図)新型波力発電装置
出典)平塚海洋エネルギー研究会
- まとめ
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- 風力発電の導入量が世界で急拡大している。
- その内、注目の「洋上風力発電」の技術開発が進む。
- 波の力を利用する「波力発電」の実証実験も始まっている。
電力事業者の使命は良質なエネルギーを安全に安く、安定的に需要家に届けること。日夜、さまざまな技術について研究開発が行われているが、なかなか人の目に触れることはない。昨年11月、電力事業者と関連協力企業や研究機関、大学などによる技術発表会、「テクノフェア2018」(主催:中部電力株式会社技術開発本部)を取材し、これまで2回リポートしたが、最後に再生可能エネルギー技術研究の最前線をお伝えする。
再生可能エネルギーというとまず太陽光発電を思い浮かべるかもしれない。しかし、世界では風力発電の導入量が急拡大している。2017年の世界の風力発電の設備容量は、2016年の487,279MWから539,123MWに増加(前年比+10.6%)と、引き続き2ケタ成長が続いている。
(世界風力会議(Global Wind Energy Council:GWEC)「GLOBAL WIND REPORT 2017 – ANNUAL MARKET UPDATE」より)
提供)国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
日本でも風力発電の導入量は急速に増えており、各地で風車を目にする機会が増えた。
出典)国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
しかし、海に浮かんでいる風車となると、見たことがある人はそう多くはないのではないだろうか。その「洋上風力発電」が今、注目されている。その理由は陸上よりも風況が良く、騒音、景観などの環境問題が少ない。そうしたことから大型タービンが導入しやすいなどのメリットがある。
ではどのような国で洋上風力発電が進んでいるのかというと、英国、ドイツ、オランダ、デンマーク、ベルギーなどの欧州諸国がメインだ。この5カ国だけで、世界の洋上風力全体の9割近くを占めているという。
その洋上風力発電には、着床式と浮体式がある。その名の通り、着床式は、プラントの基礎を海底に固定して建設するもので、海岸から比較的近距離の場所に建設される方式で、遠浅の海岸に適している。浮体式の洋上風力発電は、設備を海に浮かべ、ワイヤーで海底に係留する方式で、水深50mより深い場所に建設される。
提供)中部電力株式会社
洋上風力発電の実用化が進んでいる欧州は、遠浅の海岸が多く、気象条件も比較的安定していることから、着床式の洋上風力発電が多い。日本の場合は、近海に遠浅の海岸が少ないことや、台風が多いことから、固定式だと暴風で設備が損傷・損壊する危険性が大きい。それに比べて浮体式は、強風で海が荒れても、基礎が海底に固定されていないため、そうした危険性が比較的少ない。周囲を深い海で囲まれた我が国にとって、浮体式は開発可能量を拡大するために重要な技術だといえる。
浮体式風力発電は、風車を含む浮体を下図のように複数の係留索(チェーン)と錨(アンカー)で海底に固定する。
提供)中部電力株式会社
このように期待されている浮体式洋上風力発電であるが、浮体の動揺や風車の挙動などの特性を解明することが極めて重要だ。今回、最先端の水理模型実験について話を聞く機会があった。
実験設備は以下の通り。水槽はかなり大きなもので、海上のさまざまな風や波を再現できる。
- 水槽:深さ3m、150~300mの深海を再現。
- 大型送風機:実際の沖合の洋上で発生する強い風(最大風速60m/s)を再現。
- 造波装置:洋上でのさまざまな条件の波(最大波高15m)を再現。
- 風車模型:大縮尺(1/50~1/100)の浮体式洋上風力発電システムの実験が可能。
提供)中部電力株式会社
提供)中部電力株式会社
提供)中部電力株式会社
浮体式洋上風車は、海上の風や波を受けると、風車全体が揺れたり移動したりする。したがって、風車の構造部材の強度や発電性能などの諸特性に影響を及ぼす動揺特性を正しく評価しなければならない。これだけの大規模な実験装置が必要なわけだ。
政府は風力発電の導入ポテンシャルを陸上で約3億kW、洋上で約15~16億kWと試算している。しかし、台風の襲来が多い日本では構造物の強度とコストが重要課題だろう。洋上風力の商業化に向けて、こうした地道な水理模型実験と数値解析を用いた基礎研究が重要なのだな、と実感した。
波力発電
もう一つの技術開発は「波力発電」だ。耳慣れないかもしれないが、文字通り波の力を利用して発電する技術だ。日本は周囲を海に囲まれており、大いなるポテンシャルを秘める波力・潮力などの海洋エネルギーだが、実際はほとんど未利用である。ではどのように波の力を利用して発電するのだろうか?
最近、国内初となる、系統接続された波力発電装置(プロトタイプ)が開発され、将来の実用化に向け、波力発電の最新技術動向および導入適地に関する調査研究を推進している。それが岩手県久慈市の久慈波力発電所だ。文科省東北復興プロジェクト(H24~H28年度)により、東京大学が開発した。
提供)東京大学
- 形式:油圧式波力発電(ウェイブラダー(Wave Rudder)方式)
- 出力:43kW(フルに発電した場合、約15世帯分に供給可能)
提供)東京大学(2016年9月撮影)
しくみは、水中部の波受け板(ラダー:船の舵の意味)が波を受けて振り子のように揺動し、上部の油圧発電システムを動かして発電するもの。意外と構造はシンプルに見える。油圧装置は船舶用の油圧操舵機の技術を応用しているという。
提供)東京大学
今回、実験に使用されている造波水路は、波浪を水路で再現し、港湾海岸構造物の安定性を調査するものだ。水路は、長さ74m × 幅1.0m × 深さ1.8m の鉄筋コンクリート造りで、観察窓10m(ガラス)がついている。最大波高60cmが再現できる。
提供)中部電力株式会社
実際に造波装置が動くと、すぐに大きな波が再現された。この実験を通して、エネルギー変換効率の向上を目的として、ラダー形状の最適化や制御方法開発のためのデータ取得を行っているという。確かに波の強さは一定ではなく不規則なので、高度な制御が必要になってくるのだろう。
環境省プロジェクトとして昨年採択された委託事業(3年間)では、神奈川県平塚市の平塚漁港でWave Rudder式としては2番目となる実証機を開発し、実用化に必要な技術目標を具体的に実証することを狙いとしている。中部電力もこの事業に全国13社とコンソーシウムを形成し参加している(東大共同研究)。スケジュールは以下の通り。
- 2018年度…設計・部品製作、模型による水槽試験
- 2019年度…実証機製作、海域へ設置、発電開始
- 2020年度…発電性能評価、撤去
2020年以降の早い時期から商業化を目指しているようだ。洋上風力発電とともに大きな可能性を秘めている「波力発電」。今後の技術開発を見守りたい。
- 参考)
- ・NEDO再生可能エネルギー技術白書
- ・NET:東北復興次世代エネルギー研究開発プロジェクト
- ・環境省 報道発表資料
平成30年度CO2排出削減対策強化誘導型技術開発・実証事業(二次公募)の公募採択案件について
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