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テクノロジーが拓く未来の暮らし

Vol.100 電力・温水・融雪を雪から生み出す:進化した雪発電の可能性

写真)雪発電設備の前で 電気通信大学 榎木光治准教授と研究室の学生ら

写真)雪発電設備の前で 電気通信大学 榎木光治准教授と研究室の学生ら
©エネフロ編集部

まとめ
  • 温度差発電の一種、「雪発電」の実証実験が北海道ニセコ地区で実施された。
  • 発電量を増やし、生成した温水による融雪能力は大幅にアップ、豪雪地帯の負担を軽減。
  • 融雪水を再利用し、水不足対策にも寄与。災害時の小型インフラとしての可能性も。

ちょうど1年前、雪を利用することで生まれる温度差で駆動するピストンを用いて発電する、温度差発電を紹介した。(参考:ニセコで「積雪発電」お湯も電気も融雪も 2024.01.23)

この「雪発電」(注1)は、本来廃棄する雪を利用し、電力と温水が得られるだけでなく、融雪もできるという点で、毎年雪の処理に悩む雪国にとって期待が大きい技術だ。

今年は、昨年のシステムを大幅にバージョンアップして、今年2月18日、北海道倶知安町のニセコ地域にある実験設備で公開された。

再生可能エネルギー事業に取り組んでいる総合デベロッパーの東急不動産ホールディングス株式会社株式会社東急不動産R&Dセンター、電気通信大学が共同研究契約を昨年7月に締結し実証実験をおこなってきた。

雪発電の仕組み

ここで雪発電の仕組みをおさらいしておこう。

前述のように、雪発電は温度差発電の一種である。バイオマスの燃焼熱を「高温熱源」、融雪によって冷やされた不凍液を「低温熱源」として、 「スターリングエンジン」にてその温度差をエネルギー源に発電する。

自動車のラジエーターをイメージするとわかりやすい。冷却液(クーラント)はエンジンの熱を奪った後、ラジエーターで冷やされ、循環する。雪発電も同じことで、スターリングエンジンで温められた不凍液は雪の中をとおることで冷たくなり、低温電源として利用される。

雪の中に敷設されているチューブに温かい不凍液が流れることにより、雪が溶ける仕組みだ。

図)雪発電の概念図
図)雪発電の概念図

提供)東急不動産ホールディングス株式会社

そして今回の目玉はそのスターリングエンジンのエンジン容量を大幅にアップしたことだ。昨年は1.2kWだったが、今年は7.0kWと5倍超になった。1日に最大で168kWhの電力を発電(24時間、最大出力で稼働した場合)でき、 これは冬季の一般家庭の使用電力約12世帯分の1日の電力量にあたる。

また、今回の発電では発電効率が前回の実験より10%ほど向上していることを計測した。つまり「雪」が発電に寄与していることがこの実験で科学的に証明された。名実ともに「雪発電」といえる。

図)雪発電実証実験設備配置図
図)雪発電実証実験設備配置図

提供)東急不動産ホールディングス株式会社

スターリングエンジンの熱を吸収した不凍液は約90℃まで加熱され、以下のように、段階的に連続して有効利用される。

約90℃ 給湯、大量の雪の融雪
約50℃ 床暖房、融雪
約30℃ 屋根融雪、道路融雪
約 0℃ エンジン冷却

写真)スターリングエンジン(上)とバイオマスボイラー(下)
写真)スターリングエンジン(上)とバイオマスボイラー(下)

©エネフロ編集部

融雪の様子

実験設備を取材した前日は雪がかなり降り、当日朝は以下の写真のとおり、地面にも屋根にも約20cmの積雪があった。融雪を始めて数時間で雪は溶けてなくなった。今回、榎木准教授が考案したこのシステムは、100cm(1メートル)を人工的に積雪させても、人の手を一切加えず、数時間で溶けるほどの余力があるそうだ。

豪雪地帯では、雪かきは重労働であり、事故の原因にもなっている。特に雪発電による融雪システムが実装されれば、屋根の雪かきが必要なくなり、転落の危険性はなくなる。

写真)実験設備入口前道路融雪前
写真)実験設備入口前道路融雪前

提供)榎木研究室

写真)融雪後(融雪した後に路面が乾いている、余力がある証拠だ)
写真)融雪後(融雪した後に路面が乾いている、余力がある証拠だ)

©エネフロ編集部

写真)屋根融雪前(積雪量20cm)
写真)屋根融雪前(積雪量20cm)

提供)榎木研究室

写真)屋根融雪後(人工的に100cmの積雪で融雪しても余力があるほど)
写真)屋根融雪後(人工的に100cmの積雪で融雪しても余力があるほど)

©エネフロ編集部

成果と課題

今回の実証実験では、融雪以外にも成果がみられた。それが融雪で得られた水の有効利用だ。実はニセコ地区は人口が急増し、水不足が課題となっている。屋根融雪などで得られた水を簡易ろ過すればトイレなどに活用できる。技術的には飲用レベルにまでろ過することも可能だ。

写真)施設の前で説明する榎木光治准教授
写真)施設の前で説明する榎木光治准教授

©エネフロ編集部

今回の実験施設内の動力ポンプ(消費電力1 kW)や暖房ファン、実験データ取得用の詰所(照明含む)を含む全ての電力を、この雪発電でまかなうことに成功した。その結果、実験施設は実質的な 「カーボンニュートラル」 を達成している。なお1kWは昨年度の実証実験の発電量に相当する。広範囲の融雪を実用化するためには、ポンプ動力だけで1kWが必要なため、今回発電能力を大型化した背景がある。

写真)雪発電実験設備
写真)雪発電実験設備

提供)東急不動産ホールディングス株式会社

一方、大型化したと言っても、見てわかるとおり、実験設備はプレハブの中(一辺約3mの立方体)にコンパクトに収まっている。この設備をトレーラーなどに積載すれば、電源や熱供給だけでなく、水の供給も可能な非常用の小型インフラ施設として期待できる。被災地に大量の雪が降った場合など、この設備を現地に運べば大きな助けとなるに違いない。小型ゆえに道路が寸断されて車で運べない場合も、輸送ヘリなら可能だ。

今後は降雪地帯の建物への実装を視野に、融雪効率の向上、屋根の形状にあった融雪パイプ敷設ノウハウの確立、バイオマスボイラーの国産化の検討、飲用融雪水ろ過システムの開発、設備全体のコストダウンなどが課題となる。

また、本プロジェクトを担当している東急不動産株式会社の白倉弘規氏は、詳細は未定としながらも、以下の中から投資効率や実現可能性などを今回の実験を踏まえて検討を継続する予定だという。

1. 代替熱源の検討(火を使わない熱源、地中熱や温泉熱、生活排熱の可能性模索)
2. 道路融雪水の効率的な活用方法の検討
3. 温水と電熱線のハイブリッド型の検討

写真)東急不動産株式会社ウェルネス事業ユニット ホテル・リゾート開発企画本部 白倉弘規課長補佐
写真)東急不動産株式会社ウェルネス事業ユニット ホテル・リゾート開発企画本部 白倉弘規課長補佐

©エネフロ編集部

開発チームは、雪発電の社会実装に向け、これらの課題の解決に挑むことになる。

  1. 雪発電
    昨年度の実証実験時では、積雪発電と呼んでいたが、システム全体の呼称として「雪発電」の方がわかりやすいことから名称を変更したとのこと。(榎木准教授より)
安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
・日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
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