写真)バッテリーEV戦略に関する説明会でEVを前にプレゼンテーションする豊田章男社長 2021年12月14日
出典)トヨタ自動車
- まとめ
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- この冬の電力供給は厳しい状況、家庭でも節電を。
- 今年4月にFIP制度スタート、再エネ発電事業者にとって補助額が投資へのインセンティブになる。
- 日本は本格的EV元年に突入、他メーカーとの競争激化。
2021年も、新型コロナウイルス感染症は猛威を振るった。もはや記憶の彼方に過ぎ去ってしまったが、7月には2020東京オリンピック・パラリンピックが開催された。8月の感染状況は拡大の一途をたどり、8月20日には国内で25,992人の感染者となり、同日緊急事態宣言は13都府県に拡大された。(参考:NHK特設サイト「新型コロナウイルス」)
内閣支持率の低迷を受け、9月には菅義偉前首相が辞任、自民党の総裁選に突入した。去年年頭の記事「エネルギーを巡る2020年回顧と2021年展望」で触れたとおり、2021年は「エネルギー基本計画」の見直しの年だった。6月には「素案」が出され、2030年度の電源構成で再生可能エネルギーの比率が36~38%と3年前の22~24%に比べ大幅に引き上げられるなど、再生可能エネルギーを主力電源とする方向性が明確に打ち出された。一方、原子力発電の比率は20〜22%で変わらなかった。
出典)資源エネルギー庁「2030年度におけるエネルギー需給の見通し」
去年4月にはバイデン米大統領主催の「気候サミット」が行われた。(参考記事:バイデン気候サミットのインパクト)その場で、菅総理大臣は、2030年に向け温室効果ガスを46%削減(2013年度比)することを目指し、さらに50%の高みに向けて挑戦を続けていく考えを示した。これまでの目標26%削減を実に8割近く引き上げた。
出典)米国務省
エネルギー基本計画の電源構成は、当然この野心的な目標の達成を視野に入れたモノだと思われる。エネフロでは、エネルギー基本計画素案が出た段階で「エネルギー基本計画素案を読み解く」の記事を掲載した。この中で東京大学公共政策大学院有馬純特任教授は2つの問題点を指摘した。1つ目が、電力コスト上昇の懸念であり、2つ目が、原子力新増設などの議論が回避されたことだ。
その上で有馬教授は、以下の3点を提言として示した。
・2030年に向け、最も費用対効果の高い温室効果ガス削減策である原子力発電所の再稼働を加速させること。
・2030年まで、さらには2030年以降もカーボンニュートラルに向かう道のりにおいて日本と米国、EU、中国などの主要貿易パートナーのエネルギーコスト、温暖化対策コストを定期的に比較・レビューし、日本のコストがバランスを失して上昇した場合、目標水準や達成方法の見直しを含むフレキシビリティを確保しておくこと。
・温暖化対策コストが上昇する中で産業部門と家庭部門の負担分担を真剣に考えること。
当然のことながら、自民党の総裁選でもエネルギー問題は争点の1つとなった。
出典)日本記者クラブ
中でも高市早苗候補(現自民党政調会長)は、原子力発電所のリプレースと新増設に加え、SMR(小型モジュール炉)や核融合発電の導入を見据えた議論を展開し、注目を集めた。
その後岸田文雄氏が自民党総裁に選出され、岸田内閣が発足。10月に「エネルギー基本計画」は閣議決定されたが、原子力政策に踏み込んだ表記は反映されなかった。
総裁選と相前後して訪れたのは原油高だ。2021年初来じわじわ値を上げ、原油先物のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)相場は10月には、一時7年ぶりの高値を付け、1バレル83ドル台にまで到達、年初来の上昇率は8割近くとなった。(参考:OPECホームページ)
原因は、新型コロナウイルス禍からの世界的な経済回復で需要が増えたことと、石油輸出国機構(OPEC)加盟国などでつくるOPECプラスが産出量拡大に消極的な姿勢を示していたことなどが挙げられる。
原油高とともに、LNGのスポット取引市場も高騰している。中国を含むアジア全体の需要、ウクライナ情勢の緊迫化などから、アジア地域のLNGスポット価格は12月17日時点で100万BTU(英国熱量単位)当たり44.35ドルにまで上昇、これは1年前の約4倍で、週ベースで過去最高値となった。
こうした原油高/LNG高が消費者の生活を直撃した。身近なガソリン価格は2021年年初130円台・リットル(レギュラー)が、一時170円に迫るところまで高騰した。今も高値圏にある。農業や漁業、トラック運送業界などに大きな影響が出ている。また、燃料高で電気代、ガス代も上昇を続けている。
こうした中、戦後初めての石油備蓄放出が行われた。石油が国家備蓄されていることを今回初めて知った人もいるだろう。11月24日、経済産業省はアメリカの備蓄放出に合わせ、数十万キロリットルの国家備蓄石油を売却することを決定した。(参考:萩生田経済産業大臣の閣議決定後の記者会見の概要)
OPEC加盟国・非加盟国で構成される「OPECプラス」は、2022年1月以降も毎月日量40万バレルずつ原油を増産するという従来の方針を維持することを決定した。(参考:OPEC:第23回OPECおよび非OPEC閣僚会合)
そして2021年エネルギー関連のイベントとしてシメともいうべきCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)が11月に開催、「グラスゴー気候合意」が採択された。一番重要なのは、これまで努力目標だったパリ協定の「1.5度目標」が事実上、世界共通目標になったことだろう。各国の削減目標は不十分として、「2022年末までに強化して再提出」することが明記された。
出典)首相官邸
2022年の課題
さて、簡単に去年のエネルギーをめぐる動きを振り返ってみた。これらを受け、今年のエネルギー問題の課題を見てみよう。
1. 冬の電力供給
新年、電力供給は厳しい状態が予想されている。広域機関によると、今冬の電力需給は、10年に1度の厳しい寒さを想定した場合にも、全エリアで安定供給に必要な予備率3%を確保できる見通しだ。しかし、東京エリアは1月に3.2%、2月に3.1%と3%ギリギリとなっており、予断を許さない状況だ。(参考:「2021年度冬季に向けた電力需給対策について」2021年10月26日)
こうしたことから、経済産業省は、家庭や需要家に向けて無理のない範囲での節電を呼びかけている。(参考:萩生田経済産業相会見 2021年12月3日)
電力各社はLNGの在庫積み増しや、老朽化した火力発電所の再稼働など、安定供給の対策を取る。私たち需要家サイドも改めて省エネを考えるきっかけとしたい。
2. FIP(フィードインプレミアム)制度
2012年に「固定価格買取(FIT:Feed In Tariff)制度」が導入されてから10年。その間、再生可能エネルギーの導入は着実に進んできた。
そして今年4月1日、FIT法(電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法)に代わり、再エネ促進法(再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法)が施行され、市場価格に一定の補助額(プレミアム)を上乗せして電気を取引する、「FIP(Feed In Premium)制度」が創設される。売電価格が一定の「FIT制度」と異なり、補助額は一定だが売電価格は市場価格に連動する。
FIP制度の最大のメリットは、再エネ発電事業者にとって補助額が投資へのインセンティブになることだ。また、需給バランスにより変動する電力市場価格を意識しながら発電し、市場価格が高いときに蓄電池に貯めておいた電力を売電するなど、収益確保の自由度が増す点も上げられる。新ビジネスの創出や再エネ導入が進むことが期待されており、2022年はカーボンニュートラル社会実現に向けての第一歩の年となろう。
3. 本格的EV(電気自動車)元年
そして、同じく脱炭素の潮流の中で、劇的な変化を遂げようとしているのが自動車産業だ。
日本の自動車産業に取ってエポックメーキングな出来事は、トヨタ自動車株式会社がついに本格EVを投入することだ。2022年はそういう意味で本格的EV元年といってよいだろう。
出典)トヨタ自動車
トヨタ自動車はこれまでHV(ハイブリッド車)やPHV(プラグインハイブリッド車)、そしてFCV(燃料電池車)に注力し、EV(トヨタ自動車はEVに、バッテリーの頭文字BをつけてBEVと呼ぶ)の販売には慎重な姿勢を貫いてきた。しかし、世界的なEV化の潮流が加速する中、さすがに重い腰を上げた。
SUBARUと共同開発した「bZ4X(ビーズィーフォーエックス)」は、SUVタイプのEVとして、TOYOTA bZシリーズの第一弾となる。2022年年央より世界各地で発売する計画だ。
トヨタはbZ4Xを皮切りにフルラインアップでEVの展開を推進する。2030年までに30車種のEVを展開し、グローバル販売台数、年間350万台をめざす。また、EVに4兆円、うち2兆円をEV向け車載電池に充てる。高級車「レクサス」ブランドは35年に世界で100%をEVにする。これまでの慎重と見られていた姿勢から反転攻勢に出る。
EVで先行している日産自動車は、今年新型SUV「日産アリア」を発売する。同社は電動化を柱とする30年度までの長期ビジョン「日産アンビション2030」を去年発表、電動車対応で2026年度までに2兆円を投資すると発表した。従来電池より高性能で航続距離を伸ばせる全固体電池を搭載したEVを28年度に販売し、2030年度までにEV15車種を含む電動車23車種を投入する。
出典)日産自動車
しかし、こうした日本車メーカーのEV化戦略は、競合他社のそれと比べると見劣りする。EV専業メーカーの米テスラは、驚くべきことに2030年までに年間2,000万台の生産計画をぶち上げた。トヨタの生産台数の倍であり、非現実的だとの声も聞こえるが、今や時価総額1兆ドル(約114兆円:1ドル=114円で計算)にのぼる同社がフルラインメーカーであるトヨタを含む既存自動車会社に殴り込みをかけてくる。どう対応するのか、経営のスピードが勝負の鍵を握るとみてよいだろう。2022年はそれを見極める年になる。
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