
写真) 東日本大震災に安全停止できた理由
出典) 宮城県HP「女川原子力発電所2号機の安全性に関する検討会」第1回検討資料
- まとめ
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- 東北電力女川原子力発電所2号機、再稼働への地元同意を宮城県知事が表明
- 同原子力発電所、2022年度の再稼働を目指す。
- 再エネ主力電源化の中、原子力発電所の役割について考え続けていく必要がある。
去年11月11日、1つのニュースが目に留まった。その見出しは「女川原子力発電所2号機 再稼働への地元同意を表明 宮城 村井知事」。
東日本大震災の被災地にある原子力発電所で再稼働に向けた地元の同意が示されるのは初めてであることから注目が集まったのだ。
東北電力女川(おながわ)原子力発電所は、宮城県牡鹿郡(おしかぐん)女川町と石巻市にまたがって位置する。女川町は美しい湾に面しており、日本有数の女川漁港を擁することでも知られる。

出典) おながわたび
東日本大震災では、高さ20メートルを超える津波により、町の住宅の約7割が流失、当時約1万人だった人口の約1割が失われた。筆者は震災直後、隣の石巻市と女川町にボランティアとして足を運んだが、その惨状は今でも目に焼き付いている。

出典) 女川町ホームページ
特に同町では、津波に強いとされていた鉄筋コンクリートの建造物が基礎から根こそぎ倒壊した。他の被災地では見られない光景で、後に津波が建造物に与える影響について学術的な検証もなされている。

このような大きな被害を受けた女川町だが、東北電力女川原子力発電所は津波の被害を免れた。一方、東京電力福島第一原子力発電所では津波に起因する事故が起きた。その差は何故生まれたのか。
女川原子力発電所が津波の被害を免れた理由
実は、東日本大震災の震源地に最も近かったのは、東北電力女川原子力発電所だった。しかし、津波による深刻な被害をぎりぎりで回避した。

出典) 東北電力
地震発生時、1号機と3号機が通常運転中で、2号機は定期検査終了に向けて14:00に原子炉を起動したところだった。14:46に地震による揺れを感知し、3基すべての原子炉が自動停止、その後、冷温停止状態に至った。安全確保の基本である、原子炉の核反応を「止める」、余熱を「冷やす」、放射性物質を「閉じ込める」という3つの機能が有効に働いたことになる。
では、原子炉の安全な自動停止とその後の冷温停止状態維持は、どうして達成できたのか。その要因の1つ目は、敷地の高さにある。
東北電力女川原子力発電所の主要建物がある敷地の高さは海面から14.8mあり、13mの津波をかぶらずにすんだ。
東北電力によると、1号機の設計時(昭和40年代)は津波の高さを3m程度と想定していたという。しかし、専門家を含む社内委員会で、貞観(じょうがん)津波(869年)や慶長津波(1611年)を考慮し、敷地の高さを14.8mに決定した経緯がある。また、建設後もその時々の新知見を収集し、防潮堤の法面防護強化も行っていた。
2つ目の要因は、原子炉を冷やすために欠かせない海水ポンプの位置だった。津波の影響を受けやすい港湾部ではなく、原子炉建屋と同じ敷地の高さ(14.8m)を掘り下げたところに設置したのだ。
また、津波には引き波があり、その場合、原子炉や使用済燃料プールを冷却する海水が確保できなくなる可能性がある。そのリスクを避けるため、取水路の奥を深く掘る設計とした。これにより、海面が取水口より低くなった場合でも、取水路にたまった海水で約40分間冷却を続けられる仕様になっていた。実際、震災の引き波時には、海面が取水口より低くなったが、時間は数分間だったという。

3つ目の要因は、震災前に、約6,600ヵ所の耐震工事を実施していたことだ。2010(平成22)年6月までに、機器や配管をサポートで補強するなど1・2・3号機合わせて約6,600ヵ所の耐震工事と緊急時対策室などがある事務棟の耐震工事(外壁の筋交い)も完了していた。
このように、女川原子力発電所が無事だった背景には、事故防止策の積み重ねがあったといえよう。
その後の安全対策
女川原子力発電所では、他の原子力発電所同様、新規制基準にのっとり、以下のような安全対策に取り組んでいる。
①施設保護
・地震・津波対策(防潮堤かさ上げ:高さ約15m、海抜約29m等)
②燃料破損防止
・電源確保(電源車・タンクローリー配備等)
・冷却機能確保(注水・除熱機能強化、淡水源確保等)
③放射性物質閉じ込め
・閉込機能確保(原子炉格納容器圧力逃がし装置(フィルタベント系)の設置等)
④訓練充実・強化
さらに、原子力災害が起きた時、原子力防災会議において承認されたエリア毎の「緊急時対応(広域避難計画)」に基づく支援を行う、としている。
具体的には、要支援者の方の避難に必要な福祉車両を提供することや、自然災害等により陸路および海路の避難経路が使用できない場合、 ヘリコプターを確保して空路避難を支援すること、空間放射線量率が高い区域の住民が広域避難する際は、避難退域時検査を実施し、 車両や住民の放射性物質の付着の確認と除染を行うことなどを検討している。
こうした避難計画を実効性のあるものにするためには、自治体との密接な連携・協議を絶やさないことが重要だろう。

出典) 東北電力
再稼働のメリットと今後の動き
女川原子力発電所2号機の再稼働は、地元自治体の同意を取り付け、今後は国の認可や2022年度完了予定の安全対策工事といった技術的なプロセスを残すのみとなった。2022年度以降の再稼働を目指すことになる。
女川原子力発電所2号機が再稼働すると、それまでの火力発電の燃料費負担が減少し、電力会社にとってコスト削減効果が期待できるので、電気料金の値下げにつながる可能性もある。
既に例がある。原子力発電所への依存度が高かった関西電力では2度の値上げを行った。しかし、2017年に福井県の高浜原子力発電所3,4号機が再稼働したことで、燃料費を削減することができた。経営効率化を含め、コスト削減効果は900億円近くに上り、これを値下げの原資とした。一般家庭で年間約4,000円程度の値下げになった。
また、1月に入ってからの寒波で多くの地域が豪雪に襲われている。全国的に厳しい寒さの影響で電力消費が増え、そこにLNG(液化天然ガス)不足が加わり、電力需給がひっ迫している。大規模停電が起きないよう、電気事業連合会と各電力会社は全国の家庭や企業などに対し、日常生活に支障のない範囲での節電協力を呼びかけている。
日本は「2050年カーボンフリー」を目指し、再生可能エネルギーの主力電源化を進めているが、太陽光発電などは天候に左右される。今回の大雪のケースのように、必要なときに電力が得られなければ、私たちの生命にかかわることになる。こうしたリスクについて、私たちは普段から備えておくべきだろう。
東日本大震災から今年で10年。学んだことを風化させることなく、様々なリスクを考えながら、エネルギーのあり方について考えていきたい。
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