写真)マンダレイ ベイ コンベンション センターで開催されたCES® 2023 でAFEELAを発表するソニー ・ホンダ モビリティの水野泰秀会長兼最高経営責任者(CEO) 2023年1月4日 米・ラスベガス
出典)Photo by Alex Wong/Getty Images
- まとめ
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- ソニー・ホンダモビリティが、EVのプロトタイプ「AFEELA(アフィーラ)」を発表。
- 2025年前半に先行受注を開始、同年中に発売を予定。
- 他の日本メーカーの戦略は見えてこず。来年以降に期待。
ソニー・カーについては去年2月、「ソニー・カー参戦で自動車産業のパラダイムシフト加速」と題して記事にした。
そして1年経った年明けの1月4日、ソニーグループはアメリカラスベガスで開かれたテクノロジー見本市「CES®2023」にて、本田技研工業株式会社(以下、ホンダ)との共同出資会社「ソニー・ホンダモビリティ株式会社」(以下、SHM)を通じ、2025年に受注を始める電気自動車(EV)のプロトタイプ、「AFEELA(アフィーラ)」を発表した。26年春には北米で、同年後半から日本でそれぞれ納車を始める予定だ。
まずはその姿を見てみよう。
出典) AFEELA
1月4日、代表取締役 会長 兼 CEO 水野 泰秀氏が会見で話した内容は以下の通り。
● SHMは企業パーパス「多様な知で革新を追求し、人を動かす。」のもと、創造性で未来を切り開く人々とともに、最先端の技術と感性を掛け合わせ、“Mobility Tech Company”としてモビリティの革新を追求していく。
● 新ブランド「AFEELA」を発表。人とモビリティの新たな関係を提案するプロトタイプを初披露した。
● 安心安全の実現に向け、今回のプロトタイプには車内外に計45個のカメラ、センサーなどとともに、最大 800TOPSの演算性能を持つECUを搭載。
● リアルとバーチャルの世界を融合していくことで、移動空間をエンタテインメント空間、感動空間へと拡張。その一例として、Epic Gamesとモビリティにおける新しい価値観やコンセプトの検討を開始。
● 本プロトタイプをベースに開発を進めていく。2025年前半に先行受注を開始し、同年中に発売を予定。デリバリーは2026年春に北米から開始する。
● モビリティのインテリジェント化を進めるため、AD/ADAS、HMI/IVI、テレマティクスなど、主要機能にQualcomm TechnologiesのSnapdragon Digital ChassisのSoCを採用予定。次世代のモビリティ体験の実現に向けて、戦略的な技術パートナーシップを築いていく。
● モビリティサービスおよびエンタテインメントの新たな価値創出に向け、Epic Gamesと協業開始。
出典) SMH
筆者が興味を持ったのは、この車が「人とモビリティの新たな関係を提案する」ということだ。モビリティを訳せば「移動」だが、SHMは、人や物が移動するという概念を再定義しようとしている。
「リアルとバーチャルの世界を融合していくことで、移動空間をエンタテインメント空間、感動空間へと拡張」すると宣言していることからそれがうかがえる。ただ単に車の中でゲームができるといったことではない「何か」が提供される予感がする。
もう一つは、開発のスピードが思ったよりも早いということだ。2025年中に発売開始ということは、この車が後3年ほどで公道を走ることになる。全くの新車、しかも従来のEVとは一線を画したモデルがプロトタイプ発表からわずか3年で世に出るとは信じがたい。これもホンダという自動車メーカーと組んだおかげだろう。
造形とネーミング
AFEELAのエクステリアは見ての通りシンプルだ。ボディ面の構成は複雑ではなく、つるんとしていて愛嬌を感じさせる。日本の車はやたらメッキのパーツが多かったりするが、AFEELAは無駄なガーニッシュ(装飾パーツ)を極力排している。一方、フロントとリアには「メディアバー」と称するディスプレイが搭載された。ドライバーが車に近づくとアニメーションでさまざまな情報が表示される。意思を持った車とドライバーの間にコミュニケーションが生まれる瞬間だ。
こうしたデザインを見るとやはり従来の自動車メーカーにはないSONYのデザイン思考が脈づいていると感じざるを得ない。AppleのiPhoneが初めて世に出たときを思い出してみよう。そのシンプルな造形、無駄を省いたパッケージングに多くの人がわくわくした。AFEELAもある意味、その時に近い驚きと感動を我々に与えたのではないだろうか。
さて、AFEELAというネーミングだが、SHMによるとモビリティ体験の中心に在る「FEEL(感じる)」を表し、「人が、モビリティを“知性を持つ存在”として「感じる」こと、また、モビリティがセンシングとネットワークに代表されるIT技術を用いて、人と社会を「感じる」こと、というインタラクティブな関係性を表現している」という。
ちょっとわかりにくいが、要は人とクルマがつながり、クルマと社会がつながることにより、人も社会とつながる、ということだろう。
すなわち、「AFEELA」という文字は、「FEEL」を真ん中に置き、この車が提供する以下の3つの価値の頭文字の「A」で挟みこんでいるというわけだ。
・Autonomy(進化する自律性)
・Augmentation(身体・時空間の拡張)
・Affinity(人との協調、社会との共生)
コンセプトが明快なのもSHMらしい。また、組んだ相手がトヨタ自動車や日産自動車ではないところも興味深い。確かに、自動車メーカーでありながら航空機も作るなど、独自性を貫くホンダとソニーの相性は悪くない気がする。
インテリアデザインとエンタメ
自分のクルマに滑り込むとなんとなくホッとする。家に帰るのと同じ感覚だ。最近の車はずいぶんと進化していて、ドライバーの顔を識別し、シートポジションやミラーの位置を変える機能が付いているものもある。Bluetooth(近距離無線通信)によるキーレスエントリーが当たり前となり、スマホとオーディオも即座につながる。前を見ていなければ居眠り運転防止アラームが鳴る。すでに人とクルマはかなりつながっていると言っていいだろう。
AFEELAのインテリアを見てみると、ドライバーの注意をそらす装飾を極力減らし、Simplicity(単純さ)を追求しているのがわかる。インストルメントパネルの代わりに、フロントの両端まで横一線に広がるパノラミックスクリーンが配置され、ハンドルも視認性を高めるために四角形の特殊な形状をしている。
出典) shm-afeela.com
上記の3つの価値の内、Augmentation(身体・時空間の拡張)とAffinity(人との協調、社会との共生)がどう実現されるのかは未知数だが、移動空間をエンタテインメント空間、感動空間へと拡張していくために、世界的にヒットしたゲーム「フォートナイト」を開発したゲーム会社Epic Gamesと提携したことは1つヒントになるかもしれない。いずれにしてもゲームだけにとどまらないはず、と思っているのは筆者だけではないだろう。
一方こうしたソフト面に加え、容易に機器同士がつながるか、操作が簡単か、Wi-Fi/5Gなどとスムーズにつながるか、途切れないか、などのハード面やUX(ユーザーエクスペリエンス)も重要だ。
安全性とドライバビリティ(運転操作性)
AFFELAは、ソニーのセンサー技術とホンダの安全技術を組み合わせ、世界最高水準の自動運転/先進運転支援システムの搭載を目指すとしている。
そして特定条件下での自動運転レベル3(システムがすべての運転操作を一定の条件下で実行する状態)を目指し、市街地などでの運転支援機能レベル2+の開発にも取り組んでいるという。
今回のAFEELAには、車両の内外に45個ものカメラやセンサーを設置、最大800TOPS(Trillion Operations Per Second:1秒間に800兆回演算)の高い演算性能を持つECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)を採用する。SoC(System on a Chip)には米半導体大手Qualcomm Technologiesの自動車向けソリューションSnapdragon Digital Chassisを組み込む予定だ。SHMの本気度がうかがえる。
その自動運転だが、高度なレーダーやセンサーが必要となるレベル3の本格的な普及は2030年頃との予測もある中で、2025年発売という目標はかなり野心的だ。
しかし実現不可能でもないようだ。実はホンダはすでに一昨年3月、世界で初めてレベル3搭載車として「レジェンド」を発売しているのだ。ここにもホンダと組んだメリットが見て取れる。
出典)本田技研工業株式会社
一方SHMは、安全性の向上につながる自動運転については公表したが、EVの性能の尺度として一般的なバッテリーやモーターの性能、走行距離などについては一切明らかにしなかった。これもある意味象徴的で、AFEELAが従来の車の価値観と一線を画した存在であることを示しているといえよう。
自動車業界へのインパクト
SHMが目指すようなモビリティの再定義は、欧州メーカーも積極的に取り組んでいる。
アウディは後部座席でゲームなどを楽しめる仮想現実(VR)の技術をCES®2023に出展した。
出典)アウディ・ジャパン
また、BMWも、人工知能(AI)を搭載し、運転者とさまざまなやり取りができるEVの試作車を公開した。ボディカラーを自在に変化させることもできる。
翻って、トヨタ自動車株式会社や日産自動車株式会社はどうか。SHMが提示しているようなモビリティの未来へのメッセージが聞こえてこないのはさみしい。より現実的な未来を描いているといってしまえばそれまでだが、テクノロジーの変革は加速している。モビリティそのものが再定義されようとしている中、ホンダ以外の日本車メーカーがどのような解を示してくれるのか、期待を込めて見守りたい。
また、かつて話題になったアップルカーもなりを潜めている。開発中止という発表もないので、いずれベールを脱ぐかもしれない。来年以降のCES®が楽しみでもある。
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