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トランプ後の世界

Vol.06 OPEC vs 米シェール産業「死闘の行方」

OPEC 2017年OPEC閣僚会議

出典)OPEC 2017年OPEC閣僚会議

まとめ
  • OPEC、米シェール産業潰しで原油大増産しかけるも原油価格下落止まらず。
  • そうした中、米シェール産業に対抗する為、OPECとロシアが急接近。
  • 今後も、OPECと米シェール産業との覇権争いは続く。

サウジアラビア・クウェート・ベネズエラ・リビアなど主要産油国からなる石油輸出国機構(OPEC)が、急成長する新興ライバルの米シェール産業を叩き潰そうと2014年11月に仕掛けた原油の大増産戦争。原油価格は一時1バレル当たり28ドル以下に急落し、全体的に規模の小さな企業の集合体である米シェール産業は一時大打撃を被った。

ところが、嵐を耐えた米シェール産業は技術革新や効率化で、原油価格が低落しても生き残る方策を見つけ出した。一方、可能な限り生産を増やして安売りを仕掛けた当のOPEC諸国は収入減で体力が続かなくなり、2016年11月に一転して減産により原油価格を1バレル当たり50ドル以上で維持しようと図るようになった。だが減産しても原油価格下落は止まらず、直近では1バレル当たり45ドル付近で低迷している。(図1)

図1:WTIの原油価格チャート
図1:WTIの原油価格チャート

出典)EIA

2017年5月下旬にOPECは2018年3月までの減産延長合意に漕ぎ着けたが、組織内部からは「米シェール産業との共存が必要だ」という声も聞かれるようになった。

戦争を仕掛けたOPECが白旗を上げたとも解釈できる動きだが、過去3年の「OPEC対米シェール産業戦争」の裏で一体、何が起こっていたのか。なぜOPECの減産にもかかわらず、原油価格の下落が止まらないのか。

OPECからの共存の申し入れに対し、米シェール産業はどう対応するのか。休戦はあるのか、それとも戦いはこの先も続くのか。意外と強靭だった米シェール産業は、この先数十年のスパンで、引き続きOPEC諸国に対抗していくことができるのか。探ってみよう。

シェール革命2.0

OPECとロシアなどの産油国は5月25日、ウィーンで総会を開き、減産を来年3月まで9か月間延長することを決定した。この会合が従来のものと違っていたのは、米シェール産業の底力をOPECが認めたことだ。総会には米シェール産業関係者が招かれ、OPECは米テキサス州へ当局者を派遣することを発表した。

特に注目されたのが、米シェール産業に戦いを仕掛けたOPECの盟主であるサウジアラビアのハリド・ファリハエネルギー産業鉱物資源相(写真1)の発言だ。ファリハ氏は、「われわれは(米シェール産業と)共存しなければならない」と語ったのである。これは、米シェール産業を消滅させようとするサウジの当初の戦略が失敗したことを公式に認めたものだ。

写真1:ハリド・ファリハエネルギー産業鉱物資源相
ハリド・ファリハエネルギー産業鉱物資源相

photo by World Economic Forum from Cologny, Switzerland

なぜOPECの戦勝の目論見は外れてしまったのか。最大の理由は、価格競争を仕掛けられた米シェール産業の予想外の技術革新力だ。そもそもシェールオイル・ガスは、従来原油やガスを掘削することが困難であった頁岩層から、水圧破砕法(フラッキング)と呼ばれる新手法を用いて、地下の岩体に砂を混ぜた超高圧の水を注入して亀裂を生じさせ、油やガスを回収する画期的な「革命」の産物であった。(図2)その技術革新は、止まっていなかったのである。

初期のシェールオイル・ガス掘削は縦に掘り進んでいたものが、ここ数年は「スーパーリグ」と呼ばれる新種の掘削装置が普及し、地下において地面と水平に掘り進んで、より多くの資源を、深度が異なる多層において同時に採掘をすることが可能になった。シェールオイル・ガスを含有する薄い地層もこれでアプローチ可能になった。

図3:トラックに搭載された移動式掘削リグ
図3:トラックに搭載された移動式掘削リグ

Photo by Mcfly05

2010年にはシェール層に到達するまでに平均で17日間掘らねばならなかったが、現在では平均10日で到達できる。探索技術が日進月歩で向上するなか、リグは可動式になり、採掘地区をあちこち「歩きながら」掘り進むことができるようになった。(図3)より少ないリグと、より少人数の掘削作業員で、より多くの原油やガスが得られる。

こうして生産量が飛躍的にアップする一方、コストは“つるべ落とし”のように下がった。5月末の米国内リグの数は908と、前年同期の504に比べて飛躍的に伸びている。3年前なら1バレル当たり50ドルの原油価格では採算がとれなかった多くの鉱区で、採掘が可能になった。(図4)

図4:シェールオイル・ガス採掘リグ
図4:シェールオイル・ガス採掘リグ

スーパーリグはシェールオイル・ガスの生産コストリグを革命的に押し下げたため、米シェール産業は低迷する原油市場においても耐えられる強靭な体質を身につけた。一部の採掘地区では1バレル当たり25ドルから30ドルという相場でも採算レベルに達するほど、シェールオイル・ガスの生産性は上がっている。

以前は採掘できなかった資源をもたらしたのが「シェール革命1.0(第一次シェール革命)」であるとすれば、生産コストを劇的に押し下げたスーパーリグは「シェール革命2.0」に相当するのだと、米エネルギー専門家のダニエル・ヤーギン氏などの関係者は分析している。

米エネルギー情報局の予測では、2017年にはシェールオイルを含む米国の平均日産原油量が930万バレルに達するとされており、2018年には平均日産1000万バレルの大台を超えるとされる。エネルギー大手のエクソンモービル、シェブロン、ロイヤルダッチシェルなどは2017年だけで総計100億ドル以上をシェールオイル・ガス開発プロジェクトに投資するとしており、供給量はなお増える。

米エネルギー情報局の2017年内の予測値は、シェールオイル・ガスのさらなる増産により上方修正されることが予想されており、米シェール産業は「より安く、より多く」の原理で、OPECやロシアなどの産油国を圧倒するようになったのである。

「新世界原油秩序」OPECとロシア接近

サウジなどのOPEC諸国は安売りでライバルの米シェール産業を潰し、市場シェアを独占して、原油価格の決定権を握るつもりであった。だが、その攻撃は自らにブーメランとなって返ってきた。これが、一部で「新世界原油秩序」と呼ばれる情勢だ。

この新秩序のなかで生まれたのが、OPEC諸国とロシアの協力関係である。そもそも、OPECの盟主サウジとロシアは世界一の産油国の座を争うライバルであった。それが、米シェール産業に対抗するために協力関係を結んだのである。

ペンシルベニア州立大学のファリボルズ・ガダール教授(写真2)は、「ロシアとサウジには、原油価格以外の共通の利益がない」と述べ、サウジがその「敵国」イランを支援するロシアと協力せざるを得ないほどに、米シェール産業の存在が大きくなったと示唆した。

写真2:ファリボルズ・ガダール教授
写真2:ファリボルズ・ガダール教授

Photo by Penn State

さらに興味深いのは、「ロシアが、自国の加盟していないOPEC構成国よりも、OPEC構成国らしく振舞い始めた」(ガダール教授)ことである。ロシアとOPEC諸国は1バレル当たり50ドルから55ドルの原油価格での安定を望んでいると専門家たちは見る。これ以上、価格が低迷すると国家財政が危うくなるからだ。

クウェートを例にとると、2017年に同国は原油価格が1バレル当たり43ドルを下回れば国家財政が赤字になると、国際通貨基金(IMF)の報告書は指摘している。逆に、1バレル当たり55ドルでの安定が実現すれば、利益が確保できる。事実、米ゴールドマンサックスのアナリストたちは、2017年の年平均原油価格を1バレル当たり55ドルと見ている。

だが、エクアドルのペレス・エネルギー相が5月のOPEC総会でいみじくも語ったように、「われわれは米国がなすことをコントロールできない」のである。OPECは、価格安定と原油在庫削減のために、さらなる減産を迫られる可能性がある。

OPECの減産分の多くは、増産されたシェールオイル・ガスが代替し、OPECは原油価格を高く安定させることができないばかりか、市場のシェアをさらにシェールオイル・ガスに奪われるというジレンマに陥っている。OPECの減産合意では、一日当たり150万バレルの生産がカットされているが、その間に米シェール産業は一日当たり90万バレルの増産を実現している。

米コモディティ取引大手CMEグループの上席エコノミストで、エネルギー業界に詳しいエリック・ノーランド氏(写真3)は、「(世界で確認されている原油埋蔵量の80%を握る)OPECは(米シェール産業の反撃で)市場の価格決定権を失った。OPECはもはや、世界のエネルギー市場を左右できる力を持つプレーヤーではなくなった」と断言する。

写真3:エリック・ノーランド氏
写真3:エリック・ノーランド氏

出典)CME Group

例を挙げよう。テキサス州西部とニューメキシコ州の東南部にまたがるパーミアン盆地でのシェールオイル・ガス生産では、良質の原油が当初の予想より大量に産出され、さらにOPECの減産で、より高く増産分シェールオイル・ガスが売れることを見込んだ開発が加速している。この先数年の米国原油増産のほとんどがパーミアン盆地からもたらされると専門家は見ている。(図4)その他、ノースダコタ州・モンタナ州・その北側のカナダの一部にかけて広がる石油埋蔵地帯のバッケン、さらにネブラスカ州ナイオブラーラ地区の開発も好調だ。

図4:パーミアン盆地、バッケン、ナイオブラーラ地区
図4:パーミアン盆地、バッケン、ナイオブラーラ地区

出典)EIA Drilling Productivity Report May 15, 2017

米国もOPECも深い傷

しかし、これら一部の儲かる地域を除けば、米シェール産業はOPECの価格攻撃で傷つき、多くの企業が倒産した。1バレル当たり50ドルの価格で採算がとれるようになったとはいえ、開発業者は重い負債に喘ぎ、真の意味で「儲かっている」とは言えない状況だ。

一方、米シェール産業との共存も模索し始めたOPECであるが、「和解」の可能性は現時点では低いように見える。事実、ナイジェリアのカチク石油資源相(写真4)は「米シェール生産会社による意図的な市場妨害行為によってわれわれが不満を募らせる事態に至れば、OPECは改めて必要な措置を検討する」と5月下旬の総会で述べている。

写真4:カチク石油資源相
写真4:カチク石油資源相

Photo by World Economic Forum

英『デイリー・テレグラフ』紙はこうした状況を評して、「1970年代のオイルショックでOPECが減産によって原油価格を4倍に高騰させて米国を屈服させて以来、OPECは半世紀以上にわたって価格決定権において優位を保ってきた。だが、そのOPECが今、米国シェール産業によって経済的に追い詰められている」との見解を示している。歴史の皮肉だ。

前出のノーランド氏は、「2017年9月には、米シェールオイルの増産分がOPECの減産分を上回ってしまう。OPECにとっては望ましくない」と語っている。

だが、OPECが完全に敗北したわけではない。米シェール産業を潰すことはできなかったが、米国の海底油田開発はOPECの増産による原油価格下落で採算がとれなくなり、撤退が相次いだ。

ここには、OPECの長期戦略が絡んでいる。シェールオイル・ガス採掘はそれぞれの鉱区での枯渇に至る採掘期間が短い。リグが可動式なのも、それぞれの採掘現場での持続性が短いからだ。米シェールオイル・ガス資源は2020年代にはピークを迎えるとされる。これらの鉱区が開発されつくすと、従来型の油田や海洋採掘に再び頼らざるを得ない。

だが、採算に乗るまで長い開発期間が必要な海洋採掘を今のうちに潰しておけば、パーミアン盆地など主力採掘地でシェールオイル・ガス生産が下落を始めたときに、OPEC諸国に価格決定権が戻る仕組みだ。事実、サウジアラビアのファリハエネルギー産業鉱物資源相はこうした予測を公言している。

OPEC対米シェール産業の戦いは、双方に深い傷を残した。当事者たちにインタビューした関係者によると、どちら側も「もし1バレル当たり100ドル前後をつけていた2014年に戻れるならそうしたい」と述べているという。

さながらリング上のボクサーがお互いを死ぬほど打ち合い、血みどろのボロボロになった後で、ファイトを始めたことを後悔するような状態だ。だが、戦争はいったん始めると終わらせることが難しい。対話の機運はあるものの、長期的に見れば「共存」ができるような環境は失われている。

資源が枯渇した“シェールの米国”が先に倒れるか、国家財政が破たんした“OPEC諸国”が先に倒れるか。従来型化石資源の開発に注力するトランプ米政権の動きにもからみ、その行方が注目される。

岩田太郎 Taro Iwata
岩田太郎  /  Taro Iwata
在米ジャーナリスト
「時代の流れを一歩先取りする分析」を心掛ける。米NBCニュースの東京総局、読売新聞の英字新聞部、日経国際ニュースセンターなどで金融・経済報道の基礎を学ぶ。現在、米国の経済を広く深く分析した記事を『週刊エコノミスト』『サンデー毎日』などの紙媒体に発表する一方、『Japan In-depth』や『ZUU Online』など多チャンネルで配信されるウェブメディアにも寄稿する。金融・マクロ経済・エネルギー・企業分析などの記事執筆と翻訳が得意分野。国際政治をはじめ、子育て・教育・司法・犯罪など社会の分析も幅広く提供する。海外大物の長時間インタビューも手掛けており、以下のように幅広い実績を持つ。ローレンス・サマーズ元米財務長官、ポール・ローマー世界銀行チーフエコノミスト、バリー・アイケングリーン・カリフォルニア大学バークレー校経済学部教授、アダム・ポーゼン・ピーターソン国際経済研究所所長、ジェームズ・ブラード・セントルイス連銀総裁、スティーブン・ローチ・エール大学フェロー、マーク・カラブリア(現)ペンス米副大統領チーフエコノミスト、エリオット・エイブラムス米外交問題評議会上席研究員、ヤン=ベルナー・ミューラー・プリンストン大学政治学部教授など多数。

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