写真)株式会社 スプレッド 亀岡プラント
©株式会社スプレッド
- まとめ
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- 世界最大規模日量21,000株のレタスを生産する株式会社スプレッド亀岡プラントを取材。
- 夏以降、最新鋭の植物工場で栽培工程を自動化し、日量30,000株に引き上げる計画。
- 今後、海外に植物工場を100拠点作る予定。
「植物工場」と聞いて皆さんはどんな所を想像するだろう?オートメーションのラインに野菜がずらっと並んでいるような光景を思い浮かべるだろうか?
筆者はかねて植物工場に関心を持っていた。東日本大震災直後に岩手県陸前高田市に建った植物工場も取材したことがある。しかし、採算性などでなかなか事業化が難しいとの話も聞き、ここ数年はこの分野の取材から遠ざかっていた。
農業生産法人・有限会社グランパファームが整備、2012年稼働。2017年10月の台風21号の被害を受け閉鎖。
出典)Pasona
そうした中、世界最大規模の日量21,000株のレタスを生産する植物工場があると聞いた。株式会社スプレッドの亀岡プラント(2007年稼働開始)がそれだ。早速、京都府亀岡市に向かうと、広報部岡井良文課長が迎えてくれた。
©エネフロ取材班
実は亀岡プラントは既に黒字化しているという。その道のりは決して平たんではなかったろう。どのような苦労があったのだろうか、聞いてみた。
岡井スプレッドの植物工場事業は10年程前から始まっていたんですが当時大規模な空間で成功した例はありませんでした。栽培棟内のどこの場所でも同じ環境を作ると言うところが1番苦労した点ですね。あと前例がなかったので、生育の効率が良い条件を見つけるのに時間がかかりました。
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安倍いろいろな要素があると思うんですが温度、湿度、光。他社が、今までうまくいかなかったが御社がうまくいった理由は何でしょうか。
岡井それはトライ&エラーを繰り返しながら栽培効率を高めたからです。植物工場と聞くと未来的な感じがあるんですが基本的に、中の動きはアナログで、人の動きをいかに効率化するかと言うところが重要なのです。一つ一つの動きを突き詰めて効率化していきました。その中で実現した1番の大きな違いは歩留まり率です。実際製品になっていく割合というのが一般的には7割程度と言われていますが、弊社は97%。ほとんど製品化できるというのが黒字化を達成している大きな要因です。
安倍黒字化を達成するまでにはどれぐらいかかったんですか。
岡井7年です。工場が竣工したのが2007年7月で、2013年度に単年度黒字を達成した後、ずっと黒字です。
安倍育成環境のトータルなコントロールが1番優れているということですね。
岡井そこに自信を持っています。もう一つ黒字化で大きな要素は営業面です。植物工場の野菜を売っていくにあたって苦労したのは販売です。野菜をスーパーなどに持っていっても「太陽の光を浴びていない野菜なんて食えるか。」というところからスタートしました。そこで「一度、味で見てほしい」と丁寧に説明をして、マーケットを作っていきました。それが弊社の1番強いところです。
スプレッドは2006年に立ち上がった若い企業だが、稲田信二社長の『未来の子どもたちが安心して暮らせる持続可能な社会の実現を目指す』というビジョンの下、地道な営業努力の積み重ねがあったのだ。特に販路を自ら開拓したのには驚いた。工場から出荷した野菜は問屋などを通さず直販だ。
「店頭に並ぶまでのリードタイムを短縮し、かつできるだけコストを抑えるために直接お届けしています。もともと青果の流通業から始まったグループ会社なので、全国各地に配送できるのが強みなのです。」(岡井氏)
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現在、亀岡プラントの生産能力は日量21,000株。既に世界トップレベルだ。約100名の従業員がシフト勤務しており、1日に半数の約50~60名が稼働している。ほぼ全ての工程はまだ人の手に頼っていて、重量のあるパネルの上げ下ろしや運搬作業など負荷がかかる工程もある。
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今年夏以降、京都府木津川市に出来る最新鋭の「Techno Farm™(以下、テクノファーム)」は、育苗から収穫までの栽培工程を自動化し、日量30,000株にまで引き上げるという。
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テクノファームでは、最先端の栽培技術とロボティクス技術により、今まで人が行っていた苗の植え替え、パネル運搬を自動化する。栽培棟内を無人化することで衛生的で安全性の高い野菜を生産できるという。
また、作業スペースを最小化し、単位面積あたりの生産量を向上させる。それにより単位面積当たりの生産量は露地栽培に比べ、なんと120倍超となるというから驚きだ。植物工場の生産性は想像以上だった。
出典)Techno Farm
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こうした最新鋭植物工場は当然海外からも注目を集めている。スプレッド社は、海外に100拠点作るという野心的な目標を立てている。既に北米やヨーロッパ、中近東など、世界の60以上の国と地域から引き合いがあるという。特に引き合いが強いのはどこなのか、聞いてみると答えは意外な地域だった。なんと北米だという。
「北米はどちらかというと西海岸の方で野菜が作られていて、それを東海岸の方に届けるまでにものすごく時間がかかっているのです。」(岡井氏)
確かに筆者がかつてニューヨーク・マンハッタンに住んでいた時、野菜の鮮度が悪かったのを思い出した。消費する場所の近くに品質の良い野菜を作ることができるのなら、それに越したことはない。野菜の産地から遠い地域にとっては朗報ではないか。
Photo by Jim.henderson
「フードマイレージ(注1)という意味では(遠くから運べば)エネルギーを使います。消費地の近くで作れば、それ(フードマイレージ)が短くなりますし、より新鮮なものを届けられます。我々の、『どこでも、誰でも野菜が作れる』という仕組みがマッチするのだと思います。」(岡井氏)
テクノファームのもう一つの大きな特徴は「水のリサイクル技術」だ。レタス1株の栽培に必要な水の量は、露地栽培に比べ、100分の1に削減されるという。なにしろ蒸気になっている、いわゆる「蒸散」した水も集めて、98%リサイクルするのだ。
出典)Techno Farm
出典)Techno Farm
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よくよくパッケージを見たら自宅の近所のスーパーでよく見かけるレタスだった。早速食べてみると、水っぽくなく、レタスの味がしっかりしている。心なしか、パリっとしていて食感も悪くない。言われなければ植物工場で作られたレタスだとは誰も思わないだろう。
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今後世界に植物工場が展開していくと何が起こるのか?スプレッドでは、世界の各工場から様々な情報を収集し、さらに効率的な植物工場を作ろうとしている。
「今後、あらゆる条件で試行して、こういうレタスが取れたという情報をIoTで収集し、AIに解析させます。よりよい条件の良い栽培方法を見出していけば、さらに効率が上がり、品質も上がってコストは下がるでしょう。」(岡井氏)
これまで植物工場を作るのは無理だと思われていたような地域にも建設が可能になるということだ。
そして、今後は植物工場で使っているエネルギーも焦点になってくるという。
「特にヨーロッパでは植物工場も環境の面で導入したいと考えているところが多いです。その時に再生可能エネルギーはどうですかと聞かれます。欧州は我々のターゲットでもありますし、持続可能な農業の実現はビジョンでもあるので再生可能エネルギーの導入と言うのは前向きに検討しています。」(岡井氏)
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取材を終えて
農業は高齢化による後継者不足などから衰退産業と言われて久しいが、今回最先端植物工場を取材して、一筋の光明が見えた気がした。もはや農業というよりは製造業であり、しかも従来の製造業ではなく進化した新しい時代の製造業であると感じる。IoTとAIを駆使して、人類によりよい食生活を提供することができるのだ。
人口が増え続ける新興国や、農地が少ない国において、植物工場は福音となるだろう。日本の技術が世界の課題解決に貢献できるのは素晴らしい事だ。レタスだけでなく、様々な野菜が工場から出荷される時代がすぐ、そこにある。
- フードマイレージ
食料の輸送量に輸送距離を掛け合わせた指標。 単位:t・km(トン・キロメートル)
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