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エネルギーと環境

Vol.18 世界の水不足、私たちにできること

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出典) MrGauravBhosle

まとめ
  • 8月1日は水資源について理解を深める「水の日」。
  • 2050年には世界人口の過半数と世界の穀物生産の約半分が水不足に。
  • 私たちも消費方法を見直すだけで、SDGsへのアプローチが可能。

台風19号における被害状況

8月1日が「水の日」だと知っていましたか?

写真) 「水の日」のポスター
写真)「水の日」のポスター

出典) 国交省

今から40年以上も前の昭和52年5月31日、国民の水資源に対する関心を高めるため閣議了解にて、毎年8月1日を「水の日」、またこの日を初日とする1週間を「水の週間」とした。水資源の貴重さや重要性を知ってもらうべく、全国的にポスターの掲示や講演等のイベントが協力して行われてきた。そして、平成26年7月1日に水循環基本法が施行され、法律で定められた「水の日」となった。

水循環基本法 水循環基本計画

出所) 内閣官房水循環政策本部事務局 「水循環基本法 水循環基本計画

60歳以上の人なら記憶にあるだろうが、かつては渇水のために断水が頻繁に起こり、街に給水車が出動することも珍しくなかった。今は平時にそうした光景を見ることも少なくなった。水不足を感じずに生活できることはとても素晴らしいことだが、一方で、水のありがたみが薄れているとも言えそうだ。

私たちが1日に使う水は一体どのくらいだろう?

東京都水道局によると、家庭で一人が1日に使う水の量は、平均219リットル(平成27年度)程度だという。想像以上に多いことにびっくりする。その内訳は以下の通り。やはり風呂は一番使用量が多い。水洗トイレの普及でトイレ用水も約2割とかなりの量だ。予想外に多いのは炊事用の水。食器洗いは流しっぱなしだと5分で60リットルも水を消費する。

図) 家庭での水の使われ方(東京都水道局 平成27年度一般家庭水使用目的別実態調査)
図)家庭での水の使われ方(東京都水道局 平成27年度一般家庭水使用目的別実態調査)

出典) 東京都水道局

図) 用途別使用量(参考)
図)用途別使用量(参考)

出典) 東京都水道局

そして気温が高くなる8月。1年の中で最も水の使用量が多くなる。下図を見ると一目瞭然だが、8月は一番水の使用量が少ない3月に比べ、約7%多くなっている。

図) 水道の使用量
図)水道の使用量

出典) 水の週間実行委員会

節水意識が進んできたとはいえ、水の需要はまだまだ多い。降水量が多い日本にいると実感が薄いが、世界に目を転じると水資源の確保や開発が困難な国が多い。水不足は世界的に大きな問題となっている。

水紛争

国連によると、水利用と管理において今のままだと、2030年までに世界の水の入手可能性は40%不足する。現在、世界人口の36%に相当する約25億人が水不足の地域に暮らしているが、2050年までに世界人口の過半数と世界の穀物生産の約半分が水不足のリスクにさらされるとの予測もある。世界規模の人口爆発が、水不足に拍車をかけるのだ。

図) 世界の人口推移予測
図)世界の人口推移予測

出典) 国土交通省

さらに、地球温暖化に伴う気候変動が、水利用の格差拡大にも繋がっている。例えば、近年耳にすることが増えた「ダイポールモード現象」(参考:過去記事「“猛暑列島”の原因?インド洋ダイポールモード現象」)により、豪雨が集中する地域と干ばつが起こる地域で水資源確保に極端な差ができている。

図) 一人当たり水資源量 2013年
図)一人当たり水資源量 2013年

出典) 国土交通省

こうした水不足が国によっては紛争に発展する。

・ 水資源配分の問題(湖や河川の上流地域での過剰取水)
・ 水質汚濁の問題(上流地域での汚染物質排出など)
・ 水の所有権の問題
・ 水資源開発と配分の問題

などが紛争の原因となる。水不足で汚染された水の摂取を余儀なくされる人々は、感染症のリスクにさらされるだけでなく、水が原因の争いで、難民になるリスクすらあるのだ。

図) 世界各地の水紛争の例
図)世界各地の水紛争の例

出典) 国土交通省

日本の立ち位置

以下の世界地図は、水道水の現状(2018年時点)を表したものである。日本は安心して水道水が飲める数少ない国のひとつであることが分かる。97%程水道が普及している日本では当たり前でも、他の国では水道からきれいな水が出てくるとは限らないのだ。

図) 世界の水道水の現状
図)世界の水道水の現状

出典) 国土交通省 「第7章 水資源に関する国際的な取り組み

今や経営の指標としても有名になったSDGs(エスディージーズ)。2016年1月、「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)」として正式に発効された。その6番目に「安全な水と衛生」が設けられている。「すべての人に水と衛生へのアクセスと持続可能な管理を確保する」ことが目標だ。背景に、世界の深刻な水不足があることは明白だ。

図) 17個の「持続可能な開発目標」(SDGs)
図)17個の「持続可能な開発目標」(SDGs)

出所) 国連開発計画(UNDP)駐日代表事務所

バーチャルウォーター

水資源は私達が直接飲むだけでなく、目に触れないところで大量に消費されている。食料や畜産物を輸入している消費国において、その輸入食料を自国内で生産するとしたらどの程度の水が必要かを推定したものとして、「バーチャルウォーター(仮想水)」という概念がある。

日本が輸入している総仮想水を示したのが下図だ。 仮想水の総輸入量は831億m3/年(2005年時点)。 日本国内での総水資源使用量に匹敵する量が仮想水ということになる。

図を見ると、牛肉を輸出しているアメリカやオーストラリアから大量の仮想水を輸入しているのがわかる。また、欧州、アジア、中南米など世界中からまんべんなく仮想水を輸入している。食料自給率の低い日本は大量の食物を輸入せざるを得ず、直接的な物質としての水の輸入量より遥かに仮想水の輸入の方が多いのだ。

図) 2005年バーチャルウォーター(仮想水)輸入量
図)2005年バーチャルウォーター(仮想水)輸入量

出典) ©蛇口をひねると(平成25年版 環境・循環型社会・生物多様性白書、環境省などによる)

さて、以下の食べ物の仮想水の量をみてみよう。(東京大学生産技術研究所沖研究室などの試算による。ペットボトル500ml換算)

 
ハンバーグ定食 2296リットル=ペットボトル×4590本
牛丼 1889リットル=ペットボトル×3780本
生姜焼き定食 1271リットル=ペットボトル×2542本
カレーライス1095リットル=ペットボトル×2190本
ハンバーガー1個 999リットル=ペットボトル×2000本
塩ラーメン 970リットル=ペットボトル×1940本
カルボナーラ 910リットル=ペットボトル×1820本
月見そば 859リットル=ペットボトル×1720本
トマトスパ 651リットル=ペットボトル×1300本
コーヒー 210リットル=ペットボトル× 420本
オレンジジュース 170リットル=ペットボトル× 340本
讃岐うどん 120リットル=ペットボトル× 240本
ビール大ジョッキ 113リットル=ペットボトル× 226本
日本茶 19リットル=ペットボトル× 40本


どうだろう、思った以上に大量の仮想水を使っているのに驚いたのではないだろうか。

日本国内そのものは水不足ではないが、実際には海外からの仮想水なくして生活が成り立たないという現状がある。世界の水不足を他人事と思わず、日本も真剣に取り組んでいく必要がある。

日本は国土が狭く、食料自給率はわずか39%だ。アメリカの食料自給率が120%、フランスが121%、同じ島国であるイギリスでも65%ある。日本国内の食料自給率を上げることが、バーチャルウォーターを減らし、世界全体の水資源を守ることに繋がるのだ。

また、普段何気なく買っている洋服も、繊維製品の生産や染色などで大量の水を消費している。欧州などでは、水の消費を抑えたTシャツやジーンズなどが開発され、人気だ。こうした地球環境にやさしい製品を「エシカル・ファッション」(Ethical Fashion:倫理的なファッション)というカテゴリーに入れて、世界では多くの消費者の支持を得ている。

■最後に

私たちの命を支える「水」は、色々なものに形を変えて日常に存在している。日本は水資源に恵まれているといっても、違う視点でみると多大なる量の水を海外から輸入していることが分かる。普段の生活の中でも、水の無駄遣いをしないことに加えて、食料は食べきれる量だけ購入したり、買い物する際は正しい水の使用方法をしている企業を選択したりするなど、小さなことでも改善できることが山ほど転がっている。元の水がどこからくるのか、私たちが考えながら消費活動を行っていくことで、少しずつ世界を変えることが可能であるはずだ。

安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
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エネルギーと環境は切っても切れない関係。持続可能な環境を実現するために、私達は「どのようなエネルギー」を「どのように使っていくべき」なのか、多面的に考える。