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グローバル・エネルギー・ウォッチ

Vol.06 グローバルEV戦争2 日本メーカーの逆襲

日産新型リーフ
出典)flickr:NISSAN MOTOR CO., LTD.

まとめ
  • 世界でEVシフトが加速している。
  • EVでは日産が先行、トヨタがそれを猛追している。
  • EVシフトで関連サービスに期待集まる。日本が世界をリードすべき。

欧州勢、EVシフト鮮明に

最近EV(電気自動車)の2文字を新聞で目にしない日はない。今年に入ってインパクトの大きかったニュースは何と言っても欧州発の動きだろう。

まず、フランスにすい星のごとく誕生したマクロン政権は、2040年までにガソリンおよびディーゼル車の販売を禁止するとの政府方針を打ち出し、世界に衝撃が走った。他にも2022年までに石炭火力発電所を停止、最終的に2050年までに国全体での二酸化炭素(CO2)排出量を差し引きゼロにする「カーボンニュートラル」を目指す。

写真1:仏ニコラス・ユロ エコロジー相
写真1:仏ニコラス・ユロ エコロジー相

出典)仏大統領府HP

続いて、英国のゴーブ環境・食料・農村相も7月、2040年から石油を燃料とするガソリン車とディーゼル車の販売を禁止すると明らかにした。

写真2:イギリス マイケル・ゴーブ環境・食料・農村相
写真2:イギリス マイケル・ゴーブ環境・食料・農村相

出典)UK Parliament

さらに、オランダやノルウェーも2025年までにガソリン車やディーゼル車の販売を禁止すると表明。ドイツでも2030年までにガソリン車等の販売禁止を目指し、法案が審議されている。1年前、誰がここまでのEV化への流れを想像したろうか?

EUで進むEVシフト

この急速な欧州勢のEV化への流れの背景に、「ディーゼル車離れ」があるのは間違いない。

2015年9月にドイツ自動車大手フォルクスワーゲン(VW)のディーゼル車排ガス規制逃れが発覚した。それ以降、同様の疑惑が欧州メーカーに拡大したことは記憶に新しい。

写真3:VW Golf TDI クリーンディーゼル2010年ワシントン自動車ショー
写真3:VW Golf TDI クリーンディーゼル2010年ワシントン自動車ショー

Photo by Mariordo

そもそも欧州ではディーゼル車の人気が高く、新車(乗用車登録台数/年)におけるそのシェアはここ10年間ほとんど変わらず、2016年でも49.9%(EU)と、約半数を占める。

図1:EU乗用車登録台数に占めるディーゼル車の割合(2016年)
図1:EU乗用車登録台数に占めるディーゼル車の割合(2016年)

出典)ACEA

その理由の一つはディーゼル車は軽油を燃料に使うので、ランニングコストが安いこと。もう一つはディーゼルエンジンの特性として低・中速域のトルクが強く、加速性能がいい、ということ。さらにそもそもガソリンエンジン車よりディーゼル車はCO2排出量が少ないことに加え、技術革新によって有害物質の排出量も大幅に減少したことがある。

こうした新世代のいわゆる“クリーンディーゼル車”がEUでは根強く支持されていたのが、排ガス不正事件でその人気に陰りが出始めた。相対的にCO2を排出しないEVが浮上してきた経緯がある。そういう意味で他の市場とは少々事情が異なるのだ。

中国の事情

世界のEVシフトを加速させているもう一つの理由が中国市場の動きだ。中国のエコカー市場は拡大の一途をたどっており、その伸びは世界でもトップクラスである。

図2:世界のEV・PHV保有台数推移 2010-2015
図2:世界のEV・PHV保有台数推移 2010-2015

出典)経済産業省

その背景としてあるのは、大気汚染拡大の抑制のための中国政府の政策だ。中国は2020年までにEV/PHVを500万台普及させる政策目標を掲げ、そのための施策がとられている。例えば、都市部の大気汚染や渋滞の対策として新規の自動車ナンバー取得が困難な状況にあるが、EVは抽選等で優遇されており、高確率でナンバーを取得できる。

また、中国政府と地方政府はエコカーの生産と販売に対し、自動車メーカーとユーザーに補助金を支給してきた。ただ、補助金制度に関しては、2015年に補助金の不正受給が発覚し、支給額の上限の引き下げが行われたが、成果を上げているのが以下のグラフからも見て取れる。

図3:中国エコカー(EV、PHEV、FCV)月別販売台数推移
図3:中国エコカー(EV、PHEV、FCV)月別販売台数推移

出典)三井物産戦略研究所

また、先述のEU各国と同様、中国もガソリン車とディーゼル車の生産・販売禁止時期を検討している段階に入ったという。ヨーロッパ、中国等自動車普及率が高い国々は、EVシフトへの舵を着実に切ろうとしている。

日本メーカーの反撃

こうした世界の潮流の中で、日本車メーカーはどう戦おうとしているのだろうか。EVといえば日産自動車だ。

満を持してEV初代リーフを世に送り出したのは、2010年のこと。これまでに世界で累計25万台を販売した。(日産自動車ニュースルーム2017年2月8日)日産は中期経営計画「パワー88」(2011年度=2016年度)で、仏ルノーとともに世界市場で累計150万台のEVを販売する計画を立てたが、その目標には遠く及ばなかった。

写真4:日産初代リーフ
写真4:日産初代リーフ

出典)flickr Vetatur Fumare

初代リーフの誤算の原因は、

  • ① 航続距離の短さ(初代は200km。2012年に228km、2015年に280kmに伸びた)
  • ② 充電スポットの少なさ(注1
  • ③ 価格の高さ(発売当初販売価格376〜406万円)

だった。特に①と②はガス欠ならぬ「電欠」に対する不安感が当時はまだ消費者の中に大きく、EV購入をためらう原因となったのは間違いない。③は国や地方自治体が補助金を出したが、同クラスのガソリン車に比べて割高だったこともマイナスに働いた。

車は高い買い物だ。EVを買おうという消費者は環境に対する意識が比較的高いと思われるが、補助金があったとしても200万円以上の買い物にはおいそれと手は出なかった。

その日産も今年に入ってついに2代目の販売を開始した。航続距離を400kmに伸ばし、価格もほぼ据え置いたことから、商品性は大幅にアップしたといえる。スタイリングも大幅に変わったことから消費者の動向が気になる。

写真5:日産新型リーフ
写真5:日産新型リーフ

出典)日産HP

実は日産はトヨタ・ホンダと同時期にハイブリッド車(HV)を開発・販売していた。2000年に限定100台だが、ティーノという車種をハイブリッド化したものを市場に投入したのだ。筆者はテレビ記者時代、追浜工場のテストコースで販売前に試乗した。完成度は高かったが、1999年に社長になったカルロス・ゴーン氏はHVの開発を中止させ、EV開発に注力することを決定した。この時点でHV開発を加速させていたトヨタと日産は180度戦略が変わったのだ。

そしてトヨタはハイブリッド車(HV)開発にまい進する。プリウスを1997年に販売開始、その後2003年に2代目、2009年に3代目、2015年に4代目を投入、EVには目もくれずHV一本でこれまで来た。その間2012年にプリウスプラグインハイブリッド(PHV)も投入している。

写真6:トヨタ 初代プリウス
写真6:トヨタ 初代プリウス

Photo by 根川大橋

写真7:トヨタ プリウスPHV
写真7:トヨタ プリウスPHV

出典)トヨタ自動車HP

さすがトヨタと言うべきか、2017年2月には世界でのHVの販売台数が1000万台を突破した。(内、プリウスは約400万台)日産がEV路線をひた走る中、トヨタは一貫してEVの市場投入には消極的だった。それはある意味企業として当然の経営判断だったろう。巨額のHV開発費の回収が至上命題だったことは想像にかたくないからだ。日産とは全く逆の理由でEV開発に経営資源を割けなかったのもうなずける。

図4:トヨタハイブリッド車グローバル累計販売台数
図4:トヨタハイブリッド車グローバル累計販売台数

出典)トヨタ プレスリリース(2017年2月14日)

しかし、前段で述べたように世界のEVシフトの流れを無視するわけにはいかなくなった。今年8月4日、ついにトヨタが大きく動いた。マツダとの資本提携に関する記者会見で、トヨタの豊田章男社長とマツダの小飼雅道社長は、軽自動車から小型トラックまでEVプラットフォームを両社が共同開発することを明らかにしたのだ。

さらに、9月28日には、トヨタとマツダ、デンソーはEVの基本構想に関する共同技術開発に向けた契約を締結した。新会社「EV C.A. Spirit」を設立、3社のエンジニアが開発に集結する。トヨタの本気度がうかがい知れる。

一方で、巨艦トヨタの苦悩も見て取れる。HV開発チームにとってEV開発に社内のリソースが割かれることに“もろ手を挙げて賛成”というわけにはいかないだろう。マツダ、デンソーを巻き込まなければEV開発を進めることが出来ないとなると、今後のスピード感に不安がよぎる。ことEVに関し、トヨタvs日産の戦いの帰趨はまだ見通せない。

EVは電力需要を増やす?

2040年には世界の新車販売における54%がEVになるとの予測がある。7月6日、ブルームバーグ・ニューエナジー・ファイナンス(BNEF)が発表したものだ。市場別に見ると、欧州が約67%、米国58%、中国51%となる見込みだという。また、世界の保有車両におけるEV比率も33%に達すると予想している。わずか20年の間にそこまでEVが普及するのか若干の疑問があるが、革新的な電池が開発され重さと値段が現在の半分以下になってガソリン車の価格を下回ることにでもなれば可能性はなくもない。

こうした中、一つのシンプルな問いが投げかけられている。「EVが増えると電力需要が増えるのではないか?」というものがそれだ。

確かにEVは充電しないと動かない。日本のすべての乗用車がEVになると消費電力量は約10%増加するという民間の試算もある。(注2)現在火力発電に頼っている日本としては、「なんだ、EVが増えると発電所からのCO2が増えることになるのか」と思う人もいよう。しかし、一方でEVが増えるということはガソリンの消費量が減る、ということだ。世界の石油需要がピークを迎えるとの見通しも出始めている。運輸部門でEV化が進めば、CO2排出削減効果は大きい。EVの環境への貢献度はいろいろな角度から評価する必要がある。

図5:化石燃料への依存とCO2排出
図5:化石燃料への依存とCO2排出

出典)経産省

新たな産業の創出

最後に、EVシフトで生まれる新たな産業について触れておきたい。下図は中国で検討されているEVの充電回りの新サービスの例だ。①利用時の満足度、②充電時間の有効活用、③収益モデルの確立の3つの観点からさまざまなビジネスが生まれる可能性がある。

図6:中国の“充電サービスxIoT”により想定されるサービス
図6:中国の“充電サービスxIoT”により想定されるサービス

出典)NRIリポート「2030年に向けた電動車市場の展望と周辺業界へのインパクト

また、運輸部門のEV化により、高速道路のワイヤレス給電レーンの設置が進むかもしれない。EVシフトは大きな創業のチャンスでもある。EV開発で先鞭をつけた日本がこうした周辺ビジネスにおいても世界をリードしていく必要がある。政府も戦略的にEV関連投資の後押しを加速させるべきと考える。

  1. 充電スポット数
    2017年10月時点で、普通充電14,665ヶ所、急速充電7,150ヶ所(GoGoEVによる)
  2. 参考:EV smart Blog
安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
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