写真) 洋上風力発電(イメージ)
出典) CGP Grey
- まとめ
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- 2020年は電力自由化最終段階として「発送電分離」が実施された。
- 菅首相の「カーボンニュートラル宣言」も注目を集めた。
- 今年は再生可能エネルギー主力電源化に向け、技術開発に弾みがつくだろう。
コロナに始まり、コロナで終わっていった2020年。去年もエネフロはエネルギーに関わる様々な話題を取り上げてきた。2020年エネルギー産業のトピックを振り返ってみよう。
電力自由化最終段階へ
知らない人が多いかもしれないが、実は去年、エネルギー産業は大きな変革期をむかえた。その核となる出来事が、「電力システム改革」による総仕上げだ。
電力システム改革とは、①電力の安定供給 ②電気料金の抑制 ➂消費者の選択と事業者の事業機会の拡大の3つを目的とした電気事業の制度改革である。制度自体は、2015年からスタートし、2020年に最終段階を迎えたのだ。大手電力事業者は、送配電部門を法的に分離する「発送電分離」を2020年4月に実施した。
「発送電分離」について、エネフロではこれまで「電力システム改革総仕上げ『発送電分離』」、「2020年電力を取り巻く課題」、「発送電分離」で電力システム改革最終段階へ」という記事3本を掲載した。
発送電分離とは?
出典) Pixaby
今までは、大手電力会社が、電気を作るための発電設備と、家庭や工場などに電気を届ける送配電設備の両方を所有し、一体的に管理していた。
「発送電分離」とは、送電や配電のネットワークを発電設備から切り離して独立することだ。各地域の電力会社が運用してきた送配電部門を切り離して、新電力などの新規参入と競争を促すことが狙いだ。
発送電分離を実施する方法として、日本では中立性を確保するために、送配電を行う会社を電力会社とは切り離し別会社とする「法的分離」が進められた。
出典) 経済産業省
そうはいっても、発送電分離で何が変わったのか、実感がない、という人も多いだろう。
当初言われていたメリットを挙げてみよう。
1つ目は、電力市場の競争が活発になることだ。大手電力会社間の競争が激化すると予測された。しかし、目に見えるほどの変化はまだ現れていないようだ。
2つ目は、分散型電源の拡充だ。我が国では、既に再生可能エネルギー(以下、再エネ)を主力電源とする方向性は明確になった。そのためには、分散型電力供給網の拡充が必要となる。発送電分離は、分散型電源の拡充に資すると予測されているが、こちらも現実的に結果が出ているかと言われれば、まだそうでもない。
では、デメリットはどうか。
実は前述したメリットの2つ目と表裏一体だ。つまり、再エネの主力電源化に向けて分散型電源大量導入による、系統増強や調整力の確保が求められる、という点だ。
新送配電事業者は、分散型電源の発電量を効率的に制御する技術開発が求められることになる。無論、そのための新規設備投資負担も発生するだろう。利益を確保するためには、送配電設備のコストを低減することが重要になってくる。
いずれにしても今後、「発送電分離」で私たちが受けるサービスがどのように変わっていくのか、引き続き見守っていくことが重要だ。
環境意識の高まり
出典) pxhere
もう一つ、2020年に実感したのは、環境意識の高まりだ。既にこの2、3年、廃プラスチックの問題などは良くメディアで取り上げられたこともあり、マイボトルやマイバッグ(エコバック)を持ち歩く人が増えてはいたが、まだ環境意識の高い人に止まっている印象だった。
しかし、2020年7月から日本全国でプラスチック製レジ袋(以下、レジ袋)が有料化となったことは大きかったのではないか。
有料化といってもわずか数円であり、実際にレジ袋派は減らないのではと思っていたが、スーパーだけでなく、コンビニでもレジ袋を断る人が最近ほとんどだ。今までなんとなくもらっていたレジ袋を有料化することで、改めて環境問題や私たちのライフスタイルを見直すきっかけになったようだ。
出典) Mr.ちゅらさん
実際に、消費者の意識には大きな変化がうかがえる。環境省は、去年7月に全国の小売店で、有料化となったレジ袋の受け取りを辞退する人の割合が3月の30.4%から11月末に71.9%へ増加したと発表した。レジ袋辞退率が7割を超え、たった一年間でレジ袋をもらわないことが当たり前の世の中になったのは大きな変化だった。
しかし、脱プラスチックへの道はまだ遠い。ペットボトルの消費はまだ多いし、それ以外にも私たちの身の回りには様々なプラスチックが使われている。地球に優しいプラスチックの開発も進んではいるが、まずは使用を減らす工夫を考えていくべきだろう。
菅首相「カーボンニュートラル宣言」
そしてなんといっても去年一番の大きな話題は、菅首相の「カーボンニュートラル宣言」だ。2020年10月26日、菅義偉首相が、所信表明演説で「我が国は2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするカーボンニュートラルを目指す」と宣言した。
「カーボンニュートラル:Carbon Neutral」とは、地球温暖化の原因とされているCO2やメタンなどのいわゆる、温室効果ガスの排出量を、森林吸収や排出量取引などで吸収される量と差し引きゼロにする取り組みをいう。まさしく日本は脱炭素社会へアクセルを踏んだのだ。
中心となるのは再エネの大量導入であることに間違いないが、原子力発電所の再稼働についても、引き続き検討課題だ。
そうした中、東北電力女川原子力発電所2号機について宮城県村井嘉浩知事は、再稼働の前提となる地元同意を表明した。東日本大震災被災地の原子力発電所で、地元の同意が示されたのは初めてだ。今後、他の原子力発電所の再稼働についても注目される。
2021年の課題
コロナ禍が続きそうな2021年。この夏には「エネルギー基本計画」の見直しがある。
現在、2030年のエネルギーミックス(電源構成)は以下の図のようになっているが、政府は再エネの主力電源化を目指す中、これがどのように変わるか注目されている。
出典) 経済産業省エネルギー資源庁
温暖化ガス排出の実質ゼロを実現するためには、2050年時点の発電量に占める再エネの比率を大幅に高めることが必要だ。2019年度の発電量に占める再エネの割合は前年度から1.2ポイント上昇したとはいうものの、18.0%に止まっている。ドイツやイギリス、スペインなどは軒並み約40%であり、日本は大胆な政策転換に加え、技術開発を加速させなくてはならない。
2021年はそういう意味で再エネ関連の技術革新に弾みがつく年となるだろう。期待がかかるのは洋上風力発電だ。 政府は、2030年までに1000万kW(キロワット)、2040年までに3000万~4500万kWまで拡大するビジョンをまとめた。原子力発電を1基で100万kWの出力とすれば、原発30~45基分となる。
中部電力再生可能エネルギーカンパニーも、2030年頃に200万kW以上の新規開発を目指しているが、その半分以上は洋上風力発電で担うことを目指している。洋上風力発電には着床式と浮体式があり、後者は日本ではまだ実績が少ない。今後の技術開発に期待がかかる。
また、再エネは気象条件により発電出力の変動が大きく、需要と供給の一致が難しい、いわゆる「需給調整」が課題となるが、蓄電池の活用がその解となりうる。現在広く使われているリチウムイオン電池はリチウムやコバルトなどの希少金属を使うため高価だ。現在、安い材料を使う新型高性能の蓄電池の開発が進行中であり、蓄電池の大幅なコストダウンが至上命題だ。
再エネ主力電源化に大きく舵を切った日本。エネルギー資源を持たない我が国が、「カーボンニュートラル」を目指すために、解決すべき課題は多い。2021年はまさにその道筋をつける年となるだろう。
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