写真) 俯瞰図
提供) 経済産業省
- まとめ
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- 大阪・関西万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」
- 経済波及効果の試算は約2.2兆円。今後増える可能性も。
- 日本に誇る技術で世界にアピールするチャンスと、関西財界期待。
2025年日本国際博覧会(略称「大阪・関西万博」)が大阪で開催されることが決定した。日本での万博開催は2005年の愛知以来で、6度目の快挙である。1970年以来55年ぶりに大阪で開催される万博とあって、地元の期待感は想像以上だ。
提供) 一般社団法人2025年日本国際博覧会協会
大阪・関西万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」だ。三菱総合研究所は、万博に向けた社会課題解決のプロセスを提言し、実現したい未来の形を世に問うことを目的として「万博みらい研究会」を設立した。
大阪・関西万博の具体的な計画について、株式会社三菱総合研究所執行役員万博推進室中村秀治氏に話を聞いた。
- 大阪・関西万博の経済波及効果はどれくらいなのでしょうか?
中村りそな総合研究所が試算している経済波及効果は2.2兆円です。
- 東京オリンピックの経済波及効果は、全国で約30兆円(みずほ総合研究所)と言われているので少なめのような気がしますが。
中村(波及効果を)どこまで測るかによります。大阪・関西万博の建築物は仮設で行い、開催後は取り壊す前提で経済効果を試算していますので少なくなります。しかし、例えば仮設をオール木材の集成材のブロックのようなものを開発して組み立てる、と考えている企業もありますので、それを外して分解してまた他に使うということも考えると、木材活用のバリューチェーンも含めて波及効果も変わってきます。
要は、今後民間企業の参画の度合いによって変わって来るということだろう。
© エネフロ編集部
また、万博後の施設の活用や、海洋航路のモビリティが、観光、不動産、エネルギー、小売、医療といった産業と結びついたり、インフラ整備が投資を加速させることなどで観光需要が高まったり、さらには関連施設の建設が見込めたり、経済効果は増える可能性が高い。
提供) 経済産業省
- テーマは「命輝く未来社会デザイン」ですが、ライフサイエンスとかバイオメディカルが中心になりますか?
中村トライアルとして、先進医療のショーケースみたいなものをやろうという案も出ています。来場前から健康データを収集・提供してもらい、開催期間の半年間で手術や治療を受けて、帰った後は地域の地元のお医者さんの治療をデータ連携しながら受けると言う構想があります。2025年以降も先進医療センターとして残ったらいいと思っています。
医療・予防先進国としての技術を世界にアピールすることで、アジア諸国を中心に世界の人々を日本に呼び込みたいと語る中村氏。いわゆるメディカルツーリズムだ。これに合わせて、国産の設備機器の海外展開や、海外の人材育成を主導していく考えだ。
- ポストSDGsを強調されていますが、どういう社会像を想定していますか?
出所) 株式会社三菱総合研究所
中村循環型社会であるとかエネルギー面での貢献です。
具体的に立ち上がったプロジェクトには、オフグリットエリアを構築するという案も盛り込まれた。グリッドとは送電系統を指し、その送電系統と繋がっていない状態(オフ)の電力システムのことをオフグリットという。万博会場の一部を既存の電力系統から切り離し、100%再エネで自立するエリアだ。電力不足の場合はEVから給電したり、稼働状況はウェブを通じて会場外へリアルタイムに表示される構想だ。
- 夢洲は埋立地で四方が水ですから、海水から水素を活用することもできそうですね。
中村関西は水素に力を入れている企業がいくつかありますので、例えば物流では、船の自動運転用燃料電池の採用などもあるのではないかと思います。交通手段も化石燃料は使用せず、全てEVはもちろんですが、燃料電池車両(FCV)活用の可能性もあると思います。
提供) 経済産業省
万博みらい研究会では、5つのテーマに分かれて12回のテーマワークショップを開催し、民間から様々なアイデアを吸い上げてきた。9月5日には、このアイデアを実証・具体化して行くために、研究会検討結果として、共創・実現していきたいプロジェクトの提案が行われた。
出所) 株式会社三菱総合研究所
会場ではこれまでのワークショップから出された意見を基に
- ・ 地産再エネ100%によるエリアのエネルギーマネジメント
- ・ リアルとバーチャルの融合”デジタルツイン”の活用
- ・ 参加と循環を生み出す決済基盤”万博コイン”
- ・ 最新の高度選別・AI技術を活用してゴミ分別をする魅せる資源循環
- ・ 無人運航船の社会実装のためのルールづくり、プラットフォームの整備
- ・ ICTを活用して入国から出国まで全て手ぶらで観光の実現
など幅広い具体的なプロジェクトの概要が発表された。
参加者からは、以下のような具体的な意見が飛び交った。
「デジタル基盤、エネルギー、モビリティのインフラ整備は近々の課題。我々も官民連携してスピードアップしていきたい。吉本興業のSDGs新喜劇が面白かったが、楽しみながら学んでいくというエンターテイメント性の視点も万博の意義として大事な要素かなと思う。」(エネルギー会社)
「CO2削減80%の目標、クリーンエネルギー100%は難しいかもしれないが、先進国として正面から真剣に向かい合う時期にきている。我々の努力をどうしたら伝えられるのか。ギリギリのところまで追求することでこそ新しい万博の意義が見つかるのではと思う。」(電機会社)
「デジタルありきにならないように、私たちも空間を担うものとして来場者をいかに楽しませるか、次のフェーズでも参画していきたい。」(ディスプレイデザイン会社)
「万博だけでなく関西全域のデジタルツインを実現したい。また、関西に誘致する企業が即座にデジタルツインで実証実験できるなど、他国との差別化ができないか。」(印刷会社)
「万博のエネルギーの構成を早く決めるべき。バーチャルだけでなく、リアルな防災に注力に協力していきたい。」(非鉄金属メーカー)
© エネフロ編集部
「愛知万博が開催された2005年の訪日外国人は約600万人で、万博来場者に対する訪日外国人比率は5%前後だった。大阪・関西万博が開催される2025年には訪日外国人が4000万人を上回ると予想され、万博来場者に対する訪日外国人比率訪は13%になると予測されている。わが社も観光ICT活用に力を入れていく。”アジアの大阪”として夢州が瀬戸内、沖縄、中国など観光のハブになっていくことも実現できるはずだ。」(旅行会社)
「データの利活用などで日本に誇る技術で世界にアピールするチャンス。企業を超えて技術を協業、開発できる枠組みを作って欲しい。」(電機メーカー)
「安全にストレスなく会場にお客様をお送りするのが使命。25年に向けて水路も含めて連携していく。未来に維持できる公共交通を作って行きたい。万博ついでに瀬戸内、関西を周遊してもらえるよう関西経済発達に貢献して行きたい。」(鉄道会社)
今回発表された基本計画を基に、年末に博覧会協会に実施計画書を提出するスケジュールだ。これまでの博覧会は政府主導の統一されたテーマに基づいて行うパターンだったが、”関西財界で作り上げよう”という民間が集まり、民間側から提案する形を作る意義は大きい。
官民学の連携は当然ながら、大阪・関西万博は民が国を動かしていく、という意気込みが感じられた。日本が世界に対しどのような未来社会像を示せるのか、関西のエネルギーに期待したい。
© エネフロ編集部
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