写真)曲面レンズ型に配置したフィルム型ペロブスカイト太陽電池 千葉県匝瑳(そうさ)市
出典)積水化学
- まとめ
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- 積水化学とTERRAは、国内で初めてペロブスカイト太陽電池を営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)に活用する実証実験を開始。
- 今後の課題は、耐久性の向上、大規模生産体制の確立、コスト削減、環境負荷低減など。
- 政府は、DX戦略を通じてペロブスカイト太陽電池の開発を支援。
太陽電池といえば、黒いパネルが敷き詰められた郊外のメガソーラー(大規模太陽光発電所)や、家屋の屋根に取り付けられたものを思い浮かべるだろう。これらの太陽電池は「シリコン系太陽電池」というもので、発電層にシリコンが使われている。耐久性にすぐれ、変換効率(照射された太陽光のエネルギーを電力に変換できる割合)も高いという特徴を持つ。現在、日本で普及している太陽電池のほとんどがこのタイプだ。
しかし、平地面積の少ない日本では、新たに太陽光発電所を設置する場所がほとんどない状態だ。一方で、下図をみてわかるとおり、日本は平地面積あたりの太陽光発電の導入量が主要国でトップとなっている。今後、再生可能エネルギーの導入量を増やすためには、太陽電池を設置する場所を新たに確保しなければならない。
出典)経済産業省資源エネルギー庁
外務省HP(https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/index.html)、Global Forest Resources Assessment 2020(http://www.fao.org/3/ca9825en/CA9825EN.pdf)
IEA Market Report Series - Renewables2020(各国2019年度時点の発電量)、総合エネルギー統計(2020年度確報値)、FIT認定量などより資源エネルギー庁作成
そうしたなか、従来のシリコン系太陽電池とは全く違う、薄く、軽く、柔軟な太陽電池が開発され、脚光を浴びている。
ペロブスカイト太陽電池とは
その電池は、「ペロブスカイト太陽電池」という。
ペロブスカイト構造とは複酸化物がとる結晶構造の1つであり、以下の図のような構造を指す。そのペロブスカイト構造を発電層に用いたのがペロブスカイト太陽電池だ。以前の記事(日本発!「曲がる太陽電池」実用化目前 2023.06.20)でも紹介した。
その特徴は主に3つある。1つ目はなんといっても軽くて柔軟なこと。折り曲げが可能であるため、シリコン系太陽電池と違って設置場所の可能性が広がる。2つ目は、大量生産に適した製造方法が可能であることから、将来的に低コストとなる可能性があること。3つ目は、主原料のヨウ素が国内で安定的に調達できること。日本は世界第2位のヨウ素生産国であり、その生産量は世界の生産量の約3割を占めているのだ。そのため、サプライチェーンを他国に頼らずに安定して確保でき、経済安全保障の面でもメリットがあるといえるだろう。
これらの特徴から、ペロブスカイト太陽電池はこれまで太陽電池には適さないと思われていた場所にも設置できるのではないかとの期待が高まっている。
ソーラーシェアリングになぜぺロブスカイト?
その可能性のひとつが、営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)だ。
©エネフロ編集部
ソーラーシェアリングとは、別記事(太陽光と農業「ソーラーシェアリング」の未来 2021.02.16)でも紹介したが、農業と太陽光発電を組み合わせた新しい取り組みだ。
耕作放棄地などを有効活用し、発電による収入と農業収入の両方を得られることにくわえ、環境問題やエネルギー問題の解決、地域経済の活性化など、多岐にわたる社会課題解決への貢献が期待されている。
これまで、ソーラーシェアリングにはシリコン系太陽電池を使うのが一般的だった。しかし、シリコン系太陽電池は比較的重いため、構造物の強度を確保する必要があった。特に、強風や積雪が予想される地域ではより強固な構造が必要となり、コストが増加するという懸念もあった。
そうしたなか、ペロブスカイト太陽電池をソーラーシェアリングに使用する実証実験が今年8月、国内で初めて始まった。
実験を開始したのは、積水化学工業株式会社(以下、積水化学)と株式会社TERRA(以下、TERRA)。フィルム型ペロブスカイト太陽電池をソーラーシェアリングに活用する。
実証実験の内容は、
・ソーラーシェアリングへのフィルム型ペロブスカイト太陽電池の設置方法の確立
・レンズ型モジュールにおける曲面での発電効率の測定、予測値と実測値の比較
・ソーラーシェアリング設備下で栽培する農作物への影響調査
ペロブスカイト太陽電池の軽量性を活かした架台構成や施工性の検証を目的とした実証をおこなうとしている。
実際、ソーラーシェアリングはまだ歴史が浅く、太陽電池の影が農作物の生育にどのような影響を与えるかや、どのような農作物が適しているかなどについて試行錯誤が続いている。
ペロブスカイト太陽電池の軽量性と柔軟性を活かせば、さまざまな農地の形状に合わせたレイアウトが可能になることが想定され、設置面積を拡大することができると期待される。
出典)積水化学
2社は、この実証によりソーラーシェアリングへの再エネ導入手法を確立し、日本全国、水田を含めさまざまな圃場へ展開し、さらに農業分野における適用範囲を広げ、遊休農地、耕作放棄地へのペロブスカイト太陽電池の適用なども共同開発することにより、脱炭素社会の実現に貢献していくとしている。
今後の課題
期待が高まるペロブスカイト太陽電池。すでに、中国をはじめ、世界各国の開発競争も激化している。
今後の課題としては、耐久性の向上、大規模生産体制の確立、コスト削減、環境負荷低減と安全性の確保などが挙げられる。
日本政府もペロブスカイト太陽電池を早期に社会実装することを目指しており、普及拡大に向けた量産化の国内製造サプライチェーンを構築するため、GX経済移行債を活用し、生産拠点整備のためのサプライチェーン構築を支援していく方針としている。GX実行会議でも、分野別投資戦略において、「生産拠点整備のためのサプライチェーン構築支援」という内容が盛り込まれた。
ペロブスカイト太陽電池とソーラーシェアリングの組み合わせは始まったばかり。実証実験の成果はまた改めて報告したい。
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