー問題のソリューションを提供することが我々の事業のかなめだと考えています。そのソリューションのひとつとしてこのCCUSをやろうということです」。
佐藤氏はこのプロジェクトの意義をこう話す。
まだ、本プロジェクトは始まったばかり。さまざまな企業と何ができるか、また、どのような協力関係が築けるかなど、これから話し合っていくことになる。
「今は本当にカオス状態です。これからどうやって整理し、そこから抜け出していくか今年度から来年度にかけて重要だと思っています」。
bpとの繋がり、参加企業
出典)bp
中部電力と今回タッグを組むのは、国際的統合エネルギー企業、bp(bp p.l.c.)だ。(以下、bp)
なぜbpなのだろうか。
「CO₂貯留事業をヨーロッパで進めていたのがbpだったので、その知見を名古屋港にフィードバックできたらうまくいくのではないかと考え、bpのドアをノックして、一緒にやろうよ、という話をしたのです」。
しかしbpを説得するのは容易ではなかった。なにしろbpの認識が、「中部電力ってどこの会社?」というレベルだったのだ。
「bpを訪ねてから1年くらいかかって、やっと今年の2月2日に協力協定を締結できました。プロジェクトの事業性調査を始めたところで、年度内に終えたいと思っています」。
まずは、本プロジェクトを遂行するにあたり、どれだけコストがかかるのかを調べる。
bpはヨーロッパですでにCO₂貯留プロジェクトに着手しており、そういう意味で、この分野に参入する中部電力にとって頼もしいパートナーだ。
対象企業とCO₂回収量
このプロジェクトの対象となるのはどのような企業になるのか。佐藤氏は、主にCO₂排出量の多い発電事業と鉄鋼製造業がメインとなるという。
「このプロジェクトの趣旨に賛同してくれる人は誰でもウェルカム、一緒にCO₂を集めて地下に埋めにいきませんか、というスタンスです。いわば、『この指止まれ方式』ですね」。
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現在の名古屋港地域のCO₂排出量は年間3,000万トンほど。そのうちの約1割の300万トンがこのプロジェクトの対象となる。「1割」の根拠は、IEA(世界エネルギー機関)などが、脱炭素を達成するにはCCUSでCO₂を全体の10〜15%回収することが必要になると試算しているからだ。中部電力では経済性をかんがみ、この割合を高めて500万トン強を目指したい考えだ。
プロジェクトの収益性
CCUS事業は全く新しいものであるがゆえに、その収益性がどのように確保されるのか、少々わかりにくい。
佐藤氏によると、このプロジェクトに反対する人はだれもいないという。参加企業にとって最大の関心事は、「お金はいくらかかるのか?」ということだ。
企業にとって排出するCO₂を誰かが引き取ってくれれば、自社製品は地球温暖化防止に貢献しているクリーンなものである、ということができる。CO₂フリーの付加価値アップが期待できるので、その付加価値の範囲内で引き取ってくれる会社にお金を払っても良い、と考えるようになるだろう。
こうしたなか、政府はCCSの事業化を円滑に進めるため、法整備を進めている。CCS事業法(仮称)がそれで、年度内の成立を目指している。
そしてその先には、温室効果ガスの排出に負担を求める「カーボンプライシング」の議論がある、と佐藤氏は指摘する。
「カーボンプライシング」とは、企業が排出するCO₂に課税するなど、脱炭素に向けての行動をうながす政策だ。仮に排出するCO₂1トンに1万円を払わねばならないとする。もし誰かがそのCO₂を8,000円で引き取る場合、CO₂排出企業は2,000円分得することになるので、CO₂を引き渡すだろう。この8,000円がCO₂引き取り業者の事業収益となるわけだ。
CCSの本格的な事業化に向け、今後議論が活発化していくものと思われる。
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課題①設備投資と輸出先
次に課題となってくるのは、設備投資だ。
本プロジェクトのインフラ投資に、数千億円の設備投資が必要になる見通しだ。CO₂を輸送するパイプライン、貯蔵するタンク、運搬する船舶などがそれにあたる。政府が2023年度から10年間で20兆円規模の発行を予定しているGX(グリーントランスフォーメーション)経済移行債などの支援が受けられるかどうかが鍵になる。
また、CO₂の回収に協力する会社も、埋められるところまで見届けたい、という会社もあれば、回収さえしてくれれば良い、という会社もあるだろう。
「多分この事業で得る付加価値が企業や業界によって違うと思うので、均一的なスキームでやれるとは思っていません」。
そして、CO₂の輸出先だ。その候補としてはインドネシア・西パプア州のタングーのガス田で、2023年9月に事業性調査のための協力協定を締結した
「タングーは、18億トンのCO₂貯留可能量があると言われています。日本の年間CO₂排出量が10億トンなのですごい量です。ひょっとしたら、CO₂貯留のハブになるかもしれないですね」。
その先には、オーストラリアも候補として控えているという。
課題②法規制
一方、法規制の問題もある。そもそも現状では「埋める」ためだけにCO₂を輸出することは禁じられている。ただ、ロンドン条約議定書第6条改正(注1)では海底下地層への処分目的でのCO₂輸出は認められている。本改定は現時点では未発効だが、IMO(International Maritime Organization:国際海事機関)に暫定的適用に関する宣言を寄託すればCO₂輸出が可能になるという。bpはこうした法的な知識と、CCSのノウハウを蓄積していることが、今回の提携の最大のメリットといえる。電力会社としては、CO₂回収と電気をセットで販売する道も開ける。
「我々は電力販売事業が基盤事業なので、そことどういうシナジーをこのCCUS事業につけられるかも考えていかなければなりません」。
CCUSという前人未踏の事業に挑む電力会社。事業のフレームワークはもとより、インフラ設備投資の負担、法規制、すべてはこれからだ。地球温暖化防止のためのグローバルな脱炭素事業。その進捗を見守りたい。
- ロンドン条約
「廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約」(通称:ロンドン条約)は、1972年12月にロンドンで採択され、1975年8月に発効した(我が国は1980年10月に同条約を締結)。同条約は、海洋環境保護を目的としたもので、水銀、カドミウム、放射性廃棄物などの有害廃棄物を限定的に列挙し、これらの海洋投棄を規制・管理する枠組み。
ロンドン条約議定書
その後の世界的な海洋環境保護の必要性への認識の高まりを受けて、同条約による海洋汚染の防止措置を更に強化するため、「1972年の廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約の1996年の議定書」(通称:ロンドン議定書)が1996年11月にロンドンで採択され、2006年3月に発効した(我が国は2007年10月に同議定書を締結)。
(出典:外務省)
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