記事  /  ARTICLE

グローバル・エネルギー・ウォッチ

Vol.19 緊迫、ホルムズ海峡 日本への影響は?

写真) 攻撃を受けたタンカーの船腹の損傷跡
出典) 環U.S. Navy

まとめ
  • ホルムズ海峡で日本のタンカー2隻が何者かに攻撃を受けた。
  • 米・イランの対立長期化は日本のエネルギー安全保障に影響与える。
  • 原油高で物価への影響が懸念される。

高まる米・イランの緊張

6月13日、ホルムズ海峡近くのオマーン湾で日本のタンカー2隻が何者かに攻撃を受け、船体が損傷した。「世界の火薬庫」と呼ばれる同地域で突然起きたこの事件、世界中に衝撃が走った。

事件が起きたのは、イランを訪問中の安倍晋三首相が最高指導者のハメネイ師と会談中という最悪のタイミングだった。トランプ米大統領は「イランがやった」と発言。米国防総省は、イラン革命防衛隊による犯行の証拠だとする動画や写真を公開するなどして関与を断定したが、攻撃の決定的な証拠は示していない。

写真) タンカーに接着された水雷
写真)タンカーに接着された水雷

出典) 米国防総省

写真) 水雷を除去した際についた手の跡
写真)水雷を除去した際についた手の跡

出典) 米国防総省

写真) 水雷の攻撃を受けて船腹に開いた穴
写真)水雷の攻撃を受けて船腹に開いた穴

出典) 米国防総省

写真) 水雷除去を行うためにタンカーに横付けするボート
写真)水雷除去を行うためにタンカーに横付けするボート

出典) 米国防総省

写真) 水雷除去後に現場を去るイラン革命防衛隊のものとみられる巡視船
写真)水雷除去後に現場を去るイラン革命防衛隊のものとみられる巡視船

出典) 米国防総省

動画) 水雷除去作業を行う革命防衛隊と米側が公開した動画

出典)米国防総省

トランプ政権はすぐに反応、6月17日、中東地域に約1,000人の米兵を追加派遣すると発表した。5月下旬に情報収集部隊を中心に1,500人の増派を決めたばかりだ。

続く6月20日、イランは領空を侵犯したとして米無人偵察機を撃墜したと発表。これに対し米軍は、無人偵察機が攻撃を受けた際、ホルムズ海峡上の国際空域を高い高度で飛行しており、イラン沿岸から約34キロ離れていたと発表。無人偵察機はイラン領空を侵犯していなかったと反論した。

写真) イランに撃墜された米無人偵察機 RQ-4 Global Hawk
写真)イランに撃墜された米無人偵察機 RQ-4 Global Hawk

出典) U.S. Air Force photo by Bobbi Zapka

トランプ大統領は翌日21日、イランへの報復攻撃を計画したが、開始10分前に撤回したとツイートした。150人の犠牲者が出るとの報告を受け、判断したという。

トランプ大統領のツイート

事態は目まぐるしく進んでいる。複数の米メディアは、米軍が20日、イランのミサイル制御システムなどにサイバー攻撃を行ったと報じた。さらに、米国は対イラン追加制裁を24日に発表した。最高指導者のハメネイ師や革命防衛隊の幹部8人を制裁対象に指定した。最高指導者に対する制裁というのも異例だが、米国における保有財産の凍結や米企業との取引の禁止などを含むという。イランと外国企業との金の流れを制限する狙いだ。

一方、トランプ氏はツイッターで、日本と中国を名指しして、両国が原油の大半をホルムズ海峡経由で輸入していることを指摘、「何故我々は長年何の見返りもなく、他国のために輸送路を守っているのか。これら全ての国は常に危険な航海を伴う自国の船舶を自ら守るべきだ。」と述べた。さらに、「米国が世界最大のエネルギー生産者となった以上、我々はそこにいる必要すらない。米国がイランに求めるものは単純だ。核兵器を持たないことと、テロを支援しないことだ。」とイランに圧力をかけた。

トランプ大統領のツイート 6月24日

このトランプ大統領の発言は、重大な意味を持つ。何故なら、万が一米国がシーレーンの防衛を放棄するようなことになれば、「一帯一路」政策の名のもと、海のシルクロードを構築中の中国に、同地域への進出の大義名分を与えることになる。日本のシーレーンの安全をどう確保するのか。米・イランの対立は日本のエネルギー安全保障に大きな影響を与えかねない。

ホルムズ海峡とは

ここで、ホルムズ海峡が何故これほど世界の注目を集めるのか。その地理的な位置を見てみよう。ホルムズ海峡は、ペルシャ湾とオマーン湾の間に位置し、世界的な石油海上交通の要衝だ。

図) 中東ホルムズ海峡
図)中東ホルムズ海峡

出典) Google Map

地図で見てわかる通り、同海峡は非常に狭隘だ。幅は、最も狭い地点で約34km(大体は 55~95km程度)で、タンカー航行は一方向の幅わずか約3.2kmという狭い輸送レーンに限定されている。その上、イランが沿岸に、ミサイル部隊や機雷、高速艇などを多数配備している。

図) ホルムズ海峡
図)ホルムズ海峡

出典) Uwe Dedering (編集部作成)

日本にとってホルムズ海峡はどのくらい重要なのだろうか。以下の図を見てもらいたい。日本は原油の約99%を海外輸入に依存しているが、なかでも中東からの輸入は実に8割強を占める。輸入先はサジアラビアとアラブ首長国連邦が大半を占め、カタール、クウェート、イランがあとに続く。

図) 原油輸入量
図)原油輸入量

出典) 「今日の石油産業2018」石油連盟

「シーレーン(Sea Lane)」とは海上交通路のことだが、各国の原油輸送船はこのシーレーン上を航海する。日本は中東に原油依存しているため、中東への入り口とも言えるこのホルムズ海峡が封鎖ともなれば原油輸入に大きな影響をもたらすこととなる。ホルムズ海峡は日本にとってまさしく最も要衝なシーレーンである。

図) 日本のシーレーン
図)日本のシーレーン

出典) 自由民主党(佐藤正久事務所作成)

日本への影響

米・イランの対立が今後どうなるか、予断を許さないが、事件直後の6月13日は原油価格の指標であるWTI原油先物価格が一時1バレル=53.45ドルまで上昇、前日終値比で4.5%急伸した。その後じりじりと値を上げ、1バレル=57.83ドルとなっている。(6月25日終値)

仮にホルムズ海峡有事となっても、日本には原油の備蓄がある。日本の石油備蓄事業は、国の直轄事業である「国家備蓄」と、民間石油会社等が法律により義務付けられて実施している「民間備蓄」、さらに産油国と連携して行っている「産油国共同備蓄」の3本立てとなっている。2019年4月末現在の我が国の石油備蓄は、以下の通り、225日分ある。

図) 石油・石油ガス備蓄体系
図)石油・石油ガス備蓄体系

出典) JOGMEC

備蓄日数
国家備蓄 133日分
民間石油備蓄 87日分
産油国共同備蓄 5日分
合計 225日分

(注:備蓄日数:石油備蓄法に基づき、国内の石油消費量をもとに計算したもの。)

出典) 資源エネルギー庁

しかし、米・イラン間で軍事衝突の可能性は低いとしながらも、両国の対立は、中長期的に日本経済にも影響を及ぼすと専門家は警鐘を鳴らす。

写真) 第一生命経済研究所経済調査部・首席エコノミスト永濱利廣氏
写真)第一生命経済研究所経済調査部・首席エコノミスト永濱利廣氏

© エネフロ編集部

第一生命経済研究所経済調査部・首席エコノミスト永濱利廣氏は、米国の制裁強化に喘ぐイランが、欧州に経済的結びつきの正常化を求めていることに言及。「イランがイギリス、ドイツ、フランスに経済保証しないと、核再開発するぞ、と言っていますが、それに対して欧州各国はちゃんと答えようとしていません。7月以降、また一悶着あるかもしれないと警戒しています。」と述べ、イランを巡る同地域の緊張関係は長引くとの見通しを示した。

その上で、日本経済への影響について、「軍事衝突が起きなくても、(イランを巡る緊張関係が続くと)原油の先物価格が上がります。そうするとガソリンや軽油や灯油の値段が上がります。又、原油が上がれば当然天然ガスの価格も上がります。すると、電気・ガス料金が上がる、輸送コストの上昇で、直接エネルギーとは関係ない物価も値上がりします。我々庶民の生活に負担増としてのしかかることになります。」と述べた。

普段意識することがあまりないエネルギー安全保障の問題が、今回期せずしてクローズアップされている。

安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
Japan In-depth

SERIES  /  連載

グローバル・エネルギー・ウォッチ
国際情勢が日本のエネルギー安全保障に与える影響について解説するシリーズ。