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エネルギーと私たちの暮らし

Vol.33 CO₂フリー電気で脱炭素化を加速する

写真)空から見た奥裾花ダム

写真)空から見た奥裾花ダム
出典)長野県企業局

まとめ
  • 中部電力ミライズの「県産CO₂フリー電気」の販売が伸びている。
  • 購入する企業は、脱炭素への取り組みを社会にアピールすることにメリットを感じていると同時に、地域の再生可能エネルギーを増やすことにも関心が高い。
  • 電力会社には、省エネなどを提案してお客さまのビジネス課題を解決しつつ、脱炭素を進めていく努力が求められる。

「ゼロエミッション」という言葉を最近よく聞く。産業等の活動から発生するものをゼロに近いものにするため、資源の有効活用を目指す理念のことをいう。

そうした中、政府が推進している「ゼロエミチャレンジ」という活動がある。2050年カーボンニュートラルの実現に向けたイノベーションに挑戦する企業をリスト化し、投資家等に活用可能な情報を提供する政府のプロジェクトだ。経済産業省が、日本経済団体連合会(経団連)や国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と連携して進めている。

イノベーションの取組に挑戦する企業を「ゼロエミ・チャレンジ企業」と位置づけ、2020年度に320社、2021年度に624社の企業リストを公表している。

電力会社はこの「ゼロエミチャレンジ」にどう取り組んでいるのか。中部電力の例を紹介しよう。

図1)ゼロエミ・チャレンジ企業「ロゴマーク」
図1)ゼロエミ・チャレンジ企業「ロゴマーク」

出典)経済産業省

中部電力グループ「ゼロエミチャレンジ2050」

中部電力グループは脱炭素に向け、「ゼロエミチャレンジ2050」という取り組みをおこなっている。

具体的には、2030年に向け、電気由来のCO₂排出量を、2013年度比で50%以上削減し、保有する社有車(注1)を100%電動化する。また、2050年に向けては、事業全体のCO₂排出量ネット・ゼロに挑戦し、脱炭素社会の実現に貢献することを目指している。

その上で、「社会・お客さまとすすめる電化・脱炭素化」(下図左)と、「お届けする電気の脱炭素化」(下図右)を謳っている。

図2)ゼロエミチャレンジ2050
図2)ゼロエミチャレンジ2050

出典)中部電力

こうした中、中部電力グループの販売事業会社である中部電力ミライズは、発電する際にCO₂を排出しない電力、「CO₂フリー電気」を販売している。

3月1日より、愛知県産のCO₂フリー電気「愛知Greenでんき」の提供を開始したことで、中部5県(愛知、岐阜、三重、長野、静岡)の各県産CO₂フリー電気のラインナップが揃ったことになる。

県産CO₂フリー電気とはどのようなものなのか、詳しく知りたいと思い、吉田周一事業戦略本部再生可能エネルギーサービスグループ長のもとに足を運んだ。

県産CO₂フリー電気とは

中部電力ミライズは、各県産のCO₂フリー電気を、「〇〇Greenでんき」(注2)と呼んでいる。「〇〇」には各県の名前が入る。最初にスタートしたのは長野県だという。実は、長野県の企業局が水力発電所を運営しており、中部電力ミライズはその電力を調達している。

「長野県は環境先進県ということで、県内企業も環境意識が非常に高いのです。長野県の再生可能エネルギーを増やすうえで、何か面白いことができないのかなという話があり、電気を作る方も使う方も、シンボリックなものがあったらいいのでは、ということで提案しました」

電気を消費する需要家サイドからも、電源の種類に対する関心が高まってきているという。長野の企業、セイコーエプソン株式会社が「信州Greenでんき」を採用したように、同県ではすでに20社近くに採用されている(22年3月時点)。長野県企業局から仕入れている電気に関してはほぼ完売しそうな勢いだという。

「長野県の企業(法人のお客さま)は、事業所のCO₂の排出量削減を図るだけではなく、地域との共生や、地域の再生可能エネルギー資源の拡大などに関心が高く、地域の再エネ拡大に貢献できる、県産電気の取り組みにつながっていったのだと思います」

つまり、企業が社会全体のCO₂排出量を減らすために、再生可能エネルギーを増やすことを目指すようになってきたということだ。

一方で、中部電力ミライズとしては、CO₂フリー電気を購入してくれた企業の価値向上につなげていくことが重要だと話す。

「電気は目に見えなくて分かりにくい面があります。採用いただいた企業の価値向上につなげていくために、企業側が情報発信しやすいように、県産Greenでんきをわかりやすく魅力的に紹介できるような施策が必要だと思っています」

再生可能エネルギー電源を増やす取り組み

従来のCO₂フリー電気は、既存の発電所の非化石証書(注3)を活用している。しかし、それだと社会全体のCO₂排出量が減るわけではないと吉田氏は指摘する。

「私たちは再生可能エネルギー電源自体をなんとか増やしたいということで、環境価値分から得られた追加収益は、再生可能エネルギーの電源開発や改修・保守に活用して、地域全体の再生可能エネルギーのパイを増やすことを目指しています」

再生可能エネルギーの開発をおこなっているところに中部電力グループの強みがある。

企業が脱炭素をやろうと思ったら、まずは省エネだ。まず電気の量を減らして、そのうえで自社の構内の屋根などで発電して賄おうとする。それでも足りない場合、買っている電気をグリーン化するというプロセスを踏むのが一般的だ。

「我々が他と違うのは省エネです。長年技術を培ってきて、専門の部隊もいるので、省エネとセットでコンサルティングができます。太陽光発電に関しても、「PPA事業」(注4)などがありますので、太陽光パネルを初期費用0円で設置するなどの協力もできます。脱炭素に向けて総合的に取り組んでいくという意味では強みがあると思います」

これからは、「価値の見える化」だけではなく、「再生可能エネルギー電源をどう拡大していくのかが課題だ」と吉田氏は明快だ。

「CO₂フリー電気を採用いただいているお客さまに共通しているのは、カーボンニュートラルの動きを地域や社会に広げていきたい、まずは自らが牽引していきたいという強い想いがあることです。我々も、収益を再生可能エネルギーの開発だけでなく、研究などにも回していくとすれば、どういうものを支援していくのかなど、考えていかないといけません」

CO₂フリー電気を購入した理由

では、CO₂フリー電気を購入した需要家の声を聞いてみよう。彼らの動機はなんなのか、どのようなメリットを感じているのだろうか。豊田市駅前通り南開発株式会社執行役員中村礼二さんに話を聞いてみた。同社は豊田市駅前でコモ・スクエアという多機能施設を運営している。

写真)豊田市駅前通り南開発株式会社執行役員中村礼二さん
写真)豊田市駅前通り南開発株式会社執行役員中村礼二さん

© エネフロ編集部

最初に話を聞いたときは戸惑いがあったと中村さん。

「正直に言うと少し難しいなあというのが本音でした。費用的にも負担が増えるし、費用対効果が出るかについて疑問で、最初話を聞いたときうちは無理ですよとお断りしました」

では、契約の決め手はなんだったのだろうか?

「私自身最初は全く知識がなかったのですが、話を聞いてから興味を持ち、たまたま大名古屋ビルがCO₂フリー電気に変えるという記事を見て、我々のようなビルも電力をCO2フリーにすることで、環境施策をアピールしていくのもありなのではないか、と少しずつ気持ちが変わっていきましたね」

そして、決め手となったのは、愛知Greenでんきが出たことだという。

「イオンさんは木を植えている、そういったわかりやすい、コモ・スクエアは何かやっていますよ、とアピールできるものがないかなぁと思っていたところに、愛知Greenでんきは検討する価値はあるのかなとおもいましたね」

豊田市はもともと環境に対して積極的で、中部地方で初めてゼロカーボンシティ宣言をした。コモ・スクエアは、豊田市の再開発ビルでもあり、豊田市の考えにも合致しているし、お客さまへのアピールにもなるのではないか、と考えたという。

一方、光熱費が上がる傾向にある中で、愛知Greenでんきを入れるとなるとまた費用が上がる。テナントに電気代の増加分を転嫁しにくいという問題がある。結局、自分たちで電気代は吸収することで社内を説得したと中村さんはいう。

同社は、この地区で最初に導入したということでビルの価値を上げて、他のビルとの差別化を図る考えだ。今後、新聞などにこの取り組みを紹介していき、新聞やホームページでどんどんアピールしていく考えだ。

「オフィステナントには、トヨタ自動車と取引している優良企業さまも多い。事務所ビルが愛知Greenでんきを採用しているというのは、テナント企業さまにとってメリットになるかなと思います」

電力会社とお客さまのニーズがマッチしていることがわかる。同時に県の脱炭素が進むというメリットもある。

「中部電力ミライズさんからこの話がなければ知らないままで終わっていました。今後も環境施策について何かしらできたらと思っているので積極的に情報提供していただきたいですね」

写真)豊田市駅前通り南開発株式会社執行役員中村礼二さん
写真)豊田市駅前通り南開発株式会社執行役員中村礼二さん

© エネフロ編集部

実際に中村さんに県産Greenでんきを採用してもらった営業担当者も手応えを感じているようだ。

中部電力ミライズの担当者・藤井令子さん(岡崎営業本部 法人営業部 販売課長)は、去年の夏頃は、お客さまの反応は厳しかったと振り返る。

写真)中部電力ミライズ岡崎営業本部法人営業部販売課長藤井令子さん
写真)中部電力ミライズ岡崎営業本部法人営業部販売課長藤井令子さん

© エネフロ編集部

「正直厳しい企業が多かったです。脱炭素に取り組まなければならないと考えている企業は多いとはいえ、CO₂フリー電気導入の時期は他の企業の様子を見て考える、という印象を受けました」

しかし藤井さんも、社会や企業の流れが変わったと感じる瞬間があったという。

「一年前と今の状況を比べると、脱炭素に取り組む企業の姿勢が変わったのを感じます。産業用(工場など)と比べて業務用(事務所・ビル・店舗など)の企業は、相対するお客さまが一般の方ということもあり、一円でも多くのコスト削減を考えている中で、脱炭素は二の次、と考えているケースが多かったのですが、世界的に注目されているからこそ、来年、再来年ではなく今から取り組んでいくべきことです、とアピールしました」

そして去年11月のCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)の影響や、主要企業のCMに環境に関するものが増えてきたことなどが、風向きを変えた。

「やはり、地元の企業が県産Greenでんきを購入してくださったというのは非常に大きな効果があったと感じています。中部電力ミライズが扱う、CO₂フリーの電気、太陽光、省エネなどを継続して提案し、企業のメリットになることをアピールしていきたいですね」

愛知県はトヨタ系の企業が多く、環境施策に先進的な企業が多い。それらの企業と取引する銀行などでも今後ニーズが高まってくると思われる。

地球にやさしい環境を作っていくことが、企業の価値向上になるという考えが着実に社会に定着し始めていることを実感した。上の図2にある、「省エネ」・「創エネ」・「活エネ」、三位一体の取り組みは、電力会社が、お客さまのビジネス課題を解決していく中で、お客さまとともに脱炭素を実現していくものなのだと言うことがわかった。電力会社のビジネスモデルは今着実に変化している。

  1. 中部電力、中部電力パワーグリッド、中部電力ミライズの3社が保有する社有車
  2. ミライズGreenでんき
    中部電力ミライズは、中部5県の地産価値ありの「CO₂フリーメニュー(県産)」と、地産価値なしの「CO₂フリーメニュー(標準)」をまとめて、「ミライズGreenでんき」の総称のもと各メニューを提供し、地産再生可能エネルギーの有効活用と普及拡大に取り組む。
    図)「ミライズGreenでんき」の概要
    図)「ミライズGreenでんき」の概要

    出典)中部電力ミライズ

  3. 非化石証書
    石炭や石油等を使用しない非化石電源から発電された電気の価値には、電気の価値と環境配慮の価値があるが、そのうち、環境配慮の価値を証書化したものをいう。
  4. PPA(Power Purchase Agreement)事業
    太陽光発電の自家消費サービス。ユーザーの屋根等に無償で太陽光発電設備を設置するサービス。初期負担を考えることなく、自分の屋根でつくられた「環境に優しい」CO2フリーの電気を使用できる。また、サービスには設備のメンテナンスが含まれる。
安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
・日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
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