写真)走行中無線給電の実験で使われたRAV4 PHEV(イメージ)
出典)Electreon
- まとめ
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- トヨタとイスラエルの会社が、EV走行中無線給電の距離で世界記録達成。
- 日本でも無線給電の技術開発が進む。
- EVのインフラ整備の国際競争はますます激化する。
これまで、「 社会が一変 『無線電力伝送』の実力(2019.03.19) 」や、「 今、EV充電ビジネスが熱い!(2021.03.16) 」などの記事で紹介してきた「EV(電気自動車)走行中無線給電技術」。いよいよ実用化が迫ってきた。
無線給電は、ワイヤレス給電(WPT:Wireless Power Transfrer)ともいい、電源ケーブルやプラグなどを使うことなく、電力を送受信するシステムをいう。
EV無線給電技術がなぜ注目されるかというと、EVの弱点である充電のわずらわしさからユーザーを解放するからだ。
EVはバッテリー容量が減少したら、充電ステーションで充電しなければならない。ガソリン車なら満タンにするのに5分以上かかることはまずない。しかし、EVは充電にかなり時間がかかる。
例えば、日産自動車のEV「リーフ」の場合、ベースモデル(バッテリー容量40kWh)を100%充電するには、3kW出力の普通充電で約16時間もかかる。出力50kWの急速充電器を使ってもフル充電まで約50分だ。(参考:日産自動車)したがって、EVユーザーは充電時間の間、トイレに行くなり、買い物するなりして、時間をつぶさねばならない。
一方、道路に埋め込まれた給電コイルから走行中のEVのバッテリーに給電できれは、いわゆる電欠を気にすることなく運転できる。
そればかりではない。大容量のバッテリーを積まなくても良くなる。そもそも航続距離を伸ばすために大容量バッテリーを積んでいるのが現在のEVだが、道路から給電できるならわざわざ大容量バッテリーを搭載する必要がない。小さなバッテリーで済めば、車体重量は軽くなり、コストが下がる。EVの弱点が一気に解消されるのだ。バッテリー製造に必要な希少金属の使用の低減もでき、環境にも優しいといえる。
EVノンストップ運転の世界新記録達成
こうしたなか、EV走行中無線給電の新記録樹立のニュースが飛び込んできた。
トヨタ自動車株式会社と共同開発をおこなっているイスラエルの「Electreon : エレクトレオン社」は今年5月、走行中無線給電の実験をおこない、軽EV並みの電池で2,000kmに迫る走行に成功したと発表した。これは、EV走行中無線給電の距離および時間の世界新記録である。
Take a look at our first 24 hours from our 100-hour drive
— Electreon (@Electreon) May 22, 2023
We are well underway into our 100 hours, and we are so excited for what the week has in store. We will be posting daily updates about our progress and keep you updated with each day's events. pic.twitter.com/rQjUbA4Dyj
実験の概要はこうだ。
全長200mの無線給電システムを埋設したコースを、トヨタ RAV4 PHEV(プラグインハイブリッド車)で5日間合計100時間、給電しながら連続走行をおこなった。合計55人のドライバーが交代で運転し、その結果、走行距離は1,942 km に上った。
1,942 kmという連続走行距離は、18.1kWhバッテリーを搭載したトヨタ RAV4PHEVのバッテリー満充電からの走行距離95kmの約20倍にあたる。(参考:トヨタ自動車)
特筆すべきは、実験に使用したデモトラックの無線給電設備が埋設されている部分は、わずか25%だったことだ。同社によると、小型乗用車から大型の電動トラックまで、さまざまな車種のバッテリーに充電できるという。
出典)Electreon
日本では東大が研究
このEV走行中無線給電技術、冒頭の過去記事「今、EV充電ビジネスが熱い! 」でも紹介したが、日本では東京大学大学院新領域創成科学研究科の藤本・清水研究室で研究がおこなわれている。
同研究の特徴は、EV走行中無線給電技術と同時にEVの駆動系レイアウトの研究にも取り組んでいるところだ。
現時点ではほとんどのEVが、ガソリンエンジン車のエンジンの代わりにモーターを1個、ないしは2個搭載している。それに対して、同研究室が採用したのは、「インホイールモーター」方式だ。この方式は、駆動輪の近くにそれぞれモーターを配置し、タイヤを直接駆動するため、緻密な制御が可能になるのが特徴だ。
同研究室は、走行中EV無線給電とそのインホイールモーター方式を組み合わせたところが画期的だ。
エレクトレオン社のシステムは、道路から無線給電した電力を、EV側のバッテリーの床面に取り付けられたレシーバー(受電コイル)で一旦受電し、バッテリーに貯めてから使うため、ロスが生じる。
一方、藤本・清水研究室は、株式会社デンソー、日本精工株式会社、株式会社ブリヂストン、ローム株式会社とともに、タイヤの中にコイルを配置する「タイヤ内給電システム」というものを開発した。
将来展望
海外企業が先行しているEV走行中無線給電技術だが、日本でも、大成建設株式会社が、国立大学法人豊橋技術科学大学、大成ロテック株式会社と共同で、走行中のEVに無線給電できる道路「T-iPower Road」の実証実験をおこなっている。
出典)大成建設
また大成建設は、国土交通省国土技術政策総合研究所「道路政策の質の向上に資する技術研究開発」の委託研究(2020年~2023年)にも取り組んでおり、2023年までに高速道路への実装を前提とした10kW無線給電が可能な道路の実用化システムの確立を目指している。
一方、現在政府が進めている「電動化インフラ整備加速化パッケージ」の主なポイントは以下のとおり。
1 高速道路における2025年度までの整備計画の公表
2 充電インフラ補助金の予算拡充・補助額の引き上げ
3 高速道路外のEV充電器の活用の検討
4 SA・PA駐車場の整備費用への国費支援制度の創設
まずは充電器の数を増やす計画だ。確かにEVの普及を促すためには、充電スポットの数を増やす必要があるのは言うまでもない。
一方で、「新東名に自動運転レーン誕生(2023.06.06)」で紹介した無人運転トラックをEV化した場合、EV走行中無線給電は理想的なシステムに思える。電力を再エネ由来とすれば、CO₂を排出しないグリーンな物流が実現する。
競合としては水素トラックなども考えられるが、水素の社会インフラ構築にはまだしばらく時間がかかるだろう。
当面、現実解の模索が続きそうだが、EVを巡っては、全米ではテスラの充電規格にほぼ統一され、日本の規格CHAdeMOが不利な状況になるなど、グローバルレベルで、EVインフラは着々と拡大している。
EVがほとんど普及していない日本にいるとこうした状況は感じにくいが、モビリティのグローバルな動きを今後も注視し、適切な政策をとることがますます重要になってくるだろう。
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