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- まとめ
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- 再生可能エネルギーの発電コストが急速に下がっている。
- 日本は2050年頃には電源構成の約8割を再エネにすべき。
- 再生可能エネルギー比率が5割を超すと水素の必要性が高まる。
小宮山宏氏は自ら「魔法瓶ハウス」と呼ばれる省エネ型住宅に住み、「二重窓」の普及などを提唱してきた。また、高齢社会における新たな経済モデル「プラチナ構想」(注1)構築の必要性を説いている。
国のエネルギー政策は転換の途上にあり、電力事業者は様々な制約の中で、電力の安定供給に努力しているのが現実だ。今回はそうした現実からいったん離れ、より多くの方にエネルギーや環境問題を自分事としてとらえてもらうため、敢えて小宮山氏の大胆な切り口の提言を紹介する。
再生可能エネルギー
4月10日、2050年を見据えたエネルギー戦略を議論していた経済産業省の有識者会合「エネルギー情勢懇談会」が「エネルギー転換へのイニシアティブ」と題する提言をまとめた。原子力発電は温室効果ガスの排出が少ないとの理由で維持することや、太陽光発電など再生可能エネルギーを「主力電源」として位置付けた。電源構成に占める比率などの数値は示さなかった。
一方、国の「エネルギー基本計画」は3年ごとに見直すことになっている。前回は2014年に改訂し、2015年には「長期エネルギー需給見通し小委員会」が「2030年のエネルギーミックス(電源構成)」を「再エネの比率22~24%」「原子力の比率22~20%」とした目標値を決めた。
出典)経済産業省
安倍政府は2030年に原子力と再エネを合わせて、電源構成の44%程度を目指しているわけですが、これでは足りないでしょうか?
小宮山全然足りないですね。再エネが第一ということをもっとはっきりさせないといけないと思います。2050年頃には電源構成の約80%が再エネという状況が実現していないと世界についていけないでしょう。
安倍世界の潮流はもう明らかにそっちに向かっていると?
小宮山もう明らかです。その背景は自然エネルギー、基本的に太陽光や風や水力などが、地球上に人間が使っているエネルギーの一万倍が転がっているわけです。これは安心・安全・持続的・無公害というのが基本的な特徴で、すでに世界で使いやすくなっています。それを反映し、IEAの最新データによれば全電源投資の約70%は再エネとなっています。
長期でいうと、わたしの家はもう15年太陽光発電を使っていますが壊れません。(編集部注:法定耐用年数は17年)最初作ったらずっと動くのが再エネです。世界では初期投資ですでに再エネが安いという状況ができているわけです。ところが日本だけ高いんです。
安倍なんでですか?
小宮山パネル自体は本当に安いんですが、後の設置工事とかのコストが高いわけです。
安倍そこを変えていけばコストが下がる可能性もあるのですね?
小宮山アメリカの投資会社で、ここ10年くらいの世界の平均発電コストの変化をデータにしているのですが、太陽光の発電コストは5セント/kWhに下がっているのです。
出典)Lazard, Levelized Cost of Energy Analysis, November 2, 2017をもとに株式会社三菱総合研究所作成
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小宮山最後は再エネが電源構成の100%(になることが理想)ですが、温暖化のことを考えれば、2050年に再エネが80%にいくまではやはりLNGガス火力が中心になるでしょう。
安倍常々小宮山さんは、日本人は省エネに非常に真面目に取り組むので、このままいったら人口減もあり、日本のエネルギー消費は半分になるとおっしゃっていますよね。
小宮山エネルギー消費のピークは2000年代の前半でした。そこからもう10%以上減っています。このままいけば、2050年までに半分以下になるのは確実でしょう。家庭、ビルは日本のエネルギー消費全体の4割くらい。そして自動車の消費量が大きいわけです。だいたい20%くらい。車を買い換えたらエネルギー消費は半分になります。車の数はもう6,000万台で飽和しているから減っていくわけです。工場のエネルギー消費も毎年確実に減っています。経済原則に従って。だから生活の質を上げながらエネルギー消費が減るというのは先進国では当たり前なわけです。
安倍そうすると世界のエネルギー事情っていうのは随分大きく変わってきますね。
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小宮山変わりますよ。いわゆるエネルギー安全保障は昔と比べると相当楽になっているわけです。もちろん短期的に中東、イランの情勢が怪しくなって、石油価格が跳ね上がるということはありますが、再生可能エネルギー80%の世界を作ってしまえば何の心配もありません。今買っているエネルギー約28兆円(注2)を買わないで済むと、内需になります。内需は東京だけではありません。
安倍はい。各地域ですね。
小宮山今、地域の過疎と東京の一極集中が日本の一つの大きな問題です。それに対して28兆円が地方におちれば、再生できます。国際的にも21世紀はフラットな社会になるのです。要するに資源国と非資源国の差がなくなるわけです。日本の中でいうと過疎地と東京の格差を克服する非常にいい経済手段になるわけです。
安倍そうするとスマートコンパクトシティ化も加速していきますね。
小宮山そうそう。心豊かに、自然と多様な人々との共生。移動が自由になって情報はタダ。地域間格差は減っています。だからそれをどうやって利用するかが問われています。それこそまさに「プラチナ構想」(注1)の根源です。
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安倍電力会社も変わりますか?
小宮山電力会社は、思い切って変わることを期待します。再生可能エネルギーを電力会社がやればいいと思います。
安倍資金力あるわけだから。人材もあるし、技術もある。
小宮山思い切って変える必要があります。それで同じ価格だけどどちらを買いますかということです。そうしたら再エネが売れるに決まっています。
中国の原発
安倍中国は沿海州に原子力発電所を沢山作る計画ですよね?
小宮山中国でも再エネが安くなっています。それなのに、まだ原発も作るのかと中国の人に聞いたら、量的には少ない、と言うわけです。
安倍でも100基くらい作る計画持っていますよね?
小宮山作る計画はありますが、実際の建設は遅れています。
安倍彼らも気づいているわけですね、再エネ。
小宮山完全に気づいていますよ。2016年には中国での再生可能エネルギーの設備投資金額が780億ドルと世界全体の約3割を占めています。もう世界の再エネの一番の導入場所は中国なのです。(注3)
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EVシフト
安倍世界のEVシフトもすごいですね。
小宮山そう。日本でEVが普及したと考えてください。今国内の自動車の総台数は6,000万台。確実に30億kWhくらいの電池を自動車が持つことになります。(編集部注:EVのバッテリー容量50kWhで計算。)
安倍蓄電池ですからね。災害時にも強い。
小宮山そう。それが繋がる世界になるに決まっています。「今蓄電池高いね」なんて言っていますけれども、自然と入る可能性が高いわけです。
安倍各住戸に?
小宮山そうです。でももちろん雨が降ったらどうするんだという話はあるから、今の送配電網(グリッド)がなくなるわけではありません。しかし、グリッドに流れる電気が少なくなる可能性は高いです。
安倍いずれスマートグリッドで電力融通し合うことになりますね。
小宮山だから早く電力会社はそういうことに気づいてほしいです。「もう日本は5年遅れだ」と言っている人も多いです。1箇所で発電して下に流すシステムから、無限の場所で発電してそれをやりとりするシステムに向かわなければならないのです。
安倍電力卸市場の必要性が高まりますね。
小宮山そういうソフト・ハードのインフラづくりは大変です。世界の動きのスピードが基準ですから。だから「少しは進んでいます」というのは進んでいないに等しいわけです。
水素社会
安倍水素社会の可能性はどう見ていらっしゃいますか?
小宮山最終的には水素が入ると思っています。再エネ比率が50%を超えたあたりから結構大変になると思います。
安倍そこに水素が安定的にベースとしてあれば。
小宮山そうです。ドイツは今もうすでに水素と言い始めているんですけれど、それは自動車を水素で走らせるということを言っているのではなくて、いよいよそういうことになった時に電池だけで貯められるかどうかという話です。電池は1日に何%かを自然放電します。それで、1週間くらい太陽が照らなかったらどうするんだ、ということはありうるわけです。長期的に言うと季節変動もありますし。
安倍その場合でいうと水素は作るなら水からですよね。化石燃料から作っても意味ないから。
小宮山それは議論の対象にならないです。
安倍化石燃料でやるっていうから駄目なんですよ。再エネを使って水からつくれば100%クリーンですけど。
小宮山それはコストが高くつきます。そして、コストを下げるにはイノベーションが必要です。
いつもながら小宮山さんのダイナミックな発想には脱帽だ。再エネ100%社会を目指すには技術革新とそれをやりとげようという国民の選択が必要なのだと思う。
エネルギー政策は、3つの「E」(安定供給、経済効率性の向上、環境への適合)と1つの「S」(安全性)(=3E+S)を基本的な視点としている。この4つの視点をバランスよく実現するのは容易なことではないが、私たちはやり遂げねばならない。
再エネ100%社会が理想ではあるが、そうした社会に到達する前に、解決しなければならない課題は山積している。特に現在停止している原発をどうするのか、という問題は残っている。3E+Sを念頭に、冷静に、そして現実的にエネルギー問題を考えることが必要だ。
- プラチナ構想
21世紀の社会的課題を解決する。それを公共事業ではなく、産業化することで新しい産業と雇用を創出することで持続可能な社会システムを確立すること。これをプラチナ構想(Platinum Vision)と呼び、日本が世界に先駆けて実現しようと取り組んでいる。(株式会社三菱総合研究所)
参考資料:「2050年80%削減は可能である」 - 外務省(平成28年3月発行資料)「日本のエネルギー外交」
- International Energy Agency「World Energy Investment 2017」
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