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エネルギーと環境

Vol.17 省エネうどん”茹で窯”誕生 電力3割カット!

イメージ図

写真) 省エネ茹で釜
出典) 株式会社トリドール

まとめ
  • 全ての企業が、SDGsの掲げる目標に取り組み始めた。
  • プラごみ、フードロス、CO2などの削減が大きな課題。
  • 電力事業者は「開発一体型ソリューション」で需要家の省エネなどに 貢献。

エネフロでも度々取り上げてきたSDGs(持続可能な開発目標)(注1)) 世界の国々が共通して解決しなければいけない経済、社会、環境の課題を17の目標で示している。

図) SDGs 17の目標
図) SDGs 17の目標

出典) 国連広報センター

近年、企業に対して社会の見る目は厳しくなっている。企業が、どのように社会課題の解決に取り組んでいるのかが、厳しく問われる時代になった。

特に食品業界は、自然資源と人的資源に支えられている。地球温暖化が進めば、食物の生産が困難になる。少子高齢化が進む日本では労働環境を改善しないと有能な人材を確保することも不可能だ。まさしく、事業の持続可能性からもSDGsの目標はもはや他人事ではないのだ。こうしたことから食品業界では多くの企業が様々な取り組みを始めている。

プラスチックごみ削減

昨年から大きくメディアでも取り上げられ、社会の大きな関心事となったのが、プラスチックごみによる海洋汚染問題だ。その課題解決に向け、容器の素材を紙に変えたり、サトウキビ由来の「バイオマスプラスチック」に変えたりする企業が相次いでいる。石油由来成分ほぼ0%の植物由来「生分解性プラスチック」も開発されている。

写真) 港湾に滞積するプラスチックごみ
写真)港湾に滞積するプラスチックごみ

© ODINAFRICA

ここでちょっと整理が必要だろう。「バイオマスプラスチック」と「生分解性プラスチック」はどう違うのだろう?それに「バイオプラスチック」という呼称もある。実は、「バイオプラスチック」とは、微生物によって生分解される「生分解性プラスチック(グリーンプラスチック)」と、バイオマスを原料に製造される「バイオマスプラスチック」の総称なのだ。

図) 生分解性プラスチックとバイオマスプラ
図)生分解性プラスチックとバイオマスプラ

© 環境省

写真) 生分解性プラスチックが分解されていく過程
写真)生分解性プラスチックが分解されていく過程

© 日本バイオプラスチック協会

日本も「プラスチック資源循環戦略」(2019年5月策定)の下、プラスチックごみ排出量の削減や、プラスチック製品の3R(リユース、リデュース、リサイクル)を進めている。

身近ではレジ袋有料化が今年7月から全国の小売店で義務づけられるのに先立ち、大手スーパーなどで先行してレジ袋有料化が始まっているが、スーパーやコンビニではまだまだレジ袋を使う人を多く見かける。
一方、レジ袋有料義務化には例外があり、①厚みが0.05ミリ以上の袋 ②「生分解性プラスチック」を100%使用した袋 ③植物由来のバイオマス素材を25%以上使ったもの、は引き続き使用できる。

なんとも、複雑な制度だが、ようはマイバッグを持ち歩けばいいだけの話。消費者の意識変革が鍵となりそうだ。

写真) バイオリユースバッグ(一部に植物性プラスチックを使用したもの)
写真)バイオリユースバッグ(一部に植物性プラスチックを使用したもの)

出典) 福助工業

フードロス削減

フードロス対策も着々と進んでいる。象徴的なのが、大量廃棄でやり玉に挙がった恵方巻だが、既に多くの小売業者で予約制が定着してきた。クリスマスケーキやおせちなどの季節商品も同様だ。

写真) 恵方巻
写真)恵方巻

出典) flickr:Nori Norisa

また、売れ残り商品を格安販売する取り組みも始まった。アプリで売りたい商品がある店を調べて、格安に買い物ができるサービスや、余剰の商品を値引きしてでも売り切りたい店側と消費者をマッチングする、いわゆるフードシェアリングサービスはヨーロッパで人気を博し、既に多くのユーザーを獲得している。店側は食品廃棄が減らせ、消費者は節約できる、一石二鳥の取り組みだ。日本でもこうしたサービスを提供するスタートアップ企業が出始めている。今後さらに増えていくだろう。

写真) デンマーク発のフードシェアリングサービス企業Too Good To GO 売れ残り商品は”Magic Box”と呼ばれる袋で渡される。
写真)デンマーク発のフードシェアリングサービス企業Too Good To GO 売れ残り商品は”Magic Box”と呼ばれる袋で渡される。

出典) Too Good To GO

CO2削減

地球温暖化防止の観点からCO2削減は食品業界でも待ったなしだ。そのためにはエネルギー使用量を減らすことが必要だ。私たちの身近にある飲食業でも最先端の取り組みが始まっている。

株式会社トリドールホールディングスが運営するうどん専門飲食店「丸亀製麺」の”茹で窯”がその一つの例だ。ヒーター電力とさし湯(麺を茹でながら追加する湯)の量を自動制御するシステムを開発した。

従来の茹で釜と比較して、電力使用量の約3割、さし湯の約5割を削減したというから驚きだ。省エネだけでなく、従業員の労働負荷も減り、業務効率化が図られたことは特筆すべきだろう。

図) 新”茹で窯”導入効果
図)新”茹で窯”導入効果

出典) 中部電力

株式会社トリドールホールディングス、ニチワ電機株式会社と中部電力株式会社、3社の共同開発によるもので、この取り組みは2019年度省エネ大賞(主催:一般財団法人省エネルギーセンター)の「経済産業大臣賞」(省エネ事例部門)を共同で受賞した。今後、IoTやAIを駆使した同様の取り組みが加速するものと思われる。

開発一体型ソリューション

丸亀製麺の取り組みに電力事業者はどう関わったのだろうか。そもそも電力事業者の本来の役割は、高品質な電力を安定的に供給することだ。それは今でも変わらない。しかし、先のSDGsの目標を達成するために需要家は様々な課題に取り組まねばならなくなっている。それは省エネ、省人、生産性向上など、多岐にわたる。当然、電力事業者も、エネルギー供給だけではなく、需要家とともにそうした課題に向き合うことが求められている。

今回の、丸亀製麺の”茹で窯”のようなケースは、中部電力が力を入れている「開発一体型ソリューション」の1つといえよう。電力事業者は、今後、従来の事業領域を超えて新たなサービスを生んでいかねば勝ち残っていけない時代に突入している。需要家や社会に対して「新しい価値」を提供し続けるために、電力事業者間の競争はさらに激化しそうだ。

  1. SDGs:Sustainable Development Goals 持続可能な開発目標
    続可能な開発目標(SDGs)とは,2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として,2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標です。17のゴール・169のターゲットから構成され,地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを誓っています。 SDGsは発展途上国のみならず,先進国自身が取り組むユニバーサル(普遍的)なものであり,日本としても積極的に取り組んでいます。
    (出典:外務省)

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安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
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エネルギーと環境は切っても切れない関係。持続可能な環境を実現するために、私達は「どのようなエネルギー」を「どのように使っていくべき」なのか、多面的に考える。