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編集長展望

vol.12 「エネルギー安全保障の考え方」日本エネルギー経済研究所常務理事・首席研究員小山堅氏

写真) 日本エネルギー経済研究所常務理事・首席研究員小山堅氏
©エネフロ編集部

まとめ
  • 政府が発表した第5次エネルギー基本計画を評価。
  • 再エネの『統合コスト』問題が今後の課題。
  • 2050年のエネルギー政策に向けて革新的技術への挑戦が求められる。

政府は2018年に、我が国のエネルギー政策の基本方針を示す第5次エネルギー基本計画を閣議決定した。我が国のエネルギーを考える時、安全保障の視点から語られることはそう多くはない。今回は日本エネルギー経済研究所常務理事・首席研究員小山堅氏にそうした視点から話を聞いた。

エネルギーミックスの意味

まず小山氏は、エネルギーが我々の生活とか、経済、あるいは国家の運営そのものにとって、どうしても必要なものだということが基本にあると話す。

「エネルギーがなければ灯りもなく、エアコンも動かず、移動もできず、工場も動かせない。エネルギーは軍事物資として時には戦略的な財としての価値が出てくる。人間が活動していく以上絶対不可欠なものだから、そのエネルギーを安定的に、環境にやさしい形で、且つアフォーダブル(手ごろ)な値段で供給を確保するというのが、ある意味広義のエネルギー安全保障の形だと思う。」

エネルギー安全保障は、日本だけではなく、すべての国にとって共通の課題であり、まさに生活の基盤中の基盤。環境対応や、合理的な値段で追求してくことを、バランスをとってやってくことが非常に大事だと小山氏は言う。

「そのバランスをとる上で、それぞれの国の置かれている状況や、それぞれの企業や消費者が置かれている状況は千差万別なので、状況に応じて合理的なバランスをとるやり方には違いがある。日本の場合は、日本の経済的、あるいは資源賦存状況、さらには国際的な状況の中で、この問題を考えていくこと大事だ。」

一方小山氏は、政府が2050年に向けて野心的なCO2 の排出削減目標も踏まえながら、2030年のエネルギーミックスの達成を目指すことを再確認したことを評価した。その上でこう語る。

「エネルギーミックスについては、2030年について1つのあるべき姿を描いて、これを達成すべき、と定めてきた一方で、今回の基本計画では、より長期の2050年について、革新的な技術に期待しながら、複線シナリオの考えを基に、柔軟に対応していく、という方向性が出たことが注目されます。」

エネルギーミックスを議論する総合資源エネルギー調査会長期エネルギー需給見通し小委員会のメンバーでもあった小山氏は、エネルギーミックスは、こうなるでしょうという「見通し」とは性格が違って、政府として「あるべき姿」という位置付けだという。

「あるべき姿というのは、エネルギー安全保障を強化のため自給率を向上させ、欧米に遜色のないGHG(温室効果ガス)削減目標を定め、電力コストを下げる、という3つの「E」いわゆる「3E」を同時に達成するためのものです。委員会の議論の場で、これは自然体で達成できる見通しである、といって決めたわけではない。国としてエネルギー・環境政策に関して追求すべき目標として掲げられたわけです。」

つまりエネルギーミックスは、現時点で考えうる「あるべき姿」を私たちは追求していくべきだ、という国のメッセージだというわけだ。しかし、この「あるべき姿」を実現するのは楽なことではない、と小山氏は指摘する。

「原子力発電所の再稼働には予想より遥かに時間が掛かっている。社会受容性や「リーガルリスク(法的なリスク)」、さらにはテロ対策施設建設に関わる課題などもあり、再稼働には課題が山積している。だからといって、原子力発電を、難しいからやめようというわけにはいかない。原子力発電が持つ潜在的なメリットや日本の経済・エネルギーへの貢献というのは、日本政府も、産業界もよく理解しているからこそ、難しいけどなんとかしなければいけないと思っている。」

加えて小山氏は、複雑さを増す要素として「電力の自由化」を挙げる。競争原理の中で、電力事業者は発電コストが相対的に低い原子力発電を持つことに優位性を見出しているが、同時に再稼働に伴う不確実性やこれから先、発電コストがどれだけかかるか見えにくくなっている点を指摘した。

「それが原子力発電を難しくしている1つの重要な要因だと思う。だから政策サイドとすると、原子力発電が日本の「3E」同時達成においてどういう意味と重要性を持っているのか、ということをきちんと位置付け、その中で原子力発電が(2030年の電源構成比)20〜22%を達成するためにはどのような政策が必要なのかということを、具体的に展開していかなければいけないと思います。」

再エネのあるべき姿

FIT(全量買い取り制度)の下、急速に導入が進んだ太陽光発電。容量の面でこの成長を評価しつつも、結果として多額の再エネ賦課金を国民は負担している点を小山氏は指摘した。

「最終的には消費者がすべて負担することになるわけで、電力コストや消費者にとってのアフォーダビリティ(支払い可能性)の問題ともダイレクトに結びつくことになります。だからエネルギー基本計画の中で言う、再エネが経済的に自立して主力電源化する、ということを達成するためには、日本がいかに再エネを経済効率的に導入できるか、が鍵になります。これは再エネ政策を抜本的に見直すことを求めることになります。そして、日本の再エネ導入コストを引き下げていかないといけないということだと思う。」

日本の再エネ発電コストは世界的に見て非常に高い。このギャップをいかに縮めていくのかということが、2030年、2050年に向けたエネルギー政策としてやるべきことだと小山氏は強調する。

図) 日本の再エネの高コスト構造の早期是正
図) 日本の再エネの高コスト構造の早期是正

出典) エネルギー情勢を巡る状況変化 経済産業省

確かに再エネ発電コストを下げることは至上命題だ。しかし、日本の商習慣や流通コストなどがのしかかる。太陽光パネルの価格が下落し続ける中でも、日本の再エネ発電コストは世界から見ても高止まりしている。これを放置していてはいけないだろう。

更に小山氏はもう一つの問題を指摘した。それが再エネの「統合コスト」の問題だ。

再エネ「統合コスト」とは

「日本の再エネが、今後は低炭素電源として導入がさらに進み、電源でのシェアが大きく上がってくる場合、その供給の間歇性(不安定性)が高い電力供給をどう吸収するのか、そのコストの部分が課題になってくると思う。これはいわゆる再エネの『統合コスト』の問題だ。統合コストと言うのは、再エネのシェアが上がれば上がるほど上昇していく。この問題も含め、日本のトータルのエネルギーコストをどうやって適切に抑えていくのかと言う課題が重要である。」

「統合コスト」とは、太陽光や風力など自然由来でその供給が大きく変動することに対応し、変動を吸収して電力供給の安定を保つための様々なコストのことをいう。例えば、バッテリーを大量に接続するコスト。あるいはグリッド=連系線を拡大して、電力を融通し合うコスト。さらにはバックアップとして天然ガス火力を活用するコスト、などを指す。

「発電コストだけ下げたら解決する問題ではない。再エネのシェアが大きくなればなるほど、統合コストが上がり、全体的なコストは膨らむわけで、これをどう抑制していくのかが、2030年、50年に向けた非常に大きなチャレンジとなっていくと思う。」

写真) 小山堅氏
写真) 小山堅氏

©エネフロ編集部

小山氏はこの「統合コスト」について日本エネルギー経済研究所も含め、世界で研究が進められているとしている。

「結局、トータルで見るとどうなるかという視点が抜け落ちてしまうと、ある意味ではいびつなエネルギーミックスになってしまう。そういう面でも、再エネ統合コストの問題もしっかり検討しつつ、ベースロードとして安定的に電力を供給できる原子力発電の意味を再確認し、1つのオプションとしてきちんと考えるのが基本スタンスなのではないか。」

日本のエネルギー安全保障

日本はエネルギーでは脆弱な立場にあることに異論はない。我が国のエネルギー安全保障を考える時、可能なオプションは排除せずすべてうまく使っていくことが重要だと小山氏は指摘する。

「どのエネルギー源も完璧ではない。利点と課題がそれぞれに併存している。原子力にも再エネにも、石炭にも、LNGにも、石油にも、どれにも固有に非常に優れたところもあるし、逆に固有の大きな課題もある。基本的なスタンスは、それぞれの固有の弱みをできるだけ乗り越える工夫をしながら、全てのオプションを組み合わせてうまく使っていくことだ。」

「日本は、現時点で原子力が若干再稼働して、再エネが増えたといっても、一次エネルギーの9割はやはり化石燃料。その時に原子力発電と言うオプションは、国家全体からしてみると、資源国・産油国等に対する戦略的な対抗力の源泉と見ることができる。安全保障という観点では、世界を俯瞰して、巨視的に見る必要がある。」

世界に対し、日本の立場を堂々と発信することが重要だとも小山氏は言う。2030年のエネルギーミックスで、日本は石炭発電の比率は26%程度としている。

「本来使いうるオプションを自ら放棄し、資源国に足下を見られるようなポジションには絶対なるべきではないと思う。日本は、石油も、LNGも、そして石炭もうまく使っていく。石炭による火力発電の比率を26%としながら、日本のGHG排出削減目標である2013年比26%削減というのは、欧米のどの国と比べても、遜色のない野心的な目標だ。石炭も使いながら、CO2削減もどの国にも負けない野心的なものであることを正々堂々と言っていかなければいけないと思う。」

写真) 小山堅氏
写真) 小山堅氏

©エネフロ編集部

日本としてベストミックスの追求もしながらGHG排出削減目標を達成していくと言うことを世界に知ってもらう努力が必要だという氏の主張は重要だ。

天然ガス

歴史的に日本は中東からの石油に過度に依存してきた。そうした中、石油危機を経て、日本は、エネルギー安全保障のためにコストをかけて、輸入源の多様化を進め、石油のシェアを下げてきた。代わりに、天然ガス(LNG)も石炭も使い、原子力や再生可能エネルギーを増やすことで多様化が進んできた。これから先もそれは変わらないだろう。

LNGは液化して運ばなければならない。液化にもコストがかかるし、運ぶタンカーも特別なタンカーの建設が必要で、ある意味でプレミアムなエネルギーだ。たまたま今年は、日本が1969年に東京電力と東京ガスが、初めてLNGをアラスカから輸入してから50周年。今や日本は世界一のLNG輸入大国となった。その上で小山氏はLNGの調達に関しこう語る。

「いま、LNGは日本の電源構成の中心になっている。どうやって安定的に合理的な値段で買うか。そのためにはアメリカのLNGを始めとして、豪州もカタールもロシアもモザンビークも、いろんなものをうまく競わせながら、合理的な値段で買うことだ。世界一のLNG輸入大国というポジションをいかにうまく活用して買っていくかが求められている。」

これから日本が取り組むべきこと

2050年に向けて低炭素化や、エネルギー安全保障や、価格のアフォーダビリティを守っていくために、何をしなければいけないのかと考えた時、期待されるのは新しい技術の貢献だと小山氏は指摘する。

「技術革新という時、それは需要サイド、供給サイド両方で重要になる。革新的技術というのは将来の技術なので、現時点でどの技術が勝つのか、見通しは難しい。その意味では様々な革新的技術にトライしていく必要がある。他方、エネルギーの世界でも各国間の技術競争が注目されているが、技術の覇権が世界の覇権を左右するのではないかとも見られている。それはまさに米中貿易戦争の背景には技術覇権をどちらが握るか、という問題があるのと供給の話である。どの国が最も先進的な技術を握って、世界のトップを握れるのかと言う競争でもある。」

エネルギーの世界では今、誰がどの技術を持って、優位に立てるのかという競争をやっている。そういうことで、日本もそこに遅れないようにしないといけないと小山氏は強調した。

小山氏の指摘を待たず、日本のエネルギーには様々な制約要因がある。そうした中、エネルギー安全保障、環境対応、国民負担の問題、さらには安全の問題などを高次元でバランスさせて行かねばならない。私たちの後の世代に持続可能なエネルギーを残すために、日本の総合力がまさに試されている。小山氏の話は多くの示唆を含んでいる。

安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
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