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エネルギーと環境

Vol.61 世界最高55階建て!木造超高層ビルが実現へ

写真)マーカスセンター

写真)マーカスセンター
出典)Michael Green Architecture

まとめ
  • 世界で木造高層ビル建設が加速。アメリカでは世界記録更新を狙うプロジェクトが進行中。
  • 木造建築はCO₂の削減に寄与し、環境負荷を低減するため、持続可能な社会の実現に貢献。
  • マスティンバーなどの技術革新により、木造高層建築に必要な強度や耐久性が確保できるようになり、高層化が実現可能に。

世界一高い木造超高層ビルの建設計画がベールを脱いだ。

アメリカウィスコンシン州ミルウォーキーにあるマーカス・パフォーミング・アーツ・センターの再開発計画に含まれる超高層木造ビル「マーカスセンターは、マスティンバー(圧縮された多層木材)を採用し、55階建てで高さは約187mに達する。デベロッパーは The Neutral Project, LLC、建築事務所は マイケル・グリーン・アーキテクツだ。

同じミルウォーキーにある、コルブ+アソシエイツ・アーキテクツが手がけた、現在世界で最も高い木造ビルである25階建て、高さ約87mの「アセントタワー」を一気に追い抜くことになる。

相次ぐ木造高層ビル建設

世界では近年、木造高層ビルの建築が相次いでいる。主なものは以下のとおり。

・カナダ バンクーバー ブリティッシュコロンビア大学学生寮 「ブロック・コモンズ」18階建て。2017年完成。
・ノルウェー ブルムンダル 複合ビル「ミョーストーネット」 18 階建て。2019年3月完成。高さ 85.4 m。
・オーストラリア メルボルン 複合ビル「T3コリンウッド」15階建て。2023年完成。(住友林業株式会社、NTT都市開発株式会社、大手ディベロッパー Hines社の開発事業

写真)T3コリンウッド外観
写真)T3コリンウッド外観

出典)住友林業

日本のデベロッパーやゼネコンも以前の記事(「海外に広がる日本の木造高層ビル」2022.11.01)で紹介したとおり、国内外で木造高層ビルの開発に力を入れている。

株式会社大林組は、オーストラリアのBuilt Pty Ltdとの共同企業体にて、木造ハイブリッド構造として高さ182m(地上39階建て)の「アトラシアン・セントラル」の新築工事を、オーストラリアの大手不動産会社であるDexusから受注した。2026年10月に完成予定だ。

写真)アトラシアン・セントラル
写真)アトラシアン・セントラル

出典)大林組

また、三井不動産株式会社と株式会社竹中工務店は今年1月、東京都中央区日本橋において、国内最大・最高層、地上18階建・高さ84m・延床面積約28,000㎡の木造賃貸オフィスビルを着工すると発表した。竣工は2026年9月を予定している。

図)(左)外観 完成予想パース (右)エントランスホール 完成予想パース
図)(左)外観 完成予想パース (右)エントランスホール 完成予想パース

出典)三井不動産

なぜ増える木造高層建築

木造高層建築が増えている理由はいくつかある。

1 環境問題への意識の高まり

一番大きな理由は、木造建築がCO₂排出量の削減に貢献するからだろう。木材は成長過程でCO₂を吸収するため、木造建築はCO₂排出量を削減するうえで効果的であり、環境に優しい建築方法として評価されている。また、木材は再生可能な資源であり、持続可能な社会の実現に貢献する。さらに、 木造建築は解体時の環境負荷も低減できる可能性がある。企業が社会的責任を担う方法として「環境への貢献」を取り上げるケースが増えてきており、中高層建築物での木材利用が増えているものと思われる。

2 木材の技術革新

2つ目の理由は技術革新だ。マスティンバーが開発されたことで木造高層建築の可能性が広がった。マスティンバーは木質構造材の総称で、CLT(Cross Laminated Timber:直交集成板)、LVL(Laminated Veneer Lumber:単板積層合板)、GLT(glued-laminated-timber:接着集成材)などがある。複数の木材を積層するマスティンバーは、従来の木材よりも高い強度と耐久性を持つため、高層建築に必要な構造的な強度が確保できるようになった。また、耐水性、耐熱性にすぐれた木質接着剤が開発されたことや、木材に対する耐火処理技術の進化なども大きい。

3 経済合理性

3つ目は経済的なメリットだ。木造高層建築は、構造木材をあらかじめ工場で加工し現場で組み立てるプレカット工法などを活用することで短工期での建設が可能になる。工期の短縮は、人件費の削減や、仮設費の削減につながる。

木造高層建築の課題と今後の見通し

木造高層ビルはまだ建築例が少なく、マスティンバーのコストが割高なため、現時点では初期投資が高くなる傾向がある。一方で、今後、大量生産によるコスト削減や、木造建築の設計・施工の効率化などが進めば、こうした課題は解消する可能性はあるだろう。

また、木材利用による炭素固定量や排出削減効果を算出し可視化する動きも見られる。環境配慮への関心が高まるなか、木造建築物件の賃料の上昇も期待でき、結果として不動産価格も上がり、投資家の参入が増え、デベロッパーの開発も増加するというプラスの循環が生まれることも期待できる。今後の木造高層建築市場がどのように成長していくのか、注目したい。

安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
・日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
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