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テクノロジーが拓く未来の暮らし

Vol.08 5Gで社会が変わる 超高速通信の衝撃

写真)5G - Mobile World Congress 2016
出典)flickr : Kārlis Dambrāns

まとめ
  • 第5世代移動通信システム(5G)の商用化が目前。
  • その特徴は、「超高速」「多数同時接続」「超低遅延」。
  • 5Gの利活用分野は多岐にわたり、経済効果は計り知れない。

5Gとは?

あらゆるモノがネットワークを通じて繋がるようになった今、通信の重要性が高まっている。IoT(Internet of Things:モノのインターネット)の急速な普及によってネットワークに接続されるモノの数は急増し、膨大な量のデータが取得・蓄積されるようになった。大量の情報をより迅速にやり取りできるような仕組みが求められている今、5G(ファイブジー)、つまり第5世代移動通信システムが注目されている。

これまでも1Gから現在主流の4Gまで、通信速度は格段に向上してきており、最大通信速度はこの30年間で約10倍になった(下図参照)。そうした中、5Gの特徴は、「超高速」、「多数同時接続」、「超低遅延」を実現することだ。これらはまさに、IoTの基盤技術そのものであり、多くの産業に変革をもたらす。

図:移動通信システムの進化(第1世代~第5世代)
図:移動通信システムの進化(第1世代~第5世代)

出典:総務省「2020年の5G実現に向けた取組」3ページ

まず第1の特徴である「超高速」を見てみよう。5Gでは最高伝送速度が10Gbpsとなった。これは現行LTEの100倍である。4K/8Kなど高精細映像の超高速な伝送が可能になり、2時間の映画なら約3秒でダウンロードできるというから驚きだ。動画配信のダウンロードに時間がかかってイライラすることはもう無くなる。

第2の特徴である「多数同時接続」とは、基地局1台から同時に接続できる端末を飛躍的に増やすことだ。5Gでは現行LTEの100倍である100万台/k㎡の接続機器数が可能となり、狭いエリアでの同時多数接続が可能になる。自宅の部屋内において現行の技術で繋がるのはスマホやPCなど数台だが、多数接続により自宅内でも約100個の端末・センサーがネットに繋がるようになる。情報通信研究機構(NICT)は昨年3月、実証試験で端末約2万台の同時接続を確認したと発表した(情報通信研究機構)。

総務省は「例えば倉庫に保管された多数の物品の位置や中身の把握、また、災害時に大勢の避難者にウェアラブル端末を着けて健康状態を遠隔で確認する、といった用途への活用が見込まれる」としている(総務省HP)。在庫管理の効率化で企業は大幅なコスト削減が可能になるだろうし、配送の迅速化は消費者にとって大きなメリットだ。また、災害時の安否確認や避難者の健康管理にも役立つとなれば、人的被害を減らすことができるだろう。

第3の特徴である「超低遅延」とは、通信ネットワークにおける遅延、即ちタイムラグを極めて小さく抑えられることだ。5Gでは現行LTEの10分の1である1ミリ秒程度の遅延に留まる。高い安全性が求められる自動運転や遠隔ロボット操作、遠隔医療に活用できる。

図:5Gの特徴/5Gとは何か
図:5Gの特徴/5Gとは何か

出典:総務省HP 平成29年 総務省情報通信審議会新世代モバイル通信システム委員会報告/総務省「2020年の5G実現に向けた取組」5ページ

5Gの利活用分野

では、具体的に5Gの利活用分野を見ていこう。総務省は「農林水産業」「交通、移動、物流」「スマートシティ(エネルギーなど)」など12分野を提示している。

一番、経済効果が大きいのは、交通、移動、物流分野だ。交通事故の低減、渋滞の低減、自動運転による運転時間有効活用、カーシェアリン グ普及による経済効果は、なんと合計で21兆円に及ぶと試算されている。

図)自動運転のための5GのIoT活用
図)自動運転のための5GのIoT活用

出典)総務省

5Gによって高速移動中の大容量通信が可能になれば、鉄道や自動運転車の中で超高精細動画を存分に視聴できるようになる。新たなモビリティ・エンタテインメント市場が生まれるだろう。考えただけでもワクワクする。

図)交通、移動における5Gの利活用イメージ
図)交通、移動における5Gの利活用イメージ

出典)総務省

次に経済効果が大きいのは、工場、製造、オフィス分野だ。不良品の検出や製品の分別を瞬時に行ったり、 工場内の設備を全て5Gで接続しリアルタイムな制御やメンテナンスを行ったりすることで、大幅にコストを削減でき、かつ安全性も高まるだろう。製造業におけるオペレーションの最適化、在庫効率化、人件費効率化で効果は合計約13.4兆円と試算されている。

3番目に経済効果が大きいのは、医療、健康、介護の分野だ。5Gにより、遠隔地からの手術が可能になり患者の負担が軽減される。医療の均質化も図ることができる。また、ウェアラブルデバイス(腕や頭部など身体に装着して利用する端末=デバイス)で患者のバイタル(脈拍や心拍数・呼吸(数)・血圧・体温など)を瞬時に測定すると共に、そのデータをすぐカルテに反映し共有することもできる。

こうした予防サービス市場の拡大で生活習慣病が減ることによる医療費削減や、健康寿命が伸びることによる介護の軽減で、合計5.5兆円の効果が期待されている。

図:健康サービスのための5GのIoT利用
図:健康サービスのための5GのIoT利用

引用:総務省 「5Gの利活用分野の考え方」 25ページ

特に遠隔医療システムは、過疎化やへき地の医師不足問題の福音となろう。すでに和歌山県などで官民一体の実証試験が進んでいる。今年1月の実証実験では、へき地の患者の往診における遠隔診療と、医大の指導医によるへき地の若手医師の遠隔教育に活用できるかどうかを試した。実際に音声や鮮明なエコー映像を5Gで送り、遠隔診療や遠隔教育に十分活用できることが確認された。2020年以降の実用化を見据えている。これまでもインターネットによる遠隔医療の可能性は検討されてきたが、5Gにより一気に実現可能性が高まったと言える。

写真)和歌山県地域医療支援センターの実証実験の様子 2019年1月
写真)和歌山県地域医療支援センターの実証実験の様子 2019年1月

出典)和歌山県地域医療支援センター

また、スマートシティ分野における5Gの利活用イメージは、「街中の交通情報が共有され、渋滞の解消される世界」「エネルギーが効率よく分配され、環境に優しい街」「街中のサイネージが人々の行動を支援」などがある。こうしたスマートシティにおける経済効果はエネルギー関連、スマートパーキング、デジタルサイネージ関連で合計2.5兆円(10年間合計)と試算されている。

5Gが社会に与えるインパクトは我々の想像をはるかに超え、様々な産業が恩恵を被るだけでなく、新たなビジネスが生まれる契機となる。そうした中、電気を作る資源のほとんどを海外から輸入している我が国において、5Gを活用して「エネルギーを効率よく使う社会」を実現することは極めて重要なことだと思われる。刻一刻と変わりゆく社会の変化をこれからもお伝えする。

参照)
総務省 2020年の5G実現に向けた取組
総務省 5Gの利活用分野の考え方
総務省 5G実現に向けた進捗状況について
総務省 新世代モバイル通信システム委員会 技術検討作業班における検討状況
総務省 情報通信白書 「5Gの概要」
総務省 情報通信白書 「5Gの特徴」

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IoT、AI・・・あらゆるものがインターネットにつながっている社会の到来。そして人工知能が新たな産業革命を引き起こす。そしてその波はエネルギーの世界にも。劇的に変わる私たちの暮らしを様々な角度から分析する。