写真)中部電力株式会社技術開発本部 2023年10月25日
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- まとめ
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- 電力会社と関連協力企業や研究機関、大学などによる研究成果の紹介、「テクノフェア2023」が開催。
- 「バイオ炭」を使った伝統野菜の栽培や、「ソルガムのカスケード利用」など、バイオ系の研究開発が進む。
- アルミ二ウムの溶解工程で排出されるCO₂を激減させる技術の開発も。
電力会社と関連協力企業や研究機関、大学などによる研究成果を公開する「テクノフェア2023」(主催:中部電力株式会社技術開発本部)が今年も開催された。
バイオ炭の農地施用による資源循環
「バイオ炭(たん)」とは、「燃焼しない水準に管理された酸素濃度の下、350℃超の温度でバイオマスを加熱してつくられる固形物」 と定義された炭のこと。(出典:農林水産省農産局農業環境対策課「バイオ炭をめぐる事情」)原料のバイオマスとしては、ゴミ木材、家畜ふん尿、草本、もみ殻、木の実、下水汚泥由来のものなどがある。
出典)中部電力「バイオ炭を利用した茶園土壌の炭素貯留に関する実証実験」2022年7月12日
農作物の栽培・収穫の過程で発生する枝葉やもみ殻などの植物性廃棄物は、土壌に混ぜられ処分されるが、土中の微生物に分解されてCO₂が大気中に放出される。しかし、植物性廃棄物をバイオ炭にすることで、土壌に混ぜ合わせても微生物に分解されにくくなり、炭素が長期間貯留され、排出されるCO₂の量が減るなど、地球温暖化対策として期待されている。
また、バイオ炭は農地の土壌環境を改良する効果もある。具体的には、土壌の透水性、保水性、通気性を改善するほか、化学肥料の大量投入により酸性化した土壌をアルカリ化する効果がある。
出典)農林水産省農産局農業環境対策課「バイオ炭をめぐる事情」
中部電力は国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構とともに、2022年からJA遠州夢咲(静岡県菊川市)の生産茶園において、バイオ炭を活用した土壌の炭素貯留に関する実証試験に取り組んでいる。
こうしたなか、今年のテクノフェアでは、地域伝統野菜である「大高菜(おおだかな)」の栽培へのバイオ炭活用の取り組みについて話を聞いた。
大高菜は江戸時代から大高地区(愛知県名古屋市緑区)で栽培されている。冬が旬で、見た目は小松菜に似ているが、繊維質が少なく柔らかくて苦みがあり、雑煮などに使われてきた。近年では生産量が減少しており、継承が危ぶまれている。
出典)中部電力「地域伝統野菜である大高菜の栽培へのバイオ炭の活用」
今回、JAなごやの栽培指導を受けて、中部電力技術開発本部(名古屋市緑区)構内の試験圃場で、バイオ炭の種類や施用量を変えた栽培試験に取り組み、収量や品質などへの影響を調査している。
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これまでの栽培試験の結果、適量のバイオ炭を施用した場合、大高菜の収量が増えたという。今後は、大高菜の試験販売に加え、バイオ炭で栽培した大高菜に含まれる機能性成分の分析等に取り組み、バイオ炭施用野菜の認知度や付加価値の向上につなげたい考えだ。
野菜の収量アップとCO₂排出量を減らすバイオ炭は、世界の食糧問題のみならず環境問題の解決にも貢献できる可能性を秘めている。
資源循環植物ソルガムとそのカスケード利用
次は、去年も見学したソルガムのカスケード(段階的)利用のコーナーだ。ソルガムは今年も見事に育っていた。(参考記事:「ソルガムによる循環型社会への貢献~植物から有価物を得て、残りを発電燃料に利用~」: MR(複合現実)でリモート会議が超リアルに「テクノフェア2022」)
復習するとソルガムとはイネ科モロコシ属に種別される穀物。「タカキビ」とか「コーリャン」などと呼ばれてきた。痩せた土地でも育ち、品種によっては5〜6メートルの高さにまで育つ。しかも年2回刈りが可能だ。
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本研究は、国内のバイオマス発電に使う燃料が、安価で安定的に調達することが年々難しくなっていることから、高収率なソルガムを燃料とすることを目指して始められた。
カスケード利用と謳っているのは、ソルガムをバイオマス燃料だけではなく、セルロースナノファイバーや高機能プラスチックなどの高付加価値製品を生産することにより栽培事業の高収益化を図り、農業や地域産業を含めた持続可能な地域循環社会を構築する狙いがあるからだ。今では、地域の大学や地元企業とも連携した産官学連携に発展して進められている。また、品種によってはグルテンフリー食材としても期待ができるといい、食物アレルギーに悩む人にとっては朗報だ。
出典)中部電力「資源循環植物ソルガムとそのカスケード利用」
中部電力技術開発本部津田その子研究主査によると、ソルガムは、温暖な土地が耕作に適しているとのことで、どの地域でいつ収穫すれば年間収穫量が最大になるか、名古屋大学と共同で研究を進めているという。
現在、研究対象となっている高バイオマスソルガムは「炎龍」という品種だ。植物の改良を通して地球規模の課題を解決しようというこの壮大な試み、今後の進捗が楽しみだ。
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脱炭素対応アルミインゴット予熱装置
さて、バイオ系からがらっと変わって、次は工業用原材料の素材加工分野の研究開発をのぞいた。対象となった素材は、アルミニウムだ。
アルミニウムは鉄に比べて軽く、加工もしやすいため、自動車産業や建設、飲料缶だけでなく、ロボット、移動通信、蓄電池、半導体製造装置、熱交換器などにも使われている。
特に、CO₂排出の抑制を求められているガソリンエンジン自動車は、軽量化による燃費向上を図るため、ボディー、ミッション、ホイールなどにアルミニウムを使用している。EV(電気自動車)も電費(充電池1kWhあたりの走行距離)向上のため、軽量化が必須で、同じくアルミニウム部品が多用されている。
こうしたことから、アルミニウム製品の国内年間総需要は約380万トン(出典:日本アルミニウム協会 2022年実績)だが、2050年に約600万トンにまで拡大すると予測されている。(参考:一般社団法人日本アルミニウム協会「アルミニウムVISION2050」)
一方で、アルミニウムは原料の溶解工程でCO₂を排出することが課題となっている。
アルミ製品の多くは、アルミインゴットと呼ばれる地金を、溶解炉で約700度まで加熱し、溶解して成型し生産されている。従来、溶解炉の熱源にはガスや重油を燃料とするバーナーが用いられており、その工程で排出されるCO₂の削減が急務となっていた。そこで、溶解工程の電化が研究されてきたわけだ。
こうしたなか、中部電力株式会社、株式会社日本高熱工業社、株式会社豊電子工業は、アルミインゴットの溶解工程において、極めて短い時間での予熱を実現する急速予熱装置「HDサーモIG」を共同開発した。
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その主な特徴は以下のとおり。
・短時間かつ均一の加熱
数百℃の熱風を装置内で高速、かつ整流化して循環させることで、従来困難だった急速加熱とインゴットの均一な加熱を可能にした。5キロのインゴット1個を25秒で加熱可能となる。
・高い熱効率でCO₂削減
熱効率はバーナーを熱源とした熱風加熱方式の20〜50%を大幅に上回り、最大85%を達成。CO₂排出量を32%削減でき、すでに自動車部品メーカーなどから問い合わせが来ているという。
出典)中部電力株式会社、株式会社豊電子工業、株式会社日本高熱工業社、中部電力ミライズ株式会社「HDサーモIGの概要」2023年10月19日
紹介した新技術はテクノフェアで公開されたもののほんの一部だ。その他の研究事例は、「テクノフェア2023WEB展示」(2023年12月22日まで)をご覧いただきたい。
電力会社が協力会社らと共同でさまざまな分野で研究開発をおこなっている一部を紹介した。どの技術も私たちの暮らしや環境にとって重要なものばかりだった。
これからもこうした新技術を紹介していきたい。
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