写真)銅線ケーブル(イメージ)
出典)beerphotographer/GettyImages
- まとめ
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- 太陽光発電所の銅線ケーブルの盗難が急増している。
- 背景には、脱炭素やAIなどによる銅の需要急増がある。
- 銅線ケーブルを別な素材で隠す、アルミケーブルに代替するなどの対策が取られている。
最近、いろいろな場所で金属が盗まれているという報道が多い。
警察が認知した金属盗難件数は、全国で令和5年(2023年)に16,276件が起きた。(前年比5,908件増)都道府県別での件数は、茨木県が最多で、茨城県警によると、令和2年(2020年)に1,337件だったものが、令和5年(2023年)には2,889件になり、3年で約2.2倍に増えた。窃盗犯は、リサイクル業者などに金属を売りさばき、不当な利益を得ているとみられている。
そうしたなか、太陽光発電所でケーブルが盗難にあった、というニュースが増えている。ケーブルに使われている「銅」が窃盗犯の目当てだ。
太陽光発電所はそもそも山の中など、人里離れた場所にある。感電の危険がない夜間に犯行におよぶことが多かったが、最近では白昼堂々とケーブルを持ち去るケースもある。
犯行現場は太陽光発電所ばかりでなく、銅であればなんでも持ち去るケースが増えている。寺院の仏像や鐘、屋根板などが被害に遭っている。
銅が狙われている原因は、ずばり価格が高騰しているからだ。
ブルームバーグによると、ロンドン金属取引所(LME)銅 3ヶ月先物(ドル)は、コロナ禍の2020年3月に1トン4,700ドル台の安値だったが、その後価格は上昇し、今年5月20日には、過去最高値の1万1,104.50ドルを記録、1万889ドルで取引を終了した。4年間で2倍以上に値上がりしたことになる。
銅の価格が上昇したことで、転売目的の窃盗が増えているのだ。
銅価格が上がっている理由
銅の価格が上がっているのは、需要が増えているからだ。
銅は、導電性が高く、加工しやすいうえ、耐久性、リサイクル性にも優れ、かつコストが他の金属よりも安いので、さまざまな工業製品に使われてきた。
ここにきて、脱炭素の流れから銅の需要が増えている。
太陽光発電所は銅線ケーブルを使っている。また、EVのモーター、バッテリー、インバーター、充電器にも銅が使われている。
それだけではない。AI技術の進歩に伴い増えているデータセンターでも、サーバーやネットワーク機器を接続するケーブルなどに銅が大量に使用されている。
このように銅はあらゆる産業にとって重要な金属であり、国家にとっては石油と並ぶ戦略的な物資だといっても過言ではない。
カーライルのエネルギー・パスウェイズ部門の最高戦略責任者ジェフ・カリー氏は、銅を「新しい石油(New Oil)」と呼んだ。そして、銅はグリーンエネルギーやAIに加え、軍事でも需要が伸びているとして、その価格は1トン当たり1万5,000ドルまで高騰すると予測している。(参考:フォーチュン)
銅の高値が続く限り、こうした窃盗も減ることはないと思われる。
窃盗対策は?
太陽光発電所は防犯カメラやセンサーをつけるなどの対策をとってはいるが効果は薄い。かといって24時間警備員を配置するのは現実的ではなく、決め手に欠けるようだ。
こうしたことから、銅線ケーブルを物理的に切断できないように、ケーブル全体を覆う鉄製プロテクター「タイナビプロテクター」が開発された。株式会社グッドフェローズが、株式会社スマートパワーシステムと共同企画した。グッドフェローズが販売/仲介する中古太陽光発電設備に実装し、今年7月初旬より販売する予定だ。
出典)株式会社グッドフェローズ
カナダのBCハイドロは、銅線ケーブルを擬装する方法を考えた。サプライヤーのエヌベント(nVent)と共同で銅線を錫メッキ鋼で包み込んだ複合ケーブルを開発したのだ。一見、銅線には見えなくして窃盗犯に価値のないものと思わせる作戦だ。
こうした対策を一歩進めて、ケーブルの素材を銅から変える動きも出ている。
アルミケーブルの採用だ。アルミニウムは銅に比べ廉価だ。LMEアルミ新地金 3ヶ月先物(ドル)は、直近で1トン2,600ドル台と、銅の4分の1程度だ。また、銅より軽量のため施工時の作業負担が軽くなるというメリットもある。
損保業界も、銅線ケーブル窃盗による保険金支払いが増えていることから、銅線ケーブルの盗難被害に遭った会社にアルミケーブルを紹介するサービスを始めた。(参考:【業界初】太陽光発電設備の銅線盗難対策として アルミ導体ケーブル活用を促進する新サービスの提供開始 損害保険ジャパン株式会社、SOMPOリスクマネジメント株式会社、古河電気工業株式会社、古河電工産業電線株式会社)
警察庁も窃盗犯の取り締まりを強化する方針だが、再生可能エネルギー業者は、上記に述べたケーブルの材質の転換含め、いろいろな対策を掛け合わせて対応することを迫られそうだ。
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