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出典)Paul Gonzalez
- まとめ
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- 局地的に大雨をもたらし突然消え去る「ゲリラ豪雨」が全国で甚大な被害をもたらしている。
- 理化学研究所はスーパーコンピュータ「京」と最新鋭気象レーダーを生かした「ゲリラ豪雨予測手法」開発に世界で初めて成功。
- リアルタイムデータとシミュレーションをつなぎ合わせて様々なことが可能になる。
突然現れて、局地的に大雨をもたらし突然消え去る「ゲリラ豪雨」。毎年、列島のどこかを襲って甚大な被害をもたらしており、昨年の7月から9月の間に、その発生回数は実に合計3479回にも上ります。(ウェザーニュース参照)予測することが非常に難しい「ゲリラ豪雨」。このゲリラ豪雨の発生予測を最先端で研究している、理化学研究所(理研)の計算科学研究センターに行ってきました。
©エネフロ編集部
理研のデータ同化研究チームの三好建正チームリーダーに話を聞きました。三好氏は2016年、世界有数の計算能力を誇るスーパーコンピュータ「京(けい)」と最新鋭の気象レーダーを生かした「ゲリラ豪雨予測手法」の開発に世界で初めて成功しました。
©エネフロ編集部
「京」と「フェーズドアレイ気象レーダ」の双方から得られる高速、かつ膨大なデータを組み合わせる、いわゆる「ビッグデータ同化」により、今まで想像もつかなかったようなスピードで高精度な天気予報が可能になったのです。具体的にどのような技術なのか、詳しく聞いてみました。
国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)
Qビッグデータ同化研究の成果を教えてください
三好一番最近の成果について紹介すると、気象衛星「ひまわり8号」のデータを使って、12時間後や24時間後の集中豪雨や台風を予測する新手法を開発しました。
ひまわり8号は10分毎に地球を撮影して、大気中の水蒸気の動きなどを観測しています。その10分毎に送られてくるビッグデータを生かすことで、これまで1時間毎に更新していた気象予測を、10分毎に更新できるようになりました。これに先立って、2016年の夏には、30秒毎に更新する気象予測で、100Mのメッシュでシミュレーションし、30分予測を行うゲリラ豪雨を予測する手法を開発しました。
提供)理化学研究所
その後2017年の夏に「3D降水ナウキャスト手法」(注1)を新しく作りました。現在は、30秒毎に得られるフェーズドアレイ気象レーダの観測データをリアルタイムに処理し、10分後までの予測データを算出しています。
出典)理化学研究所
また、株式会社エムティーアイによるスマホのアプリに配信してユーザーに実際に(気象予測を)届けています。(理研の10分後予測は関西圏のみ)
出典)株式会社エムティーアイ
Q最新のプロジェクトの現状は?
三好このプロジェクトは「CREST(JST戦略的創造研究推進事業)」の研究課題として取り組んでいます。これが始まったのが2013年の10月1日。
出典)理化学研究所
5年半のプロジェクト期間があり、今年の夏頃に事後評価があるので、そこを目指してこのプロジェクトの集大成をまとめようとしています。今リアルタイムでやっているのは10分後の予測、これを(東京オリンピックに向けて)30分後の予測にしたいと思っています。そのためには、「ビッグデータ同化手法」を使わないとできません。この目標を達成できるように最後のシステム開発をしているところです。
©理化学研究所
Qゲリラ豪雨の予測は、関西圏の他でも実用化していますか?
三好ゲリラ豪雨予測には、「フェーズドアレイ気象レーダ」という新しいレーダーを使います。このレーダーが今大阪大学の吹田キャンパスにあり、2012年の夏から稼働しています。また、神戸のNICT(情報通信研究機構)の未来ICT研究所にもあり、これらのレーダーを使って10分後までの予測が得られるのは関西だけです。
同じタイプのレーダーが沖縄と、つくばの気象研究所にあります。また内閣府の「SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)」という国家プロジェクトでも、昨年の12月にレーダーを開発しました。(参考:内閣府プレスリリース)縦と横の二つの向きの電波をだし、それぞれの跳ね返ってきた電波を別々に観測できる高性能なレーダーが埼玉に作られたときいています。ですので、可能性としては、今のところ関東圏と関西、沖縄しかないと思います。実際のサービスを行うのは、気象庁や民間気象会社ではないでしょうか。
©エネフロ編集部
Q「ビッグデータ同化」の他分野への活用にはどんなものが考えられますか?
三好「ビッグデータ同化」という手法を天気予報以外の分野に活用できるのではないか、と考えています。森林のシミュレーションには既に取り組んでいて、例えば、シベリアの森林について、人工衛星で見える葉っぱの面積の指数(どれぐらい緑か)や森林がどれだけ茂っているか、ということが観測されており、これをビッグデータ同化する。これを発展させて、日本の森林保全などに生かしていけないか、目指しているところです。
Q街中を走っている車が収集するデータも気象予報に活用できるのでしょうか?
ドイツの気象局ではすでに行われています。アウディ、フォルクスワーゲンと提携してそういう研究が始まったと聞きました。ドイツ気象局は一時間ごとに天気予報を更新しているのですが、車から得られるリアルタイムのビッグデータを生かして、より正確な天気予報を5分毎といった高頻度に得られるよう目指しています。もちろん日本でも同じことができると思います。
私たちの「ビッグデータ同化システム」では、100個のシナリオを描き、100通りの未来を予測します。不確実な未来を、刻々と得られる新しいデータで絞り込んでいくことで、より現実に近い未来シナリオを選んでいく。予測に基づいて、人々は行動を変え、未来を選ぶことができるわけです。
Q他にどのようなことができますか?
例えば、渋滞の制御、信号機の制御などによりアイドリングをする車を減らせば、CO2の削減に繋がるかもしれません。運転している人も不快な思いをしなくて済みます。また、監視カメラが至る所にあるので、その車や人の動きを取り込みシミュレーションして、交差点に同じタイミングで入らないように動きを制御できれば、事故が起こらないようにできるかもしれません。
Q都市災害防止に向けた活用も期待できますね?
(地震や災害が起こると)普段は当たり前に使っているものが使えなくなります。難しい問題ですが、今後取り組んでいくべき重要な課題です。地震が起きたら避難所に行くまでに人がどういうふうに動くのか、ということをシミュレーションしている研究もあります。
Qビッグデータ同化や制御をすることで、未然に様々なことが防げるようになるのですね。
三好群集制御なども面白いと思います。例えばイベント時にスタジアムなどに人が集まっていて、同時にたくさんの人が出てきてみんな同じ駅の方向に向かって動くので大混雑する。そこで、途中に人が寄るような何か最適な場所を作るなどして、動きを制御することが考えられます。
渋滞に関しても、情報をドライバーに送ることによって、車の流れを最適に制御し、渋滞を起こらないようにもできる。リアルタイムのデータとシミュレーションをつなぎ合わせることで、様々なことが可能になると思います。
Q最後に一言
三好天気予報は、10年前20年前と比べると確実に当たるようになってきています。天気予報は、科学によって未来を予測する現代科学の成功例だと思います。人工衛星やスーパーコンピュータ、情報通信技術など人類が生み出した科学技術の結晶を駆使して天気予報に生かしていますが、同じようなことを人類が抱える様々な問題に対して、有効に使っていくことが重要だと考えています。
取材を終えて
「未来は不確実」ですが、予測から得られた情報によって、災害による被害を最小限におさえることができたり、社会的な課題を解決するこができる「ビッグデータ同化」が大きな可能性を秘めていることがわかりました。2年後の東京オリンピックでこの成果が示され、更にそれが世界で様々な課題解決に活用されることに期待が高まります。
- (注1)3D降水ナウキャスト手法
3次元的に隙間なくスキャンするフェーズドアレイ気象レーダの特長を生かし、立体的な気象予測を行う手法。従来の平面的な降水ナウキャスト手法を鉛直方向にも拡張し、急激に変動する積乱雲の立体的な動きを追跡できるようにすることで、上空から落下する雨粒によって降水が強くなるなど、より高精度な予測が可能となった。
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