写真)捜索を行っている消防士。2024年1月5日 石川県輪島市
出典)Tomohiro Ohsumi/Getty Images
- まとめ
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- 令和6年能登半島地震発生後、さまざまなフェイクニュースがネット上に流された。
- 中には、閲覧数を稼いで報酬を得る目的のものもあった。
- 目の前の情報をすぐ拡散するのではなく、一瞬立ち止まって考えるくせをつけたい。
はじめに、令和6年能登半島地震により、お亡くなりになられた方々に謹んでお悔やみ申し上げますとともに、被災された皆さまに心よりお見舞い申し上げます。
多くの人々にとって身近なコミュニケーション手段となったスマートフォンやSNSは、災害発生時にも、安否確認や最新の災害情報だけでなく、救命活動や支援活動にとっても欠かせないものとなっている。もはやライフラインと言っても良いだろう。被災地においてもモバイル端末への充電や通信環境を確保することは水や食料に匹敵するほど重要になっている。
しかしSNSは情報入手に必須である反面、事実と異なる情報、根拠がない情報など、いわゆるフェイクニュースも多数流れており、それが拡散されていい加減なうわさ話=デマとして広がるケースも後を絶たない。実際、東日本大震災ではSNS上にデマが拡散され、社会を混乱させた。それが今回の令和6年能登半島地震(以下、能登半島地震)でもまた繰り返されたのだ。しかも、ある意図を持って流されているフェイクニュースも増えているという。
まずは、今回どのようなフェイクニュースが流されたか見てみよう。
能登半島地震関連のフェイクニュース
今回流されたフェイクニュースを見てみると、これまでのものと同様、古典的なものが多かった。
・人工地震
地震が人工的に引き起こされた、という言説も過去幾度となくSNSに流されている。「#人工地震」でXを検索すれば、多くのポスト(投稿)が確認できる。NHKの報道によると、地震発生翌日の2024年1月2日午後5時30分までに「人工地震」に関する投稿は約25万件に上り、中には850万回近く閲覧されたものもあったという。
・外国人窃盗団が集結
これも古典的なフェイクニュースだ。今回も、「能登半島に外国系の盗賊団が集結中」とする投稿がX上で拡散された。具体的な地名などが記載されていることに加え、マイクロバスに乗って移動している、などとリアルな内容の投稿だったため、信じた人も多かったようだ。被災して不安の渦中にいる人々の心理につけ込んだ悪質なものだといえる。
・原子力発電所に関する情報
北陸電力志賀原子力発電所の状況について、XではNHKのロゴを使い、「放射性物質を含む水が2基で約420リットル漏洩中」という投稿がなされた。これは全くのフェイクであり、北陸電力は、「 1号機、2号機の使用済燃料貯蔵プール水が波打ち現象(スロッシング)により貯蔵プール設置階の床面に飛散しましたが、プールの保有水量に対して微量であり使用済燃料の冷却機能への影響はなく、また発電所外部には漏えいしておりません」と説明している。
・偽の寄付金募集
今回、SNSを利用した詐欺行為も目立っている。仮想通貨で被災地への支援を呼びかける偽の寄付金募集サイトに誘導したり、QRコードを添付してオンライン決済サービスでの寄付や支援を求めたりするものが多くみられた。
SNS上にフェイクニュースが流れるわけ
SNS上に流されるフェイクニュースには2つのタイプがある。
ひとつは投稿者が不確かな情報を確認せずに投稿、もしくは拡散してしまうもの。もうひとつは、何らかの意図を持って投稿、拡散するケースだ。
まず前者は投稿者が情報源をしっかり確認すれば防げるものだが、近年ディープフェイクと呼ばれる、AI(人工知能)を使って人物の動画や音声を人工的に合成する処理技術の発達もあり、真実かフェイクか判別しにくくなっている。投稿者がフェイクと気づかずに拡散してしまうリスクが高まっているわけだ。
一方後者で今回特に目立ったのは、金儲けのためにフェイクニュースを流すものだ。このような行動は「インプ稼ぎ」と呼ばれている。Xには課金しているユーザーがインプレッションと呼ばれる「閲覧数」を一定数獲得した場合に収益が得られる仕組みがある。つまり、投稿が拡散されればされるほど儲かる仕組みだ。それが、世間の注目を集めるようなフェイクニュースを流す動機となっているのだ。特に自然災害や事故などで大きな被害が出た場合、膨大な閲覧数が期待できるため、フェイクニュースを意図的に流して利益を最大化しようという人間が出てくるわけだ。こうした行動を「悲劇の現金化」などと呼ぶむきもあるが、残念なことだ。
政府とプラットフォーム事業者の取り組み
能登半島地震に関連し、SNS上で偽情報が広がっていることについて、政府も危機感をつのらせている。
林芳正官房長官は1月5日の会見で、「災害時における偽・誤情報の流通は、迅速かつ円滑な救命・救助活動の妨げになりかねないもので、犯罪にもつながりうるものであることから、主要なSNS等のデジタルプラットフォーム事業者に対して、明らかに事実と異なり社会的に混乱を招くおそれのある情報の削除など、利用規約等を踏まえた適正な対応を取っていただくよう総務省を通じて要請をおこなっている」と述べた。
同時に「インプ稼ぎ」についても触れ、「偽情報の投稿の背景に、多数の閲覧やフォロワーを集めたユーザーが収益を得られる仕組みが関連しているとする意見があるということは承知している。デジタルプラットフォーム事業者による対応のあり方につきましては、国際的な動向、また表現の自由の確保の観点も考慮して、デジタルプラットフォーム事業者を含む幅広い関係者の意見を踏まえて必要な対応を検討してまいりたい」と述べた。
こうしたなか、監督省庁である総務省も2018年10月に立ち上げた「プラットフォームサービスに関する研究会」の中で、「インターネット上のフェイクニュースや偽情報への対応」を検討項目の一つとして議論し、2020年2月に「最終報告書」を取りまとめている。2023年3月には、「偽情報対策に係る取組集 Ver.1.0」を公表している。
実際、LINEヤフー株式会社、Google LLCなどのプラットフォーム事業者は、それぞれフェイクニュースに対する注意喚起や削除をおこなっているが、膨大な数の投稿をリアルタイムで検知し、対応するのは容易ではない。また、Xのように運営事業者が海外の企業の場合、日本の監督官庁が規制することは困難だ。
フェイクニュースにだまされないために
結局、情報の受け手である私たちが、フェイクニュースにだまされないよう、普段から心がけることが重要になってくる。
総務省のウェブサイト「ネットの時代におけるデマやフェイクニュース等の不確かな情報」では、フェイクニュースの確認方法として以下の4点を挙げている。
・他の情報と比べてみる。
・情報の発信元を確かめる。
・その情報はいつ頃書かれたものか確かめる。
・一次情報を確かめる。
たしかにこうした確認をきちんとおこなえば、フェイクニュースにだまされる可能性は減るかもしれないが、実際にこれだけフェイクニュースが拡散されている状況を見ると、こうした確認のプロセスを実践するのはそう簡単なことではないのかもしれない。
ではどうするか。
総務省や電気事業連合会もXやWEBサイトなどでフェイクニュースに対する一次情報の発信をおこなっているので参考にしたい。
総務省(X、WEBサイト)
「令和6年能登半島地震に関するインターネット上の偽・誤情報にご注意ください。」(2024.1.15のX投稿)
【啓発教育教材】インターネットとの向き合い方~ニセ・誤情報に騙されないために~ | 安心・安全なインターネット利用ガイド | 総務省
電気事業連合会(X、WEBサイト)
能登半島地震による各原子力発電所への影響について(2024.1.10のX投稿)
能登半島地震による各原子力発電所への影響について | 電気事業連合会 (fepc.or.jp)
また、拡散されている情報やニュースのファクトチェックをおこなっているメディアがある。自分が見たニュースの真偽を、プロのジャーナリストがチェックしているそれらのサイトで確認するのもいいだろう。
日本ファクトチェックセンター(JFC)
ハフポスト日本版
BuzzFeed Japan
InFact
リトマス
いろいろ見てきたが、フェイクニュースを完全に撲滅することは難しい。目の前の情報をすぐに拡散するのではなく、ひとまず立ち止まって冷静になり、さまざまな情報源を比較して確認するくせをつけることから始めるといいのではないだろうか。
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