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トランプのエネルギー戦略

Vol.08 シェール革命「あるある詐欺」の真実

テキサス州アンドリュース東、パーミアン盆地のポンプジャック
Photo by Zorin09

まとめ
  • 米でシェールオイル・ガス増産の勢いが落ちてきている。
  • 原油安で設備投資のペースが落ちたとの分析に対し、シェールオイル・ガス資源枯渇論も浮上している。
  • 実際、米でシェールオイル・ガス産出量の急激な減衰が報告され始めている。

上昇する原油価格

低迷していた原油価格が、7月以降じわじわと上昇を始めた。主要産油国からなる石油輸出国機構(OPEC)の減産合意が徐々に功を奏し始めたこと、OPEC加盟国のサウジアラビア・リビア・ベネズエラが地政学的に不安定化の様相を見せていること、消費国で需要が高まって原油在庫の減少が進んでいること、そしてシェールオイル・ガスの増産の勢いが落ちてきているのが、主な理由だ。

そもそもシェールオイル・ガスは今年いっぱい予想を上回る産油量の拡大が予想されていただけに、その減速の原因が注目を集めている。多くの専門家は、「OPECとの価格競争によく耐えてきたが、低迷する原油価格のために設備投資のペースが落ちた」と説明し、「シェール企業が原油安に屈した」との見方を示している。

だが、少数ではあるが、より深刻な資源枯渇を原因と指摘する論調もある。2000年代にシェール革命が起こって以来、ずっと唱えられてきた「シェール資源ピークアウト(減衰)論」である。

シェール革命は「あるある詐欺」なのか

原油価格下落でライバルの米シェール産業を潰そうとOPECが2014年11月に仕掛けた増産による価格戦争では、体力のないシェール企業の多くが淘汰されていった。だが同時に、OPECの予想に反して生き残ったシェール企業は技術革新や効率化で強靭な体質に生まれ変わり、OPEC諸国を凌駕する寸前の規模に成長した。

原油価格が1バレル当たり40ドル台から30ドル台まで低落し、戦いを仕掛けたOPEC諸国が音を上げ、価格安定化を目指す減産に転換するなか、米シェール産業は増産を続けてOPECの減産を無意味なものにさえした

2012年から2016年のほんの4年間で、従来の産出量を上回る生産性を、半分のコストで実現した「奇跡」のおかげで、多くの関係者が、「米シェールオイル・ガスの埋蔵量は無尽蔵に近いのではないか」との印象を持つようになった。

2010年代前半に盛んに唱えられたシェールオイルの減衰論にもかかわらず、産出量が増加の一途をたどったことも、「シェールオイル・ガスはまだまだ採掘できる」との確信が広まる一因になった。

ところが、ノースダコタ州・モンタナ州・その北側のカナダの一部にかけて広がる石油埋蔵地帯のバッケンをはじめとして、各地の有望埋蔵地における産出量の急激な減衰が報告され始めた。(図1)

図1:バッケンにおけるシェールオイル・ガス生産量予測
Typical Bakken well production
図1:バッケンにおけるシェールオイル・ガス生産量予測 Typical Bakken well production

出典)The Oil Drum HP(2012年)

それを補うため、よりアグレッシブで広範な採掘が行われ、表面上は米シェールオイルの生産は右肩上がりで増加している。だが、一部の専門家は「それも長くはもたない」と警鐘を鳴らす。

煮詰めれば、シェール革命が持続性のない「資源あるある詐欺」ではないかという疑いに行き着く。無理な埋蔵資源の先取りによる生産量の伸びで、有限な資源の急速な減衰をカモフラージュしているのではないか、との指摘が相次いでいる。

この見立てが正しければ、米シェールオイル・ガスは長くもたないことになり、戦いを挑んだOPEC諸国は自らが傷つきながらも、最終的には目的を達することになる

シェールオイル・ガスの持続性

では、専門家が指摘するシェールオイル・ガス持続性の問題を具体的に見ていこう。まず、米内務省地質調査所USGS)がテキサス州西部とニューメキシコ州の東南部にまたがるパーミアン盆地(写真1)で行った調査に基づく報告では、同盆地のウルフキャンプ地区に200億バレルという、莫大な採掘可能シェールオイル・ガスが眠るとされる。USGSはこの資源を時価で9000億ドル(約100兆円)相当だと試算している。

写真1:パーミアン盆地のシェールオイル・ガス採掘場
写真1:パーミアン盆地のシェールオイル・ガス採掘場

出典)Flicker SkyTruth

だが、パーミアン盆地は全米で最も有望な埋蔵地であり、他の埋蔵地では事情が違う。そのため、最も楽観的な専門家でさえ、米シェールオイル・ガス資源がいずれ衰退を始めることを見通している。論点は「減衰があるかないか」ではなく、「いつ減衰が始まるか」なのである。

米エネルギー情報局(U.S. Energy Information Administration:EIA)は、米シェールオイル・ガスの劇的な生産量増大が2040年まで続くと見込んでいる。(図2)少なくともあと15年ほどは米国がシェールオイル・ガスでエネルギー自立を維持できるとのバラ色の未来が描かれているのだ。

図2:供給源別米国の天然ガス生産
図2:供給源別米国の天然ガス生産

出典)EIA, Annual Energy Outlook 2014

トランプ米大統領が唱える「米国内には無限のエネルギー源がある」「シェールオイル・ガスは経済兵器になる」との主張は、こうした予測に基づいている。

だが、同じエネルギー情報局のデータによると、米シェールオイル・ガス採掘リグの生産性が2015年にピークに達し、その後は下落し、2017年に入ってからの年率成長は1%以下になっている。このデータを分析した米業界サイト『シーキング・アルファ(Seeking Alfa』に掲載された「オイル・インダストリー・トレンズ・アンド・インサイツ(Oil Industry trends & Insights)」というアナリストの分析記事 によると「新規開発されている油井で生産性が落ちているように見える。つまり、生産性の高い場所を堀り尽くして、低品質で生産性の低い場所を多く掘削し、産出量を上げている」と指摘する。さらに、「見かけ上の生産量の成長を確保する目的で、採掘活動を拡大し続けていることが読み取れる」という。

また、同記事は、「この傾向はシェールオイル・ガスの減衰率増加を示唆しており、長期にわたる産出量増加の前提で上げているシェールオイル・ガス生産企業の株価への悪影響が懸念される」と結んでいる。

減衰率をめぐる論争

一方、油田検層で世界最大手であるシュルンベルジェ(Schlumberger)のパール・キブスガード(Paal Kibsgaard最高経営責任者:CEO)(写真2)は、「将来の供給を先取りする、よりハードな掘削が行われ新規油田の供給が抑制されていると仮定すると、減衰率は見かけ上、低く抑えることができる。そのために埋蔵地の生産量が誤って実際より大きく見えることがある」と指摘する。

写真2:パール・キブスガード最高経営責任者(前列左)
写真2:パール・キブスガード最高経営責任者(前列左)

出典)Flicker NTNU(Norwegian University of Science and Technology)

原油取引大手トラフィグラ・グループ(Trafigura)のベン・ルーコック氏(写真3)も、「比較的安易に掘削できる地区は資源が枯渇しつつあり、3年から4年のうちに問題が顕在化する」と予想する。事実、エネルギー情報局の「採掘量は右肩上がり」予想は、最も埋蔵量が多く、かつ生産性の高い場所を基に推計されているのである。

写真3:トラフィグラ・グループ
ベン・ルーコック市場リスク共同主任
写真3:トラフィグラ・グループ ベン・ルーコック市場リスク共同主任

出典)Trafigura Corporat Youtube

こうしたなか、正確なシェールオイル・ガス減衰率をめぐり、論争が続いている。グローバル金融大手のHSBCが2017年1月に発表した数字では、OPEC諸国の平均減衰年率を4.2%、非OPEC諸国の平均減衰年率を8%と見積もっている。従来型とシェールオイル・ガスを含む米国の数字は8%となっている。

では、シェールオイル・ガスだけを見ると、どうなるか。エネルギー分野コンサルティング大手のライスタッド・エナジー(Rystad Energyのアナリストであるアルテム・アブラモフ氏(写真4)の推計によると、シェールオイル・ガスの減衰は年率で10%を下ることはないという。

写真4:アルテム・アブラモフ VPアナリスト
ライスタッド・エナジー
写真4:アルテム・アブラモフ VPアナリスト ライスタッド・エナジー

出典)LinkedIn

現在、米シェールオイル・ガスの4大産地であるパーミアン、バッケン、ネブラスカ州ナイオブラーラ、テキサス州イーグルフォードは合わせて日産480万バレルの原油を算出している。ところがバッケンでは2014年12月の日産126万バレルをピークに23%も下げて2017年1月には96万8000バレルまで落ちている。(図3)

図3:バッケン地区の石油生産量
図3:バッケン地区の石油生産量

出典)EIAU.S. Energy Information Administration January 2017

2016年に32万6000バレル分の新規増産があったが、既存の油井における減衰を埋められなかったのだ。

一方、イーグルフォードは2015年3月に日産171万バレルのピークをつけた後は生産が33%下落して、114万バレルとなっている。

バッケンとイーグルフォードを合わせると、日産86万2000バレル分、米シェールオイル・ガス全体では38%が失われている。増産が続くパーミアンでさえ、減衰率は上昇中だ。減衰分と増産分を差し引きすると、2016年の実際のパーミアンでの増加分は14万2000バレルにしかならない。

こうしてエネルギー情報局が導き出した減衰率は、バッケンで47%、イーグルフォードで55%にも達し、希望の星であるパーミアンでも22%と、かなり高い。今年以降、減衰による米シェールオイル・ガスの減産を避けるためには、毎年300万バレル分以上の新規油田を開発せねばならないという、まさに自転車操業の世界である。(図4)

図4:シェールオイル・ガス算出地区
図4:シェールオイル・ガス算出地区

引用)EIA

シェールオイル・ガス採掘は「焼き畑農業」的

大型埋蔵地の長期的で周到な探索と準備を徹底し、長い期間にわたって採掘を行う従来型の持続的な油田とは違い、シェールオイル・ガスは短期間のうちに限られた埋蔵地で、原油やガスを先取りで採掘しつくし、掘削場所を転々とする「焼き畑農業」的なところがある。その意味で、構造的に持続性は低いと言える

さらに「焼き畑農業」的な産業の宿命として、短期的利益を追求しなければならないため、無理をしがちだ。赤字体質なのに、投資家に利益を「還元」するため業界全体で2000億ドル(約22兆円)規模の借金漬けになる本末転倒、下請けサービス業者への値下げ要請など、シェールオイル・ガス企業のやせ我慢と下請けへのしわ寄せを強いることで投資家は短期的にもうかっている。

表面上の掘削コスト半減は、技術的革新だけでなく、古くから資本主義に存在する収益アップの手法に頼っているのだ。そして、1バレル当たり40ドル台でも利益が出るとされるシェールオイル・ガス鉱区の「採算レベル」は、土地借用代、連邦所得税、減価償却などのコストを除外して計算されたものがほとんどであり、こうした経費を含めると、本当の採算レベルはぐっと高くなる。加えて、見かけ上の生産量を上げるための無理で攻撃的な採掘により、隣接する油井同士が地下資源の共食いを始めている

著名な地質コンサルタントのアート・バーマン氏(写真5)は、「より多くの資金をシェールオイル・ガス採掘に投入すればするほど、産出量が下がっていく悪循環だ」と喝破し、「シェールオイル・ガス資源は2020年代初頭までしかもたない」とする。

写真5:アート・バーマン氏
写真5:アート・バーマン氏

引用)Art Berman homepage

シェール革命は、「資源あるある詐欺」に過ぎなかったのか。この先数年で、よりはっきりとしたデータが、その説の真偽を明らかにしてくれるだろう。

岩田太郎 Taro Iwata
岩田太郎  /  Taro Iwata
在米ジャーナリスト
「時代の流れを一歩先取りする分析」を心掛ける。米NBCニュースの東京総局、読売新聞の英字新聞部、日経国際ニュースセンターなどで金融・経済報道の基礎を学ぶ。現在、米国の経済を広く深く分析した記事を『週刊エコノミスト』『サンデー毎日』などの紙媒体に発表する一方、『Japan In-depth』や『ZUU Online』など多チャンネルで配信されるウェブメディアにも寄稿する。金融・マクロ経済・エネルギー・企業分析などの記事執筆と翻訳が得意分野。国際政治をはじめ、子育て・教育・司法・犯罪など社会の分析も幅広く提供する。海外大物の長時間インタビューも手掛けており、以下のように幅広い実績を持つ。ローレンス・サマーズ元米財務長官、ポール・ローマー世界銀行チーフエコノミスト、バリー・アイケングリーン・カリフォルニア大学バークレー校経済学部教授、アダム・ポーゼン・ピーターソン国際経済研究所所長、ジェームズ・ブラード・セントルイス連銀総裁、スティーブン・ローチ・エール大学フェロー、マーク・カラブリア(現)ペンス米副大統領チーフエコノミスト、エリオット・エイブラムス米外交問題評議会上席研究員、ヤン=ベルナー・ミューラー・プリンストン大学政治学部教授など多数。

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化石燃料に回帰?石炭、シェールガス、原子力、再エネ…トランプ新政権のエネルギー政策を徹底分析、日本のエネルギー戦略に対する影響を予測する。