写真)KGモーターズ 「mibot」
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- まとめ
-
- 超小型EVを開発する企業が増えている。
- 軽自動車よりさらに小さく、原付として扱われるため維持費が安い。
- 街乗り用として今後普及する可能性がある。
週末、近所の書籍や文具・雑貨を販売するチェーン店に入ったら、なにやら子ども連れの夫婦や、若い人たちが群がっている一角があった。
近づいてみると、ひときわ目立つイエローの車が展示されていた。どうやらそれがみなさんのお目当てらしい。
近寄ってみるとこれまでに見たこともない小さい車だ。鮮やかなイエローボディが目を引く。しかも、前後対称という不思議なデザインだ。
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小型モビリティロボット「mibot」
近づいて車内を覗くと、シートはひとつのみ。そう、一人乗りなのだ。座っていると助手席がなく、後ろは荷室しかない。
この車、広島が本拠地のKGモーターズ株式会社(以下、KGモーターズ)が開発した。超小型EVだ。「mibot(ミボット)」というネーミングは、「ミニマムなモビリティロボット」を意味している。
80年代のポラロイドカメラをモチーフにし、レトロでありながら、近未来を感じさせるデザインにしたという。
そのスペックは、
・乗車定員 …… 1名
・航続距離 …… 100km
・充電時間 …… 5時間(AC100V)
・最高時速 …… 60km/h
全長2,490mm×全幅1,130mm×全高1,465mmと、軽自動車規格(3,400mm×1,480mm×2,000mm以下)よりかなり小ぶりだ。しかし、実際乗ってみると天井が高いせいか、意外と広く感じる。グラスルーフが開放感を一層高めている。
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mibotは小さくても、OTA(Over-The-Air)アップデートに対応したコネクティッドカーだ。自動で最新のソフトウェアをインストールするなど、本格的な仕上がりとなっている。
生産計画は、2025年度には300台、2026年度に3,000台を目指す。生産体制のスタートを切る工場ラインオフは、2025年9月に設定している。
なお、2024年8月1日21時より予定していたmibotの予約開始は、決済システムに不備が見つかったため、延期となっている。(mibot予約開始延期のお詫び)
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価格は税込み100万円。車を見に来た人たちは、航続距離や最高速度、充電時間、どこで買えるのかなど、説明員に熱心に聞いていた。100Vの家庭用コンセントで充電できることを評価する声もあった。また、免許が必要なのか、車検はどうなるのか?などと熱心に聞く若者も。
ある中年の夫婦はじっくりとmibotを観察。夫は、走行距離や最高速度を確認すると「十分だな」とつぶやいていた。また、エアコンやシートヒーターを装備している点なども評価していた。一方妻は、最大積載量が45kgのリアラゲッジスペースを覗き込み、「買い物するのに便利そう」と興味津々の様子だった。
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超小型EV、続々開発
この超小型EV。一般的に「ミニカー」と呼ばれている。このジャンル、実は10年以上前に商用化されている。
トヨタ自動車株式会社(以下、トヨタ)のグループ企業であるトヨタ車体株式会社の「coms(コムス)」(全長2,395mm×全幅1,095mm×全高1,495mm〜1,505mm ※車種による)は、2012年7月にデビューした。
商用に配慮した積載性が魅力のB・COMと、日常的な買い物や通勤、敷地内の移動に適したP・COMの2車種ある。2022年までの10年間で累計生産台数10,000台を記録した。
出典)トヨタ車体株式会社
販売台数が少なく、街中で見かけることはまれな超小型EVだが、ここに来てこの規格に参入する企業が増えている。
また、nicomobi株式会社(ニコモビ)も超小型EV「クロスケ」(全長2,500mm×全幅1,300mm×全高1,650mm)を開発した。2029年の量産を目指す。開発は元日産自動車の技術者チームが行っている。
出典)nicomobi株式会社
また、日台連合のEVスタートアップ、Lean Mobility社が手掛ける超小型EVが「Lean3(リーンスリー)」(全長2,470mm×全幅970mm×全高1,570mm)だ。2025年半ばの発売に向けて開発中だ。同社のCEOの谷中壯弘(あきひろ)氏は、トヨタ自動車株式会社の三輪超小型モビリティTOYOTA i-ROADを企画開発、さらにC+podやC+walkなど小型モビリティシリーズの製品開発を主導した人物だ。
EVを開発・製造し、主に企業向けに販売をおこなっている株式会社タジマモーターコーポレーション(以下、タジマモーター)も、今年7月、超小型EV「TAJIMA T-mini」(全長2,405mm×全幅1,100mm×全高1,590mm)を発表した。
「ミニカー」という規格
軽自動車より小さいこれらの超小型EVは、「ミニカー」と「超小型モビリティ」に分類される。
すこしややこしいのだが、そのうち「ミニカー」は、道路交通法上、総排気量20cc超50cc以下または、定格出力0.25kW超0.6kW以下の原動機を有する普通自動車に区分される。一方、道路運送車両法では「第一種原動機付自転車」として扱われる。
したがって、運転には普通運転免許が必要となるが、車検や車庫証明は必要ない。また、重量税はかからず、自動車税は年3,700円、自賠責保険は普通乗用車の半額程度だ。さらに任意保険も家族の自家用車に自動車保険がかかっていればファミリーバイク特約をつければよい。維持費が大幅に安いことがミニカーの最大のメリットだ。
「一般道では車扱いだが、登録上は原付扱い」という、「いいとこどりモビリティ」といっていいだろう。ただ、高速道路や自動車専用道路は走行できない。
出典)超小型モビリティ関東連絡会議 とりまとめ(2021年(令和3)年6月)
「ミニカー」を開発する企業が増えている背景には、EVが日常の足として使うのに適している、と考える人が増えているからではないか。
そう思う理由は、2022年に販売開始した日産自動車株式会社(以下、日産)の軽EV「日産サクラ(以下、サクラ)」のヒットだ。
それまで量販型国産EVといえば、2010年12月に誕生した日産リーフぐらいしかなかった。日本のユーザーは、EVをこれまでのガソリンエンジン車と同列に評価していたため、充電インフラや一充電走行距離に対する不安からなかなか普及してこなかった。また、HV(ハイブリッド車)やPHV(プラグインハイブリッド車)がすでに普及していたこともあり、EVに需要がシフトすることはなかった。
しかし、ガソリン車を取り巻く環境は、ここ10年で大きく変わった。人口減少と、燃費の良いHVや軽自動車などの普及でガソリン需要が減り、ガソリンスタンドの廃業が相次いだ。加えて、コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻の影響もあり、ガソリン価格が高止まりしている。
そうした環境の下、市場に投入されたサクラは順調に販売を伸ばし、2023年度には販売台数3万4,083台を記録。日産によると、2022年度に引き続き、2年連続で国内EV販売台数No.1をマークした。また、2023年度の国内EV販売台数の約41%、おおよそ5台に2台をサクラが占めているという。
実は、日本の乗用車の主な使用用途は、「買物・用足し・他」が43%と最も高く、次いで「通勤・通学」が33%だ。平均の月間走行距離は約360kmで、全体の96%が月間走行距離1,200km以下だ。一週間あたりの使用頻度は約5日間。平日の一日あたりの平均走行距離は約20km前後と想定されている。また全体の95%は平日の一日あたりの走行距離が50km以下と考えられる。(一般社団法人日本自動車工業会「2023年度乗用車市場動向調査」)
サクラの一充電走行距離は180km(WLTCモード:注1)、車を日常の足として使っているユーザーにとって、必要にしてかつ十分だ。これまでEVは走行距離の長さを競ってきたが、あえて走行距離にはこだわらないという発想の転換で多くのユーザーのニーズを汲み取った。
一充電走行距離が200km以下なら、コストが高い大型電池を搭載する必要がない。その分、車両販売価格を抑えることができる。政府や自治体の補助金を使えば、100万円台で軽EVを購入することができる点が評価された。
一般社団法人日本自動車工業会が2023年度に実施した調査によれば、1割程度の人が物価高の影響により「車関連出費」を減らしているという。景気の悪化や燃料価格高騰により、「車の購入中止」や「保有期間の長期化」を挙げた人が増えた。(一般社団法人日本自動車工業会「2023年度乗用車市場動向調査」)
そこに、軽EVよりさらに経済的な超小型EV、すなわち「ミニカー」が登場した。車両本体価格は100万円程度、維持費も軽自動車よりさらに安いとなれば、注目されるのもある意味当然だ。
超小型EVは、車を保有することをあきらめていた人が日常の足として使ったり、急速に普及した電動キックボードのように、シェアリングサービス用に使われたりする可能性がある。今後の動向に注目したい。
- WLTCモード
「市街地」、「郊外」、「高速道路」といった各走行モードを平均的な使用時間配分で構成した国際的な走行モード。
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