写真)トンネル内の自動走行カート
出典)Cargo Sous Terrain
- まとめ
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- トラックドライバーの残業規制が強化され、輸送力不足がおきる「物流の2024年問題」。
- スイス、イギリスで自動物流システムの実証が始まっている。
- 日本でも、既存の高速道路空間を最大限活用する方向で自動物流道路の検討が進行中だ。
すっかりおなじみになった「物流の2024年問題」。
今年4月から、トラックドライバーの残業規制が強化され、輸送力不足がおきると言われてきた。このままだと、2030年度には約34%(9億トン相当)不足すると予測されている。
運送事業者がこうした事態に対応するためには、業務効率化だけでは不十分だ。物流のあり方そのものの変革が必要だとの認識のもと、政府もさまざまな対策を検討し始めた。
自動運転
対策の一つが、以前の記事(「新東名に自動運転レーン誕生(2023.06.06)」)でも紹介した、自動運転だ。
記事で紹介したとおり、政府のデジタル田園都市国家構想実現会議(2023年3月31日)で、2024年度に新東名高速道路(駿河湾沼津SAから浜松SA)の深夜時間帯に自動運転車用レーンを設定することが示された。同会議は、2025年度までに全国50箇所、2027年度までに全国100箇所で自動運転車による移動サービス提供が実施できるようにすることを目指す方針も示した。
出典)経済産業省
こうしたなか、中日本高速道路株式会社(NEXCO中日本)は、新東名高速道路の建設中区間で、道路のカメラなどで検知した道路状況を自動運転車へ提供する路車協調実証実験を、2024年5月13日から実施している。
また、自動運転トラックによる幹線輸送サービスを開発するベンチャー、株式会社T2(以下、T2)も、2024年5月29 日より新東名高速道路の駿河湾沼津SAー浜松SA間(約117km)にて、自動運転レベル2の公道実証実験を開始した。2024年度中には、綾瀬(神奈川県)~西宮(兵庫県)間の約500kmで実証実験をおこなう予定だ。
T2は、2026年3月をめどにレベル4の自動運転トラックを用いた東京〜大阪間での幹線輸送サービスの提供を目指している。
海外の自動物流
一方海外では、自動物流システムの開発が先行する。
まずスイスでは、冒頭の写真のように主要都市を結ぶ物流専用の地下トンネルに自動輸送カートを走行させる物流システムが計画されている。
事業主体はCargo Sous Terrain社。主要都市間を結び、総延長は500㎞におよび、2031年までに最初の区間(チューリッヒ〜ヘルキンゲン間:約70km)を運用し、2045年までの全線開通を予定している。
出典)国土交通省「海外での検討事例」
地下20m〜100mに直径6mの貨物専用トンネルを構築し、自動輸送カートによりトンネル内の3レーンを時速30km、24時間体制で走行する。将来的には自動輸送カートを100%再生エネルギーで運転する予定だ。建設費用は、約336億スイスフラン(約6兆円:1スイスフラン=178円)を見込む。
イギリスではMAGWAY社が、電磁気力を動力とし、物流輸送用に開発した低コストのリニアモーターを使用した完全自動運転による物流システムを開発中だ。
現在、テスト施設で開発・走行試験をおこなっており、今後、外部環境での実証試験を経て、実用化・商用化につなげる。西ロンドン地区において全長16kmの専用線を敷設中だ。
出典)MAGWAY
MAGWAY社が開発している専用線の敷設場所は、既存の鉄道敷地内はレールの横のスペースを、鉄道駅構内はホーム下を、線路敷地から各社の物流施設までのルートは地下などを想定している。
日本の自動物流道路
かつて我が国でも、物流を効率化しようという動きがあった。「東海道物流新幹線構想 (ハイウェイトレイン)」がそれだ。
2008年2月にJR貨物や道路運送事業者の業界団体からなる有識者が検討した。新東名高速道路(東京ー大阪)に「物流専用鉄軌道」の開設を目指すという画期的なものだったが、実現には至らなかった。この構想はいま検討されているような、自動でモノを運ぶシステムではなかった。
そして我が国でも、「自動物流道路」の検討が本格的に始まった。
先に紹介したスイスやイギリスの例と同じく、荷物をカートなどにのせて無人で運ぶため専用インフラの構築を目指す。政府のデジタル行財政改革会議で取り上げられ、国土交通省の審議会、「自動物流道路に関する検討会」で具体的な議論が進行中だ。
自動物流道路は、既存の高速道路空間を最大限活用する方向で検討が進められている。NEXCO中日本によると、高速道路中央を想定した地上部は、拡幅工事にかなりの期間を要すると指摘している。また地下部においても、基礎杭よりさらに深い「大深度」にトンネルを掘らねばならない。いずれにしても、難工事が予想される。
整備費用も巨額になることが予想され、費用対効果を踏まえた上で、議論が進むと思われる。政府は今年夏頃に中間とりまとめをおこなう予定だ。
2024年問題はすでに目の前の現実だ。物流は私たちの暮らしに直結するだけに、効率的な新システムの構築が急がれる。
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