写真)正のダイポールモード現象
©JAMSTEC(国立研究開発法人海洋研究開発機構)
- まとめ
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- 日本列島今年の夏は猛暑に見舞われ、観測史上最高気温を記録するところ続出。
- インド洋における正のダイポールモード現象が日本に影響を与えた可能性あり。
- 地球規模の気候変動を予測することは、健康・医療の観点から重要。
今年の夏は猛暑が続き、7月23日には埼玉県熊谷市で観測史上最高となる41.1度を記録し、5年ぶりに国内記録を更新した。6月末から7月初めにかけて西日本豪雨で甚大な被害が発生したことも記憶に新しい。9月4日までの台風の発生件数は過去2番目のペースとなっている。まさに今夏は異常気象が続いた訳だが、その原因は何だったのだろうか。
国立研究開発法人海洋研究開発機構(Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology : JAMSTEC)によると、7月にインド洋において、正のダイポールモード現象が発生したのだという。この現象が今年の日本の気象に影響を与えていた可能性がある。また、エルニーニョもどき現象との同時発生の可能性が指摘されており、秋以降も世界の気候に大きな影響を与えることが予想される。
実際、ダイポールモード現象とエルニーニョもどき現象が同時発生した1994年の夏には、各地で史上最高気温が観測されるなど、猛暑を記録した。それぞれどのような気象現象なのであろうか。
出典)JAXAプレスリリース
ダイポールモード現象とは
熱帯インド洋で見られる気候変動現象で、5-6年に1度程度の頻度で、夏から秋にかけて発生し、正と負の現象がある。以下に説明する。
正の現象:熱帯インド洋の東部で海面水温が平年より下がり、西部で高くなるために、通常は東インド洋で活発な対流活動は西方に移動し、東アフリカのケニヤ周辺やその沖合で雨が多く逆にインドネシアやオーストラリア周辺では雨が少なくなる。これを正のダイポールモード現象と呼ぶ。
負の現象:一方、負の現象は、熱帯インド洋の南東部で海面水温が平年より高く、西部で海面水温が低くなり、これによって、通常は東インド洋で活発な対流活動がさらに活発となり、インドネシアやオーストラリアで雨が多くなる。
正の現象では、日本で雨が少なく、気温が高めに推移する傾向があり、負の現象では、逆に雨が多く、気温が低くなる傾向がある。
エルニーニョもどき現象とは
エルニーニョ現象は、熱帯太平洋の東部の海面水温が平年より高くなるのに対し、エルニーニョもどき現象は、熱帯太平洋の東部と西部で海面水温が平年より低く、中央部で海面水温が高くなる。この現象の原因は詳しくわかっていないが、世界各地の天候や海面水位の変動に影響を与え、地球温暖化に伴って今後頻度が増す可能性があるため、研究が進められている。
国立研究開発法人海洋研究開発機構アプリケーションラボ気候変動予測応用グループ研究員土井威志氏に気候変動について詳しく話を聞いた。今年の猛暑の原因はまだはっきりとわかってはいないという。
©エネフロ編集部
「今年の猛暑はまだ解析途中で、今国内国外の研究者が色々な仮説を立てて、検証している段階なのでわからない部分が多いのです。仮説の1つとして、インド洋の熱帯域の海水温の異常を起源とする異常気象、すなわち『ダイポールモード現象』の発生がその一因ではないかと思っています。」
「熱帯は日本から遠いですが、台風も熱帯で生まれます。地球全体で見たときに熱帯は、気候のエンジンみたいなもので、そこから色んなことが始まります。熱帯の海水温の異常が、日本に影響を与えるメカニズムは物理的に解釈できます。」
土井氏の研究を支えるのがスーパーコンピューターの進歩だ。JAMSTECは地球シミュレータと呼ぶスパコンを持つ。
「スーパーコンピューターは、どんどん能力が上がってきていますので、コンピューターの中で、バーチャルな地球を作ることができるようになりました。力学とか熱力学の方程式で作っている物理的な仮想の地球です。最近は、シミュレーション技術が上がってきているので、よりリアルに近い地球をつくることができるようになりました。」
出典)JAMSTEC
しかし、自然を予測するのはそう簡単ではないようだ。
「自然は計算可能だという信念でやっていますが、やはり限界値というものはあって、例えば1週間先の天気予報はなかなか当たらない。予測限界というものがあって偶然に動いてしまう部分が多い。季節予測は、予測できる部分をいかにつかまえていくかです。社会サービスとしては、天気予報よりはまだ距離があるイメージですね。それゆえに研究しがいがあるとも言えます。」
その季節予測にとって重要なのが、海の水温だという。では広大な海の水温をどうやって測るのか聞いてみた。
アルゴフロート
実は、全地球の海の水温は衛星がモニタリングしているという。そのデータはインターネットを介してほぼリアルタイムで入手できる。
では海の内部の水温はどうするのかというと、投げ捨て式の「アルゴフロート」という自動昇降型漂流ブイを海に放り込み、計測している。これは、アルゴ計画と呼ばれ、JAMSTECも多大な貢献をしている。
出典)JAMSTEC
さて、話を今年の猛暑に戻そう。筆者が子供の頃は最高気温もせいぜい32度くらいだったような記憶がある。しかし、最近は38度とか場所によっては40度を超すところもある。明らかに気温が高くなっているのでは?そう土井氏に聞いてみた。
©エネフロ編集部
「多分、(年々暑くなっているという)その直感は正しいと思います。2018年は記録更新して猛暑になった地点がすごく多かった。少なくとも現実世界で気温が上がっているのは間違いないと思います。なぜ2018年だったのかというと、結局、ゆっくり起こっている温暖化と、数年に一度発生するエルニーニョとかダイポールモード現象とかが、重ね合わさって相乗効果で現れたのが今年の猛暑ではないかと思います。」
つまり、猛暑の原因はさまざまな要因が絡み合って発生するというのだ。
何故、気候変動予測が重要なのか?
土井氏が研究している気候変動予測は、天気予報の精度にはまだ至っていないが、人類にとって極めて重要な意味がある。その一つが健康の問題だ。
「猛暑は当然、人の健康にも大きな影響を与えます。南アフリカでは気候変動で雨が多くなると、水たまりが増え蚊が大量発生してマラリアのパンデミックが起こりやすくなるのです。気候変動が予測できるようになり、それを社会応用できる術(すべ)を探していきたいと思っています。」
気候変動予測の「社会応用」が大事だと話す土井氏。例えば、マラリアのパンデミックが予測されるなら、政府は、人々に殺虫剤をかけることを推奨するでしょう。そうなると予算が決まる半年くらい前にはもう予測情報が必要ですが、予測が外れたら(殺虫剤の購入という)余分なコストがかかってしまう。逆に予測が当たればロスを減らすことができる。そういうコストとロスを上手に考えて、最適戦略を導いていくことを考えています。」
地球規模の気候変動を予測することは、健康・医療の観点から重要なことが分かった。無論、気候変動は農業・食糧の供給にも多大な影響を及ぼす。
猛暑や豪雨を引き起こす可能性のある気候変動は、電気事業者にとっても大きな関心事だ。安定的に電気を供給したり、災害に備えたりするのに、その予測は大いに役立つ。今後の気候変動予測研究の進化に期待したい。
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