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グローバル・エネルギー・ウォッチ

Vol.17 宇宙で資源獲得 中国の野望

写真) 米中首脳会談(2017年11月9日 北京)
出典) 在北京アメリカ大使館ホームページ

まとめ
  • 世界のエネルギー覇権争いが激化している。
  • 中国の次世代技術の勢いが止まらない。
  • 米中の対立は「テクノ地政学」の時代に突入。

米中貿易交渉のニュースが連日新聞紙面をにぎわす中、5月下旬、新たに衝撃的なニュースが流れた。米商務省が、中国の通信大手、Huawei(華為技術、ファーウェイ)とその関連企業68社に対し、事実上の「禁輸措置」を取ったのだ。米グーグルもファーフェイに一部ソフトウェアの供給を制限する可能性を示唆した。中国ハイテク企業を狙い撃ちしたトランプ政権の意図はどのようなものなのか?

「エネルギー地政学」という言葉を聞いたことがあるだろうか。エネルギーを制するものが世界を制する。世界では、エネルギーを軸とした覇権の攻防戦が続いている。

しかし、今、その「エネルギー地政学」が大転換点を迎えている。

先進技術の優位性がエネルギー覇権の行方を握るという構図が新たに生まれたのだ。今や世界のエネルギー覇権を左右するのは、地理的な資源の偏在や資源埋蔵量ではない。いかに先進的な技術を保持できるか、が最重要課題となってきたのだ。まさに技術開発大競争の時代。米中の対立は、いわば「テクノ地政学」の観点から見なければならない。

「エネルギー地政学」がいかに「テクノ地政学」の時代へ突入したのか、そのプロセスと今後の課題について見ていく。

アメリカのシェール革命

「エネルギー地政学」上、今世紀最大の出来事は、アメリカの「シェール革命」だろう。「シェール」(Shale)とは、「頁岩」(けつがん)と呼ばれる岩石に含まれている天然ガスや原油のことで、米国や中国に多く存在している。

米国は、長年困難だった、地下2,000メートルより深い位置に存在するシェール層からのオイル・ガスの掘削を、2006年以降技術的に克服、一気に生産量増加に転じた。

米国エネルギー情報局(EIA)によると、アメリカの原油生産量は2014年にロシアとサウジアラビアの生産量を越え、1973年以来、45年ぶりの首位となった。2020年には原油を含むエネルギー輸出が輸入を上回る「純輸出国」になると予測されている。

図) 1日あたりの原油の生産量の多い国
図)1日あたりの原油の生産量の多い国

出典) BP Statistical Review of World Energy 2018 - Oil: Production, 2017 (「BP世界エネルギー統計2018」(原油生産(2017年))
(注)資源エネルギー庁 エネルギー白書(2017年版)より算出。2015年の数値

また、シェールガスを含む天然ガスの産出量急増により、天然ガスの輸入量が減少、2017年には純輸出国へ転じた。下図によると、さらに2040年まで劇的な生産量増大が見込まれている。

図) アメリカの天然ガス生産量の推移と見通し
図)アメリカの天然ガス生産量の推移と見通し

出典) EIA, Annual Energy Outlook (EIAを基に編集部作成)

この「シェール革命」の余波を受け、世界のエネルギー供給構造に大きな影響が表れた。かつてアメリカは原油を中東に依存していたが、「シェール革命」により輸入量は減少、中東への依存度は低下した。この影響を受けたのが、原油収入に国家財政を頼ってきたロシアや中東である。

アメリカに天然ガスを輸出していたカタールも、売り先を失ったため、欧州やアジア市場の開拓に動きだした。カタール産に比べ高いロシア産天然ガスは欧州市場で競争力を失っている。

アメリカの原油の輸出入収支は2017年度でマイナス11兆円、貿易赤字の14%を占めていたが、シェールガス・オイルの輸出拡大で貿易赤字を減らすのではと予測されている。まさに、エネルギー消費大国から輸出大国に変貌を遂げようとしている。

世界最大のエネルギー消費国になった中国

20世紀後半までは経済大国アメリカが世界の中心で国際政治をリードしてきた。しかし、経済、軍事、政治において急成長を遂げアメリカに次ぐ大国としてのし上がってきたのが中国だ。今や世界最大の一次エネルギー消費国である中国のエネルギー構造について見てみよう。

世界平均と比べるといまだに石炭依存度は高い中国だが、2010年代から石炭の比率は減少傾向にある。中国の国家エネルギー局(NEA)では、「第13次5カ年再生可能エネルギー発展計画」で将来にわたり石炭火力発電所の増加を抑制していく方針を掲げた。

IEA(国際エネルギー機関)によると、2040年までに中国の石炭消費量は約15%減少すると予測されている。2013年以降はクリーンエネルギー比率が徐々に高まり、石炭から他のエネルギー源へのシフトチェンジが進む見込みだ。

また、CO2を排出しない原子力発電を見てみると、中国は1990年代に3基の原子炉が稼働していたが、2000年代に入って建設が本格化した。2010年末には稼働原子炉が13基まで増加、さらに増設が進んでいる。

また再生可能エネルギーについても、2000年代後半から風力発電、遅れて2010年代に入ると太陽光発電の設備容量が急激に増加、その勢いは2010年以降も継続中だ。

再エネ技術開発に邁進する中国

世界的なエネルギー政策において、クリーンエネルギーへのシフトチェンジが求められており、中国政府は五カ年計画などで政策目標を掲げ、その実現に向けた施策を実施している。再エネに関する技術で他国を圧倒しているのが中国だ。再エネ技術の特許出願数はアメリカを押さえて、世界1位。特許の累積割合において、日本が2016年時点で14%(約8万件)なのに対し、中国は29%(約16万件)と2倍もの差がつく。中国が急速に再エネ分野に力を注いでいることが分かる。

図) 2016年末時点における自然エネルギー特許の累積割合
図) 2016年末時点における自然エネルギー特許の累積割合

出典) IRENA

「中国製造2025」戦略

こうした中、2015年5月、中国の習近平国家主席が掲げる産業政策の長期戦略プラン「中国製造2025」が発表された。次世代情報技術や新エネルギー車など10の重点分野と23の品目を設定し、製造強国を目指すとしている。次世代通信規格「5G」のカギを握る移動通信システム設備では2025年に中国市場で80%、世界市場で40%という高い目標を掲げ、次世代技術で主導権を握ろうとしている。

図) 中国製造2025
図) 中国製造2025

出典) 経済産業省

世界の約4分の1のエネルギーを消費する中国が目論むエネルギー転換と次世代通信技術における主導権確保への動きは、今後世界の秩序を大きく変えるだろう。アメリカが警戒しているのはまさのこの中国の動きなのだ。

中国の一帯一路

「一帯一路」は中国のエネルギー安全保障における重要な戦略で、陸路と共に海上交易ルートのインフラを整備するという構想であった。しかし、それにとどまらず、今や、北極圏ルートのいわゆる、”氷のシルクロード”に加え、航空圏の”空のシルクロード”、5Gなど通信技術の”デジタルシルクロード”など、すべての分野で優位に立とうとしているのは明らかだ。

米中貿易戦争は、表面上アメリカの貿易赤字解消が目的だが、その裏側には資本主義と共産主義の対立という二重構造が存在する。中国の国営企業優遇の補助金や、知的財産の盗用、強制的な技術移転などを正さないとアメリカのハイテク産業が中国に出し抜かれてしまう、というアメリカの危機感が背景にある。

中国の飽くなき宇宙開発

米中攻防は地球上にとどまらない。今年1月、中国は人類史上初となる月の裏側へ無人探査機「嫦娥(じょうが)4号」の着陸を成功させた。月の裏側は通信がまっすぐに通じず、中継用の衛星を間におかないと裏側は誘導できないため、非常に高度な技術を要する。

写真) 無人探査機「嫦娥(じょうが)4号」着陸地点(赤丸の中の矢印の部分)
写真)無人探査機「嫦娥(じょうが)4号」着陸地点(赤丸の中の矢印の部分)

出典) NASA

動画) 中国の無人探査機、月の裏側に着陸成功

出典) youtube China's lunar probe lands on far side of the moon

月にはスマートホンや電子製品に使われる希少金属(レアメタル)などの鉱物資源、核兵器に転用可能な「ヘリウム3」が存在するという。月の資源の獲得については条約がないだけに、米中の宇宙における資源獲得競争は今後ますます熾烈を極めるだろう。

日本の取るべき道

米中の対立を「エネルギー地政学」と「テクノ地政学」の観点から眺めてきたが、両超大国の覇権を巡る新たな「冷戦」を止めることはもはや不可能に思える。

そうした中、日本の取るべき戦略はどうあるべきか。一つには、「エネルギー安全保障」をより確かなものにすることだろう。

エネルギー調達の多角化、多様化を進めると同時に、再生可能エネルギーの比率を高め、CO2削減も進める。なおかつ安全も確保する。この複雑な方程式を、日本の誇る、「高度な技術」と精緻に「やり遂げる力」で達成させることだ。エネルギー分野における優位性の確保は最重要課題だろう。

キヤノングローバル戦略研究所の神保謙主任研究員は、「モノづくり、サービス、金融、移動、労働の概念の変革のプラットフォーム技術が世界で分裂」する動きを「テクノ冷戦」と定義づけ、以下の3つの領域で進行していくと述べている。(参照:テクノ冷戦―分裂するデジタル技術開発―)米国によるファーウェイ排除はまさにこの第2の領域に相当する。

  • 第1の領域: スーパーコンピューター、AIライブラリを中心とするハード・ソフトウェアの開発競争。
  • 第2の領域: ITインフラ技術の市場の支配をめぐる競争。
  • 第3の領域: 電子商取引や電子決済を中心とするサービスの競争。

これら各領域における日本の技術は決して米中に劣るものではない。重要なのはそれらの技術を駆使し「エネルギー安全保障」を確固たるものにする為に如何にネットワーキングさせるかということだろう。個別最適ではなく、システムとして各技術を連携させ全体最適を目指すことが必要だ。「テクノ地政学」の世界で日本が存在感を示していくために、やるべき課題は山積している。

参考)
エネルギーフロントライン 編集長展望 Vol.12「エネルギー安全保障の考え方」日本エネルギー経済研究所常務理事・首席研究員小山堅氏
IRENA(2019)A New World: The Geopolitics of the Energy Transition
経済産業省 第3節 中国の対外貿易投資に関する分析
キヤノングローバル戦略研究所 テクノ冷戦―分裂するデジタル技術開発―
安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
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