写真)東日本大震災時の品川駅前の様子
出典)東京都防災
- まとめ
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- 名古屋市は災害に強いまちづくりを目指している。
- 課題は帰宅困難者を一時的に受け入れる退避施設が足りないこと。
- 「名古屋市防災アプリ」等をダウンロードし普段から防災意識を高めたい。
今でも思い出す光景がある。平成23年3月11日、東日本大震災の夜、幹線道路は動かない車で埋め尽くされ、歩道は帰宅する人々で溢れた。この時「帰宅困難者」の数、なんと約515万人。(内閣府推計)多くの人が自宅にたどり着くのに大変な思いをした。
こうしたことから内閣府は平成27年3月に「大規模地震の発生に伴う 帰宅困難者対策のガイドライン」をまとめた。その中で、大規模地震発生時においては「むやみに移動を開始しない」 という“一斉帰宅抑制の基本原則”の徹底を謳っている。大量の帰宅困難者が一斉に帰宅を開始すると、緊急車両の通行の妨げになり、 救命やライフライン確保などの応急活動に支障をきたす可能性があるからだ。これを受け企業等の事業者は3日を目安として備蓄を検討することになった。
政府の中央防災会議は、南海トラフ巨大地震が発生した際の被害想定を実施している。南海トラフ巨大地震が発生すると、静岡県から宮崎県にかけての一部では震度7となる可能性があるほか、関東地方から九州地方にかけての太平洋沿岸に10mを超える大津波の襲来が想定されている。(出典:気象庁)
出典)気象庁
愛知県の帰宅困難者対策はどうなっているのか、巨大ターミナルである名古屋駅を擁する名古屋市の担当者も交え、話を聞いた。
左から
村井邦弘さん 愛知県防災局災害対策課課長補佐
今枝政人さん 名古屋市防災危機管理局危機対策室主査
林亮太さん 名古屋市防災危機管理局危機対策室危機対策係主事
小島慶洋さん 愛知県防災局災害対策課主事
©エネフロ編集部
名古屋駅は122万人の人が乗り降りするターミナル駅だ。リニアの開発の緊急整備地域の枠の中で再開発と同時に、災害に強いまちづくりを行っている。(下図参照)BCP(Business continuity planning:事業継続計画)という言葉を聞いたことがある方もいよう。災害時に企業が事業を継続できるように備える計画のことだが、市ではその先にDCP(District Continuity Plan:機能継続計画)、BCD(Business Continuity District:事業継続基盤強化地区)の策定をにらんでいる。DCPとは震災時において都市機能がマヒせずに継続させるための計画であり、BCDとは地域のブランド力及び価値の向上を目指す計画のことをいう。
提供:名古屋市
今枝政人さん(名古屋市防災危機管理局危機対策室主査):
最終的にはこのBCDと呼ばれる範囲を高めていきまして、地域ブランド、災害復興が早いまちづくりにしていくことを目標に計画を作って進めています。
出典)第3次 名古屋駅周辺地区 都市再生安全確保計画 (平成30年5月)
地域全体の防災力を高めるだけでなく、地域のブランド力を高めて都市の国際競争力を強化しようという計画は世界の都市間競争が激しさを増す中で極めて重要だ。一歩先を行くものだと言えよう。
名古屋駅周辺地区の帰宅困難者
名古屋駅は1日の乗降客数約122万人の巨大ターミナルだ。その名古屋駅周辺地区に滞在している人や来訪者は最大で20万2千人(平日午後2時想定:下図参照)だという。そのうち、帰宅困難来訪者は4万2千人と想定されている。内訳は、買い物や出張などで一時的に来ている人3万8千人、建物倒壊などで職場や学校に戻ることが不可能な滞在者4千人となっている。
出典)第3次 名古屋駅周辺地区 都市再生安全確保計画(平成30年5月)
帰宅困難者対策の課題
帰宅困難者が駅周辺に溢れ、道路が人で埋まったりすると渋滞が発生し緊急車両が通れなくなってしまう。駅周辺のそういった混乱をなくすことで命の危険に差し迫っている人たちを助けることができる。
今枝政人さん(名古屋市防災危機管理局危機対策室主査):
最大の課題は帰宅困難者を一時的に受け入れる退避施設が足りないという事ですね。行政が一社一社足を運んでお願いしますと頭を下げて回っています。第三次名古屋駅周辺地区安全確保計画段階で、38カ所に増えましたがまだまだ足りていない状況です。
38カ所には名古屋駅南側の再開発地区「ささしまライブ24」に全面開業した複合施設「グローバルゲート」などが新たに加わった。それでも収容人数は約2.5万人(一人当たり1.65m2を基準に算出)にとどまる。帰宅困難来訪者約4万2千人に約1万7千人不足する。
「今後の計画ですが、協力いただける会社と言うのはあるんですけれども、やはり民間側にメリットがないとなかなか施設として提供できる会社は少ないですね。」(今枝さん)
防災アプリ
こうした行政や企業側の努力もさることながら、「自助」も重要だ。名古屋市は、「名古屋市防災アプリ」(平成26年開発)の市民への周知に取り組んでいる。
出典)AppStore
「今年4月時点で、約60,000ダウンロードを超えました。とても嬉しかったですね。広報してきたかいがあったなと。徒歩帰宅支援ステーションも地図上で見えるようになっているのでこれをまずは広めたいと言う思いです。」(今枝氏)
地図をキャッシュで持っておくことができるのでオフラインでも使えると言う。便利だ。
徒歩帰宅支援ステーションを検索してみると、近くのコンビニが地図上に現れた。
出典)筆者がダウンロードした名古屋市防災アプリ
こうしたアプリも存在自体を知らなければ意味がない。しかし、名古屋市では20年近くは洪水は起きていない。前回は18年前の東海豪雨の時だ。住民側の防災意識が重要であることは言うまでもない。今回の西日本豪雨を見ていてそう思う。
出典)Kazhidegu
出典)国土交通省
愛知県の取り組み
名古屋市以外の自治体の帰宅困難者対策はどうなっているのだろうか。愛知県では各市町村の取り組みを紹介し、全市町村に通知をして参考にしてもらっているという。
村井邦弘さん 愛知県防災局災害対策課課長補佐:
名古屋市や豊橋市のように本格的な対策を実施している市町村には、愛知県も検討会議や訓練などに参加しています。
先に紹介した「名古屋市防災アプリ」に載せる徒歩帰宅支援ステーションの情報も愛知県が取りまとめている。コンビニ等が水やトイレを支援してくれるわけだが、市町村の区域を越えて確保することから愛知県が主導してやっている。
「愛知県が事業者と協定を結んで、どこに店舗があるか市町村と情報を共有するため、例えば名古屋市の防災アプリにのせてもらうとか、他の市町村の帰宅支援マップに載せていただくとかして活用してもらっています。」(村井さん)
村井邦弘さん 愛知県防災局災害対策課課長補佐(左)
今枝政人さん 名古屋市防災危機管理局危機対策室主査(右)
©エネフロ編集部
こうした協力店舗は愛知県内で約7,700あり、コンビニやガソリンスタンド、飲食店、車の販売店、ドラッグストア、新聞の販売店なども含まれている。
今回甚大な被害をもたらした西日本豪雨の例を見ても、住民が土砂災害警戒区域や水害のハザードマップの存在は知っていても、普段あまりよく見ていなかった、との証言も報道されている。先ほど紹介した防災アプリも含め、我々の防災意識のあり方が改めて問われそうだ。
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