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テクノロジーが拓く未来の暮らし

Vol.80 全国で加速する自動運転バス実証実験 レベル2の商用化、近づく

写真)自動運転中のコミュニティバス 2024年5月28日 神奈川県横浜市 自動運転中、運転手はハンドルを握っていない

写真)自動運転中のコミュニティバス 2024年5月28日 神奈川県横浜市 自動運転中、運転手はハンドルを握っていない

まとめ
  • 全国で自動運転バスの実証実験がおこなわれる中、東京と神奈川のバス会社が共同で実証実験をおこなった。
  • 2社協働の実験は国内初、背景に住民ニーズの多様化などがある。
  • 自動運転のレベル2の商用化もそう遠くない。

全国で自動運転バスの実証実験が相次いでいる。(参考:加速する自動運転 日本の現状は? 2024.04.09)

その理由は大きくわけてふたつある。ひとつは、高齢化による運転手不足。ふたつめは、若年層の都市部への流出による利用者減だ。多くの地域で、公共交通サービスの運用が難しくなっている。

新型コロナ禍が需要減に追い打ちをかけたことで、一般路線バス事業者のなんと99.6%が赤字事業者になっているという。(国土交通省「地域交通の現況について」)

図)コロナ以前から続く地域公共交通の厳しい状況
図)コロナ以前から続く地域公共交通の厳しい状況

出典)国土交通省「地域交通の現況について

こうしたことから、減便や路線廃止を余儀なくされるバス事業者が増え、通勤、通学、買い物や病院通いなど、私たちの日々の暮らしを支えるインフラであるバスが存続の危機を迎えている。

このように厳しい経営環境にあるバス事業者からなる公益社団法人日本バス協会は、6月に「バス再興 10年ビジョン(中間とりまとめ)」を発表した。大目標のひとつが、「次世代のバス輸送への転換」。そのなかで、「実験段階から本格運行へ進め、2030年には路線バスでの自動運転を普及させる」ことを謳っている。

自動運転は、事故の削減や運転者不足の解消などの効果が期待できることから、車両の技術開発、走行環境の整備などを含め、レベル4(無人運転)の自動運転バスの早期実用化が望まれている。

図1)自動運転のレベル分けについて
図1)自動運転のレベル分けについて

出典)国土交通省

全国に広がる自動運転バス実証実験

自動運転レベル2の実証実験は全国で行われている。

北海道岩見沢市では、株式会社マクニカと岩見沢地区ハイヤー協会とが協働し、2023年10月6日から20日まで、自動運転バスの公道走行実証実験を行った。バスはハンドル操作なしの自動走行で、車内には操作オペレーター(ドライバー)と安全管理をおこなう保安員が同乗した。

車両はフランスNAVYA社の「ARMA」(アルマ)を使用、 最高速度時速18km/hで、車両定員は10名(乗客8名、ドライバー1名、保安員1名)のコンパクトなものだ。

写真)実証実験に使われた自動運転バス
写真)実証実験に使われた自動運転バス

出典)岩見沢市「自動運転EVバスの公道走行実証について」

同様の実証実験は、愛知県豊田市茨城県常陸太田市東京臨海副都心地区などでおこなわれた。

2023年5月から7月にかけて国土交通省が募集した「地域公共交通確保維持改善事業費補助金(自動運転事業関係)」は、全国62事業について交付が決定している。

バス事業者間の連携も

こうした動きの中、バス事業者同士が共同で自動運転の実証実験をおこなう動きも始まった。京浜急行バス株式会社(以下、京急バス)、東急バス株式会社(以下、東急バス)および東急株式会社(以下、東急)は、今年5月28日から6月3日まで、3社共同で自動運転の実証実験を神奈川県でおこなった。実際に編集部も体験試乗した。

会社間の垣根を越えてバス事業者が共同で自動運転バスの実証実験をおこなうのは日本で初めてであり、業界でも注目を集めた。

東急バス古川卓社長も、「今回、(京急さんとやるということで)全国のバス事業者さんからたくさん問い合わせがきています」と話す。

写真)お互いの会社のマスコットを持つ、東急バス古川卓社長(右)と京急バス野村正人社長(左) 2024年5月28日 神奈川県横浜市 京急グループ本社ビルにて
写真)お互いの会社のマスコットを持つ、東急バス古川卓社長(右)と京急バス野村正人社長(左) 2024年5月28日 神奈川県横浜市 京急グループ本社ビルにて

今回の実証実験の概要

京急バスは能見台エリア(横浜市)、東急バスは虹ヶ丘・すすき野エリア(川崎市・横浜市)にて、それぞれ自動運転バスを運行した。

どちらも両社が1980年前後から開発を始めた新興住宅地だが、近年、住民の高齢化などもあり、環境の変化に即した住民の足の確保が重要課題となっている。実際、能見台エリアを歩いてみると坂が多く、高齢者にとってスーパーやクリニックに歩いて行くのはかなりの重労働だ。最近は、免許を返納する高齢者も多く、「地域内での小さな移動手段」の確保は緊急の課題となっている。

写真)能見台エリアを歩く住民
写真)能見台エリアを歩く住民

今回の実証は自動運転レベル2(運転席の運転者が常時周囲監視)でおこなわれた。使用された車は、タジマモーターコーポレーションの多目的小型電動モビリティ「TAJIMA-NAO-8J」だ。8人乗りとコンパクトで、ワゴンタクシーだと思えば特に問題ない。ちょい乗りには丁度いいサイズともいえる。

写真)今回実験に使われた自動運転バス
写真)今回実験に使われた自動運転バス
写真)今回実験に使われた自動運転バス 正面
写真)今回実験に使われた自動運転バス 正面

LiDAR(レーザー光を照射し、反射光の情報をもとに対象物までの距離や形を計測するもの)4つ、ミリ波レーダー1つ、カメラは遠隔監視用に11個を装備する。

最高時速は自転車並みの19km/hに抑えられている。信号がない交差点や、車が駐車しているような場合には、減速または一旦停止し、運転手が安全確認を行ったのち、運転席の手元にあるボタンを押すことで運行していた。

写真)今回実験に使われた自動運転バス リア(東急バス提供)
写真)今回実験に使われた自動運転バス リア(東急バス提供)
写真)今回の実証実験バスフロント部に装着されたLiDAR
写真)今回の実証実験バスフロント部に装着されたLiDAR

写真)今回の実証実験バスフロントルーフ前方に装着されたカメラ

今回の実証で特徴的なのは、1人の遠隔監視者が複数地区、複数事業者の自動運転を1カ所で集中監視することに挑戦したことだろう。そのために「遠隔コントロールセンター」を京急グループ本社ビルに設けた。遠隔監視者が車両のカメラ映像や音声をリアルタイムで監視し、必要があるときは、適切な指示を出す仕組みだ。

写真)遠隔コントロールセンター 2024年5月28日 神奈川県横浜市 京急グループ本社ビル
写真)遠隔コントロールセンター 2024年5月28日 神奈川県横浜市 京急グループ本社ビル
図)車両・遠隔コントロールセンター連携イメージ
図)車両・遠隔コントロールセンター連携イメージ

出典)京急バス・東急バス・東急「バス業界初となるバス事業者2社による自動運転の「共同実証実験」を行います

5月28日、試乗した市民の感想は以下のとおりだった。

・乗り心地はよかったが、ぎこちない感じがあった。
・他の車が横切ったり、障害物にまだ慣れていないと感じた。
・子どもがいる時間にスクールゾーンとかに入ったとき不安だ。
・降りる場所がモニターで表示されるからわかりやすい。
・平坦な道だとアクセルの感覚が結構あり、酔いそうになる。
・坂は一気に下がる感じがした。

写真)自動運転バスに試乗する地域の住民ら
写真)自動運転バスに試乗する地域の住民ら

課題と今後の見通し

今回の実証実験について、東急バス株式会社経営統括室ミライ開発部(東急株式会社社会インフラ事業部事業統括グループ兼務)の小林康人氏は、「バス業界に一石を投じることができた」と話す。

得られた知見は2つ。

ひとつは、自動運転の技術だけで安全が確立されるものではないということ。例えば、スクールゾーンなどでは子どもの飛び出しなどが想定されるため、行政側でガードレールなどのインフラを整備した方が、より安全を担保できるということ。この点に関しては行政と話をしているという。ふたつめは、自動運転に関してバス会社が連携して協力できるところは協力していくことが重要だということだ。

「将来的には運行管理自体も会社間の垣根を越えてやってもいいのではないかと思う」と小林氏は続けた。

東急グループでは静岡県内を中心に自動運転バスの実証実験を2020年から始めており、東急線沿線での実施は今回が3回目。

「乗務員不足があるから自動運転の実証をやっているわけではなく、新しい移動サービスをつくっていくという考えで取り組んでいます」と強調した。

また、これまでの実証実験で、知見はかなり積み上がっていることから、レベル2の自動運転バスが商用化される日もそう遠くない、とし、「実際に自動運転バスのサービスを始めてユーザーに認知されたら、ニーズはあとから生まれてくるのではないか」との見方も示した。

自動運転バスの周回サービスが始まれば、自宅にこもりがちな高齢者も、表に出てみようという気持ちになるかもしれない。そうしたことで健康寿命が延びれば医療費の削減にもなる。そんなよい循環が社会に生まれることを期待して、自動運転のこれからを引き続き見ていきたい。

(出典が記されてない写真はⓒエネフロ編集部)

安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
・日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
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