出典) pixhere
- まとめ
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- 上では「電力・ガスシステム改革」に焦点を当てる。
- 電力全面自由化により、消費者の選択肢は着実に広がった。
- ガス自由化は消費者の関心が高まらず浸透度は低い。
先日、新元号“令和”が発表された。平成という1つの時代の終わりを実感した人も多いのではないだろうか。
平成は災害が多かった。まず阪神淡路大震災、東日本大震災という巨大地震が起きた。西日本豪雨、北海道胆振(いぶり)東部地震は記憶に新しい。平成最後の編集長展望では、平成のエネルギー史を振り返ってみたい。上では、大きく進んだ電力・ガスシステム改革について、下では、東日本大震災以降大きく変わった日本のエネルギーミックスと再生可能エネルギーについて見る。
平成のエネルギー政策
平成のエネルギー政策のキーワードといえば、「地球温暖化対策」や「再生可能エネルギー」、「省エネルギー」、「石油産業の規制緩和」、それに「電力・ガスシステム改革」などが思い浮かぶ。
振り返ってみると、戦後我が国では、発電・送電・配電・売電を地域の電力会社が一貫して行う、いわゆる地域独占体制がとられ、電力の安定的供給が図られてきた。しかし、次第に日本の電気・ガスは高コストであるという問題が顕在化し、産業の国際競争力を高める観点から、電力・ガスシステムの改革が必要だとの議論が出てきた。そうした流れの中で電力自由化が段階的に進められてきた。
出典) 資源エネルギー省
1. 電力自由化とは
近年、世界のインフラ分野は、自由化による市場開放で競争を生み出そうとしている。1978年、米国の航空規制緩和以降、通信の自由化などさまざまなインフラの自由化が実施されてきた。1980年代以降、米国・欧州・日本において、インフラ事業の自由化の流れが動き始め、こうした流れが、エネルギーに到来したことが電力自由化のはじまりだと言える。
東日本大震災を機に電力自由化の議論が起きたのではなく、実は1995年以降、段階的に自由化が進められてきた。
■ 電力自由化の目的
電力自由化の目的は以下の3点だ。
① 安定供給の確保
広域的な電力融通の促進と、再エネや自家発電など多様な電源の活用。
計画停電に頼らないシステム構築などを通して実現。
② 電気料金の最大限抑制
企業間での競争の促進と、電気の生産や販売を行う企業の活性化により達成。
③ 電気利用の選択肢、企業の事業機会の拡大
一般家庭、企業などすべての電気利用者が、自由に事業者を選べるようになることで、イノベーションが起き、企業のビジネスチャンスが拡大する。
■ デメリット
こうしたメリットが期待できる反面、場合によっては料金が値上がりするというデメリットも起こりうる。先にこの制度を導入した欧州や米国などでは、自由化後、電気料金が値上がりしたという調査結果も出ている。電力自由化により競争が促進されたとしても必ずしも電気料金が下がるわけではない。
■ 導入の経緯
電力事業には「発電」「送配電」「小売」と3つの部門がある。このうち「発電」部門は、1995年の電気事業法改正により原則として参入が自由になった。自前の発電施設で作った電気を電力会社に販売する、いわゆる「独立系発電事業者(IPP=Independent Power Producer)」の卸供給事業参入が認められたのだ。
次に、2000年3月には電力小売自由化が開始した。まず「特別高圧」区分の大規模工場やデパート、オフィスビルが電力会社を自由に選ぶことができるようになり、新規参入した電力会社「新電力」からも電気を購入することが可能になった。
出典) 経済産業省 資源エネルギー庁
さらに、2004年4月と2005年4月には、小売自由化の対象が「高圧」区分の中小規模工場や中小ビルへと徐々に自由化の領域が拡大。これにより、日本の電力販売量の約6割が自由化の対象となった。
2011年3月11日の東日本大震災直後の計画停電や節電の取り組みは覚えている人も多いのではないだろうか。震災による電力不足が国民生活に大きな影響をあたえたことを教訓とし、緊急時にも対応できる、広域間で電気をフレキシブルに供給し合える体制作りを行うことも、制度改革の目的のひとつとなった。震災前から取り組み自体は進んでいたが、震災を機に加速したと言えるだろう。
そして、2013年から検討されてきた電気事業制度改革により、電力の全面自由化の最終段階に入った。
2016年4月1日、電気の小売業への参入が全面自由化され、「低圧」区分の家庭や商店も含む全ての消費者が、電力会社や料金メニューを自由に選択できるようになった。 ようやく個々のライフスタイルに合わせ、電気の売り手やサービスを自由に選べるようになったのだ。
■ 現状
電力小売全面自由化導入2年後となる2018年の電力契約の切り替え件数は約620万件。契約切り替え率は全体の約10%まで拡大した。ガスとのセット販売など、消費者の選択肢は着実に広がった。
出典) 経済産業省
大手広告代理店電通の電力自由化に関する生活者意識のアンケートを見てみると、直近の2018年12月時点で、家庭用電力小売自由化を「内容まで知っている」層は30.8%、「自由化は知っている」層を加えれば、約80%の人が認知している。
出典) 株式会社電通
「エネルギー自由化に関する生活者意識調査」第8回(2018年12月に全国20~69歳 男女5,600名対象)
一方で、下図によると電力購入先の変更経験者はまだ 10%台にとどまっている。直近の調査では12.4%だ。同じ電力会社内での料金プランの変更は 9.3だった。
出典) 株式会社電通
「エネルギー自由化に関する生活者意識調査」第8回(2018年12月に全国20~69歳 男女5,600名対象)
出典) 株式会社電通
「エネルギー自由化に関する生活者意識調査」第8回(2018年12月に全国20~69歳 男女5,600名対象)
契約会社や料金プランの切り替えや切り替えの検討を行わない理由を内閣府の調査で見てみると、「いずれの理由でもない」が31 %で最多で、以下「現在契約している会社や料金プランと比べて料金があまり変わらないと思われるから」が23.1%、「現在契約している会社や料金プランに満足しているから」が22.5%、「契約変更の手続きに手間がかかりそうだから」が14.6%、「料金プランの比較検討に手間がかかるから」が9.7%と続く。認知度は高くても情報不足などから実際に行動に移すまでに至らない人が多いということだろう。
また、新規参入が相次ぎ、消費者の中に若干の混乱が見られることもあろう。筆者は東京在住だが、普段使用している私鉄が電力小売りに参入すると、毎月のでんき・ガス料金を同社発行のクレジットカードで支払うと一定の割合でポイントが貯まったり、提携先のケーブルテレビの利用料が割引になったりするサービスを大々的に開始した。
携帯電話とのセット割も登場している。そうした各種サービスは消費者にとって魅力的ではあろうが、やはり一番のインセンティブは電気料金の安さであろう。切り替えが進まないのは、実際に電気料金を試算するのが面倒くさい(もしくはやり方がわからない)という層がまだまだ多いと思われる。
2. ガス自由化
■ガス自由化とは
上記で説明した、電力自由化の1年後、2017年4月からは、ガスの小売り自由化が進んだ。ガス小売り自由化とは、ガス会社を自分で選べるようになることだ。それまで、都市ガスは地域によって使う会社が決まっていたが、「地域独占」が撤廃され、それぞれの家庭が好きなガス会社から、ガスを買うことが出来るようになったのだ。
■自由化の目的
資源エネルギー庁によるとその目的は以下4つである。
① 天然ガスの安定供給の確保
ガス導管網の新規整備や相互接続により、災害時供給の強靱化を含め、天然ガスを安定的に供給する体制を整える。
② ガス料金を最大限抑制
天然ガスの調達や小売サービスの競争を通じ、ガス料金を最大限抑制する。
③ 利用メニューの多様化と事業機会拡大
利用者が、都市ガス会社や料金メニューを多様な選択肢から選べるようにし、他業種からの参入、都市ガス会社の他エリアへの事業拡大等を通じ、イノベーションを起こす。
④ 天然ガス利用方法の拡大
導管網の新規整備、潜在的なニーズを引き出すサービス、燃料電池やコージェネレーションなど新たな利用方法を提案できる事業者の参入を促
■現状
経産省の発表によると、2019年2月末時点で、ガス会社を切り替えた消費者は7.6%。ガスの調達は難しいため、参入企業が増えず、消費者の関心も高まらないのが現状だ。
電力とガスをセットで販売する新電力も数多く参入し、消費者にとってはさらに選択肢が増えたが、一方でどのような組み合わせがあるのかわかりにくくなっている状況もある。今後は消費者にとってメリットが簡単に分かるサービスを提供することが今まで以上に求められることになるだろう。
これまで電気・ガス料金について一切気にかけてこなかった人も、これをきっかけに色々検討してみたらどうだろうか?料金が下がるだけでなく、他の追加サービスが受けられるかもしれない。
次回は、再生可能エネルギーの動向などについて触れる。
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