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編集長展望

Vol.19 「発送電分離」で電力システム改革最終段階へ

写真) 送電線

写真) 送電線
出典) Pixabay

まとめ
  • 「発送電分離」4月に実施、「電力システム改革」最終段階へ。
  • 別会社となった送配電事業者は、収入の減少などの課題に直面。
  • 私たちの受けるサービスがどう変わっていくか見守ることが大事。

今回のテーマは「発送電分離」。これまで、「電力システム改革総仕上げ『発送電分離』」という記事と、「2020年電力を取り巻く課題」という記事、2本を書いた。「発電」「小売り」と続いた「電力システム改革」の最後を飾るのが「送配電」の自由化だ。「発送電分離」ともいう。その「発送電分離」がいよいよ今年4月に実施されるのだ。しかし、「小売りの自由化」とは違って、「発送電分離」といわれてもピンと来ない人も多いものと思われる。少々とっつきにくい話になるかもしれないが、今、私たちが毎日恩恵を受けている、電気を運ぶシステムは、今、大変革期にある。私たちにも大いに関係あるテーマなので少しお付き合い願いたい。

「発送電分離」とは

ここで何故、「発送電分離」が行われるのか、おさらいをしておこう。これまで、送配電網は、電力事業者が、各管内の需要家に安定的に高品質の電気を供給するため、独自に運用してきた。私たちは住んでいる地域におなじみの電力事業者、「○○電力」から当たり前のように電気の供給を受けていた。しかし、2011年の東日本大震災を契機に、電力を取り巻く環境は大きく変わった。

国が進める固定価格買取制度の下、「再生可能エネルギー(再エネ)」の導入が進み、多くの発電事業者が新規参入したのだ。読者の皆さんも太陽光発電所や風力発電所を目にする機会が増えたと感じているはずだ。

図) 再生可能エネルギーなどによる設備容量の推移
図)再生可能エネルギーなどによる設備容量の推移

JPEA出荷統計、NEDOの風力発電設備実績統計、包蔵水力調査、地熱発電の現状と動向、RPS制度・固定価格買い取り制度認定実績などにより資源エネルギー庁作成。
出典) 経済産業省資源エネルギー庁

新規参入企業が再エネにより発電した電気を販売するには、従来の電力事業者から送配電網を利用せねばならない。そうした場合、新規参入企業側に何らかの制限がかかったり、不利な条件になったりすることも考えられる。そうしたことが起きないように、電力事業者の発電部門と送配電部門を分離しよう、ということになった。

そのため、電気事業法は、送配電部門の一層の中立性確保のため、今年4月までに発電・小売事業と送配電事業を法的に分離することを求めている。これを「法的分離」と呼ぶ。電力の完全自由化に向け、政府主導で進められている、いわゆる「電力システム改革」はいよいよ最終段階に入る。

図) 電力システム改革の全体スケジュール
図)電力システム改革の全体スケジュール

出典) 経済産業省「電力システム改革の現状と課題」

各社の状況

大手電力事業者の「法的分離」後の組織形態は出そろった。今年4月1日に分社化するのは、北海道電力、東北電力、中部電力、北陸電力、関西電力、中国電力、四国電力、九州電力、Jパワー(電源開発)の9社。東京電力は2016年に事業持ち株会社制に移行し、送配電部門を別会社にしている。沖縄電力は発送電分離を行わない。それぞれの送配電事業者のロゴも出そろった。みなさんのお住まいの地域の新送配電事業者はどこか、確認してみて欲しい。

北海道電力ネットワーク株式会社
北海道電力ネットワーク株式会社
東北電力ネットワーク株式会社
東北電力ネットワーク株式会社
東京電力パワーグリッド株式会社
東京電力パワーグリッド株式会社
中部電力パワーグリッド株式会社
中部電力パワーグリッド株式会社
北陸電力送配電株式会社
北陸電力送配電株式会社
関西電力送配電株式会社
関西電力送配電株式会社
中国電力ネットワーク株式会社
中国電力ネットワーク株式会社
四国電力送配電株式会社
四国電力送配電株式会社
九州電力送配電株式会社
九州電力送配電株式会社
電源開発送変電ネットワーク株式会社
電源開発送変電ネットワーク株式会社

分離後の送配電事業者の課題

別会社となった送配電事業者には、自立した経営が求められる。しかし、2つの大きな課題に直面する。

① 収入の減少

一つは収入の減少だ。送配電事業が別会社になっても、電力の安定供給と品質の確保という大きな使命は変わらない。一方で、太陽光発電などの分散型電源の大量導入により、系統電力(注1)の需要が減少し、託送料金(送配電系統の利用料金)の収入が減っていく可能性がある。

こうしたことから今後、送配電事業者はエリア外から広域的に、より安い電力を調達する必要が出てくる。また、公平な競争環境の下、地域間連系線の効率的運用も進む。発電単価がより安い電源から動かす、いわゆる「広域メリットオーダー」が本格化するためだ。

写真) 長野県佐久市メガソーラー発電所
写真)長野県佐久市メガソーラー発電所

出典) Photo by Qurren

そして、2021年度以降、送配電事業者が調整力(注2)を効率的に運用・調整するための「需給調整市場」が創設される。段階的にエリアを超えた広域的な調整力の調達・運用を行うことで、より効率的な需給運用の実現を目指す。環境が大きく変わる中、どのように収益を確保していくかが問われることになる。

図) 需給調整市場について
図)需給調整市場について

出典) 経済産業省「最近の環境変化を踏まえた電力政策の課題と方向性

② 分散型電源大量導入への対応

分散型電源が増大すると、系統増強や、調整力確保が必須となる。特に分散型電源の発電量をより効率的に制御する技術開発などが求められる。そのための設備投資も必要だ。一方で、送配電設備コストの低減などにも取り組まねばならないだろう。新送配電事業者は、まさにアクセルとブレーキを同時に踏むような難しい経営の舵取りを迫られることになろう。

写真) 
写真

出典) Photo by Paipateroma

ここまで読んで、難しい、と感じられた方もおられるかもしれない。しかし、エネルギー資源のほとんどを海外からの輸入に頼っている我が国は、地球温暖化防止の観点から、再エネを増やすことが必須な状況だ。不安定な分散型電源が増える中、新送配電事業者は、私達需要家への安定的かつ低廉な電気供給が滞ることのないようにしなければならないのだ。

以上述べたように、この4月に「発送電分離」で新たな送配電事業者が誕生したからといって、「電力システム改革」が終了するわけではない。むしろ、これからがスタートと言ってもいいだろう。私たちも需要家として無関心ではいられない。今後、「発送電分離」で私たちが受けるサービスがどのように変わっていくのか、見守っていくことが重要だ。

  1. 系統電力
    電力を需要地に供給するための発電・送電・変電・配電設備から構成されるシステムによって供給される電力。
  2. 調整力
    一般送配電事業者が、供給区域における周波数制御、需給バランス調整その他の系統安定化業務に必要となる発電機、蓄電池、ディマンドリスポンスその他の電力需給を制御するシステム。その他これに準ずるもの(但し、流通設備は除く。)の能力をいう。
    (出典:電力広域的運営推進機関 業務規程
安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
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