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グローバル・エネルギー・ウォッチ

Vol.23 加速する中国の原子力発電所輸出

写真) Tesla Powerwall

写真) 台山原子力発電所、1号機および2号機、広東省台山市、中国
出典) EDF Energy

まとめ
  • 中国、2026年までに原子力発電容量で世界一へ。
  • 韓国も原子炉輸出大国へ。SMR(小型モジュール炉)開発で躍進。
  • 日本、脱炭素化へ向け、革新的な原子力技術の開発が課題。

菅首相の「カーボンニュートラル宣言」から約1ヶ月。日本は、温暖化ガス排出を2050年までに「実質ゼロ」とする方針を国内外に示した。

一方、隣国中国も同様な宣言を今年9月国連総会で出した。習近平国家主席が、二酸化炭素(CO2)排出量を2030年までに減少に転じさせ、2060年までにカーボンニュートラルを目指すと表明したのだ。

世界最大のCO2排出国で、世界全体の排出量の28%を占めている中国はどのような戦略を描いているのだろうか。

中国、原子力発電所稼働世界一へ

ここに驚くべき予測がある。中国が2026年までに原子力発電容量で世界一になるというのだ。

GlobalDataは、世界の原子力発電容量が2020年から2030年の間に160ギガワット増加し、そのうち約5割を中国が占めると試算している(次いで、インド8.9%、ロシア6.4%)。

また、世界原子力協会によれば、中国は運転中の原子炉の総発電電力量において、アメリカ・フランスに次いで世界第3位だ。(グラフ1:REACTORS OPERABLE)しかし、建設中の原子炉は15基・16,653メガワットであり、世界第1位の規模となる。(グラフ2:REACTORS UNDER CONSTRUCTION)

グラフ) 世界原子力協会のデータをもとに作成
グラフ)世界原子力協会のデータをもとに作成 グラフ)世界原子力協会のデータをもとに作成

中国が原子力発電にこれほどまでに力を入れる理由は、石炭火力発電に対する依存度の引き下げを加速させたいからだろう。なにしろ、中国本土の電源は大部分を石炭が占め、2019年の発電量の69%が化石燃料由来なのだ。

このように石炭に依存している中国だが、石炭の主な埋蔵地は北部や北西部にあるため輸送にコストがかかるほか、低効率な石炭火力発電が大気汚染を引き起こすという問題がある。世界銀行による2007年のレポート(注)によると、大気汚染による中国の経済的損失はGDPの約6%にのぼるという。
(注:”Cost of Pollution in China: Economic Estimates of Physical Damages”, The World Bank, State Environmental Protection Administration, P. R. China, February 2007)

2014年6月に中国国務院は「エネルギー発展戦略行動計画(2014~2020年)」(注)を発表し、石炭への依存を減らしてクリーンエネルギーの使用を促進する方針を打ち出した。原子力発電開発の目標として、2020年に「運転中58ギガワット、建設中30ギガワット以上」との目標を定めた。(注:参考→一般社団法人 日本原子力産業協会「中国の原子力開発:第13次原子力計画での安全追及と国際化の課題」)

2020年11月時点の世界原子力協会のデータによれば、中国の原子力発電は、運転中が46,498メガワット、建設中が16,653メガワットだが、目標は未達だ。福島第一原子力発電所の事故を受けて安全規制が見直され、開発が遅延しているものと思われる。

Newculear Power Plants in China

出典) 世界原子力協会

一方、国務院が安全規制改革に注力したことで、従来「安価だが安全性・信頼性では劣る」とみられていた中国の原子力発電技術は発展した。

中国での原子力発電は1970年ごろに始まり、2005年ごろから急速に発展した。当初はアメリカやフランス、ロシアの技術を輸入していたが、2013年から2014年にかけて国産原子力発電技術「華龍一号(Hualong One)」を開発した。(参考→原子力百科辞典ATOMICA「中国の原子力発電開発」海外情勢>アジア各国>中国)

2015年1月の国務院常務会議では、広域経済圏構想「一帯一路」の重点施策として原子力発電プラントの輸出加速を決定した。安全と品質を追求した技術開発と、「華龍一号」の世界市場でのブランド化を目指している。

写真) パキスタンの原子力発電所 カラチ2に設置されたアウタードーム(画像:CNNP)
写真)パキスタンの原子力発電所 カラチ2に設置されたアウタードーム(画像:CNNP)

出典) WNN

例えば、「華龍一号」の技術でパキスタンのカラチに原子力発電所が建設されている。上の写真は、2019年6月、中国原子力発電株式会社(China National Nuclear Power Co., Ltd. : CNNP)が、カラチ2号機の格納容器の上部にアウタードームを設置したときのものだ。

カラチ2号機と3号機は、中国の「華龍一号」ユニット輸出として、それぞれ、2015年、2016年に着工、2021年と2022年に商業運転が予定されている。

実はパキスタンと中国の関係は深い。両国には、中国新疆ウイグル自治区とパキスタンのアラビア海沿岸を結ぶインフラ整備構想である、「中国・パキスタン経済回廊(China Pakistan Economic Corridor)」なる巨大プロジェクトがある。

その最初の大規模鉄道輸送プロジェクトが「オレンジラインプロジェクト」だ。パキスタンで2番目の都市ラホールに今年10月開通したパキスタン初の地下鉄で、全長25.58km、総契約額16.02億米ドル(約1666億円:1ドル=104円換算)にのぼる。

写真) パキスタン初の地下鉄「オレンジライン」(パンジャブ州ラホール)
写真)パキスタン初の地下鉄「オレンジライン」(パンジャブ州ラホール)

出典) National Development and Reform Commission (NDRC), People's Republic of China

その他、2019年11月に建設が始まっているグワダル新国際空港をはじめ、道路、鉄道、港湾、火力発電所など大半のインフラ建設は中国からの投融資でまかなっている。

写真) グワダル国際空港完成図
写真)グワダル国際空港完成図

出典) CPEC

このように今後中国は、「一帯一路」の周辺国に対するインフラ投資の一環として、原子力発電所を続々と売り込むことが予想されている。

韓国、原子炉輸出で躍進

中国ばかりではない。建設中原子炉の総発電電力量で、中国に次ぎ世界第2位を占める韓国も原子炉輸出政策を推し進めている。

韓国は2010年の「原子力発電輸出産業化戦略」(知識経済省)で、2030年までに原子力発電所の輸出80基・新規建設の世界シェア20%を達成してアメリカ・フランスに次ぐ世界第3位の原子力発電所輸出国となる目標を掲げた。韓国が国産原子力発電所4基をアラブ首長国連邦(UAE)初の原子力発電所として売却した直後のことだ。

写真) UAEバラカ原子力発電所
写真)UAEバラカ原子力発電所

出典) エミレーツ原子力エネルギー会社

その後2017年に就任した文在寅大統領は、再生可能エネルギーの割合を高めるとの目標を掲げ、従来の原子力推進政策を廃止し、今後40年で原子力発電に頼らないエネルギー政策に切り替えると公表した。

しかし産業通商資源部(MOTIE)長官は同年、韓国国内における脱原子力の流れに関わらず原子炉輸出を支援する方針を明らかにしており、原子炉輸出政策はむしろ以前より積極的に進められている。

現在特に注目されるのは、SMR(Small Modular Reactor:小型モジュール炉)と呼ばれる原子炉の開発だ。SMRとは、出力300メガワット以下の小型原子炉。日本原子力産業協会(JAIF)によれば、特徴は次のとおりだ。

・ 小型であるため、ほとんどの組み立て作業を工場内で行うことで、建設コストと工期を削減できる。輸送も容易。
・ 原子炉出力が小さいため、冷却機能喪失時に自然冷却による炉心冷却が可能で、安全性に優れる。
・ 原子炉出力が小さいため、建設コストが比較的低い。需要電力規模の小さい地域や未開発地、寒冷地、僻地、離島などでの利用に適している。需要の増加に合わせた増設も容易とされる。
・ 初期投資額は小さいものの、スケールメリットでは大型原子炉に劣る。ただし、天然ガスや石油火力と比較すると十分競争力があり、将来的な標準化・量産化によるコストの低減も期待される。
・ 発電の他、水素の製造、熱エネルギーの利用、医療目的の放射性物質利用など、多様な分野での活用が考えられる。

韓国が自主開発したSMR・「SMART(System-integrated Modular Advanced Reactor)」は、発電・海水淡水化装置一体型の原子炉。発電と同時に4万トンの海水を淡水化して、1基で10万人の都市に電力と水を供給できる。

韓国は同原子炉の発展途上国への輸出を視野に入れて、官民共同の輸出支援事業に取り組んでいる。現在では、サウジアラビアとの共同プロジェクトが進んでいる。今年1月には、サウジアラビアでの建設と第3国への共同輸出を推進する目的で締結した2015年の覚書を改定・強化した。

2016年からは、洋上原子力発電所向けに「BANDI-60」の開発を行っている。「BANDI-60」は、遠隔地域に対する熱電供給や海水の淡水化、再生可能エネルギーによるハイブリッド発電システムの開発などに利用可能なSMRだ。開発に携わる韓国電力技術は今年9月、韓国造船大手の大宇造船海洋と長期協力する覚書を締結した。昨年世界最初の洋上原子力発電所を開発し、今春稼働したロシアに次ぐ実用化を目指している。

図) BANDI-60 (イメージ)(図:KEPCO E&C)
図)BANDI-60 (イメージ)(図:KEPCO E&C)

出典) WNN

また今年9月には、韓国・斗山重工業の原子炉を中核とするSMRが、SMRとして初めて、米原子力規制委員会(United States Nuclear Regulatory Commission : NRC)による設計認証を付与された。斗山重工業の原子炉は、地下に設けた水槽に全体を沈めて運転する仕組み。この構造が、地震などの外部要因で原子炉の冷却機能を失うリスクを低減する。同SMRは、ニュースケールパワー社(NuScale Power)米ユタ州に建設予定で、計画が順調に進めば、2023年に着工し29年に稼働する。

画像) 米ユタ州で建設が予定されるSMRの完成予想図
画像)米ユタ州で建設が予定されるSMRの完成予想図

出典) 米国エネルギー省

日本の原子力発電輸出戦略は?

見てきたように、中国も韓国も原子力発電所輸出戦略を着々と進めている。しかし、日本の原子力発電所輸出戦略は行き詰まりを見せている。
同戦略は、アベノミクスの「成長戦略」の目玉だったが、現状日本企業による輸出計画はゼロだ。

そうした中、日本にもSMRを開発している企業がある。

日立製作所が米ゼネラル・エレクトリック(GE)と共同出資する日立GEニュークリア・エナジー株式会社は、「BWRX-300」と名付けられたSMRを開発中だ。米国での建設を目指し、NRC(National Nuclear Regulatory Commission : アメリカ原子力規制委員会)の安全審査を受けている。「BWRX-300」は、資本コストの大幅な削減に成功。コンバインドサイクル・ガス発電や再生可能エネルギーを上回る競争力を持つとされる。

すでに、カナダでの建設を視野にカナダ原子力安全委員会の審査も開始しているほか、エストニアやポーランドの企業との間でも可能性調査の実施に向けた覚書を結んでいる。

写真) 「BWRX-300」の断面図
写真)「BWRX-300」の断面図

出典) GE Hitachi Nuclear Energy

政府も、脱炭素化に向けた原子力イノベーションを重視している。2019年には「NEXIP(Nuclear Energy X Innovation Promotion)イニシアチブ」の下で、民間企業などによる原子力技術開発への支援を開始。今年1月には「革新的環境イノベーション戦略」を策定して、原子力技術開発の促進を宣言した。さらに、今年9月に発表した「令和3年度 資源・エネルギー関係概算要求」には、SMRを含む革新炉開発の予算を引き続き盛り込んだ。

写真) 「NEXIP(Nuclear Energy X Innovation Promotion)イニシアチブ」
写真)「NEXIP(Nuclear Energy X Innovation Promotion)イニシアチブ」

出典) 文部科学省「令和2年度原子力システム研究開発事業募集要項」

日本は、他国に劣らない競争力を持つ原子力発電技術を、国内や海外で展開していくことができるのか。それとも、原子力発電所輸出を重要政策と位置づける政府の方針そのものの大幅な見直しが迫られるのか。

来年2021年には、「エネルギー基本計画」が4年ぶりに改定される。原子力発電政策の今後をめぐる議論の行方はまだ定まらない。

安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
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