写真)西名古屋変電所内で設備の巡視をおこなうドローン
- まとめ
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- 従来、人がおこなっていた変電所や送電設備の保安業務をドローンが代替。点検作業時間を大幅に短縮。
- 人手不足解消にもつながり、効率的な電力インフラの維持管理を実現。作業員の安全も確保。
- AIを活用した画像解析により、細かな異常を早期発見して設備トラブルを未然に防ぎ、電力システム安定化に貢献。
変電所という場所に立ち入ったことがある人はそうそういないだろう。筆者も実は中に入るのは初めてだった。
その変電所の保安作業にドローンを導入するというので早速取材に向かった。
まず、変電所とはどんなところなのか?
変電所の役割
その名のとおり、変電所は電気の電圧を変える場所だ。発電所と家庭をつなぐ重要な役割を担っており、私たちが電気を使う上でなくてはならない存在だ。
発電機でつくり出される電気は2万3千ボルトや1万2千ボルトだが、電気抵抗によるロスが生じるため、50万ボルトや27万5千ボルトという高い電圧にして送り出す。しかし、そのまま家庭に送るには電圧が高すぎて危険なため、変電所で電圧を下げて、安全に使えるレベルにする。
超高圧変電所、一次変電所、二次変電所、配電用変電所と各変電所で徐々に電圧を下げて、家庭や工場に届けられる。
変電所には変圧器のほかに、故障などのときに自動的に電気を切る「遮断器」、送電装置を点検するときに電気を切る「断路器」、落雷のときに雷の電気を地面に逃がすための「避雷器」などの安全装置を備えている。電力系統の安定化を図り、停電を防ぐ役割も担っているのだ。
出典)中部電力株式会社
変電所の保安業務スマート化
このように重要な役割を担っている変電所だが、これまでその保安業務は人力に頼っていた。保安要員が目視で設備巡視をおこなう場合に大型機器上部の巡視が困難なことや、大規模災害が起きた際に保安要員が変電所にすぐ到着できない可能性があることなどが課題となっていた。
そうしたことから、愛知県、長野県、岐阜県(一部を除く)、三重県(一部を除く)、静岡県(富士川以西)を供給区域とする一般送配電事業者である、中部電力パワーグリッド株式会社(以下、中部電力パワーグリッド)は、ドローンによる巡視の導入を計画している。
ドローンによる巡視の最大の目的は省人化だ。ドローンの自動離着陸ポートは変電所建屋の屋上に設置し、変電所から離れた事業所から遠隔操作する予定だ。保安要員による巡視は、遠隔地にある変電所まで出向する必要があるが、このドローンによって出向時間を削減できる。また、大規模災害時は道路が通行不可になるケースも考えられるが、ドローンであればその場合でも現場確認が可能となることから早期復旧にも役立つことが期待される。さらに機器上部の巡視が容易になるなど、数々のメリットがある。
機材は米Skydio社のドローン「SkydioXE2」を使用する。産業用途に特化された頑丈な機体を持ち、360°障害物を検知・回避できる。ポートは、全天候対応で、粉塵や雨の侵入も防ぐ仕様となっている。屋根に発熱体を内蔵しており、積雪や凍結も防ぐことができる。
実際にドローンが飛行する様子をみてみよう。
提供)中部電力パワーグリッド株式会社
ドローンは、画面の赤い四角い枠に向かって飛行していくが、この枠は、自動飛行ルートを手動で作成した際にドローンに記憶させた進行方向だ。変電所内の入り組んだ場所もスムーズに飛んでいく様子がわかる。ドローンは、変圧器上部に油漏れがないかチェックしたり、油面メーターを撮影したりする。その際、アナログ計器の数値を画像AIで読み取り、人間が読み取るのと同じようににメーターを記録し、高頻度にデータを収集することで、設備信頼度の向上が期待できる。巡視が終わるとドローンは自動離着陸ポートに戻り、収納される。
さまざまな環境を想定し、安全性を確認してから現地検証を開始した。中部電力パワーグリッド株式会社エンジニアリングセンターの池田哲也氏によれば、実際に変電所の巡視に使われるようになるのは、2026年度になるという。2025年に新たに発売される予定の、雨天や夜間でも飛べる機種を導入する予定だ。
当面は、西名古屋変電所や、飛騨変換所など、基幹的な重要設備に配置していき、その後は、各県で1か所ほど選定し、運用していく計画だという。
送電設備のドローン点検
ドローンは変電所だけでなく、送電設備の点検にも導入されている。中部電力パワーグリッドと株式会社センシンロボティクスは、ドローンを用いた送電設備自動点検技術を共同開発し、架空送電設備の保守業務に特化した業務アプリケーション「POWER GRID Check」に実装して2021年から現場運用している。
それにより、高度な操縦スキルを必要とせず、自動かつ高品質な設備の点検、撮影が可能となった。一方で、取得した画像の確認は作業員の目視でおこなわれており、多大な労力を要するとともに、異常個所の判定は個々の作業員の経験に基づく判断に委ねられていた。今回、画像解析による異常箇所を検出するAIを開発し、「POWER GRID Check」に実装することにより、ドローンによる画像取得から異常判定までを自動で実施することが可能となった。2024年度中の実装を目指す。
従来、送電設備の点検は、人が鉄塔に登って目視でおこなうことが一般的だった。高圧線や超高圧線の点検では、専門知識を持った線路点検員が、防護服や安全帯を着用し鉄塔をのぼり、設備を直接確認していた。ドローンによる点検とAI画像解析によりこうした危険な作業を減らすことができるようになったと同時に、より安全かつ効率的な作業が可能になった。
実際に見学すると、ドローンはあっという間に高さ数10mにまで舞い上がり、送電設備を点検し始めた。ドローンから送られてくる画像を見て驚いたのは、ドローンが送電線の弛みに沿って飛行していることだ。常に電線が平行となるようにカメラを自動的に可変する技術は中電パワーグリッドの独自のものだという。
あらゆる背景において画像内の電線を常に認識し、電線の角度に併せてリアルタイムにカメラの角度をコントロ-ルしているという。画像解析等の技術を駆使して実現にこぎつけた。
今後の展望
今回飛んだドローンは変電所の実証実験で使われているものとは別機種だ。今後は、変電所と送電設備で使うドローンの機種を統一することも検討する予定だ。
「今後は、AI診断の精度を上げたり、自動飛行ルートをつくりやすくしたりするために、ソフト側で対応していきたい。それによって、巡視にかける時間も短縮できるかもしれない」と池田氏は今後の意気込みを語った。
普段私たちの目に触れることのない、電気の安定供給のまさに裏方の保安業務。テクノロジーの進化がこれまでの仕事を一変させていることに驚いた一日となった。
(写真はすべて、ⓒエネフロ編集部)
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