写真)グリラスかぼちゃコロッケ(右)
提供)株式会社グリラスプレスリリース
- まとめ
-
- 食糧不足と、牛など家畜の環境負荷の大きさから、新たなタンパク源として「昆虫食」が注目されている。
- 世界で約20億人が食べているが、食用には抵抗感を持つ人も。
- まずは、水産・畜産飼料用の原料としての利用が進むのでは。
2022年11月、徳島県内の公立高校で全国初となるコオロギの粉末を使った給食が提供された。
粉末の製造元は食用コオロギを養殖する徳島大学発のスタートアップ、株式会社グリラス。同高校の食物科の生徒が作ったのは「かぼちゃコロッケ」。ひき肉の代わりにグリラスの国産食用フタホシコオロギの粉末「グリラスパウダー」を使用した。
しかし、後日、同校に安全性などに関する問い合わせや、「子供に食べさせるな」などのクレームが相次いだと報道された。昆虫食に対するアレルギーが社会にあることを知らしめた。
なぜ昆虫食が今、注目されているのか。その背景と課題について見ていく。
昆虫食研究開発の背景
昆虫食が注目されている背景には、世界の人口増加による食糧不足と牛などの家畜にたんぱく源を頼ることによる環境負荷の増大があった。(参考記事:「地球環境に優しい『第3のミルク』と 『代替肉』の可能性」、「牛のゲップを減らせ!地球温暖化防止のカギ」)コオロギなどの昆虫は豊富な栄養素を持ち、生産時の環境負荷も少ない素材であることから関心が高まっている。
日本でも昆虫食は国家プログラムとして位置付けられている。
挑戦的な研究開発(ムーンショット)を推進する国の大型研究プログラム、内閣府ムーンショット型研究開発制度の目標は全部で9つ。その5番目が、「2050年までに、未利用の生物機能などのフル活用により、地球規模でムリ・ムダのない持続的な食糧供給産業を創出」だ。
出典)内閣府HP
そのプロジェクトの1つが、国立大学法人お茶の水女子大学基幹研究院 由良敬教授がプロジェクトマネージャーを務める「地球規模の食料問題の解決と人類の宇宙進出に向けた昆虫が支える循環型食料生産システムの開発」。
このプロジェクトは、「2030年までに、農作物残渣・食品廃棄物を有用タンパク質に転換できる昆虫を、 魚粉を代替する水産・畜産飼料原料として確立すると共に、人類の食・健康と地球環境を支える新たな生物資源として活用します。2040年までに、地球上のいかなる環境にも対応可能な昆虫生産システムを開発し、2050年までに、宇宙空間における人類の安全・安心な食と健康を支える完全循環型の食料生産 システムに昇華させます」と謳っており、まずは水産・畜産飼料用の原料とすることを目標としている。
こうした国家プロジェクトが背景にあり、民間企業も次々と参入している。
昆虫食の現状
実は、昆虫食は、アジア、アフリカ、南米を中心に古来、食用とされてきた。国連食糧農業機関(FAO)の発表によると、世界で約20億人が1,900種類を超える昆虫を食べているというから驚きだ。
またFAOによると、昆虫は、高脂肪、高タンパク、ビタミン、食物繊維、ミネラルなどを含み、栄養価が高い食材だとされる。また、環境負荷が低いのも特徴として挙げられている。コオロギを1㎏生産するのに必要な飼料は2㎏である。
一方下の図で見ると、牛肉1kgの生産に必要な穀物の量はとうもろこし換算で11kg、同じく豚肉では6kg、鶏肉では4kgなので、家畜と比べたらはるかに少ない飼料で増殖させることが可能だ。(参考:農林水産省「お肉の自給率」)牛や豚に比べ、飼育に必要な土地や水も大幅に少なくてすむ。
出典)株式会社グリラスHPより
昆虫は有機物(人や動物の排泄物など)を利用して飼育することができるため、環境汚染の軽減にもつながる。また昆虫は、温室効果ガスの排出量が少なく、哺乳類や鳥類に比べ、人獣共通感染症を媒介する危険性が低いとも言われている。
消費されている昆虫は主に、カブトムシ、蝶や蛾、ハチ、アリ、バッタ、イナゴ、コオロギ、セミ、ヨコバイ、尺取り虫、シロアリ、トンボ、ハエなど多岐にわたる。
3年前の予測だが、昆虫食市場が2025年度に約1,000億円にまで拡大するとの予測もある。今後も市場の拡大が続くものと予想される。
出典)日本能率協会研究所「世界の昆虫食市場 2025年に1,000億円規模に」
実は、日本でも一部の地域で昆虫を食料とする文化が継承されている。
長野県では、いなごや蜂の子(クロスズメバチの幼虫)の加工品が売られている。
出典)株式会社原田商店
そのほか、カイコガを水炊きした「まゆこ」や、冬の天竜川の浅瀬(ざざ)で採集される水生昆虫の幼虫「ざざむし」などもある。日本でも伝統的食文化として昆虫食が根付いていることがわかる。
出典)一般社団法人長野伊那谷観光局(※リンク先記事執筆 株式会社産直新聞社)
日本の昆虫食事業
昆虫食に携わっている企業をいくつか紹介する。
無印良品を企画、開発する株式会社良品計画は、徳島大学が研究・量産した粉末状コオロギを使用した「コオロギせんべい」と「コオロギチョコ」を協業で開発した。
出典)無印良品プレスリリース
出典)無印良品プレスリリース
先に紹介した株式会社グリラスは、コオロギの新しい飼育システムの開発に取り組んでいる。サーキュラーフード(※)をテーマに掲げたブランド「C. TRIA(シートリア)」では、料理用のC. TRIA ORIGINALSとしてグラリスパウダーとグラリスエキスを販売、お菓子・スナック類では、プロテインバーやコーンスナック、カレーなどが商品化されている。昆虫を加工食品の原料として普及させたい考えだ。
出典)シートリアHP
※サーキュラーフード・・・持続可能な社会の実現にあたり、環境負荷の低減を目指し、かつ食品ロスを主要原料として活用すべく開発された新技術を用いて生産した循環型の食材および食品のこと。
株式会社BugMoも商用コオロギの開発・生産を手がけている。
出典)BugMoプレスリリース
省力型の養殖システムや、必要な作業を予測して安定生産につながる生産管理システムの開発も行っている。
TAKEO株式会社は2014年創業、日本初の昆虫食専門ショップを運営している。同社のECサイトでは昆虫食の販売だけでなく、昆虫食に関する情報発信もおこなっている。また、地域ならではの特色をモチーフにしたフレーバーによる新しい昆虫食開発などにも力を入れている。
出典)TAKEO株式会社
出典)TAKEO株式会社HP
このようにさまざまな企業が昆虫食ビジネスに参入し始めているのが現状で、その数は今後も増えていくものと思われる。
昆虫食の課題
従来のコオロギの飼育方法は、採卵から給水・給餌、収穫までを手作業でおこなうものだった。生産コストが膨らんでしまうので、産業として発展がしにくい状況にあった。
現在さまざまな企業が養殖の自動化などに取り組んでいるが、タンパク源として普及させるためには安定して大量に養殖できるシステムを構築していく必要がある。
そして、最大の課題はなんといっても、昆虫食に対する人々の抵抗感だ。
2年半前の調査ではあるが、公益財団法人日本財団による新しい食に関する「18歳意識調査」ではフードテックに対する意識が薄いことが判明し、「昆虫食を食べてみたい」若者は16.2%にとどまった。
出典)日本財団
また、今年1月におこなわれた、「ホットペッパーグルメ外食総研」による「避けたい食品」の調査では、人工着色料や遺伝子組み換え、大豆ミートなどの食品技術15項目の中で、昆虫食を「絶対に避ける」/「できれば避ける」と回答した人は合わせて88.7%に上った。
人々の昆虫食に対する抵抗感は依然、根強いようだ。今はまさに「昆虫食」黎明期。食用として社会に受け入れられるようになるには、まだ時間がかかるような気がする。まずは飼料としての利用から徐々に拡大していくのではないだろうか。
Recommend Article / おすすめ記事
RANKING / ランキング
SERIES / 連載
- ためになるカモ!?