写真)フランスで建設が進む核融合実験炉(ITER) 2021年1月14日
出典)ITER Organization
- まとめ
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- 小型モジュール炉や核融合炉が、より安全性の高い原子力エネルギーとして注目されている。
- 欧米を中心に官民連携の研究開発が加速、ベンチャー企業などの投資も相次ぐ。
- 小型モジュール炉は経済性との両立、核融合炉は技術の確立が急務。
新型コロナウイルス対応を中心に論戦がおこなわれた自民党の総裁選。エネルギー政策に関する議論も積極的におこなわれた。
立候補した河野太郎行政改革担当相、岸田文雄前政調会長、高市早苗元総務相、野田聖子幹事長代行(いずれも総裁選時の肩書き)は、原発再稼働に関しては、全員容認する立場だった。過去に「脱原発」を主張していた河野氏も立候補表明後、「安全が確認された原発を当面は再稼働していくのが現実的」と軌道修正したが、「核燃料サイクル」については中止を明言した。これに対し、高市早苗氏は原子力発電所のリプレースや新増設と共に、小型モジュール炉(Small Modular Reactor:SMR)や核融合炉の開発推進を主張した。
脱炭素社会の実現が求められる中、世界的に見ても発電時に二酸化炭素を排出しない原子力発電の需要は高まっている。特に、中国や中近東でも原子力発電所の建設が進んでいるのは注目すべきだ。(参考記事:「加速する中国の原子力発電所輸出」、「中東で原子力発電所が稼働 今、産油国で何が?」)
今回は、総裁選で取り上げられた小型モジュール炉や核融合炉の安全性などについて取り上げる。
小型モジュール炉
新たな原子力発電の技術として注目されている、小型モジュール炉と核融合炉とは、それぞれどのようなものなのか。
まず小型モジュール炉は、その名の通り現在主流の原子炉よりも発電出力が小さいものを指す。通常の原子力発電所の出力が100万kW以上なのに対し、30万kW以下の原子炉が小型と定義づけられている。
モジュールとは、規格化した部品をあらかじめ工場で生産し、建築現場でそれらを組み立てる建築手法である。小型モジュール炉は現地でゼロから建設しないため、工期や建設費が削減できる。現行の軽水炉に比べ、建設費は数分の一ですむとの試算もある。
その小型モジュール炉、アメリカでは開発が着々と進んでいる。
NuScale Power(ニュースケールパワー)社が開発する「NuScale Power Module」は、出力は6万kW、複数基設置することで最大出力を調整することができる。米原子力規制委員会での審査も最終段階で、2020年代後半の商用化を目指している。
核融合炉
一方、核融合炉は、重水素や三重水素(トリチウム)のような軽い原子の原子核が複数くっついて、一つの重い原子核になる核融合反応で発電する原子炉のことだ。核融合反応は太陽などの恒星がエネルギーを生み出す方法であるため、核融合炉は「地上の太陽」とも言われている。
従来の原子力発電は重い核を複数に分裂させる核分裂反応によるものであり、発電のメカニズムが根本的に異なる。
発電に必要となる燃料も異なっている。核分裂反応ではウランが主な燃料なのに対して、核融合反応では水素の同位体である、重水素とトリチウムが主な燃料となる。ウランの資源量が115年程度と言われているのに対し、重水素の資源量は約1億年。核分裂反応に比べて燃料の持続可能性が大きいことも特徴だ。
核融合などの研究に取り組む、国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構によれば、核融合反応の燃料1gで生み出すエネルギーは石油8t(タンクローリー1台分)に相当する。これは核分裂反応で使用されるウラン燃料の4倍のエネルギー量にあたる。
安全性
現在開発が進む小型モジュール炉や核融合炉は、現行の原子炉に比べて安全性が高いと言われている。それぞれについて見てみる。
まず小型モジュール炉は、構造的に原子炉の冷却が容易となる。これは体積と表面積の割合が関係している。体積は長さの3乗に比例して大きくなるが、表面積は2乗に比例して大きくなる。つまり、小さくなると、体積に対する表面積が大きくなる。
体積に対する表面積の割合が大きくなると、熱が奪われやすくなる。同じ温度のお湯をコップとヤカンに入れておくと、ヤカンのお湯はなかなか冷めないのに対して、コップのお湯はすぐに冷める。これと同じ原理で、小型炉は大型のものと比べて原子炉の冷却が容易になる。
通常の原子炉では、燃料を冷却水で満たしたものを格納容器で覆う構造になっている。これに対し、NuScale Power(ニュースケールパワー)社の「NuScale Power Module」を例にとると、格納容器そのものを冷却水の中に入れて稼働させる設計となっている。また非常時は、追加の冷却水を供給せずとも、プール内の水と空気による冷却を可能にした。災害で電源や給水ポンプが使用できなくなっても、原子炉の暴走や大規模事故を防ぐことができる。
出典)NuScale
一方核融合炉だが、核融合反応は核分裂反応に比べて安全性が高い点が大きく2つある。
1つ目は、いわゆる「核のゴミ」が抑えられる点だ。「核のゴミ」とは、 使用済み核燃料から出る高レベル放射性廃棄物を指す。これらは放射能レベルが十分に下がるまで約10万年間、地下深くに埋めなければならない。「核のゴミ」を巡って日本では、最終処分場がまだ決まっていない。(参考記事:「高レベル放射性廃棄物の地層処分 北海道2町村で「文献調査」始まる」)
核融合反応の場合でも放射性物質の発生は避けられないが、長期間の厳重な管理が必要となる高レベル放射性廃棄物は発生しないため、100年程度の管理で済む。
2つ目は、核分裂反応のように連鎖反応が無く、暴走のリスクがほとんどないことだ。連鎖反応とは、ウランなどの核分裂反応によって生じた中性子が、別の原子の核分裂を引き起こす現象のことだ。連鎖反応がコントロールできなくなると、原子炉内の温度が上がり続け、爆発を引き起こす恐れがある。
これに対して核融合反応は、重水素と三重水素が核融合を起こしてヘリウムと中性子が生じるが、これらはどちらも次のステップの核融合反応に直接関わらないので連鎖反応がない。
原子炉を加熱しすぎたり、燃料を入れすぎたりすると、反応は自然に停止するので、大規模な事故に繋がる恐れは小さくなる。
開発状況
こうした次世代の原子炉、開発が着々と進んでいる。
先に紹介したNuScale Power(ニュースケールパワー)社の「NuScale Power Module」は、2020年9月に小型モジュール炉として初めて米原子力規制委員会による設計認証の最終審査を通過した。今後、アイダホ国立研究所の敷地内で商業用の初号機建設を進める方針だ。
同社の開発には日本企業も関わっている。建設、エンジニアリング大手の日揮ホールディングス株式会社と原子力発電の機器製造などを手がける株式会社IHIは、ニュースケールパワー社への出資をおこない、小型モジュール炉のプラント建設プロジェクトに参画することを発表した。プラント建設のノウハウを蓄積させ、将来的には中東や東南アジアでの展開を目指す。
核融合炉の開発に関しては、1988年から官民一体の国際プロジェクト「ITER(イーター)計画」が進められている。米、露、EU、日本の4極で発足したのち、中国、韓国、インドも加えた世界7極、計35か国で核融合実験炉の建設・運転を目指す。現在はフランスで実験炉の組み立てが進められており、2025年の運転開始を目指している。
ITER計画は、各国が協定で定められた機器を調達することで進められる。日本は超電導コイルや加熱装置、計測装置などを調達予定だ。エネルギー事業を手がける東芝エネルギーシステムズは、ITER向けの超電導コイル、トロイダル磁場コイル初号機が完成したと発表した。高さ16.5m、幅9m、総重量300tという大きさながら、ミリ単位の精度が求められるITERの中核部品だ。
出典)東芝エネルギーシステムズ
核融合炉の開発を巡っては、各国の実業家も大きな関心を寄せている。General Fusion(ジェネラル・フュージョン)社は、核融合炉の商業化を目指すカナダのスタートアップ企業だ。同社の技術力は、大きな注目を集め、Amazon.com取締役会長のジェフ・ベゾス氏が保有する投資会社、Bezos Expeditions(ベゾス・エクスペディションズ)やMicrosoft Corp.などから累計で2億ドル以上の資金援助を獲得している。今年6月には、イギリス原子力公社(UKAEA)と共同で実証用核融合プラントを建設・運営する計画を発表した。2022年に建設を開始し、2025年の稼働を目指す。
今後の課題
環境問題とエネルギー不足の解決につながると期待される小型モジュール炉と核融合炉だが、今後の課題は何か。
小型モジュール炉は開発過程から実用過程に移りつつあるが、課題は経済性との両立だ。小型モジュール炉の普及には、大型炉と同等、あるいはそれよりも安価で電力を供給することが必要となる。小型化によって原子炉1機当たりの建設費は安くなっても、一般的には出力当たりの建設費が高くなってしまう。
効率的な生産体制の確立と、モジュール化による建設コスト削減をいかに実現できるかが今後の行方を左右するだろう。
一方で核融合炉は未だ実験炉の建設段階にあり、実現には技術的な課題も多い。
核融合は原子核と原子核が衝突することで発生するが、原子同士は互いに反発しあう性質があるため、接近させるために約1億℃もの熱を与えることが必要になる。超高温状態になると、水素分子は原子核と分子に分裂した「プラズマ」になる。
最大の課題は、プラズマの制御だ。プラズマの状態では原子核と分子が高速で運動しているが、制御装置がないと内部の温度が下がり、核融合が発生しにくくなる。いかにプラズマを閉じ込め、超高温状態を維持させるかが課題となっている。
現在は超電導コイルで巨大な磁力を発生させることで、プラズマを閉じ込める研究が進められているが、実用化にはプラズマの持続時間をより長くする必要がある。また、文部科学省によれば、超伝導コイルの活用のほかに、レーザー照射によって瞬時に燃料を加熱し、核融合反応を発生させる方法も研究が進められている。
出典)文部科学省
研究開発には多額の資金が必要となるが、それらをいかに確保できるかも課題となりそうだ。
おわりに
福島第一原子力発電所事故は、日本のみならず世界で原子力発電のあり方が大きく見直される機会となった。ドイツのように原子力発電所廃止に転換する国が現れる一方、事故を教訓に、より安全性の高い原子力発電を実現しようとする動きも出ている。
全世界で再生可能エネルギーの拡大が進められているが、発電コストや発電量の不確実性が未だ課題として残っている。こうした中、今回紹介した小型モジュール炉や核融合炉は、脱炭素社会の実現に向けた新たな選択肢である。2050年カーボンニュートラルに向けたエネルギーの中期的な方向性を定める「エネルギー基本計画」は現在閣議決定を待っている状態だ。エネルギーミックスに関する現実的な議論が深まることが望まれる。
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