写真)緊急時即応班(ERF=Emergency Response Force)
出典)中部電力
- まとめ
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- 浜岡原子力発電所の安全対策を見てきた。
- 原子力災害防止に向け、多重対策が施されている。
- 地域社会への情報発信が更に求められる。
全国の原子力発電所は東日本大震災後、安全対策を進めている。しかし、私たちはその実態を目の当たりにすることがほとんどない。メディアも詳しくは報道してこなかった。筆者は前職の時、制作を担当していたBSフジプライムニュースで東京電力柏崎刈羽原子力発電所の安全対策を取り上げたことがある。BSの報道番組だからこそできた事であり、地上波ではなかなかそこまで掘り下げることはない。
私が中部電力浜岡原子力発電所を訪れたのは約2年ぶり。前回は完成直後(2015年12月)の防波壁を、ウェブメディアJapan In-depthにて紹介した。2月9日に訪れその後の対策の進ちょくを見るのが目的だ。
敷地内への浸水を防ぐ
まず目に入ってきたのは前回見た「防波壁」。内閣府の南海トラフ巨大地震モデル検討会による津波高さの検討結果を踏まえ、海抜22メートルという高さとなった。その総延長は約1.6キロメートルに及ぶ。敷地は海抜6〜8メートルあるので壁の高さは14〜16メートルだが、それでも十分高い。初めて見るカメラマンと同行したスタッフも思わず息を呑む。
©エネフロ取材班
出典)中部電力
そして、防波壁の両端に「改良盛土」(2016年3月完成)がある。これも海抜22〜24メートル。津波が回り込んで敷地内に浸入するのを防ぐ。要は原子力発電所の周囲をぐるっと高い壁で覆っていることになる。
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もう一つ、浜岡原子力発電所の敷地内には、トンネルで海とつながっている「取水路」と「取水槽」がある。もし津波が来ると、海水面が上昇し、取水槽から海水が溢れる可能性があるので、取水槽の周囲に高さ約4mの溢水(いっすい)防止壁が設置してある。この防止壁には壁の内側方向だけに開く可動式フラップが付いており、壁の内側に水が溜まっても自らの水圧でフラップを押しつける為、外(敷地内)に水が漏れ出すことはない。
また、仮に津波が防波壁を越えて、敷地内に浸入し、溢水防止壁の外に水があれば、フラップが内側に開き、水は溢水防止壁の内側に吸い込まれる。吸い込まれた水は、取水路を逆流して海に戻るのだ。
出典)中部電力
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©エネフロ取材班
建屋への浸水を防ぐ
こうした対策で敷地内に水が浸入することは防ぐことができるはずだが、福島第一原子力発電所の事故の教訓から、建屋の防水対策も徹底している。今回、3号機の建屋を取材した。建屋そのものは、縦横約7メートルで厚さ1メートル、重さ40トンの「強化扉」と、縦横約6メートルで厚さ約80センチ、重さ約23トンの「水密扉」で守られている。更に建屋内にも水密扉が何重にもあるなど徹底している。今回、「水密扉」のうち1枚を実際開けてみたが、私の開けた水密扉は、重さが約2トンもあり、ずっしりと重い。が、開けられないわけではない。
出典)中部電力
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©エネフロ取材班
そして原子炉建屋内の「非常用ディーゼル発電機」にたどり着いた。非常用ディーゼル発電機は何らかの異常で発電所内への電力供給が停止した場合に起動し、原子炉を安全に停止する為に必要な電力を供給するという重要な役割を持つ。福島第一原子力発電所の事故の時、非常用ディーゼル発電機が津波で浸水したことは記憶に新しい。
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当然、浜岡原子力発電所の非常用ディーゼル発電機は建屋内水密扉で水の浸入から防護されており、約2週間発電出来る分の軽油が発電所構内に貯蔵されているという。
電源喪失対策
電源喪失の4文字は原子力発電所にとって最も避けねばならない事態だ。万が一建屋内の非常用ディーゼル発電機が使えない場合に備え、海抜40メートルの高台に6台の「ガスタービン発電機」が設置されており、燃料タンクも同じ高台にあり、最低7日間は発電できる。この発電機で原子炉に注水する為のポンプや、海水を使って冷やすための緊急時海水取水設備を起動するわけだ。
出典)中部電力
さらにこのガスタービン発電機が使えない場合、建屋内の「蓄電池」がある。また、移動可能な「電源車」でポンプを回して原子炉に注水するバックアップもある。
©エネフロ取材班
仮に電源を喪失した場合でも、「注水ポンプ車」が、海抜30メートルにある緊急時淡水貯槽などから水を原子炉に供給することになっている。これだけの多重対策を取っていることはほとんど知られていないだろう。もっともこうした対策もいざというときスムーズに実行されなければ意味がない。
©エネフロ取材班
緊急対策チーム
福島第一原子力発電所の事故の際、多くの東京電力社員が総出で対応に当たっていたのを映像で見たことがある人も多いと思う。安全対策をいくら施していても、それらの対策を有効に機能させるのは結局「人」であろう。ハード(設備対策)とソフト(現場対応力)、両方が強化され、車の両輪のように動いて初めて「安全」が担保される。
特に自然災害時にはどのような被害が発生するか予想もつかない。初動を誤れば重大事故を招きかねない、との考えから浜岡原子力発電所ではスペシャリストの育成を進めている。それが「緊急時即応班(ERF=Emergency Response Force)」だ。
出典)中部電力
ERFは24時間365日体制で稼働、約30人が配備、5班・2交代で勤務につく予定で、現在、運用開始に向けた準備を進めている。ERFは自然災害による構内のがれきを速やかに除去し動線を確保、緊急時に必要な様々な可搬型設備を運転し、必要な場所に運ぶ役目を果たす。彼らの初動が発電所内約600人におよぶ対策要員の緊急対応を迅速かつ円滑に導く。
1にも2にも普段の訓練が必要であろうと、所員に尋ねると年数回の総合訓練以外に、「図上演習も入れて訓練は年約700回行っている。」との答えが返ってきた。緊急時の頭脳となる、耐震の「緊急時対策所」も完成していた。
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©エネフロ取材班
リスクと向き合う
リスクは決してゼロにはならない。しかし、今回の取材を通し、浜岡原子力発電所のスタッフが、原子力災害のリスクに向き合っていること、そして様々な多重対策が施されていることを実感した。
今回強く感じたのは、電力事業者が地域の人々の不安に向き合うことの重要性だ。情報不足は社会にとって一番危険な事だろう。安全対策についての不断の情報発信が必要であるのは言うまでもない。エネフロは今後も取材を進め、多くの人に「安全性の追求」というテーマで情報を届けていきたい。
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