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Vol.53 スリーマイル島原子力発電所、再稼働に向け始動! 原子力発電が再び脚光を浴びる理由

写真)米スリーマイル原子力発電所 アメリカ・ペンシルベニア州

米スリーマイル原子力発電所 アメリカ・ペンシルベニア州
出典)Walter Bibikow/GettyImages

まとめ
  • スリーマイル島原子力発電所が約50年ぶりに再稼働に向けて始動。原子力発電が再び注目を集める。
  • マイクロソフトらIT企業が、急増するデータセンターの電力に原子力発電を導入する計画を続々発表。
  • IT企業向け電力の安定供給と脱炭素化を両立させるため、原子力発電が新たな役割を担う。

世界で原子力発電所の新設が相次いでいることは、以前の記事で紹介した。( 世界の新設原子力発電所 中露が6割 2023.08.29)特に中国とロシアでその動きが顕著である。

一方で、原子力発電所を再稼働させる動きも出てきた。原子力発電が注目されている背景を探った。

アメリカのスリーマイル島原子力発電所とは

そうした動きのひとつが、アメリカペンシルベニア州のスリーマイル島原子力発電所の再稼働だ。スリーマイル島の原子力発電所と言えば、1979年3月28日に同発電所の2号機で、設計の不備や運転員の誤判断が重なって炉心の燃料が損傷し、周辺に放射性物質を放出した事故を知っている人も多いかと思う。

この後、2号機は運転停止状態となったが、1号機は事故後も運転を続けた。しかし、経済性の悪化などを理由に2019年に運転を停止。しかし、2024年9月、現在同発電所を所有しているエネルギー企業Constellation Energy(以下、コンステレーション)が、1号機を再稼働させると発表。そして、その全発電量(835MW)を20年間にわたってマイクロソフトに供給するという、前例のない大規模な契約を締結したことを明かしたのだ。

再稼働の背景

今回、スリーマイル島原子力発電所が再稼働に至った背景には、主に4つが挙げられる。

1つ目は、脱炭素化の流れだ。世界的にCO₂の排出量削減が求められている中、発電時にCO₂を直接排出しないという点で、脱炭素化の一つの手段として原子力発電が再評価されはじめたことが挙げられる。太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーは安定的な電力供給に課題があり、原子力発電が補完的な役割を果たすことが期待されている。

2つ目に、エネルギーセキュリティを重視する流れが挙げられる。原子力発電は、一度燃料を装填すれば、化石燃料と比較して長い期間安定的に発電できるため、エネルギー供給の安定化に貢献する。また、化石燃料に頼らず、原子力発電を軸としたエネルギーシステムを構築することで、エネルギーセキュリティを向上させることができる。

3つ目は、経済的利益が見込まれることだ。同原子力発電所は837MWもの発電設備容量を有しており、年間約80万世帯に電力を供給することができる。再稼働によって約3,400人の雇用が創出され、州のGDPが160億ドル、州税と連邦税が30億ドル以上増加するとの試算もある。加えて、マイクロソフトによる電力購入が確約され、安定的に収益を上げることが可能になったことも、再稼働を後押しする一因となった。

マイクロソフトのエネルギー担当副社長ボビー・ホリス氏は、

「マイクロソフトは、送電網の容量と信頼性のニーズを満たすために、エネルギー・プロバイダーと協力してCO₂を排出しないエネルギー源を開発し続けます」と述べている。

4つ目は、原子力発電所の安全性の向上だ。過去の事故から得た教訓をもとに、原子力発電の安全性向上に向けた技術開発は大きく進んだ。今ではより高い安全性が確保できるようになっている。

最後に、住民の支持があった点だ。Susquehanna Polling and Research社が2024年7月におこなった世論調査によると、ペンシルベニア州の有権者の約57%が、スリーマイル島原子力発電所の再稼働を支持している。(ただし、増税や電気料金値上げなどを伴わない限り)

また、同州内の原子力発電所運転継続に関しては、約70%もの人々が、「ペンシルベニア州における信頼性が高く、CO₂を排出しないエネルギー源として原子力発電所の運転継続を支持する」と答えた。

これらの要因が重なり、同原子力発電所は再稼働に向けて大きな一歩を踏み出すに至ったといえるだろう。

急増するIT企業の電力需要

マイクロソフトの動きからも明らかなように、IT企業の最大の課題は、電力の確保だ。自分たちが抱えるデータセンターが莫大な電力を消費することに加え、近年のAI普及がさらにこの状況に拍車をかけている。一方、IT企業は、脱炭素化目標の達成を余儀なくされている。背景には、ステークホルダーからの要請や、国の法規制の強化がある。無論、企業側にも、環境に配慮することで自社のイメージを向上させたいとの思惑がある。

そのため、こうした動きを見せるのはマイクロソフトだけではない。今年10月グーグルは、米国次世代原子力発電のカイロス・パワーが開発・設置する小型モジュール原子炉(SMR)からの電力を購入する計画を発表した。

1基あたりの発電量が100MWに満たない小型モジュール炉(SMR)は、従来の原子力発電所と比べて建設期間の短縮やコスト低減が期待されている。また、立地の選定が比較的柔軟にできるため、IT企業としても脱炭素電源として原子力発電を導入しやすいことが背景にある。

グーグルは、この計画に関し、「太陽光や風力などの変動性のある再生可能エネルギーの利用を補完し、24時間365日のカーボンフリーエネルギーとネットゼロという当社の野心的な目標の達成に貢献する」と述べている。

また、アマゾンも10月、ワシントン州のエナジー・ノースウエスト、バージニア州のドミニオン・エナジー、およびXエナジーと、SMRプロジェクトの推進に向けて契約を締結したと発表した。また、ペンシルベニア州のタレン・エナジーの原子力発電所の隣にデータセンター施設を共同設置する契約も締結している。

今後増加の一途をたどるデータセンターの電力需要。脱炭素と両立させるため再生可能エネルギーの導入拡大が急がれるが、当面、原子力発電の利用が必要になっているのは間違いない。データセンターの電力消費を削減する技術開発とともに、原子力発電も、経済合理性と安全を両立させた技術開発が求められている。

安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
・日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
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