写真)碍子を洗浄している様子
©株式会社天禄商会
- まとめ
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- 電力事業者と関連協力企業や研究機関、大学などによる技術発表会「テクノフェア2018」を取材。
- 台風が海から運ぶ「海塩粒子」が碍子(がいし)に付着すると停電の原因に。
- 電気を安定的に届けるため、「活線碍子洗浄」が行われている。
電力事業者の使命は良質なエネルギーを安全に安く、安定的に需要家に届けること。日夜、さまざまな技術について研究開発が行われているが、なかなか人の目に触れることはない。今回、電力事業者と関連協力企業や研究機関、大学等による技術発表会、「テクノフェア2018」(主催:中部電力株式会社技術開発本部)を取材する機会があったのでその一部を紹介したい。
自然災害対策 海塩粒子とは
2018年は夏以降、大きな自然災害が起きた。特に西日本豪雨(平成30年7月豪雨)では、西日本を中心に北海道や中部地方など広範囲で浸水や土砂災害が発生し、死者200名以上の大惨事となった。また、広域停電が各地で発生し、市民生活は甚大な被害を被った。
台風が引き起こす被害というと、土砂崩れや浸水など直接的なものにまず目が行くが、実は間接的なものがある。その一つが「塩害」だ。詳しく説明しよう。
まず、発電所で発電された電気は、鉄塔に張られた送電線を通り、その後、電柱に張られた配電線を通って各家庭に送られる。その鉄塔や電柱の上には、「碍子(がいし)」と呼ばれる白い磁器製の器具が付いているが、読者の皆さんは目にしたことがあるだろうか?目立たない地味な存在だが、碍子は鉄塔や電柱(大地)と電線を絶縁するという大変重要な役目を担っている。以下の写真がそれだ。
出典)Pixabay
提供)中部電力株式会社
さて、その碍子にとって汚れは大敵だ。汚れには、煤煙、化学煙、海水、花粉、土砂、イオウ化合物(SO2,SO3)などいろいろあるが、その中に台風が海から運んでくる「海塩粒子」という細かい塩がある。
その「海塩粒子」が曲者で、配電線では、電線被膜やカバーなど樹脂材料が焼損したり、碍子が破損するなどの、いわゆる設備被害を引き起こすだけではなく、碍子に付着すると停電が起きやすくなるという。では、そのメカニズムを見てみよう。
まず、海塩粒子が碍子に付着する(下図②)。すると碍子の表面に「コロナ放電」(注1)が発生しやすくなる(下図③)。その放電がつながると碍子の沿面に「閃絡(せんらく)」(注2)が起きる(下図④)。そして、電気が鉄塔(大地)に流れて停電に至る(下図⑤)というわけだ。
提供)中部電力株式会社
海塩粒子による停電を防ぐために、碍子の個数を増やしたり、碍子の襞(ひだ)を伸ばして、放電しにくくするなどの対策は取られているが、より効果的な方法として、電気を送りながら直接人の手で碍子を洗浄する方法が取られている。それを「活線碍子洗浄」と呼ぶ。
活線碍子洗浄
停電の原因になりうるコロナ放電は、碍子が降雨によって洗浄されたり、天候回復によって乾燥することで解消されるが、より効果的なのは直接人の手で碍子を洗浄することだ。送電線では、電線から離れた位置から碍子を洗浄できる「活線碍子洗浄器」という電気を流さない特殊な器具を使用することで、 “電気を止めることなく”碍子を洗浄することができる。だから「活線」と呼ばれている。
提供)中部電力株式会社
提供)中部電力株式会社
提供)中部電力株式会社
洗浄器はあらゆる形状の碍子に対応しているが、作業自体は、碍子1個1個、襞(ひだ)1枚1枚行う、根気のいる仕事だ。また、高所での作業もあり、安全には細心の注意を払って行われているとはいうものの、熟練した技術が求められるのは想像にかたくない。正直、筆者は台風が塩害を引き起こすことも、こうした作業工程があることも知らなかった。
提供)中部電力株式会社
こうした工具も日々改良を重ねてより効率的に洗浄ができるように研究開発が行われている。洗浄は地道な作業だが、電気を安定して各家庭に届けるためにはなくてはならないものだと思った。
- コロナ放電
碍子表面の海塩粒子により空気の絶縁が局所的に破壊され「ジィー」という音と光が発生する現象。小雨などで湿度が高くなると発生しやすい。 - 閃絡
空気が絶縁破壊して火花あるいはアークでつながること。
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