写真)EFポリマー
提供)EF Polymer株式会社
- まとめ
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- 沖縄のベンチャー企業が、100パーセント自然由来の高吸水性ポリマーを開発。
- 水・肥料コスト削減効果が期待できることに加え、土壌改良にも効果あり。
- 今後は積極的に海外展開し、砂漠緑化などにも取り組んでいく計画。
EFポリマーとは
ポリマーと聞くと、紙おむつやナプキンを思い浮かべてしまう。ここでいう「ポリマー」は、正確には「高吸水性ポリマー/樹脂(以下、SAP:Super Absorbent Polymer)」という。大量に水分を吸収する高分子のことだ。
SAPはその保水性から、植林や、畑への苗の植え付け、芝生の植え付けなどにも利用されている。SAPに水をたくわえ、植物の根を包み込んで水分を供給することで、根の成長が促進されるからだ。(参考:森林再生テクニカルノート)
一方、SAPに使われているポリアクリル酸は、石油由来のプロピレンから作られている。最終精製工程などに電力を多く消費する。また、非生分解性のため廃棄時にも焼却処分でCO₂を排出する。CO₂削減の観点から環境にやさしい原料への転換が求められていた。
こうした中、100パーセント自然由来のSAPがあるという。開発したのは、EF Polymer 株式会社というベンチャー企業。その名の通り、「EFポリマー」が商品名だ。インド出身のナラヤン・ラル・ガルジャール氏が創設した。
EFポリマーという名前は、”Eco Friendly Polymer”の頭文字から取った。オレンジやバナナの皮、その他の果物の残渣をアップサイクルして作られている。
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EFポリマーは土壌に撒かれると自重の約100倍の水分を吸収することができる。そして、半年間吸水・放出を繰り返し1年かけて完全に土に還る。
「農家の支出の多くを占める水・肥料コスト削減効果が期待できることに加え、持続可能な農業に不可欠な土壌改良にも効果がある」(EFポリマー社)
製造方法は、果物の皮などゴミとなる作物の残渣からペクチン(食用ジャムをゼリー化させる成分)を取り出し、重合化(ポリマライゼーション:注1)する。これがEFポリマー社の特許技術だ。10トンのオレンジの皮から、約1トンのEFポリマーができるという。
EFポリマー誕生の背景
EFポリマー株式会社のCOO下地邦拓氏に話を聞いた。
EFポリマーが生まれた背景には、世界的な水不足問題があった。砂漠化防止に取り組む国際的な枠組み「国連砂漠化対処条約(UNCCD:United Nations Convention to Combat Desertification)」によると、2050 年までに干ばつが世界人口の 4 分の 3 以上に影響を与える可能性があるという。
農業は世界規模でみると個人・家族経営が多くを占めている。水不足による収穫量の減少は、家計の収入を圧迫する。干ばつ問題は、貧困、人口の移動、汚れた水を飲料化しておこる感染症の拡大などの問題を引き起こす。そして、過去記事「世界の水不足、私たちにできること」:2020年8月5日掲載でも触れたように、水不足は時として、国家間の紛争の原因にもなりうるのだ。
創設者のガルジャール氏は、インド、ラジャスタン州の人口300人程度の村の出身だ。この地域は干ばつがひどく、農業を営むガルジャール氏の家も水不足に悩まされていた。ある日、父親から「科学が好きなのだから、解決策を探してみたらどうだ」と言われた。
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従来のSAPは完全生分解性ではないため、それを使って保水や保肥をすると、中長期的に土壌や地下水を汚し、最終的に海をも汚染してしまう。そこでガルジャール氏は、未来の世代のために、短中長期的にも環境に配慮したポリマーを作ろうと考え、2018年にインドで起業した。
資金不足や技術開発に苦悩していたところ、偶然、沖縄科学技術大学院大学(OIST:Okinawa Institute of Science and Technology)が2018年に立ち上げた起業家育成支援プログラム「OISTイノベーションスクエア・スタートアップアクセラレータープログラム」を知り、応募して沖縄に来た。
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下地氏参画の経緯
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現在、EFポリマー社は、沖縄で9人、インドで20人のスタッフが働いている。COOの下地邦拓氏は沖縄出身で、沖縄の産業を盛り上げたいという想いを持ち続けていた。アメリカで国際関係論を学び、シンクタンクに入った。帰国後は東京のコンサルティング会社に勤務し、そろそろ沖縄に戻ろうと考えていたときにOISTに声をかけられた。そこでガルジャール氏と出会った。
「彼の技術は世界を変えると思いました。村の仲間を助けたい、世界で困っている農家を助けたい、という彼の願いが広がってほしいと思いましたし、沖縄の経済にとってもインパクトのある取り組みになるのではないかということで、一緒にやることを決めたのです」と下地氏は話す。
そのEFポリマー社は、2021年3月末にシードラウンドにおいて総額4,000万円の資金調達を完了し、OISTスタートアップ・アクセラレーター・プログラムから生まれたスタートアップでは初めての資金調達事例となった。
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EFポリマーの特徴を紹介する。
1つ目は、今まで捨てられていた果物の皮などの残渣が原料なので、「ごみが減る」ことだ。2つ目は、土壌の中で自重の100倍の水を吸収するため、降水量の少ない地域でも十分に「保水ができる」こと。水の使用量が少なくて済むので「節水」できる。すなわち、干ばつ対策に有効である。3つ目は、吸水・放出を繰り返し、約12カ月後には「生分解される」こと。4つ目は、土壌の肥料が水に溶け出ていくことを防ぐ、いわゆる「保肥力」があることだ。肥料の使用量を削減することができる。5つ目は、微量の栄養分を含むため、「土壌改良材」としての効果もあること。従来のSAPも2つ目以降の特徴は擁するが、EFポリマーは「保水力」、「保肥力」ともに従来のSAPに勝るとの結果が出ているという。そして、食料残渣が原料であることから生分解性をもつことがなにより大きい。
その他にも、栄養素の欠乏や、病原菌対策の一環として利用される溶液の保持力を高めることで「作物の病気発症を抑える」などの効果も現れてきている。実証実験で、「節水化」と「省肥料化」に加え、収穫量もアップし、所得増も期待できるとの結果が出ている。
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このように、EFポリマーは干ばつ地域で有効だが、降水量が多い湿地のような土地でも効果があるようだ。EFポリマーが自重の100倍以上の水は吸水しない特性を持つため、むしろ水はけが良くなり作物の根腐れは減ることも分かってきた。
ところで、EFポリマーの材料はオレンジなど果物の残渣を使うが、乾燥時に電力使用によるCO₂排出はないのかとの疑問がわく。しかし下地氏によると、「果物の皮を乾燥させるときには自然光を使用することで、CO₂排出をゼロに抑えている」とのことだった。原材料だけなく、製造工程も環境に配慮している。
EFポリマーの課題
多くの特長を持つEFポリマーだが課題もある。それは、畑への「撒き方」だ。
敷地面積に対し少ない量で効果を発揮するEFポリマーは、通常1ヘクタールの広さに対し、20〜25キログラムしか使用しないので、規模が小さい農家には、肥料と一緒に混ぜこんだり、耕運機で撒いたりなどしてもらっている。
一方、広い面積で農業を行っている北海道用には、効率的にEFポリマーが撒けるようにドローンなどの機材と連携する計画を進めている。アメリカのように広大な農地では、肥料や農薬などを撒く場合、セスナなどによる空中散布が一般的だが、それだと粉末状のポリマーは空中に飛散してしまい、均一に撒くことができない。こうしたことから、顆粒状のポリマーを開発し、すでに販売を開始した。また、 ペレット化についても現在開発に着手しているという。
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今後の事業戦略
下地氏は、EFポリマーは世界的にニーズがあると見ている。
カリフォルニアなど干ばつに悩む地域を抱えるアメリカではすでに販売実績がある。同時に、実証実験も国内外に広がっている。
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今後は、海外市場の拡大を加速させる考えだ。まずアメリカ市場を広げ、次が欧州・ASEAN諸国だと下地氏は言う。フランス、タイなどと話が進行中だ。また、干ばつや砂漠化が深刻さを増す中国も視野に入れ、各種申請に動いている。
2023年度(EFポリマー社の会計年度は3月~2月)の日本・海外での販売目標は80トンだったが、今年3月からすでに約60トンを販売した。また、世界的に干ばつ・水不足が深刻化を続ける状況をみていると需要はますます伸びると予測している。そうなってくると「量産体制の確立」が課題となってくる。
EFポリマーはペクチンを含む作物であれば原材料の種類を選ばないので、調達には不自由しない。その土地にあるジュースやワインの工場と組めばそこから出る果物の絞りかすを使えるからだ。土地に合わせて原材料を変え生産していくことを考えている。
次は、ペクチンベースのポリマーの生産・原材料の多様化に加え、サトウキビなどに含まれるセルロースからポリマーを生産する研究をおこなっている。これが実現すると、沖縄はもとより、世界2番目のサトウキビの産地であるインドでも可能性が広がる。それ以外にもさまざまな作物からのポリマー製造を研究している。
そしてさらなる目標は、EFポリマーを「砂漠緑化」に使うことだ。現在、公益財団法人PwC財団(注2)の支援のもと内モンゴル自治区の砂漠緑化に取り組んでいる。
砂漠緑化は保水をするだけでは不十分で、団粒化構造(土がかたまりになっている状態)を作ることが必要だ。そうすることで、水はけがよくなるだけでなく、土壌にいる微生物が活性化し、「土が元気になる」わけだ。
また、「用途の拡大」にも着手している。例えばおむつや生理用ナプキン、アイスパック、携帯トイレ、化粧品や日用品向けの増粘剤などへの応用も話が進んでいる。
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「沖縄から世界へ」。環境に優しいSAPが、今世界の農業に変革をもたらそうとしている。また深刻な干ばつ問題の解決策になるかもしれない。いつの時代も、技術革新は夢を諦めない人間の情熱から生まれる。EFポリマーはそれを教えてくれる。
- 重合化(ポリマリゼーション)分子が化学的に結合して、もとのものより分子量の大きい化合物をつくること。
- 公益財団法人PwC財団
PwC Japanグループにおいて、「持続可能な社会の実現を目指し、社会課題に取り組む団体への助成を中心とした支援を行う」財団。「NPOやスタートアップ企業など社会課題に取り組む団体と共同で解決に取り組むことで、社会にさらなるインパクトを創出」することを目指す。
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