写真) 赤外線サーモグラフィカメラの画像例
出典) フューチャースタンダード
- まとめ
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- 太陽エネルギーを地球に届ける「宇宙太陽光発電」の研究が行われている。
- 日本ではJAXAが研究を推進、米中も開発にしのぎを削っている。
- 宇宙関連ビジネス市場は2040年に約120兆円に。今後の技術開発に期待集まる。
「宇宙太陽光発電」とは
宇宙開発が進む近年、さまざまな宇宙ビジネスが提案されてきたが、その中の一つに、「宇宙太陽光発電」が挙げられる。
メガソーラーや、住宅の屋根についているソーラーパネルならまだしも、宇宙で太陽光発電ってどういうこと?と思う人もいるかも知れない。
既に太陽光発電は、再生可能エネルギーの中でも、風力などと並んで各国で普及している。しかし、発電量が季節や気候に大きく左右されるというデメリットを持つ。そこで、場所を宇宙空間に移すことによって安定した発電を期待しようというのだ。
さて、太陽と聞くと、膨大なエネルギーを想像してしまう。表を歩いていて、陽が照っているのと、そうで無いのとでは、体感温度はずいぶんと違う。太陽の日射エネルギーは計り知れないほど大きい。
しかし、一天文単位(約1億5千万km)もの距離にある太陽からは、地球に届かなかった日射エネルギーがたくさんあるのだ。その一部を宇宙空間で無線(マイクロ波もしくはレーザー)に変換し、地表に届けて、 有効に利用しようというのが「宇宙太陽光発電」のコンセプトだ。なんとも壮大な話ではないか。
出典) JAXA
「宇宙太陽光発電」のコンセプトはいつ誕生したのだろう。実は、今から約80年も前の1940年代の初頭、アイザック・アシモフのSF小説に既に登場している。
出典) Phillip Leonian from New York World-Telegram & Sun
そして宇宙太陽光発電システム(SSPS)の歴史は1968年に遡る。宇宙空間に大型の太陽電池パネルを設置して発電し、マイクロ波で地上に送電する仕組みを、NASA(米航空宇宙局)のピーター・グレイザー博士が提唱した。
出典) JAXA
以来、NASAをはじめとした各国の宇宙機関が研究を進めてきたが、ロナルド・レーガン政権下、財政難により、計画は縮小し、継続的な研究も一時停滞した。宇宙太陽光発電の実現は「永遠に『30年先』と言われる運命」だと揶揄されるほどだった。しかし日本とアメリカは、あきらめず、1980年代からSSPSの研究を続けている。
宇宙太陽光発電(SSPS)のメカニズム
ここで改めて宇宙太陽光発電システムのメカニズムを見てみよう。宇宙太陽光発電システムは、SSPS(Space Solar Power Systems : スペースソーラーパワーシステム)の訳である。
どういうものかというと、宇宙空間に巨大な太陽電池とマイクロ波送電アンテナを配置し、太陽光エネルギーを電気に変換し、地球上に設置した受電アンテナに送電する。地上で電力に再変換し、エネルギー源として用いる、という壮大な構想だ。マイクロ波の代わりに赤外線レーザーを用いる案もある。
レーザーの技術は、月面初の植物採取を行った中国が提唱しているが、発電設備がエネルギーを変換して射出するためには、1000トンほどの機材が必要になり、軌道まで打ち上げるのはほぼ困難でないか、との見方もある。
国の重要課題としての宇宙エネルギー
1990年代に入り日本では、宇宙科学研究所(現:宇宙航空研究開発機構 :JAXA )を中心とした大学及び国立研究所の研究者により1万kW級の「SPS2000」の設計が行われた。そして、2000年代以降は、JAXA及び経済産業省により100万kW級のSSPSの検討が行われている。
こうした中、エネルギー問題を解決する観点での宇宙空間へのアプローチは、国の政策として重要視されており「宇宙基本計画」が平成28年に閣議決定している。
その中において、『グローバル化の進展により、エネルギー問題、気候変動問題、環境問題、食糧問題、大規模自然災害等、一国のみでは対応が困難な地球規模の課題が顕在化している。課題が地球規模であるならばその処方箋も地球規模であることが有効である。人工衛星等から成る宇宙システムは、その特徴として国境を超える「広域性」や、多数に情報発信できる「同報性」、地上の状況に左右されずに機能し続ける「耐災害性」等を有しており、地球規模課題の解決に貢献するものである。』と、今後の宇宙システムの成果に期待を寄せている。
そして、『我が国としても、安全保障を始めとした利用ニーズを十分踏まえ、また利用ニーズと技術シーズの有機的サイクルの形成を意識した先端的な研究開発を行い、その成果を産業振興等にもつなげていく必要がある 』としている。
中国の太陽光発電の取り組み
中国も宇宙開発に熱心だ。Sydney Morining Herald紙によると、中国は2021年から2025年にかけ、成層圏に小規模な太陽光発電設備を作る事を予定している。それを順次増強して2030年までにメガワット級、2050年までにギガワット級の発電設備に成長させる計画だ。中国科学院は、地球上の太陽光発電設備より稼働時間は6倍となり、常に99%のエネルギーを引き出せると述べている。中国が世界初の宇宙太陽光発電所を建設するかもしれないのだ。
また、イスラエルのネゲヴ・ベン=グリオン大学の教授がペンシルベニア州立大学、イリノイ大学、ジョージワシントン大学、米国海軍研究所、H-NUシステムズ、ノースウエスタン大学と共同で、小型の太陽光発電プロトタイプを設計した。NASAは、2020年にこのプロトタイプを初めて打ち上げ、国際宇宙ステーションに送るとしている。
このプロトタイプの特徴は、非常にコンパクトである点、そして太陽を指す際のエラー、構造振動および熱歪みに対応しつつ前例のない出力に成功した点だ。最初のプロトタイプの厚さは1.7 mm未満程度だったが、打ち上げるのは厚さ0.1mmでより効率的な太陽電池を前提としている。
出典) ネゲヴ・ベン=グリオン大学
米国宇宙軍の動き
中国のこうした動きをにらみながら、アメリカも宇宙開発を加速させている。トランプ大統領は、2019年に「宇宙軍」を発足させた。
そして日本ではさほど注目されていないようだが、5月17日、ロッキード・マーチンとボーイングの合弁である、ユナイテッド・ローンチ・アライアンス(ULA)が、フロリダ州ケープカナベラルで、宇宙航空機「X37B」を搭載した「AtlasV」ロケットを打ち上げた。米宇宙軍によるミッション「USSF-7」が開始となる。
このミッションはほとんどが秘密のベールに包まれている。分かっているものは、種子を含むさまざまな材料に対する放射線やその他の宇宙効果の影響を確認することくらいだが、実は、重大なものが含まれていることが明らかになった。それは、太陽光を無線周波数のマイクロ波エネルギーに変換する能力の調査だ。これはまさしく、宇宙太陽光発電の実験に他ならない。アメリカが本腰を入れている証左だろう。今後、アメリカの宇宙太陽光発電研究が大きく前進する可能性が出てきたと言えそうだ。
出典) @ulalaunch
宇宙エネルギーの今後
そして、宇宙での発電は太陽エネルギーだけではない。
学術雑誌Applied Physics Lettersに、「宇宙の寒さ」から直接エネルギーを生み出すという手法が確立されたとの論文が掲載された。絶対零度に近い宇宙空間に半導体ダイオードを向けることで、ソーラーパネルが太陽光で発電するかのように、寒さからエネルギーを取り出すことが可能だという。
「宇宙の寒さ」を利用した発電技術を発表したのは実は日本企業。富士フイルム先進研究所の小野雅司氏らの国際研究チームだ。この技術では、宇宙空間に向けたフォトダイオードを使用して寒暖差からエネルギーを得る。
出典) 米国物理学協会
この仕組みは、熱が物体から放射される際に発生する「negative illumination effect(負の照明効果)」により生じる、わずかな電気を集約してエネルギーに変換するというものだ。
実用化されれば人工衛星や宇宙探査機などに搭載し、地球や天体の影に入ってしまって太陽光発電ができない時の補助電力などに利用できそうだ。
米投資銀行グループのモルガン・スタンレーは2040年代に宇宙ビジネスの市場規模が1.1兆ドル(約120兆円)に達すると予測している。もし宇宙太陽光発電が実用化出来たら・・・
日本は月の水探査でも民間企業が参入し、他国と激しい競争を繰り広げている。(参考記事:「月の水資源争奪戦に日本参戦!」)宇宙エネルギービジネスには日本にもチャンスがあるといえる。今後の動向についてはこれからもお伝えしたい。
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