写真)米Constellation Energy社のナインマイルポイント原子力発電所
出典)© Constellation Energy
- まとめ
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- グリーン水素は、製造コストが高く、供給が安定しない。
- 代わりに原子力由来のピンク水素に注目が集まっている。
- EU内では、グリーン水素への投資が減るとの懸念も。
新たなエネルギー源として注目を浴びている水素。その「水素」にも、製造方法によってさまざまな種類があることはこれまでも紹介してきた。
その中でも、風力や太陽光発電など、再生可能エネルギー由来の電力で水を電気分解し製造する「グリーン水素」は、製造過程でもCO₂を排出しないことから、各国、開発にしのぎを削っている。(参考記事: 「静岡産グリーン水素、地産地消の取り組み」2023.08.15 、「オランダ、グリーン水素生産に本腰」2023.08.08 )
しかし、グリーン水素の実用化には2つ課題がある。1つ目は、生産コストが高いことだ。日本の場合、特に再生可能エネルギーを用いた発電コストが高いことがネックとなっている。2つ目は、太陽光や風力などによる電力は供給が安定しないことだ。
こうしたなか、水素を製造する電源として原子力発電が注目され始めた。
ピンク水素とは
原子力発電による電力で製造される水素をグリーン水素と区別して、「ピンク水素」と呼ぶ(イエロー水素、パープル水素などと呼ぶ場合もある)。
「ピンク水素」は、製造時のCO₂発生はグリーン水素同様ゼロであり、かつ、大量の水素を安定的に供給することができることが評価されている。
米ラザード社の調査によると、米国での製造コスト(アルカリ水電解法)は、補助金がない場合、ピンク水素が1kg当たり2.75〜4.08ドル、グリーン水素は3.79〜5.78ドルで、1ドル以上低い。
この「ピンク水素」、多くの国がすでにその製造を開始もしくは検討している。
2022年1月、ドイツのエネルギー会社Uniper(ユニパー)とフィンランドの電力会社Fortum(フォータム)がスウェーデンで操業するOskarshamn(オスカーシャム)原子力発電所でピンク水素を製造し、産業用ガス大手のLinde(リンデ)に販売することに合意した。
米国では、「インフラ投資法(Bipartisan Infrastructure Investment and Jobs Act)」に基づき、クリーン水素ハブ地域 の申請がなされているが、エネルギー省から推奨評価を受けた地域のうち3地域はピンク水素製造が計画されている。
出典)経済産業省:独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構「米国におけるクリーン水素政策と民間投資の動向」
こうした水素プロジェクトの積極的な民間投資の背景にあるのは、バイデン政権が今年6月に発表した、クリーン水素の生産から利用までを加速するための包括的な枠組み「国家クリーン水素戦略・ロードマップ(National Clean Hydrogen Strategy and Roadmap)」だ。
2030年までに年間1,000万トン、2040年までに年間2,000万トン、2050年までに年間5,000万トンのクリーン水素を米国内で生産することを目標とし、また製造コストについては、2031年までに1kgあたり1ドルまで引き下げるとしている。
こうした政府の後押しを受け、Constellation Energy(コンステレーションエナジー)社は、ニューヨーク州オスウィーゴのナインマイルポイント原子力発電所で今年3月にピンク水素の実証製造を開始している。
英国では、EDF(フランス電力会社)が、Sizewell(サイズウェル) C原子力発電所においてピンク水素の製造を検討している。
まずは実証プロジェクトとして、現在稼働しているサイズウェルB発電所の電気を利用して電解装置により水素を製造し、サイズウェルC原子力発電所の建設用車両や設備の燃料として使用する。実証プロジェクトを経て、サイズウェルC原子力発電所からの熱と電力を利用し、大規模な水素製造をおこなう計画だ。
ピンク水素を巡って欧州各国の中で議論がないわけではない。
グリーン水素より製造コストが安いとされるピンク水素を再生可能エネルギーとして扱うことは原子力発電所を多数保有するフランスに有利に働く。わざわざグリーン水素に投資しなくて済むからだ。
原子力発電所を持たない国々は、太陽光や風力エネルギーを使って製造するグリーン水素への投資が減ってしまうのではないか、との懸念の声が出ている。
EU内でそれぞれの国の利害も絡むため、今後も議論が続いていくものと思われる。
こうした世界の潮流のなかで、カーボンニュートラルと水素社会の実現を目指す日本も、原子力由来のピンク水素についての議論を深める必要はあろう。
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