写真)Fujisawa サスティナブル・スマートタウン空撮
提供)パナソニック株式会社
- まとめ
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- 神奈川県藤沢市の「Fujisawaサスティナブル・スマートタウン(Fujisawa SST)」を取材。
- 行政、企業、住民一体でエネルギー、セキュリティ、モビリティ、ウェルネス、コミュニティのサービスを提供。
- スマートハウスのモデルルームのコンセプトは家事の「時短」。今後もスマートタウンは進化し続ける。
「スマートタウン」とか「スマートシティ」などという言葉を聞いたことがあっても、実際に訪れたことがある人はそう多くはないだろう。ましてや住んだことがある人はもっと少ないはずだ。筆者はこれまで既存住宅街区を対象に、太陽光発電などでエネルギーを地域で創り、省エネを徹底してエネルギーの地産地消を目指す、いわゆる「エコタウン」的なものは取材したことはあるが、ニュータウン全体をスマート化した例は見たことが無かった。今回、神奈川県藤沢市の大規模スマートタウンをつぶさに見る機会が訪れたので8月に早速取材した。
Fujisawaサスティナブル・スマートタウン
藤沢市は神奈川県南部中央に位置する相模湾に接した市で、「湘南」と呼ばれる地域の中では最大の人口約43万人を有する。観光名所の「江の島」も藤沢市にある。その市の南にあるのが「Fujisawaサスティナブル・スマートタウン(Fujisawa SST)」だ。(以下、Fujisawa SST)
「Fujisawa SST」は、株式会社パナソニックの藤沢工場であった跡地を、パートナー企業18団体からなるFujisawa SST協議会と藤沢市と共に、官民一体となって共同で開発したものだ。2014年11月にオープンして、間もなく4年目に入る。
開発規模は敷地面積、南北300メートル、東西600メートで約19ヘクタール、東京ドーム4個分という広さだ。戸建て住宅600戸、集合住宅400戸、コミュニティ施設、商業施設、健康・福祉・教育施設などがそろう複合型スマートタウンプロジェクト。2020年度以降の完成を目指している。
街全体の数値目標は意欲的だ。環境面では、CO2 70%削減(対1990年比)、生活用水30%削減(2006年一般普及設備比較)、再生可能エネルギー利用率30%以上を目指している。
Fujisawa SSTの特徴は、街のサービスの質を高めるために、行政・企業・住民が協力し合って街のサービスの質向上に取り組んでいるところにある。そのサービスは、①エネルギー ②セキュリティ ③モビリティ ④ウェルネス ⑤コミュニティ の5つだ。具体的に見ていこう。
エネルギー
この街を訪れてすぐに目に入るのが、県道沿いの約400メートルのソーラーパネルだ。もちろん、全ての住宅、集会所や商業施設など、街中に太陽光発電システムや蓄電池を設置している。街の完成時には、全体で約3MWにも及ぶ太陽光発電を実装した、個別分散型のエネルギーマネジメントシステムになるという。
©エネフロ編集部
特筆すべきは、街全体のエネルギー情報を、住宅や商業施設などに設置されたモニターで「見える化」していることだ。太陽光発電により、自分たちで使うエネルギーは出来る限り自分たちで作る、自立共生型のエネルギーマネジメントを進めている。
セキュリティ
安全は住民にとって大きな関心事だろう。Fujisawa SSTは街の出入口を限定することで住民以外の人間が立ち入りにくくしている。またカメラ・照明が連動するセキュリティシステムや、セキュリティ担当者の巡回、さらにホームセキュリティシステムなどにより、街全体の安全性を高めている。アメリカなどでは、ゲーテッド・タウン(Gated Town)といって街全体を塀で囲み、住民以外の敷地への流入を防ぐ街があるが、Fujisawa SSTは、物理的に街を閉ざすのではなく、バーチャルに街のセキュリティを確保するようにしている。また、セキュリティ情報をセンターで一元管理しているのも住民の安心につながっている。
©エネフロ編集部
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また街路照明は、夜間誰もいない時は照度を落とし、人や車の通過を感知し先まで照らす安心でエコなシステムとなっている。街灯に設置したセンサーで、防犯カメラや照明と連動して、常に進行方向が明るくなるようになっているのだ。ここまできめ細かい制御をしていることに驚く。
次に災害時の町全体のエネルギーインフラだが、電線やインターネット用光回線は全て地中化され、災害に強い作りになっている。都市ガスは災害時に供給が確保される可能性の高い中圧導管で街の入り口まで送られ、家庭用の圧力に変えて住宅まで送り届けてられている。
街は、ライフラインを3日間確保することを目標とした、「CCP:コミュニティ・コンティニュイティ・プラン」の下で設計されている。普段は憩いの場である広場が緊急避難所になったり、災害用トイレがすぐ設置できたりする。しかし、こうした設備があってもその存在すら忘れがちだ。そのため広場に防災機能の説明板が立っていた。人間の心理が研究しつくされていると感じた。
©エネフロ編集部
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提供)パナソニック株式会社
モビリティ
移動手段は住民にとって大切だが、ここでは電気自動車や電動アシスト自転車などのシェアリングサービスが提供されている。カーシェアは、ポータルサイトから簡単に予約ができる簡便さも手伝い、住民の評判は上々、我々が訪れた時、どちらもほとんど貸し出し中だった。
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Fujisawa SSTの住民は30代、40代が中心だが、彼らはシェアリングサービスに抵抗感がない。気軽にモビリティサービスをシェア出来ることが評価されているのだろう。今後、更にサービスを強化することも考えているという。
ウェルネス
ウェルネスサービスの中核を担うのがウェルネススクエアだ。健康だけでなく、福祉・教育関連サービスの機能を擁する。
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ウェルネススクエアは、南館と北館からなる。南館がサービス付き高齢者向け住宅(同右)で北館が特別養護老人ホーム(写真上左)となっている。南館の1階は地域交流スペースだが、学習塾や、クリニック、保育園、学童保育施設が併設されている。つまり施設の高齢者と子供が自然と交流できるような造りになっているのだ。0歳から高齢者まで、全ての世代が一生健康で豊かに暮らせるサービスを提供するという「地域包括ケア」のコンセプトに基づく。やがて孫、子、親の3世代が幸せを感じつつ共生できる街に育つのではないか。そんな可能性を感じた。
コミュニティ
近年、地域コミュニティの在り方が問われている。特に大規模開発された地域では、住民同士の繋がりが希薄になりがちだ。そこで、新しい形の自治組織、「Fujisawa SSTコミッティ」というものが作られた。従来の自治会の役割に加え、街を運営・発展させていく役割を持った自治組織だという。Fujisawa SSTマネジメント株式会社がそのサポートをする。自治がシステムとして回る仕組みが考えられている。
また、街の情報や、各種サービスにワンストップで繋がるポータルサイトが提供されている。スマートフォン、パソコン住宅に設置されている50インチの大型スマートテレビからアクセス出来るのが便利だ。
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街の中は、海の風が通り抜ける「風の道」を設けられており、植栽も豊富だ。家と家の間には歩行者専用通路があり、子供達の安全が確保されている。
また、住民の集会所であるコミッティセンターや、街づくりの中核となる施設のFujisawa SSTスクエアがある。湘南T‐SITEは、湘南のライフスタイルを提案する文化複合施設で、TSUTAYA事業を展開しているカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社が運営している。本やカフェ、写真スタジオなどがあり、住民たちが集い、活気あふれる場となっている。ぶらぶら歩くだけでも楽しい場所だ。
提供)パナソニック株式会社
次世代型スマートハウス
Fujisawa SSTの核となるのが住宅だ。2014年の春の街開き以来、パナソニックホームズ、三井不動産レジデンシャルなどが展開する戸建て住宅に約500世帯が入居している。
今回、三井不動産レジデンシャル、東京ガス、パナソニックが中心に開発したモデルハウスを見学した。結論から言うと、住む人のニーズを心憎いまでに満たしている家だということだ。Fujisawa SST協議会各社との協業や、生活研究、住民とのタウンミーティングで得られた意見を反映させているという。
設計にあたり重視されたのは家事を担う人のニーズだ。近年、女性の就業率が上昇し、夫婦共働きの世帯が増加しているが、特に子育てママの時短ニーズが顕著だという。時短で生まれた時間で、睡眠や入浴、家族とのコミュニケーションを増やしたいというニーズが高いのだ。子育て世帯に時間価値や空間価値を提供するというのだが、どう実現されているのかをつぶさに見てみると、なるほど、と思わずにはいられない。
例えば宅配便の荷物の受け取り。玄関まで行ってドアを開けはんこを押し、重い荷物を持って移動するのは意外としんどいもの。このスマートハウスでは、昔の家で言う勝手口の役目を果たす「荷物受け取り窓」が台所脇のストックヤード近くに設置されている。荷物を受け取ったらすぐに収納が出来るのは便利だ。
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次に家事で時間がかかるものの一つに洗濯周りの作業がある。こちらのモデルハウスでは、風呂を二階に設置している。脱衣場を広めにとり、そこにアイロン台があったり、洗濯物を干すバーが天井から降りてきたり、その場で乾いた洗濯物を収納できたりする。脱衣場の隣がウォークインクロゼットで、更にその先が寝室となっている。効率よく家事ができるように工夫されている。
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次に掃除だ。我が家にもいる、お掃除ロボットだが、リビングの隅にあると、景観がよろしくない。こちらでは、お掃除ロボットを充電するドックがキッチンの収納部分に隠れるようになっている。これも家事をする人にとって得点が高いだろう。
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寝室では、睡眠環境サポートシステムで、就寝中の体の動きと連動し、明るさ・室温・音を自動でコントロールして快適な睡眠環境をサポートするようになっていた。将来的にはこうしたスマートハウスの機能が、AIスピーカーを通じて繋がり、住む人の生活パターンを学習して自動で動くようになるだろう。
Fujisawa SSTでは、これまでに600戸中500戸まで入居が済んでいる。残り100戸は2018年末には建設が終わる。住宅を開発・供給している三井不動産レジデンシャルの横浜支店開発室 主事宍戸優太さんと伊藤桃子さんに話を聞いた。住民の入居の決め手は何だったのだろうか?
「スマートタウンであることはもちろんですが、藤沢の街の中で街並み自体が非常に完成された大規模な戸建群は無かったので、そこが一番評価頂いてるんじゃないかと思います。
尚且つ、コミュニケーションやコミュニティが生まれるような街全体のコンセプトも評価頂いているのではないかと思います。」
実際に住宅を購入している層は30,40代で、子供が1人から2人の家庭が多いという。今回取材したモデルハウスは、住民からの「家事動線でもう少し工夫してある家だったら良いのになあ。」という意見があり、それを実現したという。それが先述した「時短」機能の開発につながった。
「今後は、家事動線でさらに工夫したものを商品企画に取り込んでいきたいと思っています。」
住む人の声で進化するスマートハウス。発電・蓄電といったエネルギー関連のスマート機能に加え、「使い勝手」というソフト部分が大きいのだと感じた。
©エネフロ編集部
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最後に、パナソニック株式会社 ビジネスソリューション本部 CRE事業推進部 開発営業課 主務 竹村英樹さんに話を聞いた。
「今、Fujisawa SSTは、街をつくるフェーズから育てるフェーズに変化しています。これからも社会・街の課題解決や、東京2020オリンピック・パラリンピックに向けた新しいサービスやソリューションの実証実験などを行っていきます。」
今後は電力事業会社などとの連携により、よりスマートな電力の運用なども視野に入ってくるだろう。社会と街と暮らしの形はこれからも進化し続けるに違いない。
©エネフロ編集部
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