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出典)choi dongsu/GettyImages
- まとめ
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- 全国で、自治体が主導して自動運転バスなどの実証実験をおこなっている例が増えている。
- 日本では自動運転レベル2の自動運転の実証段階だが、米中ではすでにレベル4の自動運転タクシーが商用化されている。
- 自動運転技術は日進月歩であり、世界の技術開発に遅れを取らないようにする必要がある。
去年のジャパンモビリティーショー2023で、自動運転がいよいよ間近に迫ってきた、とリポートした。(「自動運転社会目前 日本はタクシー/トラック、どっちが先?」2023.11.28)
そう実感したのは、本田技研工業株式会社(以下、ホンダ)が、GMクルーズホールディングスLLC、ゼネラルモーターズと、自動運転タクシーサービスを2026年初頭に東京都心部での開始を目指していると聞いたからだ。まずは数十台からスタートし、500台規模での運用を見込んでいる。
© エネフロ編集部
実は日本全国、自動運転のプロジェクトが目白押しである。
人手不足など地方公共交通が直面する課題解決の手段として、国が全国の自治体によるバスサービスなどの自動運転にかかわる62事業に補助金を交付し、後押ししていることが背景にある。
では、現在進行中のプロジェクトの一部を見てみよう。
自治体主導の実証実験
全国で、自治体が主導して公共交通機関の自動運転バスなどの実証実験をおこなっている例が増えている。
1. 名古屋市「ガイドウェイバスへの自動運転技術導入に向けた大型自動運転バスによる実証実験」
名古屋では、日本で唯一営業運転しているガイドウェイバス路線がある。それが、ガイドウェイバス志段味(しだみ)線(ゆとりーとライン)で、大曽根駅から小幡緑地駅までを高架で結ぶ。ガイドウェイバスとは、鉄道とバスの利点を組み合わせた交通システムで、高架専用軌道と一般道路を乗り換えなしで通貫運行する。
出典)「ゆとりーとライン」名古屋ガイドウェイバス株式会社
2001年に事業化され、すでに23年経っており、ガイドウェイバスシステムに変わるものとして、自動運転技術の導入を進めている。
その一環として去年10月から11月と今年2月に、実装を見据えた誘導方式による車両制御の精度を検証するために、大型自動運転バスを用いた閉鎖空間での実証実験をおこなった。
具体的には、ガイドウェイバス専用道(高架区間)の幅員や曲線部を部分的に再現した実験区間において、運転士が乗車した状態でハンドル操作や加減速操作をシステムにより、自動運転レベル2(特定条件下での自動運転)で自動運行し、自動運転用センサを使用した各種誘導方式(SLAM、GNSS、GMPS:注1)による車両制御の精度を検証した。
出典)名古屋市「ガイドウェイバス志段味線(ゆとりーとライン)への自動運転技術の導入」
出典)国土交通省
2. 岐阜市 GIFU HEART BUS
実際に自動運転バスが公道で定期運行しているのは岐阜市だ。去年11月から岐阜駅から市役所までの中心部ルートを毎日12便と、岐阜駅から川原町や岐阜公園などの観光地を周遊する岐阜公園ルートを土日祝日に3便、運行している。
期間は2028年3月末までの5年間。交通量が多い中心市街地で、自動運転バスが継続して運行されるのは全国初だ。現時点では自動運転レベル2での運行だが、5年以内に、特定の条件下で完全自動運転となるレベル4を目指す、と市は意欲的だ。
背景には、人口減少や高齢化の進行と、2024年問題といわれる、運転手の労働規制強化による公共交通機関のドライバー不足などがある。市では、「持続可能な公共交通ネットワークの構築を目指し、運転手不足や安全対策などの課題に対する一つの解決策として、公共交通への自動運転技術の導入」をこれまで段階的に取り組んできたとしている。
出典)岐阜市
3. 東京都 臨海地区などで実証実験
東京都では「未来の東京」戦略において、2025年の無人自動運転による移動サービスの実現を政策目標として掲げている。去年は、臨海副都心エリアや西新宿エリアにおいて、期間限定で自動運転レベル2の自動運転バスを運行した。
また、一部報道によると、トヨタ自動車やソフトバンクが出資するMONET Technologies(モネ・テクノロジーズ)株式会社は、今年7月からレベル2の自動運転の実証実験を東京・お台場で開始し、将来的にレベル4を目指すとしている。
今後の展望
このように、国内の自動運転の水準は、まだレベル2の実証段階にとどまっている。
一方、「自動運転社会目前 日本はタクシー/トラック、どっちが先?」2023.11.28)でも紹介したように、世界では、アメリカ、中国などでレベル4の自動運転タクシーがすでに商用化されている。
日本とこれだけ差がついたのは、海外の自動運転技術の開発手法が、まず最先端技術を実装・テストし、課題は都度修正してアップデートしていく、いわゆるアジャイル方式が主流だからだ。実証を積み重ねて安全性が完全に確認されるまでは次の段階に進まない日本の手法とは大きく異なる。
こうしたなか、去年10月、サンフランシスコの路上で他の車にはねられた歩行者をGMの自動運転車開発部門であるCruiseのロボタクシーが引きずるという事故が発生した。その後同社は業務を停止しているが、Google系のWaymoは営業を継続している。
自動運転の技術開発の難しさを内外に知らしめることになったが、その流れは着実に進んでいる。
自動運転の新技術
自動運転車両は、カメラやミリ波レーダー(注2)、LiDAR(ライダー:注3)などにより、周囲の障害物や交通状況を把握しながら操縦される。
一方で、全く逆の発想から自動運転技術を開発しようとしている企業も現れた。
半導体、ネットワーク、サイバーセキュリティ、AI/IoTにおけるトータルサービス&ソリューション・プロバイダーの株式会社マクニカは、韓国のソフトウェア企業、Seoul Roboticsと連携し、自動車の製造・出荷工程において、完成車両のロジスティクスを自動化する「インフラ制御型車両搬送システム: Level 5 Control Tower(LV5 CTRL TWR)」を提供している。建物や街灯など、周囲のインフラストラクチャにセンサーを設置することで、車を自動操縦するシステムを開発した。
例えば、工場で生産された車を一時保管場所に運ぶ作業はこれまで人海戦術で行っていたが、この技術は、周囲のインフラストラクチャから車両を遠隔で誘導する。
すでに、ドイツの自動車メーカーBMWグループは、Seoul Roboticsとスイスの自動運転ソフトウェア開発のEmbotechと協業し、工場内で完成車の自律走行を2022年から2023年にかけて試験導入した。
この技術により、人件費を削減できるだけでなく、車同士の接触事故が起きるリスクも減少させることが期待される。
今後、この技術は倉庫や完成車の一時駐車場などにとどまらず、公共交通機関にも応用されるだろう。
自動運転の技術はまさに日進月歩だ。日本の自動運転技術も世界の流れに取り残されないようにしなければならない。
- SLAM、GNSS、GMPS
SLAM: Simultaneous Localization and Mappingの略(自己位置推定と環境地図作成の同時実行)。移動体自身が今どこにいるのかを推測する「自己位置推定」と、その周辺がどういう状況にあるのかを把握する「環境地図作成」を同時におこなう技術の総称。
参考:東芝情報システム株式会社
GNSS: Global Navigation Satellite Systemの略(全地球航法衛星システム)。複数の衛星からの情報を基に衛星からの距離を計測し自車位置を測定。
GMPS:Global Magnetic Positioning Systemの略(磁気マーカシステム)は、愛知製鋼株式会社の登録商標。道路に敷設された磁気を発するマーカ(磁気マーカ)を、車両に取り付けられた磁気センサーモジュールで読み取り、車両の自己位置を正確に特定する方式。
参考:「ガイドウェイバスへの自動運転技術導入に向けた大型自動運転バスによる実証実験を実施します」~自動運転バスによる都市部の基幹的公共交通実現に向けた取組~アイサンテクノロジー株式会社 - ミリ波レーダー
波長がごく短い「ミリ派」を対象物に照射し、戻ってきた電波を検出して、距離や方向を検出するもの。 - LiDAR(ライダー)
Laser Imaging Detection and Ranging(レーザー画像検出と測距)」の略。レーザー光(赤外線)を対象物にパルス状に照射し、反射されて戻ってくる時間によって距離を計測するセンサー。
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